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ドラゴの子  作者: わる
第一幕 - 第十環: 樹海
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第22話「第一の試練」

 そこにあるべき叫び声の代わりに、耳をつんざくような真空が空間を満たしていた。唯一の真実は、新鮮な血の鉄臭い匂い。ツンと、濃く、吐き気を催すその香りが、喉の奥にこびりつく。ミッカの目は大きく見開かれ、かつて避難所であったはずの屠殺場を、虚ろに見つめていた。


 職人であったテセウキは、自らの失敗作のように壊れている。弟であったミッコは、赤い水たまりの中で忘れられた玩具のように、引き裂かれている。誇り高きダイアンヤは、永遠に沈黙させられている。


 そして、彼女の視線はレグルスに落ちた。その瞬間、静寂という嘘が、**パリン!**と砕け散った。


 私の、剣。


 その認識は、**ズキン!**と、物理的な一撃のように彼女を襲った。彼の背中に突き刺さる剣は、彼女のものだった。彼女の手が、柄の幻の重み、鋼が肉と骨を貫く振動の衝撃で疼いた。彼の瞳にある裏切りの恐怖は鏡となり、彼女という怪物を映し出していた。


 私が、やったんだ。


 罪悪感は毒だった。そしてそれと共に、記憶の水門がドッと決壊した。木の小屋は崩れ去り、その壁は別の人生、オレンジ色の炎の海に舐められる別の家の板へと変わる。友人たちの亡骸は村人たちのそれと混じり合い、その顔は苦悶に歪んでいた。そしてレグルスの顔が…彼の顔が、エイドリアンの顔になった。同じ裏切りの眼差し。だが、彼のそれは不気味で、喉は生命が逃げ出したおぞましい裂け目となっていた。


 …お前のせいだよな?


「いやっ!」


 その叫びは空気を切り裂いたが、今や彼女の心の中で爆発する不協和音の中の、ただの一音に過ぎなかった。


「ごめんなさい…ごめんなさい…許して…」彼女は呟き、自分の髪を掴み、頭の中から声を掻き出そうとした。「痛い…すごく痛い!」


 彼女はもがき、後ろへ倒れたが、殺戮の光景は彼女を追ってきた。そして、新しく、現実的で、ありえない痛みが彼女を貫いた。彼女は下を見た。


 自分の脚が…もう、なかった。


 その代わりにあるのは、血まみれの切り株だけ。白く不規則な骨が、ゴリゴリと、湿った緋色の軌跡を残しながら、情けなく木の床を這っていた。


「あああああああああ!痛い!痛い!」その叫びは、正気の断片だった。「許して!お願い!許して!」


 最後の絶望的な行為として、彼女は腕で這い、彼に手を伸ばそうとした。レグルスに触れ、もう一度だけ許しを請うために。彼女の指先が、彼のシャツの生地まで、あと数センチというところだった。


 ゴオオオッ!


 彼女の腕が、炎に包まれて爆発した。肉が泡立ち、蝋のように溶け、自身の肌が焼ける匂いが空気を満たす。その恐怖は絶対的で、最終的だった。彼女は、決して出ることのない叫びのために口を開いた。


「ミッカちゃん、起きて!」


 バシィッ! その声が、稲妻のように狂気を断ち切った。


 突然、痛みも、炎も、血も…すべてが消えた。背中の下の床は汚れておらず、冷たく湿った木製だった。空気は死の匂いではなく、沼地の植物の匂いがした。


 彼女の上に覆いかぶさり、菌類の微かな光を遮っていたのは、ダイアンヤの顔だった。普段は冷静で傲慢なその表情は、崩れ落ちていた。その赤い瞳は純粋な恐怖と絶望に見開かれ、蒼白な顔を伝って涙が止めどなく流れていた。


 ダイアンヤの叫び声が、ミッカを狂気の淵から引き戻した錨だった。しかし、彼女を迎えた現実は、決して恐怖の少ないものではなかった。ミッカの視線はダイアンヤを通り抜け、上へ、痛みで鋭くなった本能が悪夢の源として認識した存在へと引き寄せられた。


