表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴの子  作者: わる
第一幕 - 第十環: 樹海
27/39

第25話「雨が洗い流したもの」

 シン…と、小屋の中の静寂は、まるで前の晩に起こった殺戮劇を覆い隠すかのように、脆く、薄いヴェールとなっていた。空気はまだ沼地の湿った苔の匂いで重かったが、今はそこに、パチパチと燃える焚き火の煙と、何かがゴボゴボと煮える心地よい香りが混じり合っていた。


 焚き火の上では薬缶が湯気を立て、その絶え間ない穏やかな音が、張り詰めた沈黙と対照をなしていた。木の床に膝をつき、ミッコは狩人ならではの集中力で作業に没頭していた。鋭いナイフを使い、彼は慣れた手つきでトカゲの白い尻尾の皮をスルスルと剥いでいく。そして、刃先で青白い鱗をカリカリと削り取った。


 彼がそれを沸騰したお湯にパラパラと入れると、透明だった液体は瞬時に赤茶色に濁った。彼は湯気の立つお茶を木のマグカップにそっと注ぎ、寝台の一つでハァ、ハァと苦しそうに息をするミッカに近づいた。優しく彼女の頭を持ち上げ、マグカップをその唇へと運ぶ。


「ゲロまずだけど、これで良くなるからな、ミッカ姉」


 ミッカは一口飲むと、**ゲホッ!**と、思わずそれを吐き出した。その顔は、味の全てを物語っていた。


「ミッカ姉!飲まないとダメだろ!」ミッコは、悔しさよりも心配が勝る声で文句を言った。彼は再びマグカップを彼女の口元へ。今度は、彼女はゴクン、ゴクンと苦しそうにそれをすべて飲み干し、喉の奥に残る原始的な苦い味に、コンコンと咳き込んだ。


「なんで壁が壊れてんだ…?」


 しゃがれた、疲れきった声が、今やぽっかりと開いた小屋の入り口から聞こえた。レグルスが作り出した岩壁は、バラバラに砕け散っていた。


「兄貴!」ミッコは友の姿に驚いて叫んだ。レグルスは煤と乾いた血にまみれ、服はビリビリに破れ、その体は傷と打撲の地図となっていた。「何があったんだよ!?」


「竜と…戦ってきた…」レグルスは、一言一言を絞り出すように呟いた。


「はぁ!?竜と!?」


「いいから、ミッコ。これをどうやってダイアンヤに飲ませるかだ」レグルスは少年の驚きを無視し、右手を掲げた。その手には、完全に水晶のような水の球体がポワンと浮かび、その中に、まるで宝石のように『流れ星の花』が青白い光を放っていた。ミッコはその花の繊細な美しさに目を見張ったが、すぐにその好奇心はそれを内包する奇跡そのものへと移った。「すっげぇ、なんだこれ!」彼はその泡に触れようと手を伸ばした。


 ビュン!


 レグルスは、パニックに陥った目で、サッと身を引いた。あまりに素早く腕を上げたため、水の球体は危うく手から滑り落ちそうになり、一瞬、二人の少年の心臓が喉まで飛び出そうになった。


 だが、球体は落ちなかった。


 ガシッと、青白く震える手が、レグルスの手首を掴んでいた。ダイアンヤだった。彼女は無理やり意識を保ち、その赤い瞳は花に釘付けになっていた。目に見える努力で、彼女は彼の手からその泡を掴み取った。


「おい、どうやって飲むんだよ?」レグルスは困惑して尋ねた。


 彼女は彼を完全に無視した。両手で球体を持ち、胸元へと近づける。彼女がその泡の上で手を閉じると、月光のように穏やかで優美な、しかし脈打つ生命力に満ちた光が、指の隙間からフワァッと溢れ出した。


 **ハァ、ハァ…**と息を切らしながら、ダイアンヤはゆっくりと目を開けた。そして、信じられないという顔で自分を見つめる二人の少年に気づいた。


「な、なんだよ…」

「それ、飲むんじゃなかったのか?」


「当たり前でしょ、このバカども!純粋なマナをどうやって飲むのよ!」ダイアンヤは言い返した。彼女の顔には血の気が戻り、声には力が漲っていた。すでに、より活発に、より彼女らしくなっていた。「レグルス、あんた、これをエレメンタルからもらったの?」


