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自称!平凡魔族の英雄ライフ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~  作者: あまうい白一
第二章

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第5話 田舎とダンジョンの生態系

 十代目魔王のダンジョンはやけに広い草原で構成されていた。


「いやあ。久しぶりに来たけど、相変わらず広いねえ。どう、クロノ。十代目魔王のダンジョンの感想は」

「ええ、一階だけでもここまでとは。一時間じゃ回りきれなさそうですね」


 いつものお試しという事で、今回の探索は一時間だけと決めている。

 ただ、遥か彼方にある地平線を見るに、それだけでは一階を全て見回ることすらできなさそうだ。その上、


「このモンスターの数は凄いですね」


 ただっ広い平原には、数十種類の多種多様なモンスターが自由気ままにうろついていた。

 動物型やヒト型、スライム型など形態はさまざまだが、総数にして百体は確実に超えているだろう。


「これではまるで、モンスターの牧場みたいですね」

「うん、クロノの言うとおり、十代目魔王のダンジョンはまさに牧場だと思っていいよ。――クロノは驚いているけれど、予想していた場所とは違った?」

「はい。なんというか、イメージと違いましたね」


 既存の遺産を修理したり、解析したりする魔王だと聞いていたから、もっと機械的なダンジョンかと思っていた。

 けれど目の前に広がっているのは、全く想像と異なる、緑あふれる光景だ。


 空には何故か青空もあるし、太陽のような光源もある。


「すごく、自然っぽいというか、こんなダンジョンが作れるんですね」

「そうだよ。十代目魔王はね、機械の解析分解修理は得意だったんだけど、それと同じくらい生態や環境の研究に熱心だったんだ。機械と生態を極めようとした人だから、こういう自然環境の構築もお手の物だったって、記録にはあったよ」

「なるほど。だからこんなに自然的なんですね。俺の故郷もこんな感じでただっ広い平原があるんで、懐かしい気分がしますよ」

「クロノの故郷も自然豊かそうでいいなあ」


 ダンジョンの中にいるというのに、風がとても気持ち良い。

 モンスターが跋扈していなければ走り回って寝転がりたい気分だ。


「うん、気持ちいい」


 というか、既にユキノはゴロゴロと寝転がっている。

 この先輩はどうにも野性的な部分が強いなあ、と思いながら俺は歩き出す。


「一時間だけだから適当に歩きまわって、宝がありそうな所を探しましょう」


 見通しのいい場所でこれだけの数がいると、モンスターを避けるのは難しいが、


 ……目立って凶暴そうなモンスターは見えていないしな。


 だから俺は、突っかかってくるモンスターを、鎖で殴りつけて撃退しながら、ガンガン進んでいく。


「いつのまにか、クロノもその鎖の使い方に慣れたねー」

「まあ、色々とありましたからね」


 支配だ奴隷だと、奇妙な事態を味わってきたものの、お陰で使い方が覚えられた。

 これがあれば、木の棒とかを拾う必要もなくなるので、動きやすくもなる。

 この成果が得られたのは幸いだった。


「リザ。あの鎖の強度、おかしいと思う。モンスターの堅い部分を殴って吹っ飛ばしても、削れてすらいない」

「あはは……まあ、それだけクロノが持っている支配の力が大きいんだろうね……」


 なんて言葉が後ろから聞こえてくるが、この鎖の物理的強度は本当に高い。

 いくら振りまわしても、壊れることがないので安心して使えるのは有難い。そんなことを思いながら鎖を振りまわして歩いていると、


「うん……?」


 足元の緑色の草が生い茂る中に、白い水晶のような花弁を持つ花が咲いていた。

 小さくて、良く見なければ見逃してしまいそうなものだが、


「この花は……もしかして」


 その形状には見覚えがあったので手に摘まんで取って見てみる。すると、


「おー、魔力草だあ! 良く見つけたねクロノ!」


 それを見たリザが興奮したような声を上げた。

 やはり自分が想像していたもので間違いなかったらしい。

 魔力草という、体組織に魔力をため込んだ植物系の材料だ。


「普通に採っちゃいましたけど、大丈夫でしたかね」

「うん、問題ないよ。魔王のダンジョンからは基本的に何を採取してもいい事になっているし。――でも、魔力草って効果が強力だけど、見付けづらい珍しい植物なのに、クロノは良く見つけられたね。実物を見たことないって人もいるのにさ」


 確かに、この白い花は単体で存在していると景色に紛れやすいし、この色と花弁の形状に見覚えがなければ雑草としてスルーしてしまうような存在感しかないが、


「まあ、俺の実家は薬屋をやっていたので、薬草系の知識はあるんですよ」

「あー、なるほどね。そりゃ見逃さないか」

「ええ。割と強い効果を持っているので、重宝してました。それに、この草、俺の故郷の平原にも群生してたんで、それなりに見慣れているんですよ」


 森の奥地なので探すのが手間取るが、使い道が沢山あっていいものだ。

 だから良く森に潜って取っていた記憶があるなあと、過去を思い出して頷いていると、


「えっと、ちょっと待って?」


 リザは目を見開いて俺を見ていた。そして俺の手にある魔力草に視線を移しながら言葉をつづけた。


「魔力草って、確か十代目魔王が品種改良して量産できるようにしたけれど、それまで自然発生確率が物凄く低いものだったんだけど」

「え? そうなんですか?」


 聞き返すと、リザは口をぽかーんと開けた。


「え、だって、魔力草はとても育成条件が難して、本来ならサラマードの故郷でしか取れなかったものなんだ。ね、サラマード」


 そして彼女は、隣にいるユキノに話を振っていた。

 ユキノもユキノで、首をかしげながら俺を見ている。


「うん、その通り。十代目魔王は私の一族である銀狼だからその業績は知っている。凍りつくほどの寒さがなければ芽吹かない植物だったのをどうにかしたと。学園の講義でも、その歴史は習えるけど……とにかく生えづらいし見つけづらいものであるのは確か」

「なるほど、そんな特性があったんですねえ」


 今の今まで知らなかったよ。両親から群生地のありかは教えられていたし、なんの疑いもなくむしり取っていたからな。


「ええと、クロノの故郷には本当に群生しているんだよね? この形で間違いない?」

「ええ、色も形もこんな感じですよ。ただ、これより少し大きいですし、良い香りもしますね」

「……品種改良した種がどこかから漏れたのかな」

「かもしれませんね。ちなみにウチは薬師でしたから、これを使った薬や料理用スパイスなども作れますよ」


 そう言ったらさらに口をあんぐりされた。


「貴重で強力な薬草を食用にしちゃうんだ……。もしかしたら、クロノの強力な力はそういう食生活からも育てられていたのかもね。魔力草の薬って体の魔力を強化する作用もあるし」

「うーん、その辺りは分かりませんが、まあ、自然豊かな田舎で良かったですよ」

「もはやクロノの故郷は豊かってレベルじゃないと、ワタシは思うよ」


 ユキノとリザから興奮度高めな視線を受けている気がするが、都会では生えてない植物が田舎では結構生えている、なんて現象が起きているのかもしれないな。


「まあ、その辺は後で話すことにしましょう。とりあえずあと三十分くらいですし、このまま軽く見まわったら戻りましょうか」

「あ、うん、了解。クロノにその辺りは任せるよ」

「リザに同意。ワタシもクロノについていく」

「ええ、では再出発という事で」


 そうして、俺は十代目魔王のダンジョン一階を軽く見回って行った。

 その結果、魔力草をいくらか採取した。


 どうやら初めての探索にしてはなかなかいい成果を持ち帰ることができたようだ。

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