第34話 魔人がダンジョンを作った結果
祝勝会は、ドミネイターズ専用の食堂で開かれていた。
そして食堂に入ると同時、俺はダンジョンで出会った教授達とダンテに囲まれて話をすることになった。
「キミのような有望株が入ってきてくれて本当に助かったよ。というか、キミの力の振るい方は本当に興味深かったよ」
「ああ、本当だな。体の動きを見せてもらうだけで十分に資料価値があるぞ!」
「あー……そりゃ、どうもありがとうございます」
教授達は口々に好意的な発言をくれる。だが、俺との間に一定の距離を作っているのはどうなんだ。
エアポケットを作るのが当然みたいになっていて、反応に困るぞ。
「とはいえ、キミは自由な学生の身分だしな。気が向いたときに私たちと喋ってくれると嬉しいよ」
「うっす。了解です」
「ああ、ありがとう! 祝勝会の途中に邪魔してすまなかったね。ゆっくり楽しんでくれたまえ!」
そう言って教授達は去って行った。
最後までエアポケットは作ったままだが、微妙に歩み寄ってくれていた気がする。
……まあ、うん。時間をかけて仲良くなっていけばいいか。
ともあれ、ひと通り教授達と話し終わったので、俺は食事に手を付けることにした。
祝勝会は立食形式で、食堂のテーブルには様々な料理が並んでいる。
それを見回しながら何か適当に取るか、と思っていると、
「お疲れ様です、クロノさん。はい、これお皿です」
ソフィアが空のお皿を持ってやってきた。
「おお、ありがとうソフィア」
「いえいえ、これくらいはさせてください。クロノさんにはお世話になりっぱなしなんですから。先ほども教授達のお相手を一人で務めさせてしまいましたし」
「別に進んで務める気はなかったんだけどな。まあ、食っていくか」
「はい!」
そうしてソフィアと共にテーブルを回りながら料理を取っていったのだが、部屋の中はかなり賑やかだった。
教授だけではなく、学園や城の運営スタッフ、超特進クラスに関係する人員も呼んだそうだが、
「裏方で動いてくれてる人も、結構な数がいるんだなあ」
「そうですね。ただ、今日は他のドミネイターズのメンバーはいらっしゃらないみたいで。本当はもっと賑やかになるそうですよ」
「あー、リザさんが言うには、ダンジョンに潜りっぱなしの先輩や、城の外で仕事をしている人もいるらしいからなあ」
後々紹介してくれるとは言っていたっけな。
どんな人がいるのか、またどれくらい先輩なのかは聞いていないけれども、
「知り合いが増えれば、この鎖を解く方法も見つかりやすくなるだろうし。城でも暮らしやすくなるだろうし。有難い話だ」
俺はソフィアと自分をつなげる黒い光の鎖を見やる。
「ソフィアにとっては鬱陶しいよな」
「いえいえ、そんなことはありませんよ?」
ソフィアは苦笑しながらも、自分の首や体に巻き付いた鎖を優しく撫でる。
「私としては、しばらくはこのままでもデメリットがないんですよ。その方がクロノさんと一緒に行動できて、活躍を近くで見られますし」
「この鎖がなくても一緒に行動するくらいは出来るだろうよ。……ま、次もまた魔王のダンジョンに行くから、よろしく頼むわ」
「はい!」
などとソフィアと喋りながら、食事を再開していると、
「や。クロノ。ソフィア。食べてる?」
山盛りの食事を載せた皿を持ったユキノが来た。
「ええ、食ってますよ。ユキノさんも……食欲旺盛ですね」
「うん、大分本調子。食欲も元気も戻ってきた」
ほんの数十分前には血まみれボロボロだったはずなのに、今ではツルッツルの肌を見せつけるような恰好で食べまくっている。
銀狼の再生能力は本当にびっくりするくらい高いなあ、と思っていると、ふと思い出した事があった。
「そういえばユキノさん。奴隷契約は解かれたんですか? グラトリザード戦では奴隷契約のせいで再生能力が封じられてたって聞きましたけど」
「うん、多分大丈夫になった。元気を吸われている感覚は無いし。問題なく食べれている」
とりあえず、彼女の問題はひと段落したらしい。
憔悴している彼女を見ているのは少し辛いものがあったので、良かった良かったと胸をなでおろしていると、
「ただ、問題は残ってる。……まだ、ワタシはクロノに恩を返せてない」
ユキノは俺の目をまっすぐ見ながらそんな事を言ってきた。
「恩って、俺、何かしてましたっけ?」
