第29話「樹皮で囁く者」
暗闇の中でテセウキを最初に見つけたのは、痛みだった。後頭部に脈打つ、ズキズキという鈍い痛み。そして、骨の髄まで染み込んだかのような寒気。彼の意識は、ゆっくりと濁った波のように戻ってきた。それと共に、戦闘の幻のような残響が蘇る。耳を劈くような消滅の光線の轟音、大地の揺れ、そして悲鳴…
目が開かれたが、世界は病的な緑と深い黒が入り混じる、歪んだ滲みだった。空気はずっしりと重く、鼻をつく沼の匂い、腐った木、そして湿った灰の匂いが充満していた。目の前では、巨大な枝の残骸の上で、最後の青い炎がパチパチと音を立てていた。その亡霊のような光が、沼の黒く油のような水面に踊る。破壊は、すべてを喰らい尽くしていた。かつて空中の道であったはずの巨木たちは、今や折れた骸となり、忘れ去られた海竜の骨のように浮かんでいた。
やがて、視界のピントが合ってきた。数メートル先、骸骨の指のように水面から突き出た根の上に、小さな体が倒れている。黒髪が額に張り付き、その顔は青白く、意識がない。
ミッコ…
少年の呼吸は弱々しく、ほとんど聞こえない。体はぐっしょりと濡れ、その足はまだ不気味な水に浸かっている。テセウキは動こうとし、叫ぼうとしたが、筋肉が鋭い苦痛を訴え、彼の唇から漏れたのは呻き声だけだった。
その時、水面が**ざわ…**と揺れた。
穏やかで、ほとんど気づかないほどの波紋が、静止した水面に広がる。下からの動き。黒い鱗を持つ四足の生き物が、捕食者の静けさと共に、**ヌッ…**と暗闇から姿を現した。泳ぐために作られた長い尾が後ろで波打ち、蛇と水竜を混ぜたような頭が持ち上がる。瞼のない冷たい目が、無防備な獲物に固定された。針のように鋭い歯が並ぶ顎が、ゆっくりと開かれる。
その一撃は、間近に迫っていた。速度と、確実な死の残像。
ドンッ!
古木が裂けるような、乾いた鈍い音が響き渡った。水竜の頭が、テセウキがほとんど認識できないほどの衝撃で、暴力的に横へと弾かれる。怯え、傷ついたその生き物は、くぐもった鳴き声を上げると、再び沼の底へと潜り、闇の中へと消えていった。
(何が…起きたんだ?)
**ゴツン、ゴツン…**と、奇妙な足音が近づいてきた。木が木を打つような、重い音。
枝の残骸の上でまだ燃えていた青い炎が揺らめき始め、フッ…と消えかかった。沼の水が、まるで逆さまの雨のように、ありえない筋となって立ち上り、炎に触れてジュウウウッと音を立てる。**ギシギシ…**と木が軋む音は、さらに強くなった。枝だ。枝が、自らの意志を持つかのように動き、曲がり、生きた袋を織りなしながら沼に沈み、最後の熾火を水底へと引きずり込んでいった。
「イラシ・イラシャ・キタ・ナカタ・ウラエラ…」
風が葉の間を囁くような、低く、共鳴する詠唱が聞こえた。枝はその声に応えて動く。枯れ木から小さな芽が吹き出し、瞬く間に成長し、その葉は炎の残熱へと導かれていく。
一人の人影が薄闇から現れ、ミッコの前に立った。細い手足をしているが、その胴体は広く頑丈で、木の皮と暗い色の葉で織られたマントに包まれている。片手にはねじくれた杖を握り、それでミッコの頭を、好奇心に満ちた仕草でコツ、コツと突いている。その奇妙な頭は同じ素材で作られた頭巾で覆われ、顔は完全に見えない。少年を突きながら、その生き物は不思議そうに首を傾げた。(これは何だ?)と、考えているかのようだった。
「クウェーア・ウラシャ・シャシャ!」
その存在は叫んだが、音はまだ奇妙な囁き、乾いた葉が砕けるような空気の爆発だった。彼はその奇妙な頭を回し、マントの下の頑丈な体躯をさらに晒した。
広場の向こう側では、似たような出で立ちだが、その衣服に施された彫刻のディテールが異なるもう一体の生き物が、先ほどの詠唱を唱えていた。その細く、黒く、長い指が、隠された顔の前で踊る。仲間の叫び声のような囁きを聞いて、彼はピタッと動きを止めた。周りの枝も、その瞬間に凍りつく。とんでもない速さで頭を回すと、彼は走り出した。だが、すぐに根に足を取られ、苔むした地面に顔からズデッと見事に転んだ。
「キリアシャ・ホライダ!」
ミッコの近くにいた方が再び話し、意識のない少年を指差した。倒れたままのもう一体は手を上げ、「待て」とでも言うような仕草をした。
