第6話 クロノの装備品購入
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魔王城の内部には、食料品から衣料品までを売っている中規模の売店がある。
緊急的に入用なモノがあればそこで購入するのが城内で生活する者の常識なのだが、
「……まさか水着まで売っているとはな」
「しかも品ぞろえ良いですよ、これ……わ、これ可愛いです……」
そこには色とりどりの、様々なデザインをした水着がズラっと並ぶ一角があった。それを見て俺とソフィアが驚愕していると、ユキノが来た。
「力、入ってるでしょ」
「ええ、ただの売店なのに、何で水着コーナーがあるとは思いませんでしたよ」
「リザが揃えさせるように言ったからね。『この売り場に色気が無いよー色気がー』とか言って」
「何を言ってるんだ、あの魔王様は……」
「この魔王城にはプールもあるし、ダンジョンの中には泳げる場所もあるからね。流用出来る物を選んだ方が便利」
「プール……! 川でも湖でもない泳げる場所ですよね。ウチの田舎にはなかったものですよ!」
ユキノの言葉を聞いて、俺のテンションは一気に上がった。
なにせ田舎では本や爺さん婆さんの話でしか聞いたことがない施設なのだから。
そんなものが併設されているなんて、さすがは魔王城だ。
「それで、あっちが、試着室だよ。ソフィア。気に入ったら着てみるといい。店の中なら着たまま出歩いても大丈夫だから、着心地を確かめてもいい」
そして、先ほどから一着の水着を手に取ったまま固まっているソフィアに対し、ユキノは静かに告げた。
「あ、試着もできるんですね。……では、ちょっと行ってきますね、クロノさん」
「おう、行ってらっしゃい。俺も適当に選んでおくわ」
試着室の方に向かうソフィアに手を振ったあとで、俺は自分の水着を選ぶために商品棚を見ていると、ユキノが傍まで寄ってきた。
「ちなみに、クロノは泳げるの?」
「ええ、田舎にも川と湖があったので。そこでパチャパチャやってました。あんまり得意ではないですけどね」
「へえ、クロノにも得意じゃない運動があったんだ。なんだか不思議」
「俺の体の動かし方は爺さん婆さんに教えてもらっただけで、そこまで運動がうまいわけじゃないんですが……っと、なんだ、このエンチャント済み水着って」
店の奥にある商品棚には、一段高くなった棚があり、やけに値段が高い水着が幾つも展示されていた。
説明によると魔法で強化された商品らしい。
「ふむ……こんなものもあるんですね。しかも生地が分厚くて頑丈そうだし。俺は、これにしますかね。村でも履いていたような形ですし」
俺が手に取ったパンツと薄い上着でワンセットの水着だ。説明によれば、これだけでも金属鎧くらいの頑丈性はあるらしい。
いい水着だなあ、と思っていると、ユキノが心配そうな目で俺の肩をつついてきた。
「あの、クロノ。それはリザのお遊びで、水着としてはオーバースペックだから、ネタとして仕入れたもの……なんだけど、本当にいいの? 正直、誰も買わないでいつも売れ残っているものだよ」
「え? そうなんですか? 確かに値段は高いけれども、水着にはこのくらいの頑丈さは必要だと思うのですが」
「うん? 水着に頑丈性を求めるなんて珍しいね……」
「いや、だって、頑丈にしておかないと、川にいるクリスタルサーペントに絡まれたとき大変じゃないですか。アイツら、普通の布製水着だと巻き付いてくるだけで擦り切ってきますし」
俺は田舎でよく出会っていた水晶のような体を持った蛇を思い出す。
だから田舎では、特殊な樹木繊維で編まれた水着しか使えなかった。
それに比べれば、この高級水着の手触りは素晴らしい。こんなにいいものが手に入るなんて魔王城もまた素晴らしい、とそう思っていたのだけれども。
「あの、さ。そのクリスタルサーペントって、あれだよね? 水晶みたいな体をした、十メートルくらいある蛇」
「そうですね。偶に川底でうねうねしている奴です」
そう伝えると、ユキノは唖然とした表情になった。
「……うん、いつものことだけれどね、クロノ。私たちが泳ぐ場所はクリスタルサーペントなんて、化物はいないから、その心配も要らないよ。というか、いたら私やリザや教授が全力を挙げて討伐部隊を組まないといけない奴だからね」
