パースニップ・マンドラゴラの正体
納得と言えば納得できるし、そうであろうと少し予想はしていた。
明らかに恩恵を受けすぎていたもの。
「そうですか、わかりました。同居人の正体を知りたかっただけなので、夜中にお呼び立てしてしまい申し訳ありません」
「どうせ暇を持て余している身だ。気にせずとも良い」
「ありがとうございます」
さて呼んだはいいものの、どうしましょうか。
ちらりと子供たちを見ると、目を丸くしている。
教会の孤児院で育ってるから、私よりずっと石像を見慣れているだろうし、それはそうなるよね。
そういえば……ずっと知りたかったことがある。
「……ひとつ確認したいことがありました。うちで育ったパースニップ・マンドラゴラは、普通のマンドラゴラとは違う存在なんですか?」
「おや、此奴らはまだ正体を現してはいなかったのか。うむ成程……君は余程此奴らに愛されているのだな」
そんなしたり顔で言われましても。
マンドラゴラたちから愛されているというのは知っているけれど。
地の精霊様は右腕を上げ、空を切るように指を滑らす。
そしてなにもない空間から現れた乳白色の棒を私に手渡した。
「これは君が作り上げた、君だけのタクトだ。私の名において君には受け取る資格があると判断した」
おずおずと受け取ったタクトはすべっとした石のようで、でも石よりも軽く、しなるほどの弾力がある。
タクト、要は指揮棒だ。
これでなにかを指揮する?
「そして問いの答えであるが、そのタクトを手にした今ならばもう解るのではないかね?」
仰る通り。
このタクトを通して、マンドラゴラたちと一層強く繋がったような感覚がある。
君たちは、パースニップに入り込んだ土の精霊だったんだね。
だから出荷されて触媒や材料にされても、世界を循環して、またここに還ってきてた。
きっともう何度も再会している子もいるのだろう。
だから私が指揮するものなんて、疑問に思う必要もなかった。
私はこれからパースニップ楽団「昼の月」の指揮者だ。
最初から地面に宿っていた土の精霊たちが居心地良く過ごしているから、地の精霊様もこの地にやってきたと言う。
「私は分霊たる身であり、本体はエルムジカに在る。君が正しくタクトを揮い、道が拓かれたそのときには、本体で君にまみえよう」
「それは私でいいのでしょうか? 私はただ畑を耕して、マンドラゴラたちと楽しく暮らしているだけの人間で、英雄でも聖者でもありません。あそこは人間が足を踏み入れていい地ではないのでしょう?」
「土の精霊と楽しく暮らしていた人間を、精霊の住処が拒むことはなかろう。君がパースニップを愛し、大地を愛した結果が示されただけだ」
緑の歌も大地の歌も、歌ったのはずっと大地讃頌だから、歌詞を改めて思い出すとすごく愛してたな。
愛している自覚はなかったけれど。
「タクトを受け取ったからと言って、変える必要も変わる必要はない。土を愛し、作物を愛す、そんな君でありなさい」
「わかりました」
なんだかこのタクト、あとでじっくり調べるけれど、精霊への感度が低い私でもわかるくらい、私が手にしていいものではない雰囲気が漂っている。
地の精霊様から直接賜ったものなのだから当たり前かもしれないけれど。
「そこの小さき人たちには健やかな眠りを贈ろう。精霊との交流を始めたばかりの彼女らには、この経験はまだ早い」
まだ動揺がおさまっていない様子のミリアとマルファは、この出来事をただの夢だと思ってくれるだろうか?
思わなくても夢だと信じ込ませようと思うけれど。
いきなり大ボスと邂逅、なんてねえ。
そして夜は静けさを取り戻し、気付けば2人は寝息をたてていた。
マンドラゴラたちと協力して起こさないように慎重に運ぶ。
なんだろう。私も虚脱感というか、もの凄く眠い。
ゲーム中にこんな眠気を感じるのは初めてだ。
なにか体力とかそういうの持って行かれたのかな?
この世界の半分みたいな精霊と話したのだから、そんなこともあるんだろうね。




