第31話 決意集結
ブラドの言葉に、リザは眉をひそめた。
「休学って、どういうこと? そんなシステムはないんだけれども」
「正確には、自室待機だな。薬が出来るまでの半年ほどを部屋で絶対安静にしてもらいたいということだ。安静にさえしていれば、必要以上に消耗することもない」
「それは……まあ、休ませることは出来るけれども。半年間も寝たきりにさせるってこと?」
「そうだ。本来ならば国に帰らせるべきだとも思う。むしろそれが一番いいともな。……その場合はソフィアを奴隷と下クロノ少年にもついてきて貰う事になるがな」
「俺も?」
「奴隷化した存在は、主から一定以上離れることは出来んからな。強制的に連れていくことになる」
確かに、奴隷化が解けていない以上、ソフィアを別場所に移すのであれば必然的に俺も付き添う必要がある。だが、
「それは……ダメです」
ブラドの提案に拒否を示したのはソフィアだった。
彼女は血の気の引いた顔で、しかし体を起こし俺とブラドを真っすぐ見て言葉を続けた。
「クロノさんは、ここでの生活を楽しみにしていましたから……。私の為に、それを手放すことなんて、したら駄目です……」
そんな発言をするものだから、ブラドも嘆息してあきれ顔になる。
「ほうら、ワシの娘のことだ。こう言うと思った。だから休学しかないのだ」
「ソフィア、お前……」
自分のことを心配するのが先だろうに。
半年も寝たきりになれ、と言われているのに。
なんでこの優しい吸血鬼は他人を優先するんだ。
全く、そんな事を言われたら、
……どうにか、したくなるじゃないか……。
思い、俺は考える。
打開策は何かないか、と。そして、不意に、気づいた。
「ブラドのおっさんは、薬を飲んでいないけれど、……この暴走を乗り越えているのか?」
目の前にいる初老の吸血鬼も、鬼神というものを持っていたであろう事に。
「そうだ。アンタはこの暴走を克服したんだろう? その対処を、今、やればいいんじゃないのか?」
俺の言葉を聞いて、ブラドは深い息を吐いた。
「対処法が無いわけではないよ。ああ、君がワシとこの子を倒せるのであれば、問題は解決する」
「……おっさんとソフィアを倒す?」
「うむ。正確には、一度物理的に吸血鬼の体から完全に顕現した鬼神を、だな。それを物理的に打ち倒せば、力の暴走は収まるのだ」
なんだ。割と単純な解決方法があるんじゃないか。
そう思った矢先、ブラドは首を横に振った。
「だが、鬼神の厄介なところはな、一度、顕現させてしまうと周囲にいる他の鬼神も連鎖的に顕現させ、暴走させることなのだよ」
「だから――ソフィアの鬼神を倒そうとすると、おっさんの鬼神も倒さなきゃいけないって、ことか?」
「うむ。だがこの方法はリスクが高すぎる。ワシの時も父が……ソフィアからすると祖父がいてな。鬼神は吸血鬼の力と記憶をそのまま使えるのでな。老化で弱っていることもあり、全吸血鬼と特殊部隊の飽和攻撃により、鬼神を沈めることに成功したが、とんでもない被害が出た。居城も、街も半壊した」
嫌なものを思い出した、と言わんばかりにブラドは顔をしかめる。
「鬼神を倒すという事はそういうことだ。正直、今の状態でワシとソフィアが鬼神を顕現させれば、吸血鬼の一国がボロボロになる程に強力だ。故に、この方法はリスクがでかすぎる」
なるほど。対応策は分かった。
そして行うのが難しいという条件は分かった。だからその上で俺は言った。
「おし。――それじゃ、その方法でやってみようか、おっさん」
「く、クロノ少年? 話を聞いていたのかね?!」
「そ、そうですよ! この魔王城が……クロノさんが危険です……!」
ブラドどころかソフィアまで止めて来た。
とても焦った表情で、だ。
「いや、破壊規模が大きいのはわかってるけどさ、やらなきゃソフィアが寝たきりなんだろ? じゃあ、やった方がいいじゃないか」
そんな言葉を聞いて、ブラドは唖然とした。
「ま、待て、クロノ少年。幾ら君が強いと言ってもだな……フィラニコス。君も止めろ」
そしてリザの方に目配せをした。だが彼女は微笑をしたまま、俺を見てきた。
「いやあ、クロノがやるって言っているから、いいんじゃないかな。うん、それに私は、クロノとソフィアちゃんをサポートするって言った手前、止めるわけには行かないしね。最善のサポートをさせて貰うとするよ。戦場の提供とかも任せて。そんじょそこらのダンジョンとは比べ物にならないほど強固な場所を用意するから」
「お、ありがとうございます、リザさん。まあ、もしもヤバそうなら俺のダンジョンに呼び込んで戦いますんで」
「ちょ、ちょっと二人とも……話が進み過ぎというか、ダメですよ。二人でやるなんて危ないですって――」
と、ソフィアはそれでも止めようとしてくる。
だが、そんな彼女の声を遮る者がいた。
「二人じゃないよ。ワタシも協力する」
「ユキノさん!?」
ユキノだ。
彼女は応接間の扉を開いてやってきた。
「おお、お帰り、サラマード」
「うん、ただいま、リザ。事情は、外でも聞こえていたよ。――だから、協力者も集めやすかったというか、集まったよ」
そして彼女の後ろには、超特進クラスに入ったばっかりの同級生たちの姿があった。
「俺たちも、クロノに協力するぜ!」
「おうよ! 吸血鬼の姫さんに我慢させておくなんて、それこそ我慢ならねえからな」
彼らは口々に参戦の声を上げている。
やる気は十分の様だ。
「よし、これでどうだ。同級生の精鋭たちがぞろぞろやってきたぞ。まあ……戦うのが俺だけだとしても、同じことをやるつもりではいるけれどな」
戦ってでもソフィアを助ける。
同級生の気持ちも、俺の気持ちも、ちゃんと揃っている。
その思いをソフィアに伝えると、彼女は目元を震わせながら俺を見てきた、
「どうして……ですか、クロノさん。こんな、危険なのに……」
「いやまあ、基本的にソフィアの人徳だと思うけど。……俺個人の話をするならば、ソフィアへ恩を返す時が来たってだけさ」
「恩……ですか?」
「ああ。俺は、ソフィアに感謝していたんだよ」
俺はここに来たばかりのころを思い出す。
部屋でぼっちだった俺に、いの一番に話しかけてくれた彼女の姿を。
「君はエアポケットを作られまくっていた俺の友人になってくれただろう? それはすげえ有り難い事だったんだ」
「で、でも、話しかけただけ、ですよ?」
「そのだけが、俺にはデカかったんだよ」
その優しさが嬉しかった。
そして初めての友人になってくれた。そんな彼女を見捨てることは出来ない
ああ、そうだ。友人は助け合うものだ。だから、
「俺は、俺たちはソフィアを助けたい。だから戦ろうぜ、ブラドのおっさん」
「はは……どうやらソフィアは、得難い友人を得られたようだな。有り難いよ、クロノ少年……! そしてソフィアの同級生の皆よ……感謝する……!」
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