ドラゴの学校 「クリスマス特別編」
白く無限の空間は、一瞬の静寂に包まれていた。だが、次の瞬間……ポンッ!
何もない場所から、座り心地の良さそうな二脚の安楽椅子と、焦げ茶色のローテーブルが唐突に現れた。まるで最初からそこにあったかのように。
その片方に座っているのは、短い金髪と青い瞳を持つ少女。甘く、少し緊張した面持ちで微笑んでいる。
その隣には、彼女にしか見えない半透明の姿をした、より大人びて威厳のある「もう一人の彼女」が、退屈そうに頬杖をつき、優雅なため息をついていた。
ミッカ:「やっほー、ミッカだよ!」
少女は溢れんばかりの元気さで手を振った。
アルマ:( エーテルな声が優しく響く)「そして、私がアルマよ」
実体のある少女と、実体のない淑女。二人は存在しないはずのカメラに向き直り、完璧にシンクロした笑顔で大きく両手を広げた。
二人:「「ドラゴの学校、クリスマス特別編へようこそ!!」」
イェェェェイ! 虚空から拍手と歓声が爆発し、数秒間だけ祝祭の騒音が空間を満たしたが、現れた時と同じくらい唐突に消え失せた。パチパチパチパチ!!
アルマ:「始める前に!これは特別編よ!」
ミッカ:「そう!つまり、本編とは関係ないってこと!」
アルマ:「この特別編は、作者が本編で語る必要がないと判断した設定や雑学について話すためのものよ!」
ミッカ:「だから、もし興味がない人は……」
アルマ:「次の章へ進んでいいわよ!」
ミッカ:「でもお姉ちゃん、今日の特別編はこれ単体で公開されてるのに、どうして『次の章へ進む』なの?」
アルマ:「そこが甘いのよ、ミッカちゃん。もし遠い未来、誰かがこれをまとめて読んでいるとしたら?そうしたら他の章もあって、飛ばすこともできるでしょ!ま、あなたはそんなことしないわよね?」
(カメラに向かってウィンク。)
ミッカ:「でもやっぱりお姉ちゃん……クリスマスは今日なのに、なんで読者さんは後になってこれを読むの?」
アルマ:「ミッカ、この病的な作者が書くこと全てに論理を求めちゃダメ……それじゃ私たちの人生、意味がなくなっちゃうから!」
(ミッカは数秒間、無言で彼女を見つめる。)
ミッカ:「た、確かに……その通りだね……」
アルマ:「と・に・か・く!!!!!!!!!!今日はクリスマスの特別編よ。」
(クリスマスの鐘の音がセットに鳴り響く。白い天井から紙吹雪が舞い落ち、何もない空間にクリスマスの靴下がぶら下がり始める。)
ミッカ:「でも、ただ『良いお年を』って言うだけの回だと思わないでね!」
アルマ:「この怠惰な作者が書いた作品世界における『クリスマス』についても、話すことが山ほどあるのよ!」
ミッカ:「あるの?」
テセウキ:「ああ、もちろんだとも。」
(どこからともなく現れたクローゼットの中から登場し、ただカッコつけるためだけにその扉に寄りかかる。)
テセウキ:「カイウナにこんな習慣はなかったが、空の民のおかげで、俺たちもこの年末の祝いとプレゼント交換をするようになったんだ!」
アルマ:「その通り!ここでもクリスマスは祝われているのよ……えっと……えっと……そもそも作者、この世界に名前つけたのかしら?」
ミッカ:「私の知る限りでは……ないかな。」
テセウキ:「俺も知らん。」
ダイアンヤ:「重要なのは、空の民が彼らの大陸で、クリスマスによく似た休日を祝う習慣を持っているということよ!」
(いつの間にか現れた別の安楽椅子に座り、サンタ帽を被り、知的に見せるための伊達メガネをかけて登場。)
ミッコ:「彼らは遥か昔、今ではゲンソリアとして知られている地域でそれを始めたんだ!」
(ダイアンヤの背後からひょっこりと現れる。)
(ダイアンヤは、出番を奪われたことに苛立ち、ミッコを睨みつける。)
ダイアンヤ:「最初は聖職者たちが村の子供たちに贈り物をすることから始まったの。でも時が経つにつれてそれが習慣になり、やがて大陸全体の祝祭になったわ!」
レグルス:「で、空の民がこっちに来た時にその祭りも持ち込んだってわけか——って、なんで俺がこんな格好なんだよぉぉぉ?!」
(レグルスはサンタクロースの衣装を着て現れた。付け髭に、腹には詰め物までしている。)
ミッコとミッカ:「「サンタさんが直接プレゼントを持ってきてくれたー!」」
レグルス:「俺はサンタじゃねぇ!!」
(怒りに任せてプレゼント袋を地面に叩きつける。)
レグルス:「なんで俺ばっかりいつもここで恥をかかされるんだよ?クソ作者め!!!」
アルマ:「気持ちは分かるわ、レグルス君……」
ダイアンヤ:「少なくとも、これでミッコもサンタクロースが実在することを知ったわね!」
ミッコ:「レグルスの兄貴だって分かってるけど……」
テセウキ:「実のところ、サンタはここにも現実世界にも存在しないんだ。聖ニコラウスという実在の人物がモデルだが、商業的なキャラクターとしては——」
(全員がテセウキを見る。沈黙が支配する。)
(ダイアンヤがゆっくりと彼に歩み寄る。)
(パァン!彼女は無表情のまま、彼の頬を平手打ちした。)
(テセウキは混乱して彼女を見る。)
(パァン!彼女はもう一度、やはり無表情で平手打ちする。)
(彼は顔を上げる間もなく。)
(パァン!さらにもう一発。)
アルマ:「と・に・か・く!!!!!!」
(暴力を隠すためにカメラの前に飛び出す。)
ミッカ:「クリスマスの話は置いといて、みんなに良いお年とハッピーな——」
レグルス:「なんで今回は他の連中がいないんだ?」
ミッコ:「みんな『古の王国』で忙しいんだよ!」
ミッカ:「そう!ここには連れて来られないの、レグルス君!」
レグルス:「なわけあるか!!お前とテセウキ、さっきまで別の場所でデカい犬と戦ってたじゃねぇか!俺たちはまだあの古木にいたはずだぞ!!!!」
(ダイアンヤが、血で汚れた手をハンカチで拭きながらフレームに戻ってくる。背景では、血だまりの中でテセウキがピクリとも動かずに倒れている。)
ダイアンヤ:「それを言うなら、今頃昏睡状態のはずのあなたが、どうしてミッカちゃんとテセウキの居場所を知ってるのか説明が必要ね。」
レグルス:「俺……もう何も言わねぇ。」
アルマ:「どうしてあなた達は、これをまともに進行できないの?一度くらいちゃんとやってよ?!」
(絶望して両手で顔を覆う。)
ミッカ:「と・に・か・く!」
ミッコ:「クリスマス特別編でした!!!!!!!」
レグルス:「くだらねぇ。」
(全員がカメラに向かって微笑む——泣くのを堪えているアルマと、血だまりの中から震える腕を上げて何か言おうとしているテセウキを除いて。)
全員:「「「「「メリークリスマース!!!!!」」」」」




