第28話「深淵の捕食者」
パチパチと爆ぜる焚き火の音だけが、彼らの張り詰めた神経を叩くパーカッションだった。夜の静寂が、すべてを飲み込まんとしている。
レグルスの意志が生み出した火山岩の砦――その繭の中に閉じこもり、若者たちは束の間の休息を求めていた。濃密な空気の中、薬缶の中ではグツグツとトカゲの尻尾が煮え立ち、その薬草のような独特の香りが緑茶の香ばしさと混じり合っている。森から這い上がってくる腐敗の悪臭を、必死に打ち消そうとするかのように。
外では、レグルスが石像のようにジッと、闇を見据えていた。彼が警戒するその視線の先で、『樹海』は絶えずその姿を変えていた。時間が経つにつれ、闇はより濃く、より飢えているように感じられる。第十環での三日目が終わるということは、ミッカを蝕む毒を消すという樹液を求める、絶望的な旅の二日目が終わるということでもあった。
古の大樹の約束だけが、彼らの道しるべだった。だが、その道は死に満ちている。目的地に近づくほど、瘴気は濃くなり、まるで実体を持ったかのようにまとわりつく。かつては眠れる巨人であった木々は、今や腐り果てた骸骨となり、その幹からはドロリとした黒い樹液が滲み出ていた。森の獣たちは、恐怖に駆られて反対方向へと逃げていく。彼らが森の病んだ心臓部へと向かっていることを示す、生きた前兆だった。
かつて青白い光で夜を彩っていた菌類は、今やその輝きを失い、ポツポツと弱々しく点滅するだけだ。それらがなければ、樹海は漆黒の奈落だった。マナの密度が精神を蝕み、感情を歪ませる『呪い』の存在を知っていても、原始的な恐怖は常に側にあった。その存在自体が理解を超えた者を怒らせてしまうかもしれないという、恐怖が。
森の腐敗は、風景そのものを変えていた。かつて道となっていた枝や根は朽ち果て、下の沼地を覗かせる亀裂を広げている。今やそれは裂け目というより、光さえも飲み込むような暗い水をたたえた洞窟の入り口のようだった。彼らの野営地は、そのゾクッとするような高みにあり、眼下の黒い水との距離が、自分たちの命の儚さを絶えず思い出させていた。
闇、未知の生物、これまでの試練、呪いとの内なる戦い、エレメンタルを怒らせることへの恐怖。そして、そのすべての上に君臨する、最悪の恐怖…喪失への恐怖が。
「…容態が、良くならない…」ダイアンヤの声は途切れ途切れで、その一言一言に疲労が刻まれていた。隠しきれない震えが、彼女の恐怖を物語っていた。
横たわるミッカは、苦悶の絵画そのものだった。ハァ、ハァ…と浅く短い呼吸を繰り返し、その肌はジュッと音がしそうなほどの高熱を放っていた。
「姉ちゃん、これを飲んで…」ミッコがスッと彼女のそばに現れ、木のマグカップから湯気が立ち上る。それは、指の間からこぼれ落ちていく何かを、必死に繋ぎ止めようとする絶望的な行為だった。
「ダイアンヤ、何か、ミっカに使える魔法はないのか?」テセウキの声は、力なく引きずるようだった。火山岩の壁にもたれかかり、その顔にはまだ、ダイアンヤの魔法によって引き起こされた魔力枯渇の青白さが残っている。少なくとも、もう荷物のように運ばれる必要はなくなったが。
「こんな病気に効く治癒魔法なんて…あたしは知らない…」ダイアンヤの返事は、敗北の響きを持っていた。彼女は、精神的に疲れ果てていた。
その時、砦の壁が**ゴゴゴ…**と赤く輝いた。垂直の長方形にマグマが溶け、燃え盛る傷口のように開く。夜の冷たい空気を纏い、レグルスが入ってきた。「お前が使った、あの再生魔法はどうだ?助けになるんじゃないのか?」
ダイアンヤは、白い髪を顔に落としながら首を横に振った。「あの魔法を使ったのは、副作用で代謝が上がるからよ。でも、効果が切れた時の疲労は凄まじいの…助けになるか、それとも彼女をもっと追い詰めることになるか…分からない…」