「え、アイツらいないんですか!? ってことは、あの蛇と結託して、人を水底に引き込もうとするギガントキャンサーとかもいなかったり……?」
「うん。いないね。そんなのがいたら、危険度跳ね上がってダンジョンを封印するレベルだからね。」
「マジかー。いや、ありがたいなあ。あいつらがいると、川で泳ぎづらいし、釣りもし辛いので。いないのはすごく助かりますよ」
泳いでいるだけで突っかかってくる海蛇と蟹は本当に面倒だった。そのせいで泳ぎのモチベーションが下がって、あまり練習できなかった。
それがいないのであれば泳ぎ放題だなあ、と考えていると
「あいつら……ってことは、二体とも共生してたの? クロノが言っているの、本当に川なの?」
「もちろん。谷底を流れている完全な川ですよ、そこそこ深いし流れも速かったですけど、そいつらが偶々生息していたっぽくて。川の主みたいな扱いをしてました」
「あの、クロノが言ったその二体は、単体でも街一つを攻め滅ぼせちゃうようなモンスターだから、川の主とかいうレベルではない……。しかも、二体も共生してるとか……なんでクロノはそんなところで泳いじゃうの?」
「あの、普通に川を泳いでいる話をしただけなのに呆れられるとちょっと悲しいんですけど!? というか、ユキノさんは物騒なこと言ってますけど、アイツら、ウチの村には来ませんでしたよ?」
川で暴れることはあっても、そこから出てくることは一切なかったし。
「ああ、うん。よっぽど怖かったんだろうね、クロノの故郷が……」
「俺の村、そんなに怖い人はいなかったと思うんだけどなあ……」
などと喋っていたら、
「く、クロノさんー。少し、こちらに来て頂けますか?」
ソフィアの声がした。試着室のカーテンの方からだ。
「どうした、ソフィア」
声をかけるともじもじとした様な声が中から聞こえてきた。
「い、いえ。その、自分だけでは判断が難しくて、ですね。ご感想を聞かせていただこうかと思いまして」
言いながら、ソフィアはカーテンを開けた。
すると、そこにはビキニ状の水着に着替えたソフィアがいた。
きれいな色をした水着だ。
胸元や腰元を隠す布はなかなか分厚いが、ソフィアの様々な大きい箇所がこれでもかというくらいアピールされている。
つまりは、すごく可愛い。
「お、おお。似合ってる、ぞ? ……露出度結構高い気もするけれど、俺的にはオッケーだな、うん!」
やや言葉に詰まりながらも感想を言うと、もじもじとしていたソフィアは嬉しそうに赤らめた頬を緩めた。
「あ、ありがとうございます。クロノさんにもご好評なら、買わない理由がありませんね」
「え? いや、俺は服装についての知識はこれっぽっちもないんだけど?」
「ふふ、違います。クロノさんに、喜んでもらえるような服装だから、良いんですよ。では、カウンターの方、行ってきますね。この売店は着用したまま買ってもいいみたいなので」
そう言うと、ソフィアは嬉しそうな表情のまま、水着を買いに店員の方に向かっていった。
本当にあの水着を購入するらしい。俺としては、あの水着を着てくれるとすごく可愛らしくて素晴らしいと思うのだけれど、
「意外と、攻めっ気のある服を買うよなあ、ソフィアは……」
その言葉に、俺の隣で水着を品定めしているユキノも頷く。
「分かる。ソフィアは結構露出癖があるというか、肌を出すのが好きっぽいね」
「あの、ユキノさんは人のこと言えないと思いますよ?」
朝方、ユキノが眠っているときはほとんど全裸だし。
寝るときに服着るの、いや、とか言いだすし。
というか、今、手にしている水着もほとんど紐だし。
着られたら絶対に目のやり場に困るやつだなあ、と何となしに未来を予想していると、
「クロノ! 奇遇ね、こんなところで」
そんな声が背後から聞こえてきた。
聞き覚えのある声というか、つい最近知り合った、天竜族兄妹の妹の方だ、と思いながら振り返ると、
「確かに奇遇だなアリア――って、なんで君も水着を着ているんだ」
そこには、ソフィアに以上に豊満な体をしたアリアが、水着姿で立っていたのだった。
お待たせしてすみませんでした。
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