実習計画と散財計画
「これ本当にパースニップなの?」
「すっごく甘くておやつみたい」
表情の変化をみるのはなかなかいいものだね。
青臭さがなく、甘みが際立つ、うちのエクストラ品質だもの。そこらのパースニップとは違うわ。
いや、そこらのパースニップも充分美味しいと思うけど。
あの香味もなかなかアリだと思うのよ。
「もし他に食べたい作物があるなら、種を買ってあげるから自分で育ててみるといいよ。自分で育てると違うってよく聞くしね」
「なにを育ててもいいの?」
「買える種なら。えっとなにがいいかな、ラディッシュ、ジャガイモ、トマト、キャベツ、バターナッツ、イチゴ、パイナップル……」
「イチゴ! イチゴ食べたい!」
マルファの強めの主張に、ミリアも遠慮がちに頷いている。
育てたい作物があるのはいいことね。
ショップからイチゴの苗を10株買い、5株ずつ渡す。
「あなたたち用に畑を用意しているから半分ずつ使ってね。肥料の置き場所はあとで説明するし、育て方は黄色いリボンをつけたマンドラゴラに聞けば教えてくれるから」
「え、ドードーさんは教えてくれないの?」
「私よりマンドラゴラのほうが農業に詳しいもの」
どこでその知識を蓄えたのかは知らないけれど、確実に私よりは知っている。
「手が空いてる「昼の月」の子ちょっと来てー」
呼んでみたらやってきたのは1体だった。
いつもなら大量に来るのに。
怖がられないように空気を読んだのかしら。
「イチゴの育て方を知ってる? ホワイトボードでマルファとミリアに教えてあげてほしいの」
了解したようで、ぱっとホワイトボードに文字を書き込んでいく。
しかしそれを見ながら2人とも渋い顔をしている。
「もしかして、2人とも文字を読めない?」
「孤児院でまだ習ってないです」
じゃあ、畑に行くときは私が文字を読み上げるか。
でも文字読めないのはこれから先困るよね?
この世界の識字率を確認してなかったけれど、読めないよりは読めたほうがいいだろう。
2人とも可愛らしい子だし、悪い大人に変な契約を結ばされないとは限らない。
タイムスケジュールを組むとしたら……朝農作業したあと、昼まで文字の勉強、午後は自由時間ってとこか。
伝えてみるとやる気は薄そうだったが了解を得たので、これを基本にして後から差し引きしていきましょうね。
私がログインしていないときはイベントの進行も停まるようで、イベント期間に約とついたのはこういうことかと納得する。
そろそろ月が変わり、繁忙期に入るので、自分のペースでやれるのはありがたいな。
イベントの成功条件はなんらかの技能の習得とのことだったので、農業ではなく識字でも技能よね。職業の技能かと言われると微妙だけれども。
どちらにしろ文字の練習として実習期間の日記書いてもらおうか。
あと時間があったらクリエさんのとこで2人の服を買おう。
今着ている服はお世辞にもいい服とは言えないし、着替えも含めて何着か欲しい。
普段使い道がないお金を使ういい機会よね。
そういえば死なせたらまずいとかアナウンスあったっけ?
農業で死ぬことはないと思うけれど……効果付与されてる衣服のほうが安心だろうか?
白秋の鍵の管理は「黎明」に任せてあるから大丈夫と思うけれど、中庭(仮)にうっかり入らないように気を付けなければ。
思ったより考えなきゃいけないことが多くて大変だけど、他の人ってどんな感じなんだろう?
いつも見ている農民ギルドの掲示板ではなく、外部攻略サイトで該当する掲示板を探してみる。
どうやら子供たちは年齢も性別も性格もランダムで、全く言うことを聞かずに手を焼いているプレイヤーもいれば、ものすごい才能の持ち主を引き当て、初日でクリアしてしまったプレイヤーもいるようだ。
極端だなあ。
クリアした人によると、貢献度は数値を見ることもできないし、なにか称号に絡む数値なのでは? とのこと。
あと子供からちょっとしたプレゼントをもらったけれど、1日の付き合いで子供たちに思い入れもなにもないから最速クリアはお勧めしないと。
期日までは子供たちは滞在するみたいなので、それまでに思い入れができるといいね。
言うこと聞かない子を引き当てた人は、状況が改善しなかったらクエストは失敗になるけど子供たちを追い出せるか確認すると書いている。
うちは比較的普通の子たちが来たんだね。
このまま何事もなく平穏にクリアできるといいな。