後に続いた沈黙を、パチッという焚き火のはぜる音だけが破った。レグルスの視線が、部屋の中をザッと見渡す。熱に浮かされるミッカ。そして、肩を落とし、俯き、罪悪感の海に溺れる三人の仲間たち。
(俺がもっと強ければ…俺がもっと強ければ、こんなことには…!これは全部――)
彼は、その思考を断ち切った。**スゥー…**と深く息を吸い込む。冷たい空気が、彼の心をクリアにした。二つのことが、明確になった。彼は素早くダイアンヤに近づくと、グイッと彼女の頭を無理やり下げさせ、攻撃というより衝撃を与えるような強さで揺さぶった。
「や、やめなさいよ!」彼女は、彼の手から逃れようと抗議した。
ミッコとテセウキは、ハッとして顔を上げた。
「呪いのことを俺に話したのは、あんたじゃなかったか?」レグルスの声は鋭く、その唇には傲慢な笑みが浮かんでいた。
「それが何よ?…あ…」彼女の目に、理解の光が宿った。
「感傷に浸るな」彼の声は、全員の注意を引くように大きくなった。「こんなことで呪いにやられるくらいなら、いつだって胸を張ってなきゃダメだろ!」彼は振り返り、再び壁を開けるために手を触れた。
「あんたが、誰よりもそれを分かってるはずだ、ダイアンヤ」彼は肩越しに振り返り、その傲慢な笑みは、本物の自信に満ちたものへと変わっていた。「それに、アルマさん自身が言ってた。ミッカの体は弱くないってな。薬を手に入れさえすれば、あいつは大丈夫だ」
レグルスは、仲間たちの顔に活気が戻り、その目に決意の炎が再び灯るのを見た。弱々しいが、本物の小さな笑みが浮かんでいた。
しかし、彼が去ろうとする前に、その視線は釘付けになった。一対の青い瞳が、寝台から彼を見つめていた。それは、ここ数日見てきた、真剣で、冷たく、決意に満ちたものではない。彼の心を最初から捉えて離さなかった、あの無垢な眼差し。弱々しいが、優しい笑みがミッカの唇に浮かぶ。熱で潤んだその瞳には、揺るぎない信頼、彼一人に託された信仰の重みが宿っていた。
レグルスはゴクリと息をのんだ。首筋が熱くなり、頬がカァァッと赤く染まるのを感じた。一瞬、傲慢なリーダーは消え、うろたえた一人の少年がそこにいた。彼はすぐに体勢を立て直し、自信に満ちた笑みを彼女に向けると、外へ出た。マグマの壁が彼の後ろで閉じていく。彼は、闇と、あの眼差しの残響と共に、一人残された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
前の晩の闇は、灰色で病的な一日にその座を譲っていた。以前とは違い、今は太陽の光が『樹海』を貫いていたが、それは勝利の輝きではなかった。瀕死の星の最後の吐息のような、青白く弱々しい光の筋が、天蓋の傷口からジワジワと染み込んでくる。
光が許すと同時に、一行は再び歩みを進めた。ミッコは暗い決意を顔に浮かべ、姉を背負っていた。ミッカの熱っぽい体は絶え間ない重みとなり、一歩ごとに彼らの使命の緊急性を思い出させる。テセウキはまだ青白く、その硬い動きが弱々しさを物語っていたが、もう支えは必要なかった。先頭では、ダイアンヤがキッと張り詰めた計算された動きで道を探っている。そして、群れを守る狼のように、レグルスが最後尾でギラリと目を光らせ、あらゆる影を睨みつけていた。
空気は腐敗の瘴気で満ちていた。湿って腐った木の匂いは、喉の奥にベッタリと張り付くほど濃い。ダイアンヤは外科医のような正確さで一歩一歩を選び、巨大な枝の間をピョンピョンと飛び移る。それでも、地面は危険だった。一瞬の油断で、彼女の足がズブリと湿って不快な音を立てて沈んだ。頑丈そうに見えた枝が崩れ、ドロリとした黒い中身が姿を現した。
少年たちの間にピリピリとしたパニックが走る。彼らが駆け寄る前に、彼女はすでに立ち上がり、今や黒く繊維質な粘液に覆われた足を振りながら、ゲッと顔をしかめていた。新たな事故を避けるため、レグルスは最も怪しい場所に固い岩の小さな橋を架け始めた。**ゴゴゴ…と玄武岩の板が具現化し、一行が通り過ぎるとスウゥ…**と消えていった。