「ワタシを助けてくれた。二回も。最初の檻と、グラトリザード退治。これは二回分、命をもらったことに等しい大きな恩」
「いや、そこまでの事じゃないと思うんですが……」
少なくともグラトリザード退治は、自分の怒り発散のためにやったことだ。
だから恩にされるようなことじゃないと思ったのだが、ユキノにとっては違うらしい。
「アナタがどう思っても、ワタシは恩と思う。そしてそれ以外にも細かい恩がたくさん残ってるから。……絶対に、しっかり何かしらの形で返すから。待ってて」
意思の固そうな目つきで言われてしまった。ここで無理に否定するのもなんだし、とりあえず受け入れておこう、と俺は頷くことにする。
「では恩返し待ってます。でも、程々でいいですからね」
「うん、分かった」
ユキノは耳をピコピコ揺らしながら嬉しそうに頷き返してきた。
……そういや、銀狼は恩義を重く見るって風習があったんだっけなあ。
故郷にある読書家から借りた本で読んだのだが、本当らしい。
魔族の種ごとの風習は多種多様だ。魔人にはそういうものがないから、ちょっと面白いなあ、なんて思っていると、
「ん……」
ユキノの鼻としっぽがピコピコ動いた。
そして、食堂奥の何も置かれていないテーブルの方を見た。
「どうかしましたか?」
「……向こうにデザートが出そうな匂いがする。付いてきて」
そう言って、ユキノはソフィアの手を掴んだ。
「え、わ、私ですか?」
「これは狩りの基本。沢山狩るには人手が必要。あと、ソフィアからは甘いものが好きそうな匂いがした。という訳で、行く」
「わ、分かりました!」
「クロノは、どうする……?」
「ああ、俺は後回しでいいっすわ」
まだほとんど食べていないし。甘いものはある程度、腹を一杯にしてからでいい。
「了解。ではソフィア、行こう」
「は、はい!」
そうしてソフィアとユキノは新しい品が出たテーブルに突撃していった。
女子同士、いい感じに関係を築けているようでなによりだ。
「さて、俺は落ち着いた場所で食べるかね」
そう思って部屋の窓際に置かれたソファに座る。
城の中央の秘密の部屋なのだが、奇妙なことに窓からは星が見える。
……どういう構造になっているのかは知らないが面白いな。
などと考えながら食事をしていたら、
「クロノー、どう!? 盛り上がってる?!」
テンションが高くなったリザが、酒瓶を片手に隣に座ってきた。
「……リザさん、酔っぱらってるんですか?」
「ちょっとお酒入れたからねー!」
ただでさえテンション高めなのに、酒の効果でさらに盛り上がっているようだ。
こちらの食事を邪魔しない程度の絡みな辺り、理性は残っているようだが、
「悪酔いしないで下さいよ」
「勿論! ただ、クロノたちと騒げるのが楽しくてついつい飲みすぎちゃいそうだけどね」
言った傍からリザは酒瓶に口を付けてあおっている。
まあ、魔王だし、酒には強いんだろう、と思って放っておきながら食事を続けていると、
「そう言えば一個、クロノに聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと? なんです?」
何気なく聞き返すと、リザは酒瓶をテーブルにおいた。そして真面目な表情になって、
「私は凄くクロノたちと一緒にいられて楽しいんだけどね。――クロノは、どうかなって? 超特進クラスに入って、楽しい?」
とても静かなトーンで言って来た。
結構大事な話なようだ。
だから俺も食事の皿を一旦置いて、向き合って喋ることにする。
「俺は……そうですねえ」
この城に来て、最初にダンジョンを作る力試しのテストをして、予想外の結果を出したらドミネイターズに入ることになった。
入ることを決めたのは自分の意思だったとはいえ、半分流されている感じも否めなかった。
ただ、それでも、
「――ああ、俺も今、楽しいですよ。リザさんやソフィア、ユキノさんみたいな仲間と一緒に騒げるのは本当に楽しい。だから超特進クラスに来て、良かったと思ってます」
「ふふ……そう言ってもらえると、私はとっても嬉しいよ」
そうして俺たちは、眠くなるまで夜通し騒ぎ、宴会を楽しんでいった。
これにて第一章完結です! シメなので、ちょっと頑張って書きました!
また、第二章の方も頑張って書いていきます!




