第23話 スカウトシステム
超特進クラスの部屋まで戻った俺たちは、その足で食堂に向かった。
時間も時間という事で、超特進クラス専用の食堂ではなく、普通の学生も使う食堂だ。
そこで普通に夕食を頼んで、席を取ったのだが、
『――なあ、あれって魔王様にスカウトされて城に残ったっていう上級生の一人だよな』
『ああ、年に数人しかいないっていう、スカウト組か。確かに学章の数字が一昨年の奴だな。……でも、なんでクロノと一緒なんだ? しかも今日は吸血鬼のお姫様と魔王様も一緒だし』
『なんだか皆いい感じの仲っぽいけど、まあ、クロノだしなあ。何か先輩に一目置かせる事があったんだろうよ』
『だろうなあ。アイツなら何か凄い事やらかせそうだしなあ』
という同級生の声が、少し離れた所から聞こえてきた。
かなりムズかゆいので、俺の周りにエアポケットを作らずこっちに来て話してもらいたい所だ。
入学して数日経ってもこのエアポケットが残っていると、そこそこ悲しいし。
「というより、スカウト組って何だ……」
その呟きは向かいに座っている魔王によって拾われた。
「ああ、私が残ってほしいなって子は実家に帰らないでお城で仕事をしてもらうように私から頼んでいるんだよ。ね、サラマード」
「そう。でも……ここにくるのは久しぶり。リザから、魔王城で仕事するように言われてから、ずっと別の場所で食べていたし」
「あはは。まあ、学生じゃなくなったら食事の時間とかも変わるからねえ。上級生になるのは数人だから、同級生も少なくなるしね」
だとすると、先輩といるだけでかなり目立つのかもしれないな。
食堂に入るために使う学章にしっかり入学年が書いてあるから、目の良い魔族だったらすぐに気付くし。
というか目の良い魔族なんてごまんといるから普通にバレバレなんだろう。
「因みに、今のうちから言っておくと、クロノもスカウトするからね!」
「え!? も、もう内定が出てるとか、凄いですね、クロノさん」
ソフィアはそう言ってくれるが正直反応に困る。
「……一応ありがとうございますって言っておけばいいんですかね」
「うん! 受け入れるかどうかは一年後に聞くから、よろしくね!」
「ええ、了解です」
今のところはほぼ、確実に辞退する気ではあるけれども。
ダンジョンに潜るのは結構楽しいが、実家に戻って薬師として暮らすのもまた楽しいと思う。そして後者の方が楽だ。
……魔王の傍で仕事し続けるって、厄介な問題ごと多そうだしなあ。
魔王の傍で仕事をする魔族は、もっと能力を沢山持っている者が良いと思う。そっちの方が汎用性もあるだろうし。
「あー……なんだか今のクロノの目を見ていると断られそうな予感がしてきたよ」
「お、そうですか?」
「否定しないってことは当たりかー。私には淫魔の血が入っているからね。それで空気を察する種族的な能力があるから、何となくわかるよー。まあ、一年後にその意思が変わってくれればいいなあって思っておくことにするよ」
どうやら魔王様は沢山の能力をお持ちのようだ。
やっぱりこの城にはそういうハイスペックが大勢いるんだろうな、なんて思っていると、
「……そういえばさ、クロノの体術と支配力にばっかり注目がいっていたけれど、魔人としての能力ってなにかあったりするの? 特徴はその角だけれど、硬かったりする?」
リザが首をかしげて聞いてきた。
俺は自分の角を撫でながら、少し悩む。
「うーん……何もないですね。この角はちょっとは堅いですけど、鉄とかにぶつかったら普通に折れますし」
魔人族だけの特徴、なんてものはない。
種族的な問題なので劣等感はそこまでないが、他の種族の特殊な力は羨ましいとは思う。
「この角は魔人が持つ魔力などの貯蔵庫にはなっていますけれど。魔族にはそういう力の保有器官があるのは普通ですしね」
「まあ、そうだねえ」
例えば竜人属だったら、体の内部に炎の力をため込む器官があるし、風精族ならば風の力をため込む袋があるという。
魔族としては、エネルギー貯蔵器官があるのは珍しい事ではないんだよな。だからそういう意味でも魔人は普通だ。
「あと、これも他の魔族と一緒ですが、多少は長生きってことくらいですかね。知り合いが寿命で亡くなることも少ないので、色々と教えてもらったりします」
「田舎で色々と教えてもらった――とか言っていたね。どれくらいの規模なの? ちょっと調べたけど、その場所に登録されているような街がなくてさ」
「そうなんですか? まあ、在住者は千人もいない所ですからね。行商人も殆ど来ていないようなところですし」
付き合いはある程度ドライではあるけれど、薬師の自分はほぼ全ての住民と顔見知りなくらい町民は少ない。
「千人弱となると、街としては小さいけど、村としては大きいくらいかあ。……うん、規模は普通だねえ。それで見つからなかったって事は調査が雑だったのかなあ」
「まあ、山間の小さな地域ですから。霧も凄く出る時もありますし、なにより森も深いので。本当に知っている人が少ないだけだと思いますよ?」
魔族は長命だから、自分たちで小さな街や村を起こすことがよくある。
だから、見つからない村や街があっても、おかしくは無いと思う。
行商人による噂などで、その地名が明らかになっていくことはあるけれど。
……ウチみたいな儲けの出ない小さな街をわざわざ噂する商人もいなかったんだろうなあ。
土地とかは広いし畑も豊潤なので食うには困らない地域なのだが、特徴はそれくらいしかない。
ちょっとさみしい気もするが、それでも何の問題もなく暮らしてこれたので、それはそれでいいものだと思う。
「むしろ俺としては、他の人たちがいる国や街がでかすぎるって思いましたよ。ソフィアとかお姫様だし、おそらく、ドミネイターズにいるってことは、ユキノさんもそうなんでしょう?」
「うん……?」
腹が減っていたらしく、先ほどから食事にがっついていたユキノを見ると、頬に付いた脂を舐めながら頷いてきた。
「まあ、ワタシは一応、貴族。確かに住んでいる街も家も大きかった」
あー、やっぱり高い地位の人だったよ。
超特進クラスに入っている時点で、そういう人なんじゃないかって思っていたけれどさ。
「地位とか権力とか持ってるヤバイ人の集まりですね、超特進クラスって」
「でも地位なんて、実力の前では関係ない事。そういう意味では、アナタは魔王の傍で働いたらとんでもない成果を出すと思う。というかもう出してる」
「うん。歴代最速で最大の稼ぎを出しているんだからね、クロノは。とても貴重な人材だと思ってるよ!」
これまたむずがゆい評価を貰ってしまった。
「……まあ、出来るだけの事はしていこうと思いますよ。とりあえず今は食べましょう。俺もお腹が空きました」
「そうだね! じゃあここも私の奢りだから存分に食べちゃってよ」
そうして、魔王城に来て三日目の夕飯は賑やかに過ぎて行った。




