第32話 戦利品と怪我人回収
俺は歩きながら、体に纏っていた光を頭の角に戻していた。
「あー……縮んだなあ」
かなり長さが減っている。
まあ、一日眠れば、回復するので問題は無いのだけれども。
……ただでさえ魔族としての特徴が薄いのに、これだともっと薄くなるんだよなあ。
頭のバランスも悪くなるので、もうちょっと上手く使おう。
などと考えながらソフィアやリザたちの元に戻ると、そこには口をぽかんと開けたダンテがいた。
いや、彼だけではなく、複数の大人の魔族がいた。
ダンテと同じような服装をして、ダンテと同じように口をぽかんとあけてこちらを見ているが、
「リザさん、この状況と、この方々は一体なんですか」
「えっとね、ダンテ教授に呼んでもらった応援だよ。さっき来たところなんだ」
「ああ、呼んでいるって言ってましたね」
話を聞く限り、一時撤退から数分しか経っていないし、相当急いで連れて来たんだろう。
ダンテの対応はかなり素早いので有難いなあ、と思いながらリザたちの元に歩み寄ったのだが、
「あの……リザさん?」
「なあに、クロノ」
「教授陣にもエアポケット作られている気がするんですけど。なんですかねコレ」
何故か教授達は、俺から一メートルくらいの距離を保って見守っている。
近くにいるのはリザとソフィアだけだ。ただし、
「……」
ソフィアは放心したような眼でこちらを見つめるばかりで何も言わないし。
なんだか変な気分がするんだが、俺は何かやらかしただろうか。
「いやあ、気にしないで良いよ。なんだか目の前で物凄いモノを見せられた結果だからさ。……クロノが竜を単体で打倒してる実例を見て、私も改めて驚いたし。前に言われたことって本当だったんだって」
「え、眉つばだと思ってたんですか?」
「ちょっとね。私も見る目の鍛え方が足りないなあって、思い知ったよ。まあ、教授達もそんな感じで自分の見る目に落ち込んでいるようなものだから、本当に気にしないで」
リザは笑いながら立ちあがり、ぽんぽんと俺の体にタッチしてくる。
怪我をしていても軽いノリは変わらないらしい。今は出血も止まっているし。
「でもまあ、怪我はひどかったですし、さっさと戻りましょうか」
「ああ、いや、待ってクロノ。戻る前にさ、あそこにある遺産の回収をしようよ」
そう言ってリザが指示したのは、俺の背後にいる竜の残骸だ。
「回収って……ああ、そういえばあの竜も遺産なんですっけ」
ただ、思い切りふっ飛ばして、倒してしまったのだけれども。
「どう回収すればいいんですかね……」
「生態型の遺産には体の中にコアがあるんだ。それがある意味本体でね、体の生命活動が停止すると外に出てくるから、それを取ればいいんだよ。確かこの『暴食の竜』のコアは緑色の水晶体だったはずだよ」
「水晶が外に出てくるって……ん?」
言われて見れば、横倒しになった竜の腹のあたりに、淡く輝く何かが転がっていた。
近くに行ってみると、それは緑色に輝く水晶のような球体だった。
その色はともかく、光の輝きはどこか、マザーコアに似ているもので、
「もしかして、竜のコアってこれですか?」
拾い上げてリザに見せると、彼女は大きく頷いた。
「うん! それだね。遺産ゲットおめでとうだよ、クロノ。また一つ、功績が増えたね!」
「え、俺が取ったことになるんですか、これ」
「勿論。こういうのは討伐した人が所有権を得るのが当然だよ」
そう言うのであれば、貰っておくか。何に使えるかは分からないけれど、鑑定してもらえれば多少は分かりやすくもなるしな。
そう思って竜のコアを懐に入れていると、近くまでフラフラとやってきたリザが周囲に散らばる竜の残骸に目をやった。
「あ、それとクロノ、こんなところで交渉するのもなんだけどさ。周りの竜の鱗とかは、講義の教材や、実験試料に使えそうだから持って帰りたいけれど、いいかな? 勿論相場通りの料金は払うよ」
「え、ああ、別に良いですよ。俺はこんな重たいもの、持ち帰れませんし」
打撃して分かったのだが、この竜の体は本当に重かった。天井まで叩きつけるつもりで打撃したのに、ひっくり返るだけだったし。
流石は魔王の遺産と言うべきものなんだろうな。
「あはは……そんな重たいものを殴り倒しちゃうのもアレだと思うけどね。でも、良かった。じゃあ、こっちで勝手に集めちゃうね。――じゃあ、教授陣ー、さっさと集めるよー。あとそっちでサラマードが気絶しているから、そっちも回収よろしくね」
「りょ、了解です、魔王様!」
リザの指示によって竜の残骸は教授陣によって持ちあげられ運ばれていく。
本体以外も有効活用できるとは、上手く倒せれば生態型の魔王の遺産というのは費用対効果が良いのかもしれないな。
そう思いながら俺は、今回の元凶である竜のコアを改めて観察する。
緑色をした片手でギリギリにぎれるくらいの大きさの球体をしている。
竜の残骸で汚れてしまっている部分を手で払っていくうちに輝きはより綺麗なものになった。
マザーコアといい、魔王の遺産というのはある種の美しさがあるよなあ、と水晶を軽く掃除しながら観察していたのだが、
「あれ……この木の棒。ひっついて剥がれないな」
コアの中央にくっついていた木の棒が剥がせなかった。
というか、コアに半ば埋まりこんでいる。
「リザさん。竜のコアから木の棒が外れないんですけど、元々こういう形をしているモノなんですかね?」
もしかしたら元からこの形だから外れないのかもしれない。
そう思ってリザに尋ねると、彼女も首をかしげた。
「ああ、ごめんね。流石に詳しい形までは資料に記載されていなくてさ。樹木で出来ているような竜の本体だから、木の棒が混じっていてもおかしくは無いけど……。まあ、たとえゴミが一緒でも鑑定機に入れれば全部判定してくれるから、戻って装置に叩きこめばいいよ」
「割と雑ですが、そうですね。そうします。……まあ、鑑定する前にリザさんは治療ですが」
「わ、分かってるよー」
そうして遺産や竜の鱗など使えそうな素材を粗方拾い上げた俺たちは、今度こそみんな揃って城まで戻っていくのだった。




