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ドラゴの子  作者: わる
第一幕 - 第十環: 彼方の地
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第18話「予期せぬ師匠たち」

 その夜、マン・オ・ウォーの廊下は、遠くで響くタービンの低いブウゥンという唸り声と、孤独な金属の足音だけが響く、人工的な静寂に包まれていた。壁に埋め込まれた水晶の冷たい光に照らされた通路は、長く、無機質で、動くたびに影が踊る。その孤独と義務の迷宮を、ユウダイは重い使命を背負って歩いていた。普段は癒しの道具である彼のカルテ板が、今は宣告の重みを帯びているかのようだった。


 やがて、彼は探していた人物を見つけた。広大な展望窓の前に、夜空の無限の闇を背景に、その威圧的なシルエットが切り取られていた。


「ホムラ将軍」


 男はゆっくりと振り返った。影に溶け込みそうなほど深い赤毛の長髪が、鎧の上で揺れる。黒い眼帯が顔の片側を覆っていたが、唯一の、緑色の瞳が、まるで割れたガラス瓶の破片のように鋭く、ユウダイをグサリと射抜いた。


「こんな時間に何用だ、レイン?」その声は重々しく、抑揚がなく、命令することに慣れた男の響きだった。


「ミッカのことだけではありません」ユウダイは、プロフェッショナルな口調でありながら、抑えきれない切迫感を滲ませて話し始めた。彼はカルテ板を持ち上げ、神経質な速さで羊皮紙をめくり、目的のページを見つけ出した。「村の者、全員の血液検査をしました。そのうちの一人が…」


 彼は言葉を止めた。ホムラが、音もなく近づいてくる。その存在が、通路を満たしていく。将軍の眼差しは固く、真剣で、一切の感情を読み取れない壁のようだった。興味を示す素振りはなかったが、もっと不気味なことに、驚きの色も全く見られなかった。まるで、この会話をずっと待っていたかのようだった。


 その瞬間、ユウダイの疑念は、氷のような確信へと変わった。「…ご存知だったのですね?」


 ホムラは答えなかった。ただユウダイに背を向け、廊下の先へと歩き続ける。「それは、今必要とされることではない」その言葉は乾いており、最終宣告のようだった。


 だが、今回ばかりはユウダイも引き下がらなかった。苛立ち、責任感、そして込み上げてくる怒りが、彼の中でグツグツと煮えたぎっていた。「ホムラ将軍!」彼は声を張り上げた。「ドラゴの騎士としてではありません!医師として、申し上げます!」


 ホムラは立ち止まり、半身だけを振り返った。背中で手を組み、その表情はまだ無表情だった。その沈黙は、彼に黙れという命令だった。だがユウダイは、限界に達していた。


「ホムラ・ティンゼル、ふざけてんじゃねえぞ、この野郎!」


 その侮辱が、重く、冒涜的に空中に漂った。すると、予期せぬことが起こった。ホムラの肩が震え、しゃがれた、抑えた笑い声が漏れた。彼は完全に振り返り、ユウダイに向けられた侮蔑の眼差しには、古く、忘れ去られたような挑発が混じっていた。


「よかろう…蒼天王国軍総司令官としてではなく、ホムラ・ティンゼルとして話そう…」彼は一息置き、その緑の瞳が悪意にキラリと光った。「ユウダイ・アメターボ…指をケツにでも突っ込んで、クソでも食ってろ」


「は?」ユウダイは、純粋に信じられないという表情で、ポカンと口を開けたまま固まった。


 そして、ホムラは爆発した。


「ガハハハハハ!」


 将軍の狂気じみた、しゃがれた笑い声が金属の壁に響き渡った。規律の化身である男から発せられたとは思えない、野蛮で衝撃的な音だった。「これほど長い間、あのように振る舞う義務は儂にはない…」彼は、幻の涙を拭うように言った。そして踵を返し、再び歩き始めた。「他の者には言うな。ましてや、彼にはな」


 蒼天王国で最も権力のある男が口にした言葉を、ユウダイはまだ処理しきれずにいた。彼は**はぁ…**とため息をつき、その眼差しは鋭くなった。混乱は、暗い決意へと変わっていた。「『命令』とは、おっしゃいませんでしたね…」