 レグルスの顔は、衝撃の仮面だった。「なんで…知ってるんだ?」


「あいつのマナを感じるのよ。花からだけじゃない、水からも…純粋なマナだった…」彼女は、まだ少し弱々しいが、しっかりとした声で説明した。


 彼女は立ち上がった。以前よりもしっかりと。「花だけで十分だったのか、姉貴?」ミッコは、まだ心配そうに尋ねた。


「あたしは、ただマナが切れていただけよ」彼女はそう答え、ミッカのベッドへと歩み寄った。彼女は自分の胸に手を置いた。「自分のマナを回復させさえすれば…」


 ダイアンヤが詠唱を始めた。彼女の声は、先ほどまでのか細さが嘘のように、古の力で響き渡る。不可解な、穏やかな風が小屋の中を吹き始め、彼女の長い白髪を揺らした。彼女の周りを、春の若葉のような、淡い緑色のオーラがキラキラと輝き始めた。


「大地を裂く芽によりて、古の木の芯を流れる樹液によりて…塞がらんとする傷によりて、次を求める息吹によりて…我は汝に呼びかける、生命の本質、永遠の環の守護者よ!《アルカナ印:森の息吹!》」


 胸に当てられていた手が、ミッカに向かって伸ばされた。彼女の体から発せられる緑色の光が腕を伝い、掌に集束してから、純粋な生命力の光線となって、眠れる友の胸へとスウッと飛び込んだ。


「これで、あいつは大丈夫なのか?」レグルスは、感嘆と懐疑が入り混じった声で尋ねた。だがダイアンヤは、すでに再び輝き始めていた。今度は、見慣れた青い光で。「お、おい…何してんだ?」


「《アルカナ・レストア・シール》!」ダイアンヤは唱え、彼女の掌から放たれた青い光がレグルスへと飛んだ。エネルギーが彼を包み込み、その体の傷や切り傷が、目に見えて塞がっていく。


「運がいいわね、あんたの怪我は大したことなかったから。《レストア・シール》で十分よ!」彼女はそう言うと、深く眠るテセウキの元へ歩き、静かに彼を見つめた。


「俺の質問に答える気はないのか?」レグルスは、今や完治した自分の腕を見ながら言い返した。


 テセウキの額に掌を置いたまま、ダイアンヤは振り返らずに答えた。「ええ。あたしには彼女の体から毒素を取り除くことはできない。細菌だから。でも、あたしが彼女に使った魔法は、再生魔法よ」


「それがどう役に立つんだ?」レグルスは尋ね、その間、ミッコは熱心にトカゲの尻尾の肉を切り刻んでいた。


「再生魔法は、体の治癒効果を高めるの。もちろん、本人のマナを消費するけどね」彼女はそう説明すると、ミッコの隣に座って手伝い始めた。「普通、この手の魔法は傷を治すだけじゃない。代謝を高めるから、使用者の能力を向上させるためにも使われる。消費するマナが多ければ多いほど、効果も大きくなるの」今やレグルスも床に座り、肉を手伝って切り始めた。「ミッコがミッカちゃんにあげたお茶は代謝を助けるし、ミッカちゃんはマナも多いから、これでじきに良くなると思うわ」


「姉貴がそんな魔法を知ってるとは思わなかったぜ」ミッコは感心したように言いながら、肉を細切りにした。


「知らなかったわよ…ブリザードさんが教えてくれたの…」彼女はそう認め、師の名を口にすると、その声に微かな重みが加わった。


「テセウキには何か魔法はないのか?」レグルスが尋ねた。


 ダイアンヤは、安らかに眠る職人を見つめた。「彼はただ休む必要があるだけ。今のあたしに、できることはないわ」


「とにかく…」レグルスは切り分けた肉をミッコに渡した。「そろそろ、エレメンタルのこと、話す時間だと思うが…」


 ダイアンヤは従兄を見た。彼女の目に、ためらいのヴェールが落ちる。それは、友人たちと分かち合いたくない情報だった。そして、それには正当な理由があった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 樹海の夜は、静寂と広大さのスペクタクルだった。古代の道路のように広い、巨大な枝の一本の上に、一つの人影がスッと、動かずに立っていた。フユミの銀色の鎧が星々の微かな光を反射し、その中央に竜の紋章が描かれた白いマントが、樹冠を囁く風に優しく揺れていた。彼女は、背後で形成されつつある野営地にも、眼下の暗闇の奈落にも目をくれなかった。その金色の瞳は、まるで星座の書で書かれたメッセージを解読しようとするかのように、夜空にジッと固定されていた。