(一体、何が起こっているんだ?)その思考がテセウキの頭に浮かんだと同時に、彼は自分の体が優しく持ち上げられているのを感じた。視界は滲んでいたが、仲間たち――ダイアンヤ、レグルス、そしてミッカ自身――が、空中で織られた枝の網に運ばれているのが見えた。そして、彼らの中に、三体目の、より小さく俊敏な人影が舞っていた。片足からもう片方の足へと跳び、隠された顔の前で手を動かし、彼が知らない詠唱を唱えている。それは、木の軋む音と、葉の擦れる音でできたような旋律だった。
「一体…これは…?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
**ズキズキ…**と、瞬きはゆっくりと重かった。テセウキの意識が最初に捉えたのは、天井だった。洞窟の冷たい岩でも、開けた空でもない。渦巻く模様がまるで生きているかのように彫り込まれた、暗い色の木の皮でできた、奇妙で有機的な天井。彼は、驚くほど快適な、柔らかい何かに寝かされていた。湿った土と甘い樹液の匂いがする、幅広の枯れ葉の寝床だ。
まだズキズキと鈍く痛む頭を、右に向けた。そして、肺の中の空気がカチンと凍りついた。
穏やかな寝息を立てるミッカの隣に、あの奇妙な生き物の一体がいた。木と葉のマントがその頑丈な体を隠し、頭巾が顔を深い影に沈めている。その細い腕が、針のように薄い半透明な木の破片を、友の腕にそっと突き刺していた。
守る本能がテセウキの中で爆発し、痛みと混乱を凌駕した。
「彼女に触るな!」
アドレナリンに突き動かされ、彼はとんでもない速さでガバッと身を起こした。だが、待っていたのは**ドンッ!**という乾いた痛々しい音。低い天井に頭をぶつけたのだ。
「いってぇ…」彼は膝から崩れ落ち、うずくまりながら、みるみる膨らんでいくコブに手を当て、痛みに呻いた。
「ホカホイカだ!」その生き物の叫び声のような囁きは、脅威というより、驚いた突風のようだった。
テセウキは顔を上げた。生き物は目の前に立っている。うずくまったままでも、テセウキの方が背が高かった。数瞬、彼はただ、訳が分からないまま相手を見つめた。生き物の顔は隠されていたが、頭巾の下に、編み込まれた根のような仮面が見えた。
生き物は近づいてきた。木の皮のような質感の、細く長い指がテセウキの顎に触れ、無理やり口を開かせた。次に、目、腕、胸を調べた。テセウキが、気まずさと混乱の中でやめろと文句を言う間も、彼の体の隅々まで確かめていた。
木でできた生き物に体をまさぐられ、顔を赤らめたテセウキは、その手が右足で止まるのを感じた。生き物は、困惑して首を傾げる。握りこぶしで、彼の脛をコツ、コツと軽く叩き、金属的で空洞な音を聞いた。
「骨が…俺のじゃないんだ。足の代わりに、金属の義足を入れてる…」テセウキは呟いた。その声は不意に、ぼんやりと遠くなり、過去の記憶が蘇っていた。
「ホーキシャ・ドタ…」生き物は呟き、隠された顔を彼に向けた。
「お前…俺の言葉が分かるのか?」
「ホーキシャ・ドタ。」
「『ホーキシャ・ドタ』って、一体何なんだよ!?」テセウキは堪忍袋の緒が切れ、ほとんど叫びそうになった。
木の生き物は彼を無視し、彼にとっては作業台だが、テセウキには小さな木のベンチにしか見えない場所へと歩いていった。「おい、何してるんだ?」
「モラカ・タ」彼は唸り、テセウキにはただの枝や光る苔、色とりどりのキノコの山にしか見えないものをいじくり回した。
生き物の注意が逸れた隙に、テセウキはミッカの元へ向かった。背筋を完全に伸ばせば天井に頭をぶつけるので、少し屈みながら歩く。彼は彼女の前に立ち、そして目を見開いた。次に込み上げてきた涙は、悲しみではなく、圧倒的な安堵からだった。
ミッカの呼吸は穏やかで、規則正しい。熱で赤らんでいた顔は元に戻り、汗もかいていないし、呻き声も、痛みに苦しむ様子もない。ただ、安らかに眠っている。
「よかった…」安堵が、温かいマントのようにテセウキの肩に降りかかった。何日もあの地獄を彷徨い、仲間たちが何度も死にかけるのを見て、ようやく、安全だと感じることができた。
しかし、木が叩かれる音が彼の注意を引いた。振り返ると、あの生き物が、例の細く半透明な枝を持ってこちらへ歩いてくるところだった。
「コラ・タ!」生き物は言った。テセウキはただ、困惑して彼を見つめた。(何をしたいんだ?)
