第16話「別れの炎」
マン・オ・ウォーの会議室の空気は、村から漂う煙の匂いと、そこにいる三人の男たちの間の暗黙の緊張でズッシリと重かった。水晶製の大きな窓からは、カイウナの村が一望できた。それはまるで抉られた傷口のようだった。破壊された家々、焼け跡の黒い染み、そして天騎士団の兵士たちが、まるで殺戮の跡を片付ける蟻のように、セカセカと動き回っている。
将軍であるホムラは、固く腕を後ろで組み、黙ってその光景を見つめていた。その隣で、武術指南役であるカイトが沈黙を破った。彼の年季の入った金色の鎧が、冷たい光を鈍く反射する。その声は、金属が軋むように重々しかった。
「まさか、この度の襲撃が『偶然』ではなかったと?」
大騎士であるラムザは、金属製のテーブルに広げられた地図に身を乗り出していたが、スッと顔を上げた。その青い瞳には、普段の穏やかさはなく、疲労と悲しみの影が差していた。
「斥候や他の情報提供者からの報告によりますと…ゲンソリア王国が、すでに対抗策を練っていたようです」。ラムザの声は抑制されていたが、その奥にはギリギリとした悔しさが滲んでいた。「サンダーの失踪だけでなく、我々が道中で受けた襲撃についても、彼らは突き止めていました…」
「この状況では…カイウナの村が我々に協力してくれるとは、もはや思えんな…」カイトは**ハァ…**と、その言葉に諦めを乗せて溜息をついた。
「なぜそう思われるのですか、カイト様?」ラムザは、純粋に驚いた声で尋ねた。
「彼らはこの襲撃で、あまりにも多くを失った」
「しかし、大長老は我々を支持すると…」
「彼がそう言ったからといって、民がそれに従うとは限らん…」カイトは、ラムザの言葉を遮った。その声は厳しかったが、残酷さからではなかった。「ある意味、ホムラ殿の言う通りだ…今日の襲撃は、我々の責任でもあるのだぞ、ラムザ殿」
ラムザはゴクリと息をのんだ。彼の顎の筋肉がピクッと引き締まる。自分たちの任務がもたらした悲劇が、ただの付随的損害として片付けられる。その冷たい論理を、彼は信じたくなかった。
「いずれにせよ」ホムラの抑えられた雷鳴のような声が、空気を断ち切った。彼はまだ窓の外を見つめている。「遠征は続行する」
カイトとラムザは、ハッとして彼に視線を向けた。
「我々はここまで来た。これ以上、時間を無駄にはできん。敵はすでに『古の世界』へ足を踏み入れている…」
「先に入ったからといって、彼らが大きく前進したとは限りません」ラムザは反論した。村を助けたいという衝動が、任務への義務感とせめぎ合っていた。
「この村の人々を助けたいという君の気持ちは理解できる、ラムザ殿。だが、我々は任務を最優先せねばならんのだ!」カイトは、職務への揺るぎない忠誠心をもって叫んだ。
「すぐには行かん、ラムザ」ホムラが、ついに彼らに向き直った。将軍の緑の一つ目には、この戦争のすべての重みが宿っているようだった。「ここで数日、休息を取る。全部隊を送れる状態ではない。言うまでもなく、多くの者が、あの過酷な土地へ足を踏み入れることを躊躇している」
「遠征部隊を…縮小されるのですか?」カイトが尋ねた。彼の戦略家の目が、すでにあらゆる可能性を計算していた。
「そうだ…案内人が減れば…送れる部隊も少なくなる…」
ドンッ!