 ホムラは肩越しに手を振るだけだった。「好きにしろ」という、無造作な仕草。


「…あの野郎…」ユウダイは悪態をつき、手の中の羊皮紙に目を落とした。「適合率99%」と書かれた文字に。彼はカルテ板をギリッと強く握りしめた。「全ての責任を、僕の肩に押し付けやがった…」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 続く数日は、抑えられた悲しみと、過酷な努力の(もや)の中に過ぎていった。嘆き悲しむ時間はなかった。傷ついたカイウナの村は立ち直る必要があり、その新たな同盟者である天騎士団は、待ち受ける戦いに備えなければならなかった。


 浜辺では、金色の砂を照らす強い日差しの下で、**ガキン!ガキン!**と金属がぶつかり合う音が響き渡っていた。訓練と決意のメロディーだ。


 緑色のツナギにバンダナを巻いた少年が、ぜえぜえと息を切らし、訓練用の剣がその手に重くのしかかっていた。彼の前では、潮風に白髪をなびかせた男が、捕食者のような落ち着きで彼を観察していた。


「…もう一回、お願いします!」テセウキは、努力でしゃがれた声で叫んだ。


 武術指南役であるカイトが、自身の剣を構えた。テセウキが突進し、その刃が**ブン!**と空を切る。彼の打撃には力があった。目撃した悲劇から生まれた怒りがあった。だが、それは焦った攻撃で、隙だらけだった。真の達人の無駄のない動きで、カイトはただ避け、受け流し、その刃はテセウキの剣の周りで舞った。


 **ズン!と、テセウキが振り下ろした一撃を、カイトはただ横に一歩踏み出してかわし、剣の柄で少年の腹をゴン!**と突いた。テセウキは膝から崩れ落ち、肺から空気が押し出された。


「…なんで…じいさんがこんなに速いんだ…!?」彼は、痛みに呻きながら言った。


「数日にしては、随分と上達したな、小僧」カイトは無表情で、すでに距離を取っていた。「だが、まだまだ先は長い…」彼はテセウキに剣を向けた。その鋼の切っ先が、彼の宣告の句読点となった。「立て!」


 テセウキはギリリと歯を食いしばり、剣を支えに立ち上がった。次の一戦への準備はできていた。


 そう遠くない場所で、別の授業が行われていた。長い白髪を高いポニーテールに結んだ少女が、獰猛なほどの集中力で聞き入っている。数日前まで遠く、死んでいたその赤い瞳は、今や知識への渇望でギラギラと輝いていた。


「属性魔法は『基本』と見なされているが、役に立たないという意味ではない」プラチナブロンドの癖毛の男が、まるで世界の常識であるかのように、気取った傲慢さで説明した。「秘訣は、アルカナの術を磨き、それを属性魔法に組み込むことだ」


「そんなの知ってるわよ!特定のアルカナ魔法には、属性が必要でしょ!」ダイアンヤは、焦れたように反論した。


「そんな話をしてるんじゃないんだよ、小娘!」シリウスは、やれやれと目を回して文句を言った。


「彼が言いたいのは」冷たい声が割って入った。「アルカナを、より一般的な属性魔法の力を増幅させる手段として使える、ということです」黒髪を高いお団子に結い、シリウスを侮蔑のこもった黄色い瞳で見つめるフユミが、混沌に明快さをもたらした。