「コラ・タ!」生き物は繰り返した。
「コラ??」
全く我慢ならない様子で、生き物はテセウキの腕を掴み、木の針をその肌に突き刺した。
「いっ!痛い!先に言えよ!」
「アンシャ・デ・オナタ!」その苛立ちに満ちた叫び声のような囁きは、人間が当たり前のことを理解しないことへの純粋な不満だった。そして、誰が彼を責められるだろう?
「ごめん…」テセウキは呟いた。彼は、生き物が突き刺した腕を見た。奇妙な感覚が広がり始める。疲労が、まるで初めから存在しなかったかのように筋肉から消えていった。痛みも、頭をぶつけた衝撃さえも消えた。彼は…生き返ったような、リフレッシュした気分だった。
困惑しながら手のひらを見つめ、彼は正面から差し込む淡い青色の光に気づいた。指の間から、木の皮の壁に開いた隙間を通して、空が見えた。窓だ。
テセウキはそこへ歩み寄り、外を見た瞬間、肺から空気が**スゥッ…**と抜けていった。
彼が見たのは、ただただ高さ。胃がひっくり返るような、目がくらむほどの落下。世界が、終わりのない絨毯のように眼下に広がっていた。自分がどこにいるのか、彼が理解するのに時間はかからなかった。
古の大樹の、てっぺんだ。
古の世界に着いた時に見た葉の天蓋、手の届かないと思われた広大な緑が、今、目の前に広がっている。梢の海が、彼の前に広がっていた。左手には、第十環を囲む山脈。そして遥か右手には、遠い黄色く砂だらけの山々が見えた。
「レグルスが、あの日見たのはこれか…」テセウキは独り言のように呟き、その壮大な光景に息を呑んだ。
彼は目を凝らし、景色を認識しようとした。てっぺんにいても、木はまだ空へ、そして横へと伸び続けているのが分かった。彼らはまだ、どういうわけか、この一本の木の天蓋の中にいた。
だが、緑の海に浮かぶ一つの隆起が、彼の注意を引いた。遠く、地平線に、小さな葉の山がそびえている。もう一本の古の大樹。ダイアンヤが、探している木は一本だけではないと言っていた。そして、何よりも彼を驚かせたのは、そのもう一本の木が、砂だらけの山々に近いことだった。
第九環の近くに。
「ミッカ…」
その声は、奇妙な木の揺りかごの静寂の中に、孤独で、そして霊妙に響き渡った。
ミッカが眠る木の葉の寝台の傍らに、一つの人影がフワリと浮かんでいた。僅かな光さえも吸い込むかのような銀色の鎧、いかなるそよ風にもなびかない白いマント、そして憂いを帯びた美しい顔を縁取る、短い金色の髪。
アルマの青い瞳が、安堵と無限の悲しみが入り混じった表情で閉じられた。金属の手甲に覆われた彼女の手がミッカの顔へと動いたが、その幻影の指は少女の頬に触れることなく**スッ…**と通り抜けていく。自らの状態を突きつける、残酷な現実だった。
彼女は、眠る妹の顔を見つめた。「せめて、髪を切るように言っておけばよかったものを…」アルマは呟き、その亡霊の唇に、弱々しく、壊れかけた笑みが浮かんだ。ミッカの髪は、まだ短いが、すでにうなじに触れている。アルマが彼女に命を与えた時の、ほとんど軍隊のような髪型とは違っていた。
「うぇぇ…」奇妙なうめき声が、彼女の右側から聞こえた。アルマが振り返ると、そこにテセウキが座っていた。目を見開き、顎をガクンと落とし、虚空を見つめていた。
アルマは即座に彼を無視し、再び妹に集中した。だが、何かが彼女の心をざわつかせた。念のため、彼女はもう一度、テセウキの方へと顔を向けた。
彼はまだ、信じられないという表情のまま、目をカッと見開き、口をあんぐりと開けている。アルマは彼の視線を追ってみた。自分の向こう側へ。顔を左に向ける。そこには、この場所の、彫刻が施された木の壁があるだけだった。そして、とんでもない速さで、彼女はテセウキの方を向き、人差し指で自分自身を指差した。「私か?」
テセウキは、まだショック状態のまま、コクンとゆっくりと頷いた。
「どうして私が見えるのだ、テセウキくん!?」アルマは問い詰め、その霊妙な落ち着きは、ついに驚きによって砕け散った。
「全く…見当もつかない…」テセウキはようやく答えられたが、その顔には絶対的な驚愕が凍りついたままだった。
「コラ・カタ・デ・オマイヨ・ナン」木の生き物が、アルマの隣に並ぶように歩み寄りながら言った。
「つまり、この木の中では、私の魂の断片が見えるようになると?」アルマは、生き物というより自分自身に問いかけるように尋ねた。
「コラ・ダ」
「アルマさんこのワケの分からん奴が何言ってるか分かるのか!?」テセウキは叫び、周りの現実がガラガラと崩れ落ちていくようだった。
「ゼブラ・シテラ!」生き物の叫び声のような囁きが、侮辱されたかのような抗議となって響いた。
「然り!あなたは分からないのか?」アルマは、少し呆然としながら答えた。「ちなみに、彼女は『ワケの分からん奴はそなたの方じゃよ』と申しておる」
「彼女!?」テセウキは甲高い声を上げた。その衝撃は、頭の痛みを上回っていた。「このワケの分からん奴、女なのか!?」
バキッ!
