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自称!平凡魔族の英雄ライフ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~  作者: あまうい白一
第三章

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第8話 田舎ごと、魔族ごとの色々な風習

 医務室に入ると、そこには白衣を纏ったリザが座っていた。

 

「いらっしゃーい、皆ー」

「あれ? なんでリザさんが医務室にいるんです?」


 普段は医療担当の教授が座っていた筈だが。その姿はどこにもない。

 健康診断があるというのにどこに行ったんだろう、と思っていると、


「今回の健康診断は私が担当する事になったんだよ」


 白衣をぴらぴらと動かしながらリザはアピールしてきた。

 

「リザさんが、ですか?」

「あはは、心配しなくても、大丈夫だよ。私は夢魔だからね。他人の診断能力にも結構な自信があるんだ。一応、魔王の中でも医療サポート技術に関しては上位クラスだし、資格もあるよ」


 確かにリザはサポート系の魔法が得意だと思っていたけれども、医療系の能力も持っていたのか。

 

「なんだか、機械いじりとかしまくっているから、勝手に工学系かと思っていましたよ」

「ああ、うん。そっちが本分だけどね。医療も出来るから、今回は医務室の教授に頼んで変わって貰ったんだ。皆の成長も見てみたかったし。――というわけで、男女で別れて、とりあえず着替えて来てねー」


 そんな言葉と共に、俺達は医務室の奥にある、ロッカーが立ち並ぶ更衣室に通された。

 当然ながら男女別だ。


「いやはや、まさか今回の健康診断が魔王リザだとは。ビックリしたよ……」

「おお、やっぱりミスラも驚くよなあ。リザさんは面倒見がいいけれど、大分突飛な行動をするときがあるからなあ。……まあ、とりあえず、サクっと着替えるか」

 

 俺は唯一の同性であるミスラと喋りながら、おもむろに上半身の服を脱いだ。その瞬間、 


「ひゃあ……!?」


 ミスラがわずかに飛びのいた。

 

「あれ? どうした?」

「い、いや。クロノ君はご、豪快に脱ぐんだな、と。そう思ってね……」

「ん? 着替えるんだから、丁寧に脱いでいても仕方ないだろ? まあ、田舎生まれの田舎育ちだから、かもしれないが」


 こっちだと、服を脱ぐのにマナーとかがあるのかもしれないなあ、と苦笑しつつ、言葉を続ける。


「ま、見られても面白いような体でも無いしな」

「そ、そんな事は無いと思うぞ? しっかりと引き締まっていて良い身体だと思う!」

「そうか? ありがとうよ」「


 そんな風に受け答えしながら服を脱いでいく。

 その間、ミスラは顔をわずかに赤く染めながら、こちらを見ないようにしていた。

 下を脱ぐとき、わずかに指の隙間から見ている気もするが、こういうのも男同士の付き合いというものなんだろう。そう思いながら水着を着用して、

 

「これで俺は着替え完了、っと。――ミスラはどうだ?」

「え、ええとだね。ボクは……その……。ちょ、ちょっと、向こうを見ていてくれると有り難いかな!」

「ん? ああ、無神経だったな。すまん」


 裸体を見られるのを嫌がる魔族は結構いる。

 自分の弱点を晒すことにも成り得るからだ。


 嫌がられたら見ない。それは田舎だろうが都会だろうが関係ないマナーの問題だ。違反するのは良くない。

 

「先に外に出てるわ」

「あ、ああ、すまない。クロノ君。直ぐに後を追うよ」

 

 そんな風に喋りながら、先に更衣室を出ると、


「あ、クロノー。もう着替えが終わったんだね」


 医務室と更衣室を繋ぐ通路にリザが一人立っていた。そして、


「ちょうどよかった。ちょっとこっち来て」


 こいこい、と手招きしてきた。

 

