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第26章 野営地にて

 エレナの目の前に女性が放心状態で座り込んでいる。


 エレナはその顔を見て年は少し上か、長い銀髪に白い肌整った顔立ちをし知性溢れる印象をもった。


 周りには怪我をした兵士達が過酷な戦いが終わり、地面に突っ伏していた。


 エレナの元に正装をした男がやって来る。


「王女様を助けて頂き感謝致します」


 男は頭を下げてエレナに感謝した。


『いえ、王女様だったんですね助けられて良かったです』


「まさかここに魔物が襲ってくるとは……本来ここは魔物が近寄らない場所だったのです、噂の通りもう安全な場所などないのかもしれませんね」


『あの、僕はマナで治療できるんです。怪我をされた方を治療しますよ』


「本当ですか! ありがたい、是非お願いします」


「あ、あの!」


 王女は放心状態から我に帰ると移動しようとするエレナを止めた。


『怪我はありませんか?』


「はい、助けて頂きありがとうございました。わたくしファルナレスといいます」


『エレナです』


 名前を聞いた王女は驚いた顔を見せた。


「まさか! あなたがあの噂の聖女様ですか!」


『多分ですけど、自分ではそう名乗ってないので』


「あなたの事を探しておりました。ポーラトールにもいらっしゃらなかったので是非お話を……」


『すいませんとりあえず怪我人の治療をしてからでいいですか?』


「そうだわ! 私としたことが……すいませんお願いします」



 エレナは医療用テントにいて怪我人を手当てしていた。


「ありがとうございます、まさか聖女様に治して頂けるなんて……」


「凄い! 傷が全く無くなっている! 奇跡だ!」


 怪我が治った者はその光景に信じられないといった表情を浮かべる。


 テントの外では兵士が話をしていた。


「おい、聖女様の治療はどうだった?」


「ああ、気持ち良かった……聖女様のマナが俺の中に入ってきて全身を癒してくれたんだ、それに聖女様の白くて柔らかい手が触れて……」


「羨ましい……俺はかすり傷だがそれを聞いたら行きたくなってきたな」


 兵士達の中で聖女に治して貰えると聞いてかすり傷程度でも来ていた為、ほとんどの兵士が治療に訪れテントの前は行列ができていた。


 全ての怪我人を治すとエレナは王女のいるテントへ呼ばれた。


「聖女様改めてお礼を申し上げます」


『困っている人を見たら助けるなんて当たり前ですよ』


「聖女様……」


 エレナを見つめ顔を赤くしている王女。


『あの、お話とは何でしょうか?』


「あ、すいません私としたことが!」


 トリップしていた王女は我に帰るとエレナに同行を依頼する。


「私と一緒にリンドラ王国へ来て頂けないでしょうか?」


『ちょうど僕もリンドラ王国へ向かうところでした』


 王女は笑顔でエレナの手を取り子供の様に喜んだ。


「ありがとうございます! では明日の朝私の馬車にお乗り下さい」


『助かります、ではこれで失礼します』


「おやすみなさいませ……」


 エレナは案内された15畳位の広いテントで横になった。


 外ではユギルが見張りをしていた。


 テントで寝ていると外からユギルと兵士の会話が聞こえる。


「あんた強いな、流石聖女様の護衛だ」


「助かったよ」


「ふ、気にするな」




 朝になって起きるとエレナは料理を始めた。


 クォードの街で買い込んだ食材を出して沢山の量を作っていた。


 昨日の襲撃で食料庫のテントをやられたのを聞いて皆んなの朝ごはんを作ろうと少し早起きしていたのだった。


 エレナが作るシチューの匂いがテントを抜け出し兵士達の鼻へ吸い込まれていくとエレナのテントの前には兵士が段々と集まり騒がしくなっていた。


 それはエレナの耳に聞こえておりユギルがテントに入ってくると気になって聞いた。


『騒がしいけど何かあったの?』


「気づいていないのか? こんな美味そうな匂いを出していたらそうなるだろ」


『あ、そうか料理の匂いで兵士達が集まってきたのか』


 料理に夢中で気付いていなかったエレナはユギルに突っ込まれて理解した。


『じゃあユギルみんなに言っといてくれないかな、料理を用意しているから待っててくれって』


「まったく」


 ユギルは呆れてテントを出て行くと外で集まる兵士に説明した。


 話を聞いた兵士達は喜びを爆発させると感激して泣き出す者まで現れた。


 エレナは朝食に具沢山特製シチューに焼き立てのパンを用意した。


 料理ができてパンも焼けた頃を見て指輪に収めると外に出て行った。


 エレナは兵士に食器を用意してもらいどんどん器に盛っていった。


「美味い! こんなに美味しいものがあるなんて!」


「聖女様の手料理が食えるなんて感激だ!」


「パンも焼き立てで贅沢だ……」


「美味すぎて幾らでも食べられる!」


 その味に感激した兵士達は昨日の苦しい戦闘を忘れる程幸せなひとときを過ごしていた。



 王女は朝起きて身なりを整えていた。


「王女様朝食です」


 侍女がトレーを持って現れた。


「ありがとう、でも食料庫が焼けたと聞いていたけど」


「はい、聖女様が持っている食料を分けて頂きました」


「そうだったの、助けて貰った上にこんな事まで……」


 王女はトレーにある料理からいい匂いがしているのに気付き侍女に聞いた。


「それにしても美味しそうだわ」


「聖女様が作られたそうです」


「何ですって!」


 侍女がテントを出て行くと王女はシチューを一口食べた。


 昨日の夜に魔物の襲撃を受け極度の緊張と殺されそうになった恐怖から疲れていたがあまり眠れていなかった。


 その為シチューの温かく優しい旨味の効いた味が疲れを癒していく。


「……美味しい」


 知らないうちに目から一雫の涙が落ちていった。


 王女は朝食を済ませてエレナの元へ向かった。


「聖女様食料をありがとうございました、それに加えて料理まで……美味しく頂きました」


『お口に合ったようで良かったです』


「はいとても、では参りましょう」


 エレナは王女と同じ馬車に乗ってリンドラ王国に向かっていた。


 王女はさっきからエレナをじっと見つめエレナは気まずい雰囲気に少し居心地が悪かった。


(リンドラ王国までは日が暮れる前には着くって言ってたな)


 視線に気付かないフリをして馬車から見える風景を眺めていた。




 ファルナレスは同じ馬車に乗っている自分より少し若く見える少女を見ていた。


 いや見ずにはいられなかった。


 その容姿はリンドラ王国の美女と言われている自分ですら霞んでしまう。


 噂には聞いていた。


 誰もが見惚れる程の美女がマナで重傷者を治した。


 ポーラトールへ魔物が襲って来た時は中級クラスの魔物をひとりで殆どを倒したと。


 その話はリンドラ王国にも広がり王国はポーラトールの冒険者ギルドへ使いを出したが既に旅立ったと報告を受けていた。


 あの上級クラスの魔物を一撃で倒す程のマナ使い、きっとリンドラ王国のいえ、この世界の救世主になってくれる。


 ファルナレスは今この大陸が危機に陥っていると不安になっていたが目の前の少女に会い自然とその不安が薄れていったのであった。





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