生き物の細い足が稲妻のような速さで動き、テセウキの股間に樫の木の枝のような力でクリーンヒットした。彼は膝から崩れ落ち、前のめりに体を折り曲げた。
「モラ・ホタカタ!」
「『黙れ、小僧じゃ』…と」アルマは、感情を一切見せずに通訳した。
「分かった…」テセウキは、痛みで裏返った声で答えた。
その時、アルマ自身が何かに気づいたようだった。彼女は生き物を見て、次にテセウキを見た。その亡霊の顔には、今や困惑が浮かんでいた。「だが…どうして、私にはそなたの言葉が分かる?そなたの言語を聞いているはずなのに、その意味を理解できる…」
生き物は話し始めた。その音は言葉ではなく、葉の上を風が吹き抜けるような、旋律的な口笛だった。アルマはその囁きを聞き、そして、これが彼女の理解する言葉だった。「『母なる樹の中では、神々の力が全ての肉体に宿るのじゃ。魔法、動物、我らが同胞、我々すべて、そして魂さえも。我らは皆、その発露の影響を受ける。我らの意思疎通、そしてそなたの姿は、母の肉体の中でのみ許されるのじゃよ』」
「私は自分の魂が具現化しただけの存在ゆえ」アルマは、若い職人に向かって説明した。「彼らが魂を通して交信するから、私には彼らの言葉が分かる。そなたの魂はまだ体の中で眠っているから、理解できぬのだ…」
「魂な…ミッカとレグルスなら、理解できるだろうか?」テセウキは、まだ眠っている友を見つめた。「ドラゴの子は、魂と直接関係がある」
「断言はできぬ…あるいは、唯一理解できる可能性があるとすれば、ダイアンヤちゃんか。アルカナの魔道士として、彼女は魂の基礎知識を有している」
しかし、その説明は遮られた。木の囁きが再び始まったが、今度は切迫していた。
「『壊れかけていた者がおる。彼の体は持ちこたえられぬ、我らの癒やしでは不十分じゃ。お前たち全員を救った見返りに、我らが民にその手を貸してもらう。取引じゃ、そう、取引じゃよ』」
「取引?」テセウキはアルマの通訳を聞いて尋ねたが、生き物は話し続け、その声は今や重みを増していた。
「『だが、彼を救うためには』」生き物はその細い指で身振りを始めた。「『その負債は、また別じゃ…』」
「テセウキくん…」アルマが口を開いた。その霊妙な声には、世界の重みが乗っていた。「残念ながら、ミッカがいつ目覚めるか分からぬし、他の者たちもひどく傷ついているようだ。幸い、そなただけが大きな怪我もなく済んだ」
「おい、何が起きているのだ、アルマさん?」テセウキは尋ね、恐怖が再び胸の内に巣食い始めた。
アルマは、その亡霊の顔を彼に向けた。その表情は真剣で、集中しており、戦場のさなかにいる天騎士の顔だった。
「我々が救われた見返りに、彼らが欲している素材の入手を手伝う必要がある」彼女は一息置き、部屋の空気がより濃く、より冷たくなったように感じられた。
「そして、レグルスくんの命を救うため…彼らは資源を大量に消費する、希少な薬を準備する必要がある。ゆえにその見返りとして…」彼女は続けた。その声は鋼のように鋭かった。「我々は、彼らの村を脅かしている生き物を狩り、仕留めねばならない」
テセウキは、足元の地面が消え去ったかのように感じた。希望と絶望が、嵐のような力で彼の中で衝突した。レグルスを救う。その代償は、未知の世界で、最強の仲間たちもなしに、おそらくは前の怪物よりもさらに恐ろしいであろう別の怪物と対峙すること。
アルマは彼を見つめた。その青い瞳はもはや亡霊のものではなく、指導者の炎で輝いていた。
「覚悟を決めよ、テセウキくん」彼女は、一切の疑念を許さない声で、そう宣言した。