 **サッ…サッ…**と、柔らかな足音が近づいてきた。月の光のカスケードのような長い白髪を持つラファが、彼女の隣に立った。「ブリザード様、本日はもうお休みなされては」


 フユミは同意するように頷いたが、その視線は空から離れなかった。彼女の中には落ち着かない何か、心の見えない嵐を鎮めることができる何かを、静かに探しているようだった。


「何を、探しているのですか?」ラファは、木の幹にテントの杭をトントンと打ち込んでいる遠征隊員の一人に小声で尋ねた。ブリザードの一団は、森の広大さの中の不安定な避難所である、樹冠近く、何メートルも高い場所に小さな野営地を設営していた。


「レイン様の合図を探しておられるのです」ユウダイが指名した衛生兵の一人が、疲れた顔ながらも、敬意に満ちた声で答えた。


 ◇ ◇ ◇


 遠く、第十環の境界近くで、レインの姿が空を背景に切り取られていた。彼もまた巨大な木の樹冠近くにおり、遠くには第九環の始まりを示す白い岩々の幻のような頂が見えた。彼の手は星々に向かって掲げられ、その指は竜の魔法を分散させるという巨大な努力でぷるぷると目に見えて震え、距離と暗闇を越えて静かなメッセージを送っていた。


 ◇ ◇ ◇


 ピカリと、フユミの目に認識の火花が散った。遠くの雲が、奇妙で、しかし見慣れた形で動いている。気象学の論理に逆らい、彼女だけが認識できる、ゆっくりとした意図的な螺旋を描いている。ほとんど見えないほどの笑みが、彼女の唇に浮かんだ。「なるほど…彼はもう第九環に着いたのね」彼女は独りごちた。


 彼女は枝からフワリと降り、遠征隊員たちの元へ歩み寄った。「私が見張りをするわ。あなたたちは休みなさい」その命令は冷たく、穏やかで、疑う余地はなかった。


「ご無理なさらないでください、ブリザード様。二時間後に起こしに参ります」天騎士の一人が、すでに眠る準備をしながら言った。


「そうさせてもらうわ」彼女は簡潔に答えた。


 二人の天騎士は膝をつき、低い声で詠唱を始めた。彼らの体は薄紫色、ほとんどライラック色の光でフワァッと輝き始め、マナの小さな球体がゆっくりとした螺旋を描きながら昇り、互いに織り交ざって野営地の周りに保護障壁を形成した。


「毎晩のことですが、この障壁は消耗が激しいのでは?」ラファは、その儀式を見ながら尋ねた。


「ええ。だから、障壁を張った騎士は、翌日は魔法を使わないの」ブリザードは答え、お団子を解いた。彼女の長く、まっすぐな黒髪が、絹のカーテンのように肩に流れ落ちた。


 ラファは疲れた笑みを浮かべて言った。「まあ、ブリザード様がいらっしゃるのですから、彼らが魔法を使う必要などありませんわね…」


「お世辞を言っても何も出ませんよ、ラファ殿」


 彼らが立てた三つのテントは、質素だが居心地が良かった。ラファとフユミは同じテントを共有した。「ところで、ブリザード様、鎧を脱いでお休みにならないのですか?」ラファは、すでに自分の寝袋に潜り込みながら尋ねた。


「常に戦いに備えなければなりません。今、鎧を脱ぐ贅沢は許されないのです」フユミの手袋に覆われた手が、胸の竜の紋章の上に、ほとんど無意識に置かれた。暗い記憶が、彼女の目をよぎる。「これらは魔法の特性で作られています、私の剣と同じように…これらなしでは…私は…何者でもない…」彼女の、普段は鮮やかな金色の瞳が輝きを失い、生気のない鈍い黄色の水たまりとなった。記憶の重みが、彼女を苦しめていた。


 ラファは、しかし、その突然の憂鬱を意に介さないようだった。「せめてブーツくらいは脱ぎなさいな!女ですもの、快適に過ごさないと!」彼女は、甘やかされた少女のような頑固さでぶつぶつ言った。