 そこに、巨大な枝の天蓋にうずくまるようにして、その生き物はいた。


 ナメクジというよりは、悪夢の不定形な塊。ヌルヌルと脈打つ、液化した瀝青のような色の肉の集合体。何十本もの、細く湿った触手がその体の上でゆっくりと踊り、その先端は露出した神経終末のように、病的な赤色に輝いていた。体全体が深い亀裂で刻まれ、その本質そのものを引き裂くかのような切り傷が入っている。それはおぞましく、吐き気を催すような、この場所にも、他のどこにも属さない怪物だった。


 その時、亀裂が動いた。飢えた口のように開き、その暗い深淵から、何百もの目がゾロゾロと一斉に滑り出した。まぶたのない、あらゆる大きさの眼球が、不自然で病的な動きで生き物の表面を這い、一つの点に集中した。


 ミッカに。


 甲高い悲鳴が彼女の唇から漏れた。戦わなきゃ!戦わないと! だが、体は彼女を裏切った。立ち上がろうとすると脚が言うことを聞かず、彼女は木の床に崩れ落ちた。**オエェェッ!**と、激しい吐き気が喉を突き上げ、彼女は身をかがめた。黒く、どろりとした吐瀉物が床に飛び散る。それは胆汁ではなかった。沼地そのもの、腐って黒ずんだ、ほとんど黒い苔を、彼女は己の中から吐き出したのだ。


 その時、彼女は見た。自分の右腕。幻視の幻の痛みは、彼女にとって現実となっていた。肌は泡立ち、生肉が露出し、彼女だけが感じられる炎で焼けている。その光景は彼女を圧倒し、ミッカはバタッと、その場に崩れ落ち、意識が遠のいていった。


 枝の上の生き物は待たなかった。赤い触手が、**ビュッ!**と鞭のようにしなった。それらは空を切り裂き、ミッカの無防備な体へと飛んだ。


 ザシュッ!


 金属と電気の残像が、その攻撃を遮った。テセウキが、守るための絶望に駆られ、ミッカの前に身を投げ出していたのだ。その手には、彼女の剣。オレンジ色の刃は、まるで眠れる主を守る意志が目覚めさせたかのように、力強くブゥンと唸り、黄色の火花をバチバチと散らした。彼は不器用ながらも効果的な素早い斬撃で、迫りくる触手を切り落とした。


「死ね、化け物!」


 反対側で、レグルスの怒りが爆発した。ゴゴゴゴ…と、巨大なマグマの手が木の床から突き出し、生き物に向かって飛んだ。だが、怒りが彼の狙いを狂わせた。手は的を外し、生き物が止まっていた枝に直撃した。古木はうめき声を上げ、強烈な熱の下でバキバキと砕け散った。


 湿った、重い音と共に、生き物は**ズシン!**と、おぞましい肉袋のように彼らの上に落ちてきた。


 テセウキとレグルスは反対方向へ跳び、かろうじてその衝撃を避けた。しかし、その落下は彼らを分断した。片側には、ミッカ、ダイアンヤ、そして物音で目を覚ましたばかりのミッコの前に盾となるように立つテセウキ。もう片側には、一人きりのレグルス。そして彼らの間に、切り刻まれた触手をうねらせる、あの怪物がいた。


「レグルス、全部燃やすな!」ダイアンヤが、甲高いパニックの声で叫んだ。


「どういうことだ!?この大きさを見ろ!」彼は叫び返したが、従った。砕けた枝を舐めていたマグマは、スウッと独りでに飲み込まれ、溶岩は湿った沼地の木材に火がつく前に、黒い石へと固まった。しかし、一滴のマグマが、ポツンと生き物の体に落ちた。


 ブチュリという、くぐもった鳴き声が肉塊の中から響いた。生き物は激しく身をよじり、静かで恐ろしい苦悶の中で暴れた。


「じゃあ、なんで火を使っちゃダメなんだよ!?結構効いてるみたいじゃないか!」レグルスは、困惑して問い詰めた。


 返答として、生き物は暴れるのをやめた。それは、ムクムクと、おぞましいほどに膨張し始めた。亀裂が再び開き、何百もの目が、もう一度滑り出した。そのすべてが、一つの標的に固定された。


