第4話 知識と結束追加
「二人には魔王城の説明をしなきゃいけないから、応接間に連れていくね」
「あー、あー、まだクロノとお話ししたかったのにー」
「後ですればいいだろう、アリア。それじゃ、クロノ。また数時間後」
「おう、またなー」
そんな感じで、竜の兄妹はリザに連れられて食堂を去っていった。
後に残った俺たちは、床に開いた大穴をふさいで、調理場のおばちゃんに挨拶をしてから、食堂を出て行ったのだが、
「く、クロノ――!」
それに合わせて、特進クラス--もとい、超特進クラスの連中が駆け寄ってきた。
戦闘は先程も出会ったコーディだが、
「お、どうしたんだ?」
「いや、どうしたんだ、じゃねえって。すげえよ、クロノ! もう風炎の竜王兄妹と仲良くなったのかよ!」
彼はこちらに来るや否や、そんな事を言い始めた。
「うん? 風炎の竜王兄妹ってさっきの、アリアとミスラの事か?」
「おう、そうだよ! ……クロノお前、本当にあの二人について分からないまま話していたんだな……」
先ほどと同じように目を丸くしてくる。
「ああ、生憎と本当に知らなくてな……。皆は知っているのか?」
「そりゃ勿論ですよ」
「有名なんだぞ、竜王の子供の中で、歴代最強を誇る皇子たちだって。魔力も体も異常なまでに強力だから重圧もヤバくて、まともに相対して話せるだけで凄いって話がある位だ」
同級生たちは口々に言ってくるものだから、これは俺が知らないだけみたいだ。
彼らの言うプレッシャーなどはあんまり感じることは出来なかったけれども隣にいるソフィアとユキノは頷いているし。
彼女たちにとっては既知の事なのだろう。
……うーん、田舎はそこまで情報が入ってこないからなあ。
改めて情報格差を感じた。
ただまあ、いい機会だ。この際、ここで聞いてしまおう、と俺は同級生たちに尋ねることにした。
「まあ、俺はさっき、秘境に住んでいるって話は聞いて知ったばっかりでな。色々と情報を補足してくれると有り難いわ」
言うと、コーディたちは少し嬉しそうな表情になった。そして、
「「そうか! 任せろ!」」
口々に楽しそうな声で即答して来た。
「随分とテンション高めだな。いや、俺としては有り難いけどさ」
「そりゃ、クロノに教えられることがあるタイミングはそうないからな! んでまあ、早速、補足で情報を出すけど、秘境っていうのは、ここから遠く離れた巨大な山の中でな。そこには竜の国があって、彼らはその国からやってきたんだ」
「へえ、秘境っていう割に、場所はしっかり分かってるんだな」
もっと所在不明の場所から来ているのかと考えていたけれど違うのか。そう思っての言葉に、コーディは首を縦に振った。
「まあな。秘境っていうのは、行き辛くて酷く苛烈な環境だから言われているだけだし」
「酷く苛烈な場所?」
「ああ、すげえぞ。外部はただでさえ険しい岩山で、常に冬場の気候になるような魔法が掛けられている。だから極寒でな。足を踏み入れたら、数分も歩けば凍り付くようなひっどい環境なんだから。街中は流石に魔法で環境を整えてあるらしいけどな。どうだ、ひでえ秘境だろ?」
コーディは笑い話のように言ってくる。けれども、俺としては少し気になる点があって、
「えっと……その環境って酷いのか? 冬場に数分も歩けば凍り付くって当然じゃないのか?」
「……うん?」
真顔で聞いたら、コーディは目をぱちくりと何度か瞬きした。彼だけではなく、周囲にいた同級生もだ。
「ええと、もう一度、言ってくれるか、クロノ」
「いや、だからさウチの街も似たようなもんだったんだよ? 冬場に炎も持たずに数秒も外に出たら、即氷漬けだから常時炎を絶やせなかったし。だから冬場の気候としては当然の環境じゃないのかって」
「それは、街中の話か……?」
「ああ、そうだぞ。炎系の魔法を使えない爺さん婆さんが凍り付いちゃって助けるの大変だったんだぞ」
体の芯まで凍り付いても殆どの爺さん婆さんは無事なので、あたたかい所に放り込んで置けば治るからそこまで焦ったりはしなかったけれども。
そう言おうとしたが、話している途中で明らかにコーディたちの顔色が青くなってきていた。
そしてコーディは、俺の肩にポン、と手を置いて首を横に振った。
「……あのな、クロノ。普通の奴が暮らす街は、外に出ただけで、秒単位で人は凍り付かないんだ」
「え? でも、竜の国は凍り付くって言ったじゃないか」
それでちょっと親近感を覚えたというのに。微妙な反応をされてしまった。
「そりゃ、竜の国の外の巨大山はな! 中は普通に暮らせるっての。というかお前の街はどうして魔法で環境を整えてないんだよ?」
「いや、町内会の爺さん婆さんが整えているはずなんだよ」
町全体を空気の膜で覆って温度を上げる魔法を使える住人もいたので、理屈で言えば多少は温かくなっていたはずなのだけれども。
「でも寒かったんだよなあ……」
「整えていてそれになる環境に人が住めるのか……。ああ、クロノに秘境って概念を説明するのが難しくなってきた」
コーディは俺の肩に手を置いたままがっくりとうなだれてしまった。
あと若干、同級生たちの足も一歩分くらい下がっている気がする。
エアポケット程はいっていないけれど、
「ああ、うん。なんかせっかく教えて貰えたのに、すまんな」
何となく申し訳ない気分になった。
「……いや、気にすんな。オレたちも勉強不足だった」
「そうですねえ。ここまで定義付けが違うとは……。今度クロノに正確に情報を伝えるための会議でもしますか……」
同級生の一人が言った言葉に、皆が頷いた。
「ああ、それ大事だな。俺たちでもっと協力すれば、クロノに上手く普通の概念を伝えられるかもしれないし」
「――だな。オレたちはクロノから色々な身体操作や魔力操作技術を教えて貰っていて、成長も出来ているんだしな……」
「少しくらいお返しできるように、一丁やりますか!」
「「おお!」」
とんとん拍子に話が進み、同級生たちが賛成の声を上げたのち、コーディが改めて俺の方を見てきた。
「よし! という訳だクロノ! 何か分からないことがあったらまた、俺たちに聞いてくれよな。どうにか伝えられるように頑張るから!」
「お、おう、ありがとう」
そんな感じで、有り難くも奇妙な形で、同級生たちの結束感が強まるのだった。