太陽の光が沼の底まで届くようになっても、薄暗さは残っていた。それは夜の絶対的な闇ではなく、息が詰まるような光の不在、永遠の黄昏だった。テセウキは顔を上げ、その目が遥か上空の光の裂け目、絡み合う葉と枝の間の小さな窓を捉えた。
「ダイアンヤ」彼は、囁きより少しだけ大きな声で言った。
「何よ?」彼女は、足元の枝の固さを確かめながら答えた。
「パターンがある…」
「どういうことだ?」レグルスの低い声が、静寂の中で響いた。
「上の葉っぱを見ると…こいつらの木に属してるように見える」彼は振り返り、近くの枯れた木の幹を、それが上の闇に消えるまで目で追った。「でも、よく見ろよ…上の葉は、この木のじゃない。だって、こいつはもう死んでるんだろ?」
「ええ、でも…それが何だって言うの?」ダイアンヤは尋ねた。彼女の足が腐った木にグニャリと軽く沈み、悪態をつきながらそれを引き抜いた。
「何だって…俺たちが進んでる方向に行くほど、葉が密集していくってことだ」
「木が死んでる場所に向かってるなら、天蓋はもっと開けていくべきじゃないのか?」ミッコの問いの論理は反論の余地がなく、不吉な暗示を帯びて空気中に漂った。
ダイアンヤはピタッと立ち止まった。彼女の頭の中で、歯車がガチリと音を立てて噛み合った。下の木々は死んでいるのに、上の空はますます塞がれていく。葉は、こいつらのものじゃない。じゃあ…誰のもの?
「レグルス…」彼女の声は低く、切迫していた。「上へ昇って。古の大樹までの距離を見てきて」
「はいはい、お嬢様…」彼は、いつもの軽蔑を込めて答えた。
「いいから早くやりなさいよ、このイラつくガキ!」
**はぁ…**と諦めたようにため息をつき、レグルスは仲間たちから離れた。マグマが彼の足元から流れ出し、**ゴゴゴゴ…**と火山岩の塔を創り出し、彼を上へと持ち上げていった。
以前は数分で済んだはずの登攀が、試練となっていた。枝と葉の密度は異常だった。彼は、まるで森自身が彼を阻もうとするかのように、意図的に絡み合っているとしか思えない木と葉の網を、ガサガサと掻き分けて進まざるを得なかった。
(なんでこんなに枝が多いんだよ?)一メートル進むのもやっとだった。勝ち取るたびに、彼のイライラは募っていった。闇は深まり、腐敗の匂いは、新鮮な樹液と生きた土の香りに取って代わられた。
ついに、永遠とも思える時間が過ぎた後、彼は頭上により強い光を見た。最後の力を振り絞り、葉の塊をグイッと押し開け、天蓋の外へと体を上げた。
そして、世界が消えた。
彼の肺から、ヒュッと息が奪われた。彼は木の梢の上にいなかった。山の麓にいた。岩ではなく、無数の枝と葉でできた、生きた巨大な山。あらゆる方向に伸びる、時の中で凍りついた植物の雪崩。
彼らが下から見ていた天蓋、ほとんどの視界を覆っていたそれは、木の集まりではなかった。彼女だった。古の大樹。その枝は彼らが見ていた幹であり、その小枝は宙吊りの森であり、そしてその葉は、彼らを閉じ込める緑の空だった。
レグルスはよろめきながら立ち、これまで見たどんな道よりも広い枝を見つめた。恐怖と感嘆が、彼を麻痺させた。彼は遠くに、木々の中の巨人として彼女を見たのを覚えていた。だが、現実は理解を超えていた。
あれは、他の木々と比べて木ではなかった。他の木々が、彼女と比べて雑草だった。それは地質学的な力、その存在が世界のスケールそのものを再定義する、巨大な存在だった。その広大さを前に、彼は虫けら以下だった。彼が感じた恐怖は、怪物や敵に対するものではなく、真に神聖なものへの、原始的な恐怖だった。
レグルスがドンッ!という鈍い音と共に降り立ち、固まった岩の塵が彼の周りでフワリと舞い上がった。古の大樹の光景、彼の心の中の地平線にそびえる生きた山が、まだ彼を苛んでいたが、彼はそれを一瞬だけ胸にしまい、要点だけを伝えた。後に続いた議論は、腐った森の空気の中の、希望の膏薬だった。
