第63章 ナタラ村
アルトはエレナの後ろを歩いていた。
「お姉ちゃん!」
『はは、そんなに急がなくていいよ!』
ルトとレナがエレナの両手をそれぞれ繋いで歩いている。
今日会ったばかりなのだがもうルトとレナはエレナから離れないほど懐いていた、今も仲良く笑い合っている。
確かにエレナという少女は人を惹きつける容姿をしていた。
しかしそれだけではない、アルトは思う。
(なんていうのか、そう雰囲気だ、優しく包み込むようで心地がいい、温かい雰囲気が人を惹きつけるのもしれないな)
村人はそれをヒソヒソと話しながら見ていた。
しかしアルト達はそれを気にしないで歩く、いつもの事だと。
村長の家に着くと中に通された。
「わしはここの村長をしているワトルじゃ」
村長は家に入るとエレナを出迎えた。
『エレナと言います。ここが何処なのかよく分からなくて」
「だろうな、ここは地図にも載っていない小さな村じゃ」
『この近くに大きい街はありますか?』
「大きな山を越えた所にある、道は無いから自力で登って行くしかないんじゃ、しかも山には魔物が住んでおるから危険じゃぞ」
『でも行かなくてはならないんです』
「無理に止めはしないが……せめて1番近い行き方を教えよう」
『ありがとうございます』
村長について行くと柵で出来た入り口で止まった。
エレナが柵の先を覗き込むと向こうは道などなくただ木々が生い茂っていた。
「この先を真っ直ぐ行けば最短で山を越えることが出来よう、だが険しいのは変わらんからな」
『分かりました』
エレナ達は村長の家を離れて家に向かっている。
エレナは何か違和感を感じていた。
それはアルト達に声をかける者がいなかった事だった。
(小さな村なら尚更なんだけどな)
家に帰るとルトとレナはフェイと遊んでいたのでエレナは剣を振っていた。
「ほう、あんたも剣士なのか」
後ろからアルトが声を掛けるとエレナはアルトが手に剣を持っているのに気付いた。
『あれ? アルトも?』
「まあな」
アルトも剣を振り始める。
ブン! ブン‼︎
しばらくふたりで素振りをしているとアルトがエレナ声を掛けた。
「なかなかいい振りをするな、どうだ? 少し手合わせしないか?」
『いいよ』
そしてふたりは闘い始めた。
ガキン‼︎
ギギギ!
エレナはしばらく戦って分かったアルトは強かった、ユギル程ではなかったが剣でいえばエレナよりも。
「久しぶりにいい試合ができた」
『うん! いい勉強になったよ』
エレナは木の木陰に腰を下ろすとアルトに質問する。
『あのさアルトは仲のいい友達とかいないの?』
「村で見ただろ? 俺達はよそ者なのさ」
アルトはエレナにここに来るまでの事を話し始める。
「1年前に俺達家族はここに来たんだ。当時はまだ親父が生きていてな、半年前に漁をしている時に魔物にやられちまったんだ。だから何故ここに来たのかは分からないままだ」
『お母さんは?』
「母親はここに来る前に病気で死んだ」
『そっか』
フェイと夢中になって遊んでいるふたりを見て孤児院の皆んなを思い出し胸が苦しくなる。
「明日行くんだろ?」
『うん、待っている人達がいるんだ』
「そうか、気を付けろよあの山は最近魔物の動きが活発になっているという噂もある』
『ありがと、ルトとレナが寝ている間に行くよ』
アルトは思わず一緒に行くといいかけて慌てて口を閉じた。
本当は一緒に行きたかったがルトとレナを置いて行くことはどうしてもできなかった。
夕食もエレナが作り皆んなで楽しく食事をしていた。
「ねえお姉ちゃん今日一緒に寝よう」
ルトがエレナの腕を掴んで甘えていた。
『うん! いいよ』
「やったー!」
そうして夜にふたりとフェイで布団に入った。
「お姉ちゃんはずっとここにいてくれるの?」
ルトは眠そうな顔で聞いてくるとエレナは申し訳なさそうに言葉を選んで言った。
『う〜んと、お姉ちゃんさここに家族に何も言わずに来ちゃったんだ、だから一回戻らないといけないんだ』
「そっかぁ一緒にいたいなぁ」
ルトは悲しい顔をして言った。
「私も行きたいなぁ」
レナはエレナに聞こえない位の小さな声で呟いた。
『また会いに来るからさ』
「うん……」
朝早く起きると子供達はまだ寝ていた。
起こさないように部屋を出るとフェイがやってきた。
『フェイ行こう』
ゆっくりと家を出ると家の中からエレナが居なくなったのを見計らったかのように物音が聞こえてくる。
ガチャガチャ! ドタバタ!
(……家から物音が聞こえてるけど起こしちゃったかな?)
エレナはまだ誰もいない村の中を歩いて山の入り口に向かって行った。
キイィ
柵を開けて進もうと足を踏み入れた時、後ろからドタドタと走る音が聞こえた。
「待ってくれ!」
アルトは部屋で寝ていたがあまり寝付けなかった。
エレナを一人で行かせていいのか?
それを自問自答していて眠れずにいたのだ。
うーんと唸っているとドアが開いた。
そしてアルトの上にドン!っと誰かが勢いよく乗ってきた。
「おわぁ‼︎」
アルトはビックリして振り向くとそれはレナだった。
「お兄ちゃん! 一緒に行かないの⁉︎」
「お前達を置いていけるわけないだろ」
「お姉ちゃんを追いかけるのよ!」
「だから……」
そう体を起こすと目の前に大きな袋が置かれていた。
「誰が待っているって言ったの?」
「え?」
「私達も行くのよ!」
「さあ起きて‼︎ 支度して‼︎」
(もうこうなったら聞かないな、ったく)
アルトは自然と笑みが溢れた。
「お兄ちゃんが守ってくれるんでしょ?」
「ああ、任せろ‼︎」
(もうこの村に未練はない!)
大きな荷物を持つと三人で家を出てエレナの元に走って行ったのだった。




