第10話 増えていく協力者
朝。俺が応接間の方に向かうと、
「クロノー。おはよー」
その途中でリザが手をぶんぶん振りながら話しかけて来た。
「おはようございますリザさん。朝から元気ですね」
「はは、元気じゃないと周りの人のサポートが出来ないからね。というわけで、サポート開始ー」
「うお?」
言いながら、リザは俺の腕に抱きついてくる。
「ちょっと、リザさん? 何のつもりですか」
「だからサポートだよ。今日のクロノの体の調子とか確かめないと、超特進クラスの監督としてはダメダメだしねー」
そう言って、ぎゅうぎゅうと柔らかな胸を腕に押しつけてくる。
この魔王様は、こういう肉体的スキンシップを平然とこなしてくるから、少し困るんだよな。
背が低いとはいえ、色々な個所が色っぽいし。
気にしない、というのは無理がある。
健康診断にしてはちょっと刺激が強すぎる。まあ、嫌というわけでもないし、むしろ約得な気分で朝から嬉しいんだけどさ。
そんな事を思っていると、リザが俺の腕から離れた。
「よーし、大丈夫そうだねー」
「それだけで俺の体調が分かるんですか?」
「うん、サキュバスの能力でね。抱きついただけで元気があるかないかは、これだけで分かるんだよ」
リザはほほ笑みながら胸を張った。
サキュバスは色っぽいだけでなく、色々と凄い能力を持っているようだ。
「何というか眼福と役得でした。ありがとうございます」
「いやいや、気にしないでー。今日はダンジョン探索に付いていくことが出来ないからさ」
「あれ、そうなんですか」
「うん。マザーコアのチェック作業があるから。それが終わるまで、ダンジョン探索は出来ないんだ。後から追っていくつもりだけど、ごめんね」
「ああ、いや別に構いませんよ」
色々と付き合ってくれてはいるが、彼女はこの城の運営をこなしているのだから。忙しい時もあって当然なんだし。
「ただまあ、私に出来る事は何でもするって言ったからね。全力で仕事を終わらせて、協力しに行くし……それに他にも色々と手を打ってみたんだ」
「手を打つって、何かしたんですか?」
「うん、色々やったよ。だから、ほら、こっちに来て、クロノ」
そう言って、リザは応接間の扉を開けて、超特進クラスの部屋までたどり着く。
すると、そこには、いつも通りソフィアとユキノ。そして今日から共闘することになっているリュミエールがいた。だが、それだけではなく、
「よっす。クロノ」
「コーディ? それに他の皆も」
特進クラスの同級生が数名、円卓に座っていた。そして、
なんでここにいるんだろう、と思っていると、俺の隣でほほ笑むリザが説明してくれた。
「昨日で特進クラスの基礎講義は終わりだからね。ここにいるのは、クラスの中から選抜された人でね、今日からダンジョンに潜る人材になるんだよ」
「そうなんですか」
「こうして段々ダンジョンに潜れる人を増やしていくのが、魔王城の教育スタイルだったりするんだよ。クラス分けをしたのは、能力順に鍛え方を変えていくためだしね」
魔王城の教育システムについては、クラス分けくらいしか知らなかったが、色々と考えて作っているらしいな。そう思っていると、
「……今日から俺達も十代目魔王のダンジョンに行くぜ、クロノ」
コーディがそんな事を言って来た
「え、いきなり十代目のダンジョンって、何か欲しいものでもあったのか? 普通は初代魔王のダンジョンから体を慣れさせるらしいが」
どういう基準で選んだんだろう。そう思って聞くと、
「ああ、魔王様もそう言ってくれたよ。――でも、クロノが探し物をしているって話を、聞いちまってな。何を探しているかまでは話してもらってないが、大事なものなんだろ?」
コーディは苦笑しながらそう答えた。
「私も簡単なダンジョンから慣れていった方が良い、とは言ったんだけどねー。クロノの、友人たちの役に立ちたいんだってさ」
リザの言葉に同級生たちも頷いた。
その様子を見て、俺は率直に有り難い、と思った。
「……なんというか、お前ら、本当に良い奴だな」
「はは、よせよ。俺たちだって、クロノの力の使い方を参考にさせてもらって、講義を受けたりしたんだからな。お互い様だ」
コーディはそう言った後で、もう一度苦笑した。
「……それに、クロノの強さが飛びきりだってのは、オレたちもよく分かっているからな。十代目魔王のダンジョンっていう場所に潜ることに対して、そこまでの不安はないんだ。ダンジョンの中で、クロノの戦いを見させてもらって、参考にさせてもらえればいいって感じでな」
「おいおい、そこまで俺の戦いは凄いもんじゃないぞ?」
「クロノにとっては凄くなくてもオレ達にとっては凄いんだよ。だから、今日から、よろしく頼むぜ」
喋り終えた後コーディは俺に握手を求めて来た。俺はその手を取り、
「……そうだな。それじゃあ今日は、この大人数で行くか!」
「おう!」
威勢よく返事をした同級生たちは、我先にと十代目魔王のダンジョンに入っていく。
その姿を見ていると、ソフィアがとててっと近寄って来た。
「なんだか、凄い人数になっちゃいましたね」
「ああ、そうだな」
「……ふふ、クロノさん、楽しそうな表情をしていますね」
「ソフィアもな」
これからやるのは宝探しという大変なもので、幼馴染を直すためには重要な事柄なのだが。
仲間が増えたお陰なのか、俺たちの表情はそこはかとなく明るいものになっていた。




