第4話 早めの出発
「あ、おはよー、クロノ、サラマード」
マタンゴ達を一旦片付けた後、俺とユキノは超特進クラスの部屋を訪れていた。
そこではとんでもなく薄着のリザが、手足をだらーんとさせてソファに寄りかかっていた。
めちゃくちゃ気が抜けている。
「今日は魔王の遺産を調べるだけって言っていたから、ぼーっとしてたんだけど、何かあったの?」
リザはソファから身を乗り出しながら聞いてくるのだが、隙がありすぎて目のやり場に困るな。ただ、今は彼女の服装について何か言う気は無いので、さっさと本題に入ろう。
「先ほど、契約印石でモンスターを大勢呼び出したんですが、少々問題がありまして。アドバイスを聞きに来たんですよ」
そう言うと、リザはポカンと口を開けた。
「もしかして、マタンゴの大量召喚、クロノがやったことだったんだ」
「あ、気付いていたんですか?」
「そりゃあ、私の城だからね。やたら多くの反応が出たなあって感知は出来ていたよ。てっきり教授と学生が講義で一斉召喚したのかと思ったけど、まさか、クロノが一人やってたとはねー」
「ええ、まあ出来てしまいましたね」
「凄いや。感知だと誰が召喚したかまでは分からないから、首を捻っていたんだけどね。一人であんな数のモンスターをコントロール出来るんだってビックリだよ。珍しいものを見れて嬉しいなあ」
リザはそう言いながらにっこにこしてくる。楽しんでいるようでなによりだが、俺としては少し困っているんだよな。
「コントロール出来た事自体は良かったですよ。問題は帰還って言っても、全く帰ってくれないことなんですけどね、リザさん、何か知ってます?」
聞くと、リザは意外そうな顔をした。
「え、消えないってどういう事? 反応が消えたってことは帰還命令出したんでしょ?」
「いや、俺のダンジョンに押し込んだだけです」
「そうだったんだ。となると……クロノの支配力が強すぎて、モンスターが縛り付けられっぱなしになっているのかな?」
リザはうーんと頭に手を当てながら悩んでいる。
彼女でも即答えられるようなことではないようだ。
「というか、支配力の強さでモンスターが帰れないとかあるんですか?」
「珍しいことだけどね。十代目魔王とかは、力が強すぎて召喚したモンスター全てを帰還させられず、結局モンスター召喚はほとんど使わなかったって記録があるし」
どうやら前例があったらしい。力が強すぎるために召喚を使いづらいってのはなんだか微妙だな。
「いやでも、一生生み出しっぱなしにするって事を考えると、凄い事なんだけどね。管理が大変だったみたいどね……クロノはそれでも良いんじゃない? ダンジョンに入れておけば、場所には困らないでしょ?」
確かに場所には困らない。
俺のダンジョンは現状、倉庫扱いだ。広さを持て余して、アイテムボックスとして使っているのだけれど、基本的に物置であることに変わりは無い。
「まあ、でしたらしばらく適当な階層をモンスターに預けておきますかね」
「うん、そうするといいよ。でも、どうしても戻したくてたまらないっていうなら、それこそ打ち消しのタクトを使えるようにするのが一番早いかなあって思うかなあ。あれは支配契約すべてを対象にとれるから、モンスターにも使えるし」
「結局そこに舞い戻るんですね」
俺が最も欲している打ち消しのタクトだが、さらにもう一つ手に入れるべき理由が出来たらしい。こうなると、
「リザさん、ちょっと、今から十代目魔王のダンジョンを味見しても大丈夫ですか?」
今日のうちから、攻略を開始したかった。だから聞いてみると、
「勿論、大丈夫だよ」
リザは速攻で頷いてくれた。こうやって柔軟に動いてくれるのは本当に有難い事だなあ、と思っていると、
「今回ダンジョンに入るのはクロノとサラマードなんだよね? ソフィアちゃんは来てないんだけどね。何か用があるって言っていたし」
リザはそんな事を言ってきた。
「ソフィアは何かあったんですかね?」
「うーん、特にドミネイターズの行動に支障は出ないらしいけどね。今日だけなんだか色々とやることがあるみたい」
なんだかんだ学生として入って数日しか経っていないしな。積もり積もっているタスクなどがあるんだろう。
ともあれ、それならば了解だ。
「とりあえず、俺は確実に入りますが、ユキノさんはどうします?」
先ほどから俺の横で話を聞きながら、学食で貰って来たサンドイッチを齧っていたユキノは
「――んぐ。ワタシの準備は完了している」
一息でサンドイッチを飲みほしてから力強く頷いた。
その眼や体からは、支配による弱弱しさなどはもう無い。そうと分かれば決まりだ。
「というわけで、今回のメンバーは俺とユキノさんですが、リザさんも来ていただけるんですか?」
「それは当然、ついていくよ。バックアップするって言っているもの。……ただ、明日はちょっと用事があるから、今日のうちに教えられる情報は全部出そうと思うよ!」
「ええ、ありがとうございます。では、行きましょう」
こうして俺は、色々と有用な道具が隠されている可能性がある、十代目魔王のダンジョンに初めて足を踏み入れることになった。