「じゃあ、そんなに遠くないのね…」ダイアンヤは呟き、安堵が彼女の肩の緊張を緩めた。
「でも、なんでここから見えないんだ?」ミッコは、目の前の闇、彼の好奇心を嘲笑うかのような枝と霧の壁に、じーっと目を凝らして尋ねた。
「てっぺんは見た」レグルスは説明した。「それに、もう俺たちがその枝の下にいるとしても、距離感は狂ってる。たぶん、幹に着くまで丸一日かかるだろうな」
「もう下にいるなら、わざわざ行く必要はないわ」テセウキが割って入った。彼の声は弱々しいながらも、会話を断ち切る鋭い論理を帯びていた。全員が、困惑して彼の方を向いた。彼は**はぁ…**と、苛立ったように息をついた。「本気か?必要なのは樹液だけだろ。もしレグルスがてっぺんまで行けるなら、彼が行って取ってくればいい。全員であの木まで行く必要なんてない」
希望は、危険な薬だ。テセウキの論理は膏薬であり、栄光に満ちた一瞬、彼らは解決策が単純であると信じることを自らに許した。
その言葉の真実が、ピシャリ!とダイアンヤを雷のように打った。それはあまりにも残酷なほど単純で、あまりにも直接的な論理だったので、先に思いつかなかったことへの羞恥が、彼女の顔をカァァッと熱くした。絶望が彼女の視野を狭めていたが、職人の心を持つテセウキは、直線を見つけ出したのだ。(なんで思いつかなかったのよ、あたしが!)
「その通りよ!」彼女の声は、安堵ではなく、溺れる肺に吹き込む新鮮な空気のような、陶酔的な喜びで爆発した。彼女の肩の緊張は消え去り、熱に浮かされたようなエネルギーに取って代わられた。「レグルス、もう一度上へ行って!早く、樹液が流れてる枝を、何でもいいから取ってきて――」
森に属さない音が、響いた。
古い木がギシギシと軋む音でも、枝がバキッと折れる音でもない。それは、ザシュッという、肉を断ち切るような、鋭く、卑猥で、湿った音だった。まるで巨人の鋏が、世界の肉を切り裂いたかのようだ。彼らの足元にあった巨大な枝は、折れたのではない。切断されたのだ。
落下は、絶対的な真空だった。地面が、消えた。重力が見えない鉤爪となって彼らを現実から引き剥がし、病的な緑と黒が入り混じる垂直の滲みへと叩きつけた。ミッコの叫び声はキィンと甲高く、耳元でヒュウウウと唸る風の音に、一瞬でかき消された。ダイアンヤは、黒く油のような沼地が、水ではなく、開かれた液体の墓のように、自分たちを迎えに昇ってくるのを見た。恐怖が、背筋に氷の針のように突き刺さる。(死ぬ。ここで。こんな馬鹿げた死に方で。)
しかし、絶望よりも本能の方が速かった。彼女の腕に、白いルーンが超新星のようにパアアッと爆ぜ、マナが川ではなく、洪水となって溢れ出した。グンッと、精神の力で空気そのものを捻じ曲げ、見えない風のクッションを創り出し、激突するような衝撃で落下を和らげた。同時に、下からレグルスの応答があった。**ゴゴゴゴ…**と、溶岩の手が沼から突き出し、それぞれが人の大きさほどもある指で、彼らを灼熱の揺りかごに包み込んだ。
「とっとと冷やしなさいよ、このバカ!」ダイアンヤの叫び声は甲高く、地獄のような熱が彼女のサンダルの革をジュウジュウと焦がしていた。
「熱っ!熱い!熱いって!」テセウキがギャアギャアと叫び、彼のズボンの生地がジリジリと焼け、刺激臭のある煙を上げ始めた。
レグルスの額からはダラダラと汗が流れ、彼らを灰にすることなく岩を固めようとする、超人的な集中力で筋肉がギリギリと引き締まっていた。「俺だって温度制御はまだ練習中なんだよ!落ち着け!」彼は怒鳴り返したが、その怒声は、彼の目が見たものによって喉の奥で押し殺された。
そして、彼が見たものは、彼の竜の魂を凍りつかせた。