 レグルスに。


 彼は、自分を裁き、名状しがたい恐怖を約束する、目の海を見つめた。ゾクッと、悪寒が彼の背筋を駆け上った。


「…こわ…」


「レグルス、逃げろ!」


 テセウキの叫びは絶望的な雷鳴のようだったが、怪物が身をよじるヌチャ…という湿った吐き気を催す音に満ちた重い空気の中では、かろうじて響く程度だった。不定形な肉塊が**ビクンッ!とグロテスクに痙攣し、少年の方向へ、黒く粘り気のある粘液の塊をビシャッ!**と吐き出した。


 レグルスに避ける時間はなかった。訓練と戦いで鍛えられた本能が、彼を支配する。彼は木の床に掌を叩きつけた。**ゴゴゴゴ…と、彼の眼前に灼熱のマグマの壁が出現し、沼地の湿った空気がジュウウウッ!**と音を立てた。粘液は湿った鈍い音と共に障壁に激突する。守られた彼は、心臓を肋骨に叩きつけながら左へ跳んだ。


 その時、彼は見た。


 粘液が触れた場所、すべてが泡立ち、溶けていた。舞台の木材、落ち葉、そして空気さえもが歪んでいるかのようだ。難攻不落のはずだった彼のマグマの壁が、蝋のように溶け、ボロボロと崩れて黒ずんだ岩の屑となり、乾いた情けない音を立てて床に落ちていく。


 致命的な危険を認識したが、怒りの方が先だった。目の海が彼を裁き、一瞬、恐怖がレグルスを麻痺させた。だが、怒りの方が先だった。


「こん畜生…!」彼は唸った。


 レグルスは左腕を伸ばし、その掌をおぞましい怪物に向けた。溶岩が指先で踊り、凝縮し、地質学的な怒りの渦の中で回転してから、槍の形を成した。叫びと共に、彼はそれを放った。溶岩の投擲物が、ミニチュアの破壊の彗星となって空を切り裂いた。


 しかし、生き物は避けるために動かなかった。それは、ただ「開いた」。肉塊がグパァと真っ二つに裂け、自らの体を通してグロテскなトンネルを創り出した。溶岩の槍は、**ビュン!**と音を立ててその真空を無害に通り抜け、その致命的な軌道を続けた…テセウキへと、真っ直ぐに。


「レグルス!」


 職人の叫びは、純粋なパニックだった。レグルスの反応は瞬時だった。彼は腕を上げ、友を貫く寸前だった槍は、それに従った。溶岩は輝きを失い、その流動性は岩の硬さへと変わった。軌道が変わり、今や固まった槍は**ドゴォォン!**という轟音と共に小屋の上部に激突し、建物全体を揺るがした。


 だが、遅すぎた。その油断が、致命的だった。


 湿った重い音と共に、生き物は彼の上にいた。まだ開いたままのおぞましい体が、生きる屍衣のように崩れ落ち、彼が叫び声を上げる間もなく、丸ごと彼を飲み込んだ。


 テセウキの世界が止まった。一瞬、唯一の音は、友人の体が脈打つ肉塊の中に消える、吐き気を催すズブリという鈍い音だけだった。レグルスが…いなくなった。恐怖が彼を麻痺させた。純粋な本能で、彼は後ろを振り返った。自分が守ると誓った者たちを。


 その時、本当の悪夢が始まった。


 失神しているミッカの右腕が、ブクブクと泡立っていた。まるで目に見えない酸が彼女を蝕むかのように、肌がリアルタイムで溶け、生肉が露出している。生き物の粘液のイメージ、レグルスのマグマさえも溶かしたその腐食性の力が、恐ろしいほどの明瞭さで彼の心に結びついた。


 いや…外にいる彼女でさえこうなら…じゃあ、レグルスは…中で…


 その光景が、物理的な一撃のように彼を襲った。友人であり、ライバルである彼が、静かな苦悶の中で、生きたまま溶かされ、肉が骨から溶け落ちていく。


 生き物は、まるで自らが与える痛みを感じるかのように、身をよじり始めた。くぐもった恐ろしい叫びがその内部から漏れ、その触手は新たな怒りで激しく暴れた。**ヒュッ!ザシュッ!**と、それらは破壊のバレエで、空気も、木も、岩そのものさえも切り裂いた。


