レア鉱石と鍛冶の街
『ウィンターロックで戦う、或る剣士の日記』
大雪原第3エリアの攻略中、オータムアリアからやってきた2人組パーティから護衛依頼が入り、攻略を中断し鉱山へと同行することになった。
採掘師と魔女のパーティなので戦闘力が足りないとのことだったが、それでも2人だけでウィンターロックにやってこられるくらいの実力はあるのであれば、全く足りないということはなく念には念を入れたというところか。
聞けば地元住民が言うところの掘りたくても掘れない鉱石を狙いにきたという。
俺も懇意にしている鍛冶屋のおやっさんからその鉱石について聞いたことがある。
おそらくアダマンタイトかオリハルコン、もしくはその両方が埋まっていて、あまりの硬さにツルハシが負けるのだと。
そして同行した採掘場で見た光景は「圧巻」の一言だった。
パーティメンバーの魔法使い曰く、あの魔女の魔法操作は精密機械レベルらしい。
魔力で火薬を細く練り上げて糸状にし、鉱石の周囲に正確に打ち込んでいった、というところまでは見ていてわかったが、正確なところは同じ魔法職でしかわからない部分なのだろう。
そして火薬によって脆くなった周囲をとんでもない身軽さでツルハシを担ぎながら掘っていった採掘師も、明らかに只者ではない。
どちらがメインなのかはわからないが、あの動きはサブ職業にシーフを持っているのかもしれない。
メイン職業をカンストさせないとサブ職業に就くことはできないと考えると彼は相当なやり込み勢なのだろう。
斯くして誰にも掘られなかった鉱石はその姿を現した。
寄り添うように並んでいたアダマンタイトとオリハルコンの鉱石に息を飲む。
魔女も採掘師もこれで装備を一新する腹づもりらしく、喜色満面で街へと凱旋したのだが、今度はこれを加工できる職人がいないと言われてしまった。
確かにそうだ。
NPCの採掘師が誰も採掘できなかった鉱石を、加工できるNPCの鍛冶職人がいるわけがない。
つまりこれは初めて鉱石を掘り出した、という栄誉だけが与えられる類いのクエストだったのかもしれない。
だが1人だけ、おやっさんの三男坊が加工できる職人に心当たりがあると言い出した。
家族全員女子供も鍛冶職人という一族で旅商人をやっている変わり者の少年だ。
三男坊がおやっさんになにか耳打ちをすると、明らかにおやっさんの顔色が変わる。
そして三男坊は馬に乗り、大急ぎでどこかに走り去っていった。
なんだろう。おやっさんも知ってる人間で、加工技術を持っていることを隠していたNPCでもいたのだろうか。
それから数日経って三男坊は1人で戻ってきた。
ああ駄目だったのかと思ったら、連れてきた、と言う。
あとから追いかけて来るのだろうか?
ところが魔法使いと魔女が戻ってきた三男坊に対して異常な反応を示した。
彼女たちにも正体がよくわからないが、なにか途轍もないモノがやってきたのだと言う。
恐ろしいものではないようなので問題はなさそうだが。
翌日、職人の姿は見えないままだったが、彼女たちが希望していたオリハルコンのワンドと、アダマンタイトのツルハシが納品された。
一体職人はいつの間に来たのだろう。
魔女は落ち着かない表情でそれを受け取った。
俺たちにも護衛報酬として各人にオリハルコンの指輪が渡された。
これから加工できる鍛冶職人を増やすから、今回はこの程度で勘弁して欲しいとのことだったが、希少性を考えたらとんでもない報酬だ。
オータムアリアへと帰る2人に別れを告げ、俺たちはまた大雪原の攻略へ戻る。
新しく装備に加わったオリハルコンの指輪のお陰なのか体が軽い。
全体的にステータス強化されたこの状態ならば、更にこの先へと歩みを進めることができるかもしれない。
まだ鉱石は存分にあるというし、加工できる職人が充分に育ったら、オリハルコンやアダマンタイトの武器や防具を買えるくらい金を貯めて装備を一新したいものだ。
やばいモノはマンドラゴラではなく、マンドラゴラの持ち物です。




