第13話 モノは見た目によらない
宝を見つけた俺は、リュミエールやクラスメイト達と共に、一旦、超特進クラスの部屋に戻っていた。
そして俺が持ってきた宝箱を見て、コーディが背中をバンバンたたいてくる。
「おいおい、すげえなクロノ。もう見つけたのかよ」
「まあ、偶然だけどな」
「……魔王様からの説明だと、普通は長期的な捜索を経て宝を見つけるって話だったのに、やっぱり規格外だな、お前」
そしてそんなことを言ってくる。
先ほどのリュミエも、そうやすやすとは見つからないなどと言っていたが、
「ちょっと待てコーディ。お前らは、魔王――リザさんからなんて説明を受けたんだ?」
「え? いや、『お宝は月単位、なんなら年単位で一つ見つければ良いほうだから! あんまり気負わないでね!』って説明をされただけだぞ」
「あ、その言葉は私も聞いたわ」
「へ、へえ……」
なるほど。俺の受けている説明と彼らが受けている説明は結構違ったらしい。
あの魔王様は、俺に捜索期間云々について、あまり説明をしてこなかったから、基準が分からなかった。
そりゃ、数日に一つ発見すればハイペースとか言われるわ。
今はリザがいないから何も聞けないけれど、今度であったときは普通のダンジョン探索のペースを聞いておこう。
でないとまた無自覚のうちにエアポケットができるし。というかさっき出来てたし。
「クロノ? 一人で頷いて……大丈夫? やっぱりさっきの動きで首の骨とか痛めた? それなら私が回復させるけど……」
「ああ、大丈夫だ、リュミエ姉。ちょっと自分の過去を振り返っていただけだから。――ともあれまあ、それも終わったし、お宝確認タイムに入ろうか」
「そうね! 潜った目的はそれだものね」
そう、十代目魔王のダンジョンに潜ったのは、神の水を探すため、またはお宝を修理する道具を探すためだ。
そして今、お宝を発見できた。ならば中身を確かめなければ。
そう思って、俺はワクワクしながら、その木箱を開けた。すると、中には、
「うん?」
古ぼけた透明な小瓶が一つだけ、入っていた。
「えっと、なにこれ?」
「少なくとも、神の水には見えないわね……」
リュミエールは俺と顔を見合わせて少し落胆しているようだった。
妹の為に必要なものがあり、ましてや魔王の遺産の初発見という事で期待してのだろう。
この反応は仕方がないと思う。
……見た目はただの瓶だからなあ。
説明書きも何もないし。ただまあ、長耳をションボリさせて悲しそうにしている彼女は見たくなかったので、
「とりあえず、さ。また潜りなおせばいいんだ。元気を出してくれリュミエ姉」
リュミエールを力づけるように、彼女の手をぎゅっと握った。
すると、彼女もゆっくりと力を込めて来た。
「そう、ね。ありがとクロノ。……ふふ」
そして俺の手を掴みながら、彼女は小さく微笑む。
「うん、どうしたんだ?」
「いや、子供のころ、妹と喧嘩して元気のない時に、クロノはよくこうして元気づけてくれたなあって。あの時から、優しいのは変わってないって分かって嬉しいの」
リュミエールは少しだけ頬を赤くしながら言ってくる。
周囲のクラスメイトもいい顔でこちらを眺めているので少し気恥ずかしいな。悪い気分は全然しないが。
「ま、まあ、うん。このお宝はとりあえず鑑定機にぶちこんで、それからまた探索に行こうか!」
「ええ、そうね」
「おう、次も付き合うぜ、クロノ!」
仲間の合意を得てから、俺は古ぼけた瓶を鑑定機にいれた。
数秒後、鑑定機は下部のスリットからゆっくりと紙を出してくる。鑑定結果が記入されているものだ。そこで俺たちがまず見たのは、
『査定額:二千万ゴールド』
紙の下部に記入された値段だった。
「えっ……?」
「な、なにこの値段!? く、クロノ! これ、おかしいよ!」
リュミエールの驚きも分かる。
その値段は、魔王の遺産の中でも明らかに高額だった。
なんでこんな古ぼけた瓶がこんなに高いんだ。そう思っていたら、紙が最後まで吐き出された。そこには商品名も載っており、
『商品名:十代目魔王の『魔法病治療薬』変換瓶 特殊能力:神の水の作成 種別:特殊装置』
「こ、れって……」
その名称は、俺達がとても求めてやまないものだった。
「もしかして神の水ってのは、それが単体で宝なんじゃなくて……宝で作った薬を指すのか……」
俺たちはダンジョンに入る前、歴代魔王が自分の宝の情報を記載した『お宝図鑑』を見るのだが、そこには細かな形状が書いていない。
だから、今回のように、見た目で判断できないお宝もあるのだと、その事実を俺はよく学んだ。その上で、
「早々と見つかって良かったな、リュミエ姉。これでどうにかなりそうだぞ」
隣のリュミエールに声をかけた。そうしたら、
「あ……」
彼女は眼から涙をあふれさせていた。
「リュミエ姉?」
「あ、あぅ……ご、ごめんね。安心したら、ちょっと止まらなくなっちゃって……ぅぐ……」
普段は余裕を見せて、姉のように接してくる彼女が涙をぽろぽろこぼしながら、俺の体を掴んでくる。
恐らく彼女も、我慢していた事があったのだろう。
妹の為に動いていても、不安が止まらなかったのかもしれない。昔からこうだ。彼女は気丈に頑張り続けるから、安心すると泣いてしまう。だから、
……ああ、うん。こういうのは懐かしいな。
昔のように、俺は長耳を真っ赤にしている彼女の背中をぽんぽんと叩いて、慰めることにした。
こうして、俺達は一度は落胆したものの。どうやら、目的のものを手に入れることができたようだ。