 フユミは彼女の方を向いた。その目は真剣で、一瞬、ラファはギクリとした。だがその時、フユミの唇が、壊れかけた、優しい笑みを浮かべた。「ラファ殿、そうしていると、アルマを思い出します…」


「ごめんなさい、私…」


「いいのです」フユミは優しく彼女を遮った。「アルマは、私が彼女のことでくよくよしていたら、きっと怒っていたでしょうから、ふふ」


 ラファも微笑み返した。彼女は鞄から櫛を取り出すと、許可も求めずにフユミの長い黒髪を梳かし始めた。ブリザードの体はその突然の行動に一瞬硬直したが、すぐにその優しい手つきにリラックスした。「あなたの髪、とても柔らかくて、羨ましいですわ」


「そんな、はっきりと…」


「あら、あら。恥ずかしがっているのですか、ブリザード様?」


「そんな風に言われると…」フユミは、弱々しい声で、顔を横に向けながら言った。その頬は、隠しきれない赤みで染まっていた。


「後で、ブリザード様が私の髪を梳かしてくださるのですよ!」ラファは、愛らしい笑みを浮かべて言った。


 フユミは、心からの、柔らかな笑い声を上げた。「本当に、ラファ殿はアルマのようですね!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ヒュウウウ…と、巨大な枝々が空と交わる遥か高みで、孤独がめまいを誘う。ユウダイはそこに立ち、星空に向かって手を掲げていた。その指は、魔法の行使による極度の疲労でぷるぷると震えている。彼が創り出した雲は、単なる水蒸気の塊ではなかった。それは彼の思考、彼の郷愁、彼が夜空という暗いキャンバスに描く、静かな書道。雲は彼の望むままに舞い、蒸気の亡霊となって空を駆け巡り、彼の意志によって運ばれていった。


 その遥か下、第九環との境界からそう遠くない場所で、遠征隊の野営地が形作られていた。天騎士の二人が詠唱を続ける中、**フワァッ…**と、魔法障壁の穏やかな紫色の輝きがリズミカルに脈打つ。パチパチと燃える焚き火のそば、新しく設営されたテントの間で、ほとんど赤みがかった薄紫色の髪と緑色の瞳を持つ男が、遥か高みで一人佇むユウダイの姿を見つめていた。焼けたトカゲの香ばしい匂いが空中に漂う。「あいつ、何してんだ?」男は独り言のように呟いた。


「ブリザード様と交信しているのです」短い髪の女性天騎士が、焚き火からジュウジュウと音を立てる串焼きを取り出しながら答えた。


「そのブリザードってのとレインは、恋人同士か何かか?」男は、純粋な好奇心に満ちた声で尋ねながら、彼女の隣に腰を下ろし、自分も焼けたトカゲを手に取った。


「噂によりますと…」女性騎士は、まるで大きな秘密を打ち明けるかのように声を潜めた。「お二人は、幼い頃から夫婦として育てられたとか」


「そりゃ、キツいな…」男は、トカゲの肉にガブリと大きな一口を食らいつきながら答えた。


「おい、声がでかい!レイン様に聞こえるだろ!」障壁を維持していたもう一人の天騎士が、パニックに満ちた声でビクビクしながら言った。


 遥か高みで、ユウダイはまだ空を見上げていた。まるで、心の奥底では決して来ないと分かっている答えを、それでも待っているかのように。**ふぅ…**と、ため息が彼の唇から漏れ、夜風に溶けていった。


「ユウダイ様」女性の、穏やかで格式張った声が、巨大な枝々の影から彼の背後で響いた。


「どうした、ルシア」


「もう、お部屋にお戻りになるお時間です、ユウダイ様」それは、彼の傍らに常にいる、忠実な侍女の声だった。


「部屋…テントのことか…」彼は、皮肉を込めて呟いた。


「冷たい地面で寝るよりはましです、ユウダイ様」


 ユウダイが振り返ると、侍女の顔が彼を迎えた。ルシアは若く、その金髪は王冠のように頭を縁取る複雑な三つ編みに結われていた。彼女の目はいつものように閉じられていたが、主人の気ままな態度の裏を見通すのに、彼女に目は必要なかった。