闇の中から、死体のように青白く、深緑の苔の屍衣に覆われた病的な幹が、ニョキリと現れ、空中で弧を描いた。それは幹ではなかった。自然がけして思いつかないような形で関節が動く、腕だった。その先には手ではなく、骨かキチン質でできた巨大な杭があり、悪夢のような静かな速さで彼らに振り下ろされた。
衝撃は、殲滅だった。彼らを支えるはずだった枝、安全な着地という希望は、ドゴォォン!という轟音と共に粉々に砕け散り、木っ端と蒸気と悪臭の雲と化した。黒い水飛沫が天へと爆発し、その衝撃波が彼らを布人形のようにビュン!と吹き飛ばした。レグルスは純粋な戦闘反射で動き、マグマの手を使って仲間たちをより高く、遠い枝へと弾丸のように投げ飛ばすと、空中に創り出した岩の足場にグッと身を固めた。
「い、今のは、何なんだ…?」ミッコの声は、恐怖に震える糸のようだった。
「俺がこいつを食い止める!お前らはここから離れろ!」レグルスは命じた。心臓が、戦太鼓のように肋骨をドクドクと叩いている。恐怖は本物で、灰のような味が口の中に広がっていた。だが、退くという選択肢はなかった。
「危険すぎるわ!」ダイアンヤは抗議したが、その言葉は、腐った木をキチン質がガリガリと擦る、吐き気を催す音にかき消された。
ミッコの問いへの答えが、水の中からその身を上げた。二本目の杭の腕が木にグサリと突き刺さり、周りの木々が呻き声を上げるほどの力で、その生物は姿を現した。それは、原始の沼地の深淵から現れた、悪夢のバイオメカニクスだった。巨大な昆虫のような、暗く分節した甲殻。水中で爆発的な推進力を得るために設計された、グロテスクな大きさのカエルのような後ろ足。そして、あの腕…あの腕は、死そのものが設計した攻城兵器だった。
時間がない。彼は空へと跳び、マグマが足元で爆発し、空に黒い岩の階段を創り出した。
ダイアンヤは、その生物が恐ろしいほどの俊敏さで木の壁をガシガシと登るのを見ていた。本能が、逃げろ、と叫んでいた。だが、彼女はレグルスを見た。あの巨大な怪物に対する、孤独なシルエットを。(逃げない。あたしは逃げない!)
震える手で、彼女は胸の前で拳を握りしめ、唇から戦いの詠唱が流れ出す。その体は淡い緑色の光に包まれ、古代のルーンが螺旋を描いて彼女の周りで踊った。「《アネモイ・スパティオン》!」
彼女は腕で空を切った。ルーンから純粋な風の刃が具現化し、**シュン!シュン!**と撃ち出された。見えない刃は生物ではなく、それがしがみつく腐った枝を狙っていた。
怪物はグラリと体勢を崩し、その杭の腕が新たな足場を探して空を切る。その隙を突き、レグルスが攻撃した。腕の血管がマグマの川のようにギラリと輝き、黒曜石の鱗が肌からゴツゴツと生えてくる。彼はグオオッと、純粋な怒りの咆哮を上げ、世界の核への扉をこじ開けるかのように、希薄な空気からマグマの腕が現れた。
その溶岩の拳が、怪物の胸を打った。ゴツンという打撃音ではなく、ブチャッと、巨大な半腐れの肉塊を殴るような、鈍く湿った音がした。
怪物は**ドシン!と後方へ吹き飛ばされ、水の中へと落下したが、痛みの兆候はなかった。その異形の頭が持ち上がり、顔の周りの骨の甲殻が肉食植物の花びらのように開いた。四本の角が、病的な青白い光でポワ…ポワ…**と脈打ち始める。それは、虚無と消滅の匂いがするエネルギーだった。
エネルギーが角の先端で球体となり、そして、**ズドン!**と撃ち出された。
レグルスは絶望の中でマグマの壁を創り出したが、その盾は衝撃の前に**フッ…**と消え去った。爆発はなかった。削除、だった。彼の後ろの風景が、存在から消し去られた。レグルスは宇宙の構造そのものを殴られたかのような衝撃を感じ、フラフラと、暗い沼地へと落下していった。
破壊は絶対的だった。光線はその進路にあるすべてを薙ぎ払い、衝撃波は他の者たちがしがみつく枝から、バキバキと彼らをほとんど引き剥がさんばかりだった。
