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自称!平凡魔族の英雄ライフ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~  作者: あまうい白一
第二章

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第23話 注目の、的


 ベッドを買って、契約書類を待つ間。

 俺とソフィアは、周囲にいた客から視線を受けていた。


「なんだか注目されてるな?」 

「え、ええ、まあ。これだけ大きく展示されているベッドを購入したのですから、当然かもしれません」


 思えば、外からでも見える位置にある巨大ベッドを購入したのだ。

 しかも店員も驚きの表情と声を上げていたし。

 

 いくらか気になった人はちらちら見てきてもおかしくはない。

 

「まあ、別に悪い事をしているわけじゃないし、良いか」


 ただ見られているだけで、こちらが何かを意識することもないだろう。

 そう思っていたら、何故かソフィアがキラキラとした瞳で見てきた。

 

「……なんというか、本当にクロノさんと一緒にいると頼もしいなって思います」

「いや、ただ気にしてないだけだから。そこまで言われるような事じゃないだろ」


 なんてソフィアと喋っていると、店の奥から店員が走り戻ってきた。

 

「お待たせいたしましたお客様。こちらが先ほど申しました契約書になります」

「ああ、ありがとう」


 そうして渡された紙の指定された部分に俺はサインをする。

 すると、その紙は黒い光に包まれた後、その光をベッドに飛ばした。

 

「さ、これで契約の移譲は完了いたしました。どうぞご自由に扱ってください。……ええ、同衾して、イチャイチャするのに最適な商品になっておりますので、存分に活用するのも良いかと思います」


 店員はテンションが上がっているのか、ニコニコしながらそんな言葉を掛けてきた。

 そのせいでソフィアの顔がほんのりと赤くなっている。


「あ、あの、クロノさん。……なんだか私たちの関係、誤解されているような気がしますね……」

「いやまあ、半分くらい正解だけどな」


 隷属契約の関係上、同衾する必要があるのは事実なんだ。


「でもまあ、うん、とりあえず気にしないでおこうぜ。基本、不可抗力だし」

「は、はい。そうします」

「よし、それじゃ、あとはこのデカブツを俺のダンジョンに叩き込むだけだな」

「はい……ですが、どうやって持ち運びをしましょうか? とんでもなく、大きいですけれど……」


 確かに縦幅は十メートルは超えているし、横も同じかそれ以上に大きい。そしてがっしりしている。

 

「これは……持ち上げられるかな?」


 俺はベッドの底部分に軽く手を当てる。

 それだけでずっしりとした重さが手に掛かってくる。

 意外とクるなあと思いながら力を込めて持ち上げようとした。

 その瞬間、

 

「お客様。必要とあらば、魔法による配送部隊を無料でご用意いたしますので、ご無理はなさらず――」

 先ほどまで対応してくれていた男性店員がそんな事を言ってきた。

 

「――あ、そんなのがあるんですか? 早く言ってくださいよー」


 と、俺は肩付近()まで持ち上げていたベッドを静かに降ろした。


「よい……しょっと! ふう、やっぱ重いなあ。無理に一人で運ぶと破損が怖いわ。という訳でよろしくお願いします」


 そう言って男性店員の方を向くと、彼は口元をぽかんと開けっ放しにしていた。

 

「あれ? 店員さん? あの、配送をお願いしたいんですが……」

「え……あ、は、はい! 了解いたしました! い、今手配いたします!」


 そうして再び、店の奥へと走っていった。それを見て、俺は一息つく。


「ふう。いや、助かったなソフィア。配送までやってくれるってよ」


 そしてソフィアに話しかけたのだが、彼女は彼女で困ったような笑みを浮かべていた。


「なんというか、クロノさんはナチュラルに、やれないと思っていたことをやるので、驚くよりも先に困ってしまいますね……」

「え、また、俺、何かやらかしていたか?」

「いえいえ。大丈夫です。クロノさんの身体能力を再認識しただけですので」

「お、おう。そうか。大丈夫っていうなら、良いんだけどさ」


 いや、何だか周りの客がかなりざわざわしているから、何かやらかした可能性はでかいのだけれども。ソフィアの大丈夫という言葉を信じておくことにしよう。


「ま、何にせよ、一番大きな買い物が終わって何よりだな」

「はい。……ダンジョンの初強化、おめでとうございます、クロノさん」


 微笑みながら告げて来るソフィアの言葉で、俺はようやく実感した。


 ……ああ、そうか。俺は初めて自分のダンジョンの中に、自分の好きな家具を入れられたんだよな。

 

 つまりそれは、自分の家に、自分の部屋を自分の好きなように弄れたという事でもある。

 

 こんな感じで、どんどん自分のダンジョンに好きなものを詰め込んで、快適で過ごしやすいように改造し続けられればいい。

 

 幸いにも超特進クラスの活動で金には多少の余裕がある。

 だから、金の心配はせずに気に入ったものを買っていければかなり満足度が上がったダンジョンになるだろう。


 ……それは……ああ、楽しみだな。

 

 他の学生はこんな楽しみを俺よりも早く味わっていたのか。

 羨ましいと思うのと同時に、自分も彼らと同じ楽しみを手に入れられてとても嬉しかった。


 ……これから先はどんな風に自分のダンジョンを改造していこうかね。

  

 考えるだけで楽しい。

 そんな思いを抱いていた時だ。


「そこにいる後姿は、ソフィア? ……ソフィアだよな!?」


 俺たちの背後から、しわがれた声で叫びが聞こえた。

 

「ん?」

 

 なんだ、と思って振り向くが、店の前には人が大勢いて、誰が声を発しているのか分からない。だから俺は首を傾げたのだが、


「この声、まさか……」


 俺の隣にいたソフィアは青ざめた。そして、通りの中に黒いマントで身を包んだ姿が現れると同時、

 

「うむ、ソフィアで間違いないな。そして……私の娘と仲睦まじく大型ベッドを購入しようとしているのは、一体、何者だああああああああああああああああああ!!!!」

 

 店と通りを挟んでいた透明なガラスが割れるほどの大声が、黒いマントを着た者から、響いてくるのだった。

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