 一方、野営地では、会話は囁き声で続いていた。


「実はな。ブリザード様の家は、彼女が子供の頃に皆殺しにされて、彼女自身も犯人たちに誘拐されたんだ」障壁を張っていた騎士の一人が、休憩中に焚き火に近づきながら語った。今や五人は、用心深さよりも好奇心が勝り、わいわいと集まっていた。


「なんて、悲しい…」短い髪の騎士は、手に持ったトカゲも忘れてコメントした。


「おいおい、そりゃキツいな…」紫髪の男が再び言った。


「だから、聞こえるって言ってるだろ!」臆病な騎士は、オロオロと木の梢を見上げながら言い張った。


「しかし、彼女はライトニング様によって、アメタッボ家の助けを得て救出されたのだ」


「レイン様の家が!? 」女性騎士は、ここ数ヶ月で聞いた最大のゴシップに目をキラキラと輝かせ、ほとんど叫びそうになった。こいつらときたら…


「うわ、そりゃマジでキツいな!」紫髪の男が繰り返した。(というか、こいつ、それしか言えねえのか?)


「だから言ってるだろ!聞こえるって!!」もう一人の騎士は、神経衰弱寸前だった。


「それ以来―」


「フユミは僕の家で育ち、父上が彼女を僕の許嫁としたのです」


 穏やかで、恐ろしく近くから聞こえた声が、話を途中で断ち切った。ユウダイが、ルシアと共に降りてきて、凍りついた一行の背後に立っていた。五人は驚きのあまり、心臓がドキッと跳ね上がった。臆病な騎士は情けない悲鳴を上げ、ガクガクと地面に崩れ落ち、慈悲を乞うて泣き始めた。


 ユウダイはパニックに陥る男を無視して焚き火へと歩み寄った。「ですが、フユミと僕は非常に親しく育ちました」彼は焼けたトカゲの一つを手に取り、大きな一口をガブリと食べ、咀嚼しながら締めくくった。「なので、僕たちは一度も恋人としてお互いを見たことがありません」


「ユウダイ様、咀嚼しながら話すのはおやめください…」ルシアが優しく彼をたしなめた。


「ルシア、これ、すごく美味いぞ!ほら、食べてみろ!」彼は、トカゲが突き刺さった串を、ほとんど侍女の口に突っ込むようにして差し出した。


「御意のままに」優雅に、ルシアは口を開き、一切れをパクッと口にした。「確かに、美味でございます、ユウダイ様」


「だろ?ハハハ!」


「それで?」紫髪の男が、ユウダイの笑い声を遮った。彼の好奇心は、恐怖を上回っていた。全員の注意が、彼にグッと集まった。


 ユウダイは男の方を向いた。彼の、先ほどまで屈託のなかった顔が、真剣で、ほとんど暗い表情に変わった。まるで、その話題に触れることが痛みを伴うタブーであるかのように。「僕とフユミは、恋人としてお互いを見たことはありません。僕たちは兄弟、ただそれだけです、スプリガン」


 スプリガンは、ユウダイに挑発的で、何かを知っているかのような笑みを浮かべた。


「分かってるって…」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 シリウス遠征隊の野営地では、仲間意識よりも、樹海の湿気よりも濃密な、息が詰まるほどの退屈さが漂っていた。テントはすでに設営され、焚き火がパチパチと音を立てているものの、その場の空気は若きリーダーの焦燥感でズッシリと重かった。


「なんで待たなきゃならないのか、俺様には理解できねえ!」シリウスは十度目の文句を言い、巨大な枝から突き出た根を**ガン!**と蹴飛ばした。「レインたちはもう第九環にいるんだぞ!俺たちは先頭に立つべきで、ジジイ共の子守りをしてる場合じゃねえ!」


 彼は一団の残りに向かってイライラと身振りをした。カイウナの案内人、時間に顔を刻まれた壮年の男は、ただため息をつき、ナイフを研いでいる。ユウダイが指名した衛生兵は、明らかに司令官の癇癪を無視し、薬草の分類に忙しい。プラチナブロンドン髪の若者より何十年も経験豊富な他の天騎士たちは、疲れた視線を交わしていた。


「俺様が指揮官だって言われたんだぞ!」シリウスは続けた、その声は不機嫌なトーンに上がっていく。「誰も俺様の言うことを聞かねえで、どんな指揮官だって言うんだよ!」


 天騎士の一人、その顔の皺が無数の戦いを物語る女性が、ついに我慢の限界に達した。「シリウス様、真の指揮官とは、慎重さの重要性を理解するものです。もう少し、焦りを抑えるべきです」彼女は、固いが疲れきった声で彼をたしなめた。