「そう、それだ!簡単だろ?」シリウスは、手柄を横取りしようと言った。


「そんなに簡単なら、なぜそのように説明しなかったのですか?」ブリザードは、氷のような声で彼を挑発した。


「何だと?それは俺様が―」


「あの船を村から吹き飛ばした突風、あれはあなたがやったんでしょう?シリウス様」ダイアンヤが、目を輝かせて尋ねた。


 シリウスは即座に胸を張った。傲慢さが、全力で戻ってきた。「当然だ!何しろ、この俺様だからな!」


 ブリザードは、ただ静かな侮蔑を込めて彼を見つめていた。


「それじゃ、あたしにもあんなことができるってこと?」ダイアンヤは、興奮して尋ねた。


「まあ、この俺様ほど見事にはできんが、そうだな!」


「うわあああ!教えて、シリウス師匠!」


「し、師匠だと?コホン!うむ!儂が師匠だ!ムワハハハ!」


「度が過ぎています…」フユミは、誰に言うでもなく、ほとんど聞こえないため息をつきながらコメントした。


 一方、浜辺の別の場所では、**バチバチバチッ!と砂の上で稲妻が炸裂していた。膝をついたミッカが、必死に自分の力を形にしようとしている。電気は彼女の全身を駆け巡るが、剣を創り出そうとするたびに、稲妻は手に負えない火花となってシュン…と消えてしまう。彼女ははぁ、はぁ…**と息を切らしながら前のめりに倒れ、疲労が彼女に重くのしかかった。


「…なんで…こんなに…難しいの…?」


「君にとって、自然なことではないからだ」隣から、穏やかな声がした。ラムザが、優しい眼差しで彼女を見守りながら、しゃがみこんでいた。


「どうして?お兄ちゃんは、あんなに自然にやるのに…」


「それは、雷光がそうするからだ」ラムザは話し始めた。「僕は、アルマの雷鳴のような攻撃力もなければ、君、ミッカのように雷そのものになることもできない」


「でも、アイアンとの戦いで見たよ」


「確かに。だが、同じではないんだ。僕は電気に変わることはできず、ただ操ることしかできない」彼の腕が輝き始め、黄色い電気がその手で脈打った。「僕が変形させても、それはただの形のない電気だ。君が、雷そのものであるのとは違う」


「じゃあ、お兄ちゃんはどうやってるの?」ミッカは、好奇心に満ちて尋ねた。


「魔法を使う。僕のマナを、竜の魔法に込めるんだ。そうやって、君たちの力を『模倣』する。もちろん、完璧にはできないがね」彼は自分の掌を見つめ、その瞳には複雑な輝きがあった。「だが、ほとんどのドラゴンの子とは違い、僕は雷光だけに頼るわけにはいかない…」


 ミッカは彼を見ていた。そしてその瞬間、彼女は理解した。最初の瞬間から感じていた憧れは、ただ彼が兄だからというだけではなかった。彼が、断片から自らの力を築き上げ、限界を強さに変えた、素晴らしい戦士だからだった。


「私、やってみせる!」ミッカは、声に新たな決意を込めて叫び、ラムザを思考から引き戻した。彼はただ笑った。


「実を言うと、僕のようにやるのは君には不可能だよ、ははは!」


 ミッカのやる気は、シュウウ…としぼんでしまった。彼女の顎は地面まで落ち、まるで漫画のようにカチンと固まり、真っ白になった。だが、ラムザは愛情のこもった仕草で彼女の髪をわしゃわしゃと撫でた。


「だが、だからこそ君はこれを訓練しているんだろう!たとえ制御できなくとも、ほとんど不可能なことをやろうとするだけで、君は信じられないほど強くなれるんだ、ミッカ!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 レグルスの脳裏に、数日前のユウダイの医務室での記憶がフラッシュバックした。


 診察室の無機質な空気の中、レグルスは必死に身を乗り出していた。その声には、焦りと懇願が滲んでいた。

「ユウダイ兄貴!あんた自身が言ったじゃないか、俺は力の使い方を制御する方法を学ぶべきだって!なんで教えてくれないんだよ!」


 ユウダイは**はぁ…**と、疲れたようにため息をついた。「僕の属性は君とは天と地ほど違うんだ、レグルス。どうやって教え始めればいいのか、僕にも分からない…」


「でも…だけど…!」


「レイン。おや?レグルス君」部屋に入ってきたラムザの穏やかな声が響いた。だが、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、レグルスはシュバッとラムザの眼前に移動していた。