ラムザの手が、雷鳴のような勢いで金属のテーブルに叩きつけられた。ズウゥン…と表面が振動し、他の二人は驚いて彼を見つめる。大騎士、あの穏やかで、冷静で、優しい男が、今は滅多に見せない激情に顔を歪めていた。こめかみに血管がピクピクと浮かび、その歯がギリギリと音を立てていた。
「あの…クソッタレ共が…!罪のない人々を、こんな理由だけで…!?」
カイトとホムラは何も言わなかった。ただ、虚ろな目で彼を見つめるだけだった。それは同じ痛みを映す鏡だった。ラムザの苦悶は、結局のところ、彼らの苦悶でもあったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マン・オ・ウォーの医務室では、治療水晶のかすかなウィーン…という音だけが静寂を破っていた。銀髪に、虚ろな灰色の瞳を持つ長身の男が、一つの寝台のそばにスッと立っていた。
カインは、まだ意識のないまま横たわる姿を見下ろしていた。それはミッカだったが、彼の目にはアルマの幻影しか映らない。彼は信じられないというように、彼女の体を視線でなぞった。(華奢な足、細い手…曲線を描く体は、あまりにも脆そうだ…)こんなはずではなかった。私の知るサンダーは、自然の力そのもので、圧倒的な存在だった。
彼の視線が、ついに彼女の顔に止まる。穏やかで、安らかで、その寝顔はほとんど幼い。(だが…彼女なのだろう?君なのだろう?そうでなければならない…君が行ってしまうはずがない…)彼の手が持ち上がり、その指がぷるぷると微かに震える。彼女の顔に触れようと、彼が受け入れがたい真実を確かめようとした、その時だった。
「その子に触るな、クソ野郎!」
若々しい、しかし傷ついた咆哮が彼の背後で響いた。カインが振り向くと、そこには**ガバッ!**と、自分の寝台から身を起こそうとするレグルスがいた。その視線は、怒りに燃えている。
カインはピッとミッカのベッドの脇にある警報水晶を押すと、レグルスのもとへ移動し、その肩をグッと力強く押さえつけて再び寝かせた。「無理をするな、少年」
「俺に触るな、この変態が!」
その罵詈雑言に、カインの目がピクッと震えた。普段は冷静な彼の顔に苛立ちが浮かび、彼はさらに強くレグルスを押し付けた。レグルスは痛みに呻きながらも、侮辱の言葉を繰り返す。
「黙れ、小僧!」
バシッ!
カルテの書字板が、カインの頭にクリーンヒットした。「いっ―」彼は、それが飛んできた唯一の方向であるドアに視線を向けた。彼の目は大きく見開かれ、そして侮蔑の色を帯びてスッと細められた。
ユウダイがそこに立っていた。その顔は怒りで真っ赤だ。「僕の患者に何してるんだ、この野郎!」
「私はただ、彼を落ち着かせようと…」
「この変態がミッカに何かしょうとしてたんだ!」レグルスがベッドから叫んだ。
「違う、私は―」カインは驚いて弁解しようとしたが、ユウダイの背後に立つ人物を見て、その言葉を失った。フユミが、虚ろで切り裂くような視線で彼を見つめていた。
「あら?」彼女はただそれだけを言ったが、その声色は判決そのものだった。
「申し訳ない…失礼する…」カインは敗北を認め、部屋を出て行った。ユウダイは怒りの目で彼を睨みつけ、フユミがその後を追う。彼女の声が、廊下で氷の鞭のようにしなった。「サンダーだけでは飽き足らず、今度はもっと幼い子にまで手を出すとはな、この人でなしが」
「だから違うと言っているだろう!」
二人の口論が廊下に消えていく。ユウダイはふぅーと深く息をつくと、真剣な顔で彼を見つめるレグルスに向き直った。
「お前は誰だ。ここはどこだ?」彼は尋ねた。
ユウダイは床から書字板を拾い上げ、水晶が羊皮紙にカリカリと書きつけるデータを分析し始めた。「僕はユウダイ。サ…アルマの仲間だ。そしてここは、旗艦の医務室だよ」
「旗艦だと?」レグルスは困惑して尋ねたが、ユウダイは彼を無視し、その顔を調べ始めた。「何をする!?」
「静かに。医者の診断の邪魔をするな」ユウダイは権威ある声で言い、レグルスは意外にもそれに従った。
「君の魂は、体の傷だけでなく、かなり損傷している…」
「どういうことだ?」
「マグマの竜の魔法を継承して、まだそう時間は経っていないだろう?」ユウダイが尋ねると、レグルスはゴクリと息をのんだ。(なぜ、それを…?)「無効化魔法を持つ誰かさんが、証拠をほとんど消してくれたから、あまり研究はできなかったけど…君の能力の使い方は、まるで『付け焼き刃』だ」
「お前の言ってること、何一つ分からんぞ!」レグルスは抗議した。
「竜の魔法は文字通り受け継がれる…君が使う力は、古の使い手たちが使っていた力そのものだ。そして僕が見るに、彼らはそれを攻撃的には使っていなかった。だから君は、それを正しく制御できていない。例えるなら、騎士が剣を使うのではなく、農夫が鎌で戦っているようなものだ。分かるかい?」