 シリウスは彼女の方を向き、その目に傲慢さがギラリと光った。「はぁ、おばさん!説教はやめてくれ!あんたたちに任せてたら、俺様がじい様と同じくらい年寄りになる頃に、黄金の都に着くことになるぜ!」


「おばさん」という言葉が、無礼に空中に漂った。女性騎士は一瞬だけ目を閉じ、顎がギリッと引き締まった。一団の残りは、集団的な諦めの表情でその光景を見ていた。彼らの顔は、皆同じことを言っているようだった。「まあ、仕方ねえか…」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 樹海のその一帯は、熱に浮かされた悪夢、大陸の顔にできた化膿した傷口だった。ここの森は生きていない。墓場だ。濃く、重い空気は、腐敗の甘ったるく吐き気を催す匂いを運び、あまりの濃さに、ほとんど咀嚼できそうだった。巨大な木々は、今や忘れ去られた栄光の巨大な骸骨となり、立ったまま腐り、その樹皮は黒く脈打つ腫瘍に覆われていた。日光は病んだ天蓋を突き破ろうと苦闘し、死んだ苔と黒いヘドロの床に青白い光線を投げかけていた。


 これらの瀕死の幹にへばりつくように、疫病は現れた。グロテスクな生き物が、沸騰する油のようにブクブクと泡立っている。その濃い緑色の肉がゆっくりと身もだえ、亀裂から溶け出した目が、病的な光の筋となって腐った木を伝い落ちていた。そして、それは一体だけではなかった。何十体もいた。何千もの目が、あらゆる方向から、その冒涜的な領域を侵す唯一の姿――ホムラをジッと睨みつけていた。


 彼は堂々と歩いていた。剣は鞘に収められているが、その手は柄の上に置かれている。彼の存在は、その場所への侮辱、腐敗の混沌の中の秩序の炎だった。彼の唯一の緑の目が、冷たく、分析的に情景を捉えた。


 触手が来た。獰猛で、怒りに満ち、湿った鞭のような音を立てて空を切り裂き、あらゆる方向から彼に集中した。


 だが、ファイアは動じなかった。


 衝撃の直前、彼の肉体は肉と骨ではなく、**ゴオオオッ!**と音を立てる純粋な炎の柱へと霧散した。触手は彼が空気でできているかのように通り抜けたが、そのありえない熱が瞬時にその先端を蒸発させた。そして、地獄が応えた。飢えた蛇のような炎が付属肢に絡みつき、破壊をその源へと持ち帰る生きた導火線となった。炎は生き物たちへと導かれ、消し去ることのできない火の抱擁でそれらを喰らった。


 生き物たちは静かに叫び、泡立つ肉がジュウジュウと音を立てて黒ずんでいく。それらは苦悶にもがき、何千もの目が病的な光の水たまりとなって溶け、蒸発していった。数秒後、残ったのは、火事自身が作り出した風によって運ばれていく黒い灰だけだった。ファイアは再び、無傷で、自らの浄化の火葬場の中心に具現化した。復讐の神の化身。彼は、まるで何でもないかのように、生き物たちを破壊した。


 そう遠くない場所で、倒れて腐った巨大な木の一つのかげに隠れ、彼の部隊のメンバーが見ていた。カイウナの案内人は、その苛立ちを隠せなかった。


「失礼ながら…」彼は、張り詰めた囁き声で文句を言った。「これは、どう考えても第九環への道ではありません」


 彼の隣にいた天騎士の一人、その目に揺るぎない忠誠心を宿す若い男が、静かに答えた。「将軍様は、まずこの脅威を排除することを優先しておられます」


「なぜだ?」案内人は言い張った。「この…『這いずる膿疱』が…樹海を腐敗させる疫病だということは理解できる。だが、なぜ彼はこの場所を浄化することにこれほどこだわる?なぜ、この回り道を?」


 天騎士は、今や灰色の森を静かに行進し続ける、彼の将軍の堂々とした姿を見つめた。


「この道が、安全でなければならないからです」彼は、静かな確信に満ちた声で言った。「我々の後に、来る者たちのために」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