「ラムザ兄貴!俺に力の使い方を教えてくれませんか!」


 ラムザは、少年の強くなりたいという意志に誇らしげな笑みを浮かべた。「すまない、レグルス君、それはできないんだ…僕たちの属性も、相性が良くない…」


「そっか…」レグルスはガックリと肩を落とした。


「だが、もしかしたら…教えられる者がいるかもしれない…」ラムザは、首筋をポリポリと掻きながら呟いた。


「ああ…彼か…」ユウダイが、何かを察したように言った。


 そして…


「なんでアンタなんだよ、このド変態がァァァ!」


「大騎士様、本気でございますか?」カインは、彼らを静かに見守るラムザに不満を漏らした。


「ああ。彼を教えろ、スノウ」


「しかし、大騎士―」その懇願するような、苛立った声は、


「命令だ、スノウ」というラムザの言葉に断ち切られた。彼の眼差しは真剣そのものだった。


「…御意のままに、大騎士様」カインの声から感情が消え、騎士としての口調に戻った。


(うおっ、こいつ、マジな話になるとキリッと態度が変わるんだな)


「それで…なんでアンタなんだよ、変態?」レグルスは、まだスノウの実力を疑いながら尋ねた。


「恐らく、私とあなたの属性が、ある意味で似ているからでしょう」


「アンタは雪を操るんだろ?それがどう俺と似てるって言うんだ?」


「なぜなら、我々二人は、同時に『固体』であり『液体』でもあるものを操るからです」その言葉に、レグルスの目がカッと見開かれた。


 彼らの周りに、サラサラと、何もない空間から雪が舞い降り始め、レグルスを驚かせた。「あなたは、非常に強力な竜の魔法に恵まれているのですよ、少年。私とは違う…私にできるのは、これくらいなものです…」カインはそう言い、彼の銀髪が濡れていく。降り注ぐ雪は、彼に触れるとほとんど瞬時に溶けていった。


「それで、どうしてアンタが『竜騎士』か何かなんだよ」


「ドラゴの騎士です!」カインは訂正した。「私の雪は、操作するために使います」彼は腕を上げ、雪で様々な彫刻を創り出した。その多くは可愛らしい動物だった。だが、大半はアルマの像で、それを見たレグルスはムッとして顔をしかめた。「このように、形を操ることもできますが」ポスッと、雪玉がレグルスの顔に当たった。「おい!」


「可愛らしくも、あるいは、塊としても」そう言って彼は雪でできた剣を創り出し、近くの木に投げつけた。スパァン!と、氷の刃は木を真っ二つにした。レグルスは、その威力にポカンと口を開けた。だがカインは止まらない。「それでも、これは雪に過ぎません…」彼は火の魔法を唱え、彼の周りのほとんどすべてがジュウウウと音を立てて一瞬で溶けた。彼は、優しく美しい顔が水となって消えていくアルマの像の一つを見つめた。


「アンタ、ほんと変な奴だな」レグルスは挑発した。


 だがカインは乗ってこなかった。「私の雪は、可愛らしくも、塊としても制御できる…あなたも、溶岩を液体として、あるいは固体として操る、似たようなことができるのではないですか?」


「乾いた岩は操れない…」レグルスは言った。


「なぜ操れないと思うのですか…いつも通りに、何かやってみなさい」


 レグルスは屈み、地面に手をついた。その仕草に、カインは眉をひそめる。ゴゴゴゴ…と、地面からマグマの手が隆起し、カインが前に創った雪の家を飲み込んだ。「全く、凄まじい破壊力だ…」カインは感心してコメントしたが、レグルスの方を向くと、彼が汗だくでハァ、ハァと息を切らしているのが見えた。「なるほど…」