怪物は、すべてが捕食計画の一部であったかのように、向きを変えて水に潜り、闇の中へと消えた。
「レグルス!!」ダイアンヤは、いとこが沼の闇に飲み込まれるのを見て、純粋な絶望に引き裂かれた声で叫んだ。
◇ ◇ ◇
水中の世界は、冷たく静かな地獄だった。レグルスが意識を取り戻した時、パニックが彼を襲った。水は濁り、冷たく、圧力が肺を押し潰す。最初に彼が気づいたのは、沼全体に広がる巨大な根の息苦しい網、天然の牢獄だった。次に、彼の魔法が役に立たないこと。彼はマグマを呼び出そうとしたが、水がジュウウウと音を立て、瞬時にそれを消し去った。彼は無力だった。
その時、彼は光を見た。
根の間で踊る、青白い輝き。その大きさの生物にしてはありえない優雅さで動いている。ここは、奴の縄張りだ。フワッ、フワッと、光はあらゆる方向から彼を囲み、闇の中の致命的な餌となった。
光が、彼の背後で強まった。彼が振り返ると同時に、怪物の頭の甲殻が開き、キチン質の歯が渦巻く円形の口、彼を飲み込まんとする渦が現れた。
突如、天が水の上に落ちてきた。
バチバチバチッ!と、純粋で燃えるような黄金の稲妻が闇を貫き、怪物を直撃した。怪物はビクンビクンと痙攣し、麻痺した。レグルスの目は、その力の源を見て大きく見開かれた。
ミッカだった。熱に浮かされたその体は、濁った水の中で力の彗星となっていた。彼女は泳いでいなかった。飛んでいた。彼女の腕が後ろに引かれ、続く拳の一撃が雷鳴のような衝撃波を放った。音は水に殺されたが、その力はミッカを後方へ吹き飛ばし、怪物はゴボゴボという水中の叫びと共に後ずさった。
彼が流される前に、一本の腕がレグルスを掴んだ。ミッコだった。彼は絶望の力で彼を水面へと引き上げた。同時に、水を弾く風のオーラに包まれたダイアンヤが魚雷のように潜り、ミッカを掴んで力強い弧を描いて水から跳び出し、ドサッという鈍い音と共に木の上に降り立った。
「もう…しないで…ミッカちゃん…」ダイアンヤは、水と疲労をゲホゲホと吐き出しながら喘いだ。
テセウキが彼女たちを助けに走った。「戦える状態じゃないんだぞ、ミッカ!」
「ただ…見てるだけなんて…できなかった…」彼女は糸のような声で答え、その目が白黒してバタッと気を失った。
近くで、レグルスとミッコが枝に這い上がり、肺から悪臭のする水を吐き出した。「…助かったぜ…ミッコ…」
「どういたしまして…アニキ…」ミッコは苔の上にヘナヘナと崩れ落ちた。彼らが立ち上がると、安全な距離にいる他の者たちが見えた。「おーい!」テセウキが、すでにミッカを背負って手を振った。
「今そっちに行く、待ってろ――」レグルスの叫びは、水のヴェールが裂ける音に断ち切られた。
怒りの魚雷のように現れ、怪物はレグルスとミッコがいた枝に激突した。ドラゴの子は本能で動き、マグマの手がグンッと現れ、彼自身とミッコを衝撃点から押し出した。怪物はすべてをバリバリと紙のように破壊し、再び水に潜った。
「こいつと戦ってる時間なんてない!」ミッコは、ついに絶望に声が裏返って叫んだ。
それが、引き金だった。追い詰められ、無力な仲間たちの姿が、レグルスの内に、世界の核よりも熱い、原始的な怒りの炎を灯した。彼は考えなかった。反応した。
「アアアアアアアアアアアッ!」
その叫びは、彼自身の喉を引き裂くようだった。マグマが腐った木から、集束した目的をもって爆発した。黒く煙を上げる二つの火山岩の塔が天へと突き出し、彼とミッコを目も眩むような速さで上昇させた。戦略は単純だった。逃げること。
「しっかり掴まってろ!」レグルスはミッコに叫んだ。
一瞬、それは成功したかに見えた。彼らは高度を稼ぎ、怪物の姿が下で小さくなっていく。だが、怪物は愚かな獣ではなかった。それは捕食者であり、その縄張りは侵されたのだ。それは、彼らを追わなかった。
潜った。
「諦めたのか?」ミッコは、静かになっていく黒い水を見下ろしながら喘いだ。