 テセウキは友人たちの前に立ち、ミッカの剣を掲げた。義務が、彼の胸の中で冷たい炎となった。触手が迫る。**キン!**と、衝撃の力で彼は危うく地面に倒れそうになった。彼は歯を食いしばった。生き物の力は圧倒的で、立っているのがやっとだった。


 彼の後ろから、ダイアンヤの声が聞こえた。パニックはなく、冷たく、集中し、的確だった。彼女はミッカから目を離さなかったが、状況を察知していた。


「アルカナ印:時計師の幻視!」


 テセウキの世界が変わった。周りの耳をつんざくような混沌が遠のき、音が遠くなった。超自然的な静けさが彼を包んだ。ちらりと、彼は背後に微かな青白い輝きを見た。半透明な時計のイメージ、その針が信じられない速さで回転している。以前は致命的な残像であった触手が、今や水晶のような明瞭さで動いていた。


「見える…」彼は囁いた。


 すべての動き、すべての軌道、すべての隙間。彼はもはや剣を握る職人ではなかった。嵐の目の中で踊る戦士だった。**ザシュッ!シンッ!**と、彼は受け流し、避け、そして切り裂き、彼のものではないはずの正確さで、生き物の付属肢を切り落としていった。


 ミッコは、呆然と見ていた。彼にとって、テセウキはオレンジと黄色の光の残像、信じられない速さで動く鋼の嵐だった。


「す…げえ…」


「効果が切れるまでよ」ダイアンヤの声が、彼の隣で緊張して響いた。彼女の注意は完全にミッカの傷に向けられ、その手は治癒の光で輝いていた。「その後、彼はたぶん気絶するわ」


 絶望が、ミッコを拳で殴った。「時間が切れたら、どうするんだよ!?」


 ダイアンヤはすぐには答えなかった。小さく、暗い笑みが彼女の唇に浮かんだ。


「まだ気づいてないの、ミッコ?」


 ダイアンヤの声が、低く響き渡る詠唱となり、空気を満たした。


「地を求める根によりて、太陽を渇望する種によりて。解ける生命の糸によりて、我は命ず。再び、織り成せ!」


 彼女は手を上げ、自らの胸に置いた。フワァッと、まばゆいばかりの純粋な空色の光が彼女の掌から溢れ出し、彼女の赤い瞳は同じ強烈な青色に輝いた。彼女は腕をミッカの方へ伸ばした。


「アルカナ印:暁光の再生!」


 青く優美なオーラが彼女の胸から流れ出し、伸ばした腕を蛇行してからミッカの傷へと跳んだ。光が泡立つ肉に触れた瞬間、**シュウウウッ!**という鋭い音が響いた。黒い不純物、生き物の毒が、冒涜的な霧のように空気中で蒸発し始めた。


 奇跡が、ミッコの目の前で繰り広げられた。細い銀と緋色の糸のような血管と神経が、健常な肉から絡み合い始めた。鮮やかな赤色の筋肉が芽生え、露出した骨を覆った。そして最後に、蒼白で完璧な新しい皮膚の層がすべての上に広がり、傷跡一つ残さなかった。


 ミッコの目に、安堵の涙が浮かんだ。「姉貴、やったな!これで俺たちは―」


 彼は言葉を止めた。ダイアンヤの瞳の輝きが消えていた。彼女はハァ、ハァと喘ぎ、まるでナイフが肺を突き刺すかのように、一呼吸ごとに痛々しく痙攣していた。汗が滝のように彼女の顔を伝っていた。


「この…魔法…」彼女は、一言ずつ、震える糸のような声で言った。「…すごく…マナを…消耗する…」


「姉貴、休まないと!」ミッコは懇願した。


 彼女はただ、弱々しく首を横に振った。彼はミッカを見た。姉の肌は赤く、呼吸は重く、体は汗で濡れていた。


「彼女…まだ…毒されてる…」ダイアンヤは囁いた。


 一方、テセウキの死の舞は続いていた。魔法の効果の下で、彼は自然の力そのものだったが、生き物は回復力が高かった。切り落とされた触手から黒い漿液が噴き出し、その不定形な体は乾き、より固く、より明確になっていく。**キイイイッ!**と怒りの鳴き声を上げると、それは跳躍し、爪を彼らの上の巨大な枝に突き刺し、逃げる準備をした。