「何がだよ…」レグルスは息を切らしながら答えた。


「マグマの竜の魔法の古の使い手たちは、このように力を使わなかったのでしょう?」


「知ってるさ…ユウダイ兄貴が前に言ってた…」


「古の使い手たちがやっていた方法で、何かやってみなさい」カインは命じた。


 レグルスは立ち上がり、ただ手を掲げた。すると、村の建物によく似た幾何学的な構造物が隆起し、形を成し、そして最後に乾いて岩となった。


 カインは、フッと自信ありげに微笑んで「ふん」と鼻を鳴らした。


「今度は何だよ」レグルスは、不快そうに言った。


「自分が何をしたか、違いが分かりましたか?」


「いや…?」


「『手』を創る時、あなたは全ての溶岩を溶けた岩に変えている。今あなたが創ったそれは、ほとんど乾いた溶岩を隆起させ、望む形に成形し、同時に岩にしているのです」


「なるほどな。でも、それが何の役に立つんだ?」


「この方法での操作を、集中的に学ぶのです」


「でも、それじゃ攻撃力が落ちる!ずっと液体じゃなきゃ、熱を制御できない!それに、すぐにマグマが固まって、制御を失うぞ!」


「その通りです!」カインは自信満々に言った。


「はあ?」


「『手』を創るには、集中する必要がある。あなたは屈み、地面を感じる。しかし、これは自然にやっている。理想は、集中することなく、両方を同時に制御することです」


 レグルスはカインの言葉を反芻し、そして…ニヤリと挑発的な笑みを浮かべた。「アンタ、変な奴だけど、頭は良いんだな、このド変態が!」


「よろしい、始めなさい、レグルス!」カインは彼に向き直り、剣を構えた。


「後で泣き言を言うなよ、カイン!」レグルスも戦闘準備を整えた。


 現在に戻り、ミッコはテーブルに座り、つまらなそうに頬杖をついて友人たちの訓練を眺めていた。蒼天の兵士たちが建てた小さな野営地は、退屈だった。彼は**はぁ…**とため息をついた。


「ミック君も訓練しないのかしら?」優しく女性的な声が後ろから響き、温かい驚きをもたらした。


「ラファおばさん!」ミッコは、ダイアンヤの母である、黒髪に赤い瞳の女性を見て声を上げた。「いや…俺は戦士じゃないから…訓練する理由なんてないよ…」彼は答えた。


 だが、隣から威厳のある声がした。「だが、あの職人の小僧は訓練しておるぞ。なぜお主はやらんのだ?」ホムラが現れ、その緑の一つ目が彼を射抜いた。


「俺は…分からない…」ミッコは答えた。


「怖がることはないのよ、ミック君。あなたも、ミッカちゃんのために強くならなくちゃ!」ラファはミッコを励まそうとした。ミッコは姉を見つめた。(俺は、本当に強くならなきゃいけないのか?)


「いずれにせよ、剣術の稽古も悪くはないだろう…小僧…」ホムラはコメントし、ラファに向き直った。「よろしいかな?」


 ラファは彼を見つめ、本来の話題に戻った。「ええ、ホムラ殿」


 だが、**ドオオォォン!**という轟音が三人の注意を引き、いや、実際には全員の注意を引いた。


 そう遠くない場所で、二つの人影がほとんど空中を飛んでいた。


 **ゴオオオオッ!**と、無数の溶岩の手が信じられない速さで空へと昇り、銀色の鎧と髪の男を掴もうとしていた。


 空中のレグルスは、まるで溶岩の手が自分自身の延長であるかのように腕を動かしていた。それらはカインに向かうが、カインは空中でただ避け、雪を使って触れただけで**ジュウウウッ!**と音を立てて乾かしていく。


「冷たすぎます。もっと熱を込めなさい!」


「やってるってんだ!」レグルスは文句を言い、再び手を掲げる。彼はマグマの腕の上を走り、跳び、さらに腕をカインに投げつけた。カインはマグマの手を避け、雪で凍らせていく。だが、レグルスの奇襲が彼を捉えた。地面、海の砂の下から、さらに多くの手が昇り、カインは剣でそれらを切り裂かざるを得なかった。


「よろしい!」


「まだ終わりじゃない!」レグルスは、さらに多くの手を掲げた。


 ミッコはまだ退屈そうに見ていた。「剣術の方が、あれよりマシかな?」


 ホムラはため息をついたが、ラファはまだ少年を励まそうとした。「人にはそれぞれ、得意なことがあるのよ、ミック君。私はアルカナの術をたくさん訓練したけれど、姉様やアーニャほど強力な魔道士にはなれなかった。でも、だからといって、私が役に立たないわけではないわ」ミッコは彼女を、困惑して見つめた。「誰にでも、得意なことがあるのよ」


 ミッコは再び友人たちの訓練に目を向けた。「そうだな…誰にでも、得意なことが…」

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