レグルスは答えなかった。彼の本能が、何かがおかしいとガンガンと警鐘を鳴らしていた。その時、下の世界が爆発した。
骨と怒りの魚雷のように、怪物は水から噴き出し、彼らを完全に無視した。その杭の腕は、巨人じみた力に後押しされ、彼らではなく、岩の塔の土台に激突した。ゴガァァン!と、山が裂けるような音がした。火山岩が、白熱した破片の雨となってガラガラと砕け散る。土台が、消えた。
彼らの足元の地面が、消えた。二度目の、落下。
その瞬間、生と死の間の真空の中で、レグルスは壊れた。
「アアアアアアアアアアアッ!」
その叫びは、少年のものではなかった。それは、檻に入れられた竜の咆哮、負けることを拒否する魂の音の顕現だった。そして、その呼び声に応えた力は、もはや制御されていなかった。それは混沌とし、原始的で、絶対的だった。
マグマが、彼の足元からではなく、彼の背中から、彼の周りの空気から、現実を引き裂くように爆発した。何十もの腕、火山的な力の森が、彼の痛みから生まれた。黒い岩の鱗が首を這い上がり、溶岩の血管が服の下でギラギラと輝き、彼を破壊のアバターへと変えた。
マグマの腕は一つとなって動いた。二本が彼とミッコの腰に巻き付き、落下を止めてグンッと上空へと押し上げた。他の腕はミサイルのように反対側へと飛び、ダイアンヤ、テセウキ、そして意識のないミッカがいた枝が完全に崩れる一秒前に、彼らを黒曜石の保護球に包み込んだ。残りの無数の白熱の拳は、再び攻撃するために現れた怪物へと向かった。
レグルスは、純粋な怒りと痛みのガアアアッという喉音を上げながら、全員を上へ、できる限り高く、腐った天蓋を引き裂いて絶望的な上昇を続けた。彼の生命力そのものを燃やしていた。血が目、鼻、口、耳から流れ落ちる。彼自身の魔法の圧力が、内側から彼を破壊していた。
怪物は、火山の手の弾幕に打たれ、バキバキと砕かれ、穿たれながらもがいた。それは怒りに叫んだ。そして、水の中でもがきながら、その力のすべてを集めた。頭の四本の角が、キィィィンと、昼の光さえも飲み込む青い光で、目も眩むほどに輝いた。
「避けろ、レグルス!」テセウキが、岩のカプセルの中から叫んだ。
だが、彼にはできなかった。彼の全存在は、ただ一つの仕事に集中していた。家族を、救うこと。彼は動き、無数のマグマの腕を攻撃ではなく、巨大な盾、岩と炎のドームを形成するために使い、彼自身を消滅の光線と、他の者たちを守る球体との間に置いた。
光線が、放たれた。
音は、なかった。
宇宙そのものが息を止めたかのような、絶対的で、耳をつんざくような沈黙があった。青い光は、ただ、そこにあった。空気、色、そして物質を消し去る、純粋な無の柱。
光線は、レグルスの盾を打った。炎と岩の爆発はなかった。マグマは溶けも、砕けもしなかった。**フッ…**と、消し去られた。原子分解された。存在から消された。純粋な消滅の白い光が、レグルスの防御を瞬く間に飲み込み、そして、彼を直撃した。
黒曜石の球体の中で、他の者たちはただ押し潰されそうな圧力と、外の世界が眩しい白の裂け目になるのを見ただけだった。
そして、音が戻ってきた。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
それは、世界が引き裂かれる音だった。黙示録的な衝撃波が爆発した。沼の水が沸騰し、蒸気と泥の津波となって立ち上った。巨大な木々が根こそぎにされ、マッチ棒のように投げ飛ばされた。数キロにわたる傷跡、開かれ、煙を上げる傷口が、樹海のその片隅に永遠に刻まれた。
下では、捕食者が、自らが作り出した荒廃を見ていた。獲物を運んでいたマグマの点は、爆発によって吹き飛ばされ、天蓋の上の闇へと消えていった。それは最後のシューッという音を立て、ゆっくりと水の中へと潜り、その水中の王国へと戻っていった。