「逃がすか!」テセウキは、苛立ちとアドレナリンに駆られて叫んだ。ミッカの剣が黄色い光で輝く。彼はそれを生き物に向け、純粋な電気の斬撃が刃から放たれ、**バチバチ!**と空気を切り裂いた。エネルギーは怪物を襲い、その不定形な塊の一部を抉り取った。


 そして、悪夢が露わになった。おぞましい臓器が脈打ち、何十もの目が、存在するべきではない眼窩の中で狂ったように回転していた。吸盤に囲まれた円形の恐ろしい口が開き、空気を振動させる甲高く耳をつんざくような叫びを発した。だが、生き物は攻撃しなかった。獲物に敗れた捕食者の絶望的な叫びと共に、それは逃げ出した。


 テセウキはレグルスが飲み込まれた場所を見たが、そこには暗く動かない岩しかなかった。その時、その一つが**バキッ!**と割れた。亀裂が開き、レグルスが、煤にまみれながらも、五体満足で現れた。


「うおおお、マジで死ぬかと思ったぜ!」彼は、陶酔的な安堵に満ちた声で叫んだ。


 瞬き一つの間に、テセウキは彼の目の前にいた。「はっや!なんだ今の!?」レグルスは、突然の出現に驚いて叫んだ。テセウキが話し始めたが、その言葉は理解不能な音の残像のように、あまりにも速く出てきた。彼の顔は安堵の涙で濡れ、滝のように、あまりにも速く、本物とは思えないほど流れ落ちていた。


 そして、ドサッ。


 テセウキは言葉の途中で凍りついた。彼の体は硬直し、彫像のように後ろへ倒れた。口から唾液が垂れ、その目は計り知れない疲労で脈打ち、情けないうめき声が喉から漏れた。「うぇぇぇぇぇ…」。


「姉貴、無理するな!」ミッコは、ダイアンヤに注意を戻して懇願した。


「ミッカが…まだ…」彼女は浄化の新しい詠唱を始めたが、言葉は喉で死んだ。彼女の目が白黒し、バタッと、友人の体の上に意識を失って崩れ落ちた。


 絶望が、ミッコを飲み込んだ。彼は彼女を起こそうとし、恐怖と涙が喉を突き上げた。一人きりだった。俺に何ができる?何をすればいい?


 その時、温かい手が彼の手を触れた。パニックから彼を引き戻す、心地よい温もり。彼は下を見た。


 ミッカが、彼を見ていた。その笑みは穏やかで優しかったが、その眼差しは…それは、姉のものではなかった。


「…ミッコ…」


 その声は疲れ、喘ぎ、そしてしゃがれていた。「…ホムラ様が…そなたに書物を授けただろう…『古の世界』の生物に関するものを…」


「アルマ姉さん?」彼は、信じられないというように囁いた。


「そなたはそれを持参したな?」彼女は尋ねた。「あの生物は…第十環の固有種のようだ。あるいは…以前に誰かが目撃しているやもしれぬ。書物に、何か記されている可能性がある」


 彼女の言葉の論理が、錨となった。ゆっくりと、ミッコは落ち着き始めた。


「今、皆がそなたを必要としている、ミッコ」アルマは、弱々しい声で言った。「我々を救えるのは、そなただけだ」


 ミッコは、まだ怯えながら拳を握りしめた。すべての責任が彼にのしかかった。彼は狩りを手伝い、料理をする…でも、本当に何ができる?俺は弱い…役立-ずだ…なんて情けないんだ…


「アルマさんの言う通りだ、ミッコ!」


 レグルスがそこにいた。テセウキの意識のない体を背負って。彼の眼差しは鋭く真剣で、疲労は新たな決意へと変わっていた。


「今、お前の知識が必要なんだ!ミッカを救えるのは、お前だけだ!」

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