「なんです?」

「いや、念のためね。天竜族の子たちと友達になるなら、その風習を伝えておこうと思ってね。知ってる、【天竜の宝物選び】って呼ばれている風習」

「天竜族の風習、ですか? いえ、初耳ですね」


 そもそも、自分はただの魔人であるから、他の種族にそこまで詳しい訳ではない。だから、首を横に振ったら、リザは静かに口を開いた。


「うん。天竜族はね、気に入った雄雌を見つけると、己の宝物兼伴侶として、強引にでも故郷に持ち帰ろうとする時があるんだ。……それで、もしかしたら、クロノにもそういう声が掛かるかもしれないから、さ。一応、言っておこうと思って」

「へえ、そうなんですか。でも、俺はただの魔人ですから、気に入られるのは中々難しいと思いますが」


 そう言ったら、リザはにっこり笑った。


「ああ、クロノの認識はこの際放り投げた方が良いかもしれないかな。多分、気に入られると思うから」


 そして即座に、思いっきり否定されたよ。

 もうちょっと思考してもいいんじゃないか、とは思うのだけれども。というか、


「俺が宝になる程気に入られるとか、そこまで自意識過剰にはなれないんですけどね。……気に入られる要素なんてあります?」

「それがねえ、天竜族が気に入る要素に、強さっていうものがあってね。それは肉体的な強さだけではなくて、種族的、精神的なものまで含まれるから。……そしてクロノは気に入られるに十分すぎる力を持っていると思って。特にこの後は見せる機会もあるだろうし、ね」

「え? 健康診断ですよね?」


 力を見せるような診断なんてあるんだろうか、と思っていたら、リザは頬をかいて医務室と繋がるドアの一つを見た。

 そこには『トレーニングルーム』と書かれた札が掛かっており、

 

「運動能力の検査も、同時に行うんだ。この奥のトレーニングルームやプールを使ってね。だから動きやすい服装、もしくは水着着用だったんだ」


 なるほど。となると、多少は運動する事になるのだろう。

 

 ただ、あくまで運動だ。天竜族の風習が、それだけで適用されるのかは分からないし。というか、


「仮に、ですが。気に入られたとして、デメリットはあるんです?」

「え? で、デメリット?」

「はい。別に故郷云々に持ち返られるのは、その場で断ればいいだけの話に聞こえますけど」

「ああ……そっか。竜の力で無理やり持ち帰ろうとするのも効かなさそうだしね、クロノ……」

「まあ、無理やりこの魔王城から出されるのだというのであれば抵抗もしますが。……そもそも、ですよ? アリアやミスラが人に無理強いを働いて、故郷に連れて行くような性格には見えませんよ」


 喋った期間は短時間だけれども、二人が横暴な性格はしていないこと位は分かるのだから。そう言うと、リザは苦笑した。


「そう……だね。うん、クロノの言う通り、あの子たちは良い子だよ。そこは私も同感するよ」

「でしょう? それに、この辺りの話はあくまで仮定の話ですし。普通の友人として接していこうかな、と思いますよ」


 そんな俺の言葉に、リザは表情を微笑に変えて頷いた。


「ふふ、クロノはもう情報だけ知っている私よりも、あの二人の事を知っているのかもね。――うん、今回の喋った内容は、あくまで、とりあえずの知識として知っておいてくれると嬉しいかな。ただの心配性な私の老婆心って感じでさ」

「ええ、人伝ですが彼らの種族的な風習を知れたのは有り難いと思いますし、友人としてもその辺りの理解はしたいですからね」


 魔族の風習や伝統は本当に色々な物がある。

 その中で、この風習が気軽に話せる事なら酒の席にでも話をしてみようと思うし。


「ともあれ、色々と教えて頂いて有り難う御座います。それと、今日は健康診断よろしくお願いします、リザさん」

「りょーかい! こちらこそ、よろしくねクロノ。色々と言ったけど健康診断は、飽きさせないように楽しく出来るようにしたから、遊び気分でやっていってよ」


 そんな感じで今回の健康診断は、リザの管轄の元、開催されることになった。


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