レグルスは黙り込み、自分の掌を見つめた。ユウダイは正しかった。彼の知る限り、古のマグマのドラゴの子らは戦士ではなかった。その力を本当の意味で戦いに使ったのは、彼が初めてだった。(だからか…)
「俺は…弱いのか?」その問いが、弱々しい吐息となって漏れた。
ユウダイは真剣な顔で彼を見た。「そういうわけじゃない…ただ、君は自分の力を制御する方法を学ぶ必要があるだけだ…」彼は立ち上がり、ミッカの方へ向き直った。「僕だってそうだ…僕の力は、本来戦闘で使われるようなものじゃない。でも…僕の先祖たちがこの力を鍛え、武器として役立つように磨き上げてきた…」
レグルスは彼を見ていた。彼は知っていた。初めて彼らを見た時から。カイン、フユミ、ユウダイ…ミッカと同じように。彼らの存在感は、紛れもないものだった。ドラゴの子は、常に別のドラゴの子を認識するのだ。
「お前の…力は、何なんだ?」レグルスは、ためらいがちに尋ねた。
ユウダイは彼に向き直り、その顔に挑戦的な笑みを浮かべた。「僕はユウダイ。天騎士団のドラゴの騎士だ。『雨』のドラゴの子、レイン。君は?」
「レグルス…レグルス・ラニアケア。『マグマ』のドラゴの子だ」レグルスは、初めてその名をはっきりと口にした。
「ヴォルケーノ、だな」ユウダイは締めくくった。その言葉が空中に漂う。アイアンの嘲笑が蘇るが、今やそれは称号として、一つのアイデンティティとして響いた。(そうか…これが、俺の称号か…)
彼はユウダイを見たが、その注意はすでにミッカへと戻っていた。
「彼女は、大丈夫なのか?」
「君と同じで、力を使いすぎた。でも君がただ力の使い方を知らずに魂を疲れさせたのとは訳が違う。彼女は…限界を遥かに超えたんだ。体だけでなく、魂そのものを、ボロボロになるまで傷つけた」
「アルカナ魔法はよく分からんが、なぜ『魂』が傷つくんだ?」
「これはアルカナ魔法とは関係ない。アルカナ魔法はマナを燃料とし、魂を触媒にする。竜の魔法は違う。マナを消費しない。なぜなら、魂そのものが魔法として扱われるからだ。だからこそ、この力を上手く制御することを学ばなければならない。馬鹿みたいに使えば、魂を傷つけることになる。筋トレのようなものさ…重いウェイトを持ち上げれば、確かに筋肉はつく…でも、無理をしすぎれば、筋肉は断裂するだろう?」ユウダイは、レグルスの腕を見ながらからかった。「体を鍛えるのもいいが、君のマグマを強くするのは、それだけじゃないぜ、ヴォルケーノ」
「俺は―」レグルスは反論しようとしたが、そのお腹が**グゥゥゥ〜**と、大きく、情けない音を立てた。
ユウダイはフッと息を吐きながら微笑んだ。「何か食べるものを持ってきてやろう。もう夜も遅い。食べたら、また寝るんだ」彼はそう言って、ドアから出て行った。
「別に、眠くはないが…」
「医者の言うことを聞け、ガキが!」彼の怒鳴り声が、廊下から響き渡った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝の太陽は灰色の空の下で昇り、まるで世界そのものが喪に服しているかのようだった。夜は長かった。倒れた者たちの亡骸を収容するという、陰鬱な作業に費やされた。そして今、浜辺には重い沈黙が垂れ込め、抑えられた嗚咽と、葬送の優しさで砂を撫でる波の音だけが響いていた。
兵士たちの手で効率よく組み上げられた黒木の高い台座が、薄明の水平線を背にそびえ立っていた。その上には、白い布に包まれた、村の愛する者たちが横たわっている。ホムラは厳粛な面持ちで松明を手に近づいた。炎が乾いた木に触れると、**パチパチ…**と音を立て、ゴオオオッとオレンジ色の火柱が天へと昇り、魂を大いなる循環へと送り返す火葬の炎となった。
村人たちは集い、その顔には痛みが刻まれていた。祈り、泣き、喪失感を分かち合いながらギュッと抱きしめ合っていた。天騎士団の兵士たちはその間を動き、肩を貸し、慰めの言葉をかけ、静かで確かな支えとなっていた。栄誉礼として、ホムラ将軍を先頭に天騎士たちが整列していた。彼らの剣は切っ先を下に向けられ、両手で胸の高さに掲げられている。その刃は、敬意に満ちた静かな追悼の中で、炎を鈍く反射していた。
波が白く泡立って消える水際で、三つの影が燃え盛る台座を見つめていた。ダイアンヤ、テセウキ、そしてミッコ。炎から発せられる熱は彼らを温めはしなかった。むしろ、戦いと喪失の悲しい記憶を煽り、内側から彼らを焼いていた。
