番外編 父親が望んだもの
100年前の迷彩の洞窟近くにて。
ラーガの里が魔物に襲われて分けた内の族長グループは森から西に向かっていた。
途中でカダル王国の追手が来たがこちらは族長もおりマナの力が強い猛者が多くいた為追手を蹴散らしていた。
森を抜けて2日が過ぎた頃には洞窟の前には10人の男女が集まっていた。
「追手はもう大丈夫です」
「そうか」
「他の者達の無事を祈ろう……」
族長はついてきた者達を見た。
皆は族長を見返す、その目には覚悟が見えた。
「そうか、では洞窟に入るが……」
族長は最悪ひとりでも良かった。村の者達まで魔物になるのはいくら使命とはいえ耐え難かった。
「最後に聞いておくが別にいいんだぞ皆まで付き合わなくても」
「いえ、ラーガに生まれ使命を守るのが我々の役目」
「悔いなどありません!」
「そうか……」
族長は説得を諦めると扉に細工を施し皆で中に入って行った。
中の魔物を倒しながらひとりまたひとりと村人は自分で決めた階に残っていく。
族長は一人の女性と最下層に来ると大きな神殿を出現させた。
「俺はこの中で結晶石になる。ユリナお前はどうする?」
「私は他の皆んなと違う道を歩みたいです」
「どういう事だ?」
「皆んなは守護者としてこの洞窟を守っています。ですが私は現れるであろう結晶石を集める者を助けたいのです」
「ふ、好きにしろ」
族長がユリナに会ったのは10年前だ。
森で瀕死になっていたまだ12歳だったユリナを助けると行く場所がないと里に住み始めた。
そして族長の妻であるラーナの死後ユリナは家政婦として身の回りの世話をしてきたのだ。
「お前にはうちの家政婦としてサラとクレイの面倒を見てくれて感謝している」
「いえ、瀕死の私を拾ってくれた恩を返すためです」
「しかしお前はラーガの人間ではないのに何故ついて来たのだ」
「私はラーガの一員のつもりでしたよ?」
ユリナはラーガ一族の使命を知って自分もいつからか運命を共にしょうと思っていた。
「族長お願いがあります。私を魔物に変えちゃってください」
ユリナは族長に考えていたお願いをする。
「あ、できれば普段は可愛い見た目がいいな! ちっちゃい小動物のような……できますよね?」
「まったくお前は……」
呆れながも族長はいつもの調子でいるユリナに苦笑し術をかけ始めた。
「最後の手向だとっておきの術をかけてやろう」
「はい!」
ユリナは小さな動物のような見た目の魔物に変わり森に消えていった。
族長は少し微笑んでユリナを見送ると神殿の中に入って行く。
何も無い広間の真ん中で暫く座り込んで考えていた。
「しかしカダル王国はどうやって魔物を誘導できたんだ? おそらくマナ使いの仕業だと思うが」
「しかし今考えても遅いな……後は任せるしかないか」
族長は別れた娘達の顔を思い出していた。
「サラ、クレイお前達には何もしてやれなかったな」
族長は使命という枷を娘達にかけ自由を奪った。
そして若くしてこの世を去らなければならなくなったのだ。
父親としてかける言葉も見つからずただ時間だけが過ぎていった。
父親として娘の幸せを望むのは当たり前だったがどうすればいいのか分からなかった。
サラに関しては好きな男が出来たのに使命のせいで伝える事もできなかった。
族長は何とかしたいとサラをユギルという男と里を出るように説得したがサラは使命を選んだ。皆を置いてはいけないと。
(娘達は俺を恨んでいるだろうか? ふっ、恨まれても仕方がないな)
族長は覚悟を決めると立ち上がった。
「いつかマナの結晶石を集める者が現れるのを願おう」
(そしてまた娘に会えるなら……)
族長はひとり暗い闇の中で光に包まれていった。
「陛下ラーガ一族の討伐に成功しました」
「しかしラーガの者は魔物になり抵抗した為かなりの被害が出ています」
「そうか、これで邪魔者は消えたな」
「ですがあの一族はひっそりと暮らしているだけでここまでの被害を出してまで滅ぼさなくてもよかったのでは?」
「あやつが言ったのだ滅ぼさないと後々後悔するとな」
(アイツか……最近この王国に来た怪しい男だが妙な術を使い、いつも黒いローブに身を包んでいる)
黒いローブの男は魔物を術で催眠状態にする事が出来るとすぐ王に気に入れられて今は常に王の隣にいるようになった。
「陛下は少し信用しすぎでは? 身元も分からない男を……」
「大丈夫だ、瀕死のところを救ってやったのだ、あやつはワシに忠誠を誓っておる」
王はそう言って部屋を出るとある場所に移動した。
そこには黒いローブを纏った男がいた。
「調子はどうだ?」
「はい、まだ傷が癒えていないので休息が必要かと」
「お前にはこれから色々働いてもらわなければならん」
「は!」
「くくく、これからが楽しみだな」
男は王が部屋を出て行くのを見て薄ら笑いを浮かべた。
(傷が癒え力が戻るまで100年くらいか)
男は森でラーガ一族を監視していた所を出くわした男と戦った末に重傷を負い逃げて来たのだ。
(まさかあれほどの者がいるとは油断した……それまでここに身を隠すか)
「ふふ、王よお前には俺の人形になってもらおう」




