エピローグ
最終話2話同時更新なのでお気を付けください。
行き詰まっている。
再来月にオープンする常設コラボカフェ「テトラムジカ」でのプレイボーナスが全く思い浮かばない。
テトラゴナとの期間限定コラボではグッスリ社長ボスがわりと評判が良かったけれど、同じことをやるわけにはいかない。
グッズとか新スキルとか、そういう方向でコラボらしいなにかが欲しいのに。
「今日も相変わらず行き詰まってるな湖出」
「有賀か」
他のところの準備は順調なのに、俺だけが行き詰まっているので余計に焦る。
いっそ諦められたら楽なのに。
「グッスリ行ってきたけど、湖出にお届け物だ」
そう言って有賀から大きい包みを渡された。
大きさのわりには妙に軽い。布製品か?
「石岡さんが、仕事の成果です、ってさ」
「ああ、これが!」
先日言っていた初めてのメインプロジェクトを完遂できたんだな。
気分転換にちょうどいい。
早速その仕事を見させてもらおう。
包みを開けると出てきたのは濃いグレーの枕だ。
それから液体の入った妙に可愛らしい小瓶が複数。
普通の枕かと思ったけれど説明書は妙に分厚い。
とりあえず説明書に目を通していると、枕に気付いた宮山が寄ってきた。
「それ、うちの奥さんに勧められて使ってるけどかなりいいよ」
「もう発売してるのか?」
「半月前くらいに。それは多分、湖出用にデザインカスタマイズしてるから届くのが遅くなったんだと思う。デフォルトは女性向けデザインらしいし」
荷物を片付けてきた有賀が小瓶を見て更に反応した。
「それ『眠りの実験室』か。石岡さんがプロデュースしたの?」
「そうらしい」
「うちの彼女も使ってるよ。一緒に買いに行って店頭で販促ポスター見たら、石岡さんが写っててびっくりしたけどそういうことか」
ポスター写真?
彼女はそういうものを嫌がりそうな気がするけれど。
「それはうちの奥さんが上手く騙して撮影させたと言ってた。商品のコンセプトを一番知ってて見栄えのいい子使わないなんて勿体ない、と」
そのセリフを言う旧姓三浦さんが脳内に思い浮かぶ。
確かに三浦さんに丸め込まれたら、石岡さんは撮影してしまうだろう。
石岡さんにとってはとんだ災難だろうが。
心中穏やかではない様子で頭を抱えていそうだ。
説明書には見たい夢によって香りを組み合わせるように、と調合のレシピが載っている。
魔女っ子アニメのアイテムみたいだな。
確かにこれは手を出したくなるかもしれない。
「俺が奥さんから聞いて一番いいなって思ったのは、『眠りに対する香り』は既にグッスリの中で研究し尽くされているのにそれを掘り起こして、『睡眠』から『夢』に視点をずらして新しい技術を添えて、商品として送り出したってところなんだ。ゲーム屋なら、わかるだろ?」
「枯れた技術の水平思考、か」
ああ、それはいいな。ぐっとくる。
かつてその考え方で生み出された歴史に名を残す名作たちを思い出し、天啓を得た。
「……そうだ、調香師。テトラムジカでログインすると、新職業調香師を選ぶことができるっていうのはどうだろう? こんな小瓶を持って、フィールドで調合してバフやデバフをかけるんだ。錬金術師とかぶらないように生産職扱いがいいな。サブ職業向けに調整するのもいいかもしれない」
「開店までもう2ヶ月しかないのに?」
「まだ2ヶ月あるだろ?」
それにこの枕、見た目をカスタマイズできるなら、エルムジカに関連した柄で作ってもらって、店舗限定グッズにできないだろうか。
付属の小瓶をゲームに登場する調香師が使う小瓶のデザインにしたらかなり雰囲気が出る気がする。
「有賀、ちょっとコンタクトを取って欲しいんだが」
「……俺、さっきグッスリから帰ってきたのに、またグッスリにアポ取れと? そんな顔で頼まれるなら言う通りやるけれど、やるからには結果を期待してるからな総大将!」
「任せろ!」
メインシナリオがクリアされてもエルムジカはまだ続き、広がっていく。
まだまだ世界には実装してない秘密があるんだ。
どんなにアップデートを重ねても、また思いも寄らない角度であっさりとクリアされてしまうかもしれないけれど。
それを眺めて悔しがったり感心したり楽しんだりする日々が少しでも長く続くように作り続けよう。
いつか世界を音楽で満たすために。
大体10万文字くらいでまとめようと思っていたので予定通りに終われました。
小説自体は書いていましたが今まで別名義で短編小説専門だったので、原稿用紙換算200枚を超える小説を書いたのはこれが初めてです。
推敲よりサボらず更新することに重点を置いていたので、あとで手直しはしたいと思いますが、まずは一旦完結ということで。
沢山の方に読んでいただいて毎日励みになっていました。
1ヶ月未満の短いお付き合いでしたが、誠にありがとうございます。