ザッ…ザッ…と、濡れた砂を踏む重い足音と共に、四つ目の影が現れた。レグルスだった。左腕にはグルグルと包帯が巻かれている。彼はダイアンヤの隣に立つと、同じように炎を見つめた。
「ミッカちゃんは…目が覚めた?」彼女の声は、炎のパチパチという音にかき消されそうなほどの囁きだった。
「いや」彼の返事は、無愛想で短かった。
再び、重く気まずい沈黙が彼らの間に落ちた。
「ダイアンヤ、俺は…」レグルスが、しゃがれた声で切り出した。彼はゴクリと息をのみ、傷ついた胸の中で勇気を振り絞っていた。「ケンジおじさんが死んだのは…俺のせいだ…」
ダイアンヤの目がカッと見開かれた。ミッコとテセウキは驚いて振り返り、まるで初めて見るかのようにレグルスを見つめた。
「…あの時…ミッカはあいつを助けに行こうとしてた。でも俺は…俺は…」熱く、苦い涙が彼の顔を伝い、煤の上に綺麗な筋を描いた。「…俺はただお前を見て…あの鉄屑がお前に向かっていくのを見て…ミッカにお前を助けに行けと叫んだんだ…」
ダイアンヤは従兄を見つめた。あの、いつも冷静な戦士が、今は罪悪感に打ち震え、壊れていた。
「…ごめん…ごめん…悪かっ―」
彼が言い終わる前に、ダイアンヤは彼をグイッと引き寄せた。それは慰めではなく、肯定の抱擁。激しく、そして守るような力強さで、彼の言葉を封じた。
「バカ!」彼女は、彼の肩に顔をうずめて言った。「あんたが無事で…あたしは、嬉しいよ!」
「…ごめん…」彼は、その抱擁の温かさの中で、プライドの最後の壁が崩れ落ち、ただ嗚咽した。
テセウキとミッコが近づき、四人は一つの塊となった。浜辺の広大さの中で、傷ついた心を持つ四つの小さな塊。燃え盛る火葬の炎を背景に、彼らは涙に暮れた。一人ではあまりにも重すぎる荷を、共に分かち合うために。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数時間後、灰の匂いは医務室の清潔で無菌の匂いに変わっていた。四人の仲間たちは、ミッカが眠るベッドの周りに集まっていた。彼女は深い眠りの中で穏やかな顔をしており、彼らを苛む痛みには気づいていない。
「あいつ、起きるのに時間かかるのかな?」テセウキが心配そうに尋ねた。
「そうじゃないといいけど、ユウダイさんがただ回復してるだけだって言ってた。魂が休息を必要としてるんだって」ミッコは、医者の言葉を慰めの呪文のように繰り返した。
「お姉ちゃん…?」レグルスが呟いた。その言葉は彼の唇には不似合いで、躊躇いがちだった。
他の三人が、パッと一斉に彼に視線を向けた。テセウキは片眉を上げ、疲れた顔に意地悪な笑みを浮かべた。
「なんだよ、今更あいつのこと姉ちゃんだとでも?諦めたのか?」彼はからかった。
「そんなわけねえだろ、バカ!」レグルスはカァァッと顔を赤らめて言い返した。
「じゃあ、俺の姉ちゃんのこと好きだって認めるんだな?」ミッコも悪戯っぽく加わった。
「違う!ていうか…そうじゃなくて!俺は…」
ミッコとテセウキは身を乗り出し、大げさな好奇心の仮面を浮かべた。「ふーーん?」
「そういうことじゃないのよ」ダイアンヤが真剣な、しかし面白がるような声で割って入った。「ミッカちゃんが言ってた通りでしょ、アルマが乗り移った後、目が覚めてから。違う、レグルス?」
レグルスは、話題が変わったことに安堵し、頷いた。「ああ…まるで、全くの別人二人のようだ。ただ記憶を失くしただけじゃない…」
「それには説明がつく」
穏やかで、しかし凛とした男性の声が、ドアの方から響いた。四人はハッとして振り返った。ラムザがそこに立っていた。その圧倒的な存在感が、小さな部屋を満たしていた。
「ラムザさん、それを詳しく説明していただけますか?」テセウキが、敬意を込めて尋ねた。
「うむ。だが、今ではない」彼は部屋に入り、その歩みは金属の床に音を立てなかった。そして、四人の完全な驚きの中、彼はスッと膝をついた。大騎士、彼らが見た中で最も強力な男の一人が、彼らの前で頭を垂れた。
「まず、君たちが僕の妹の世話をしてくれたこと、心から感謝する…本当に、ありがとう…」
四人はビクッとして、ほとんど後ずさりそうになった。その衝撃に、彼らは固まってしまった。
「ラムザ様、そのようなことは!!」ダイアンヤが、顔を赤らめて叫んだ。「ほとんどの場合、あたしたちの世話をしてくれたのはミッカちゃんの方です!」
「そうです、ラムザ兄ぃ!」ミッコも、新たに見つけた親しみを込めて同意した。
「兄ぃ?」レグルスは困惑した。
ラムザは立ち上がり、その唇に優しい笑みを浮かべた。「だが、説明する前に…ミッカが目覚めるのを待とう。彼女はもう知っていると思うが…念のため、彼女にも伝えなければならない。彼女と…アルマの、出生について…」




