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ドラゴの子  作者: わる
第一幕 - 第十環: 彼方の地
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第15話「分かち合った重荷」

 空気はオゾンと埃、そして死の匂いがした。


 テセウキは、かつて故郷だった道を歩いていた。だが今、そこは青空の下の墓場のようだった。遠くで炎がパチパチと燃える音と、生き残った者たちの押し殺したような嘆き声だけが、この荒廃した風景のサウンドトラックだった。天騎士団の兵士たちが、冷たく機械的な効率で瓦礫の間を動いている。村人の亡骸を回収し、すぐに煤と血で汚れてしまう白い布で覆う者もいれば、ミッカがその雷の怒りで殲滅した黒鎧の騎士たちの、ねじ曲がり原型を留めない残骸を集める者もいた。


(なぜだ?どうしてこんなことが…ここで?) その問いは、答えのないまま彼の心に響いた。体は惰性で動き、緋色に染まった踏み固められた土の上を引きずるように足を進め、やがて彼は立ち止まった。運命が、彼を悪夢の始まりの場所へと引き戻したのだ。


 ミッコの面倒を見ていた夫婦の家。彼の手が、創るためにあったはずの手が、破壊するために使われた場所。


 記憶が、乾いた、鮮明で残酷な映像として蘇った。**ザシュッ!**と、オレンジ色の刃が空気を切り裂く。最初の騎士の首筋に、鋼が肉を断つ湿った感触。そして、女騎士の驚愕に満ちた眼差し。ミッカの剣で彼女を壁に縫い付けた、あの瞬間。だが…とどめは刺さなかった… 絶望的で偽りの思考が、彼の心に一瞬だけ閃いた。もしかしたら彼女は…


 その希望は、**ギィィ…**と音を立てるドアを押した瞬間に死んだ。


 男騎士の亡骸は、彼が放置した場所にそのまま転がっていた。だが、その下の血だまりは広がり、どす黒く固まっている。首はグロテスクな角度に折れ曲がり、皮一枚でかろうじて胴体と繋がっていた。彼の手によって。


 **ハァ、ハァ…**と、テセウキは息をのんだ。息を吸うたびに、胸に鋭い痛みが走る。彼は視線を左に向けた。女騎士の亡骸は、倒れた場所にはなかった。彼女は数メートル這いずったのだろう、今は壁にもたれかかり、生気のない瞳で虚空を見つめて座っていた。まるでガラスの上を歩くようにゆっくりと、彼は彼女に近づいた。その手には、小さな懐中時計のついた首飾りが握られ、蓋が開いていた。中には、優しく微笑む男女の顔が彫られた小さな水晶がはめ込まれていた。最期の瞬間に、彼女は戦いや痛み、敵のことなど考えていなかった。ただ、己の家族を見ていただけなのだ。


 現実が、鉄拳のように彼を打ちのめした。


 ガクンッと、テセウキは膝から崩れ落ちた。胃の中のものを**オエェェッ!**と吐き出し、体が痙攣する。熱く、苦い涙がようやく溢れ出し、顔の煤の上を伝って綺麗な筋を描いた。


(俺は創り手であるべきだった…職人であるべきだった…) その思考は、声なき叫びだった。(それなのに…今の俺は…ただの人殺しだ…)


 彼はギリリッと、顎が痛むほど歯を食いしばった。その苦悶は、喉の奥で叫びとなって詰まっていた。


「それが君の罪か、テセウキ君?」


 穏やかで聞き覚えのある声が、テセウキの嘆きを切り裂いた。彼は振り向かなかった。振り向けなかった。壊れたまま、そこにうずくまっていた。しかし、その男は彼の隣まで歩み寄り、静かに屈んだ。その場にそぐわない優しさで、ラムザは女騎士の手に触れ、その指を懐中時計の上でそっと閉じさせ、胸元へと運んだ。そして、穏やかな手つきで彼女の目蓋を閉じさせた。そして、静かに祈りを捧げ始めた。


 テセウキはその一連の仕草を、その敬意を、ただ見つめていた。彼の混乱した心には、「なぜ」という言葉だけが浮かんでいた。ラムザは、彼が口を開く必要などないことを知っていた。


「敵とは、戦場においてのみ現れるものです…」ラムザは、まだ目を閉じたまま言った。戦場を離れれば、そこに残るのはただの死者だ。「時に、戦争は我々を困難な状況に追い込む…誰もが戦いを好むわけではない。だが、多くの場合、我々は戦わねばならない。自分自身を、愛する者たちを、我々の王国を、騎士団を…守るために。あるいは、我々がやらなければ…他の誰かがやることになるから…」彼はついに目を開き、その穏やかな青い瞳がテセウキの彷徨う視線を捉えた。「僕が初めて人を手にかけたのは、十五の時だった…」


 テセウキは信じられないという顔で彼を見つめた。


「テセウキ君、我々の初めては、似ていたのかもしれないな…僕もまた…友の命か、目の前の敵の命か、その選択を迫られたのだ」


「あんたは騎士だから…簡単に言えるんだ…」テセウキの声はしゃがれていた。「敵の命を奪うために、訓練されてきたんだから…」


「その点については、君の言う通りだ…だが、それは僕が…血で手を汚すことを好むという意味ではない」。ラムザは、深い真剣さで彼を見つめた。「誰であろうと、人の死を避けられるのであれば…僕は最大限努力する。結局のところ…」彼は人差し指で、テセウキの胸をトンと軽く突いた。「それが我々を人たらしめるものなのだからね、テセウキ君」


「すみません…」テセウキは呟き、再び涙が溢れた。「俺は、あいつらの中で一番年上だから、一番しっかりしなきゃって…いつも自分に言い聞かせてきたのに…でも…でも、俺は…なんて情けないんだ!」


 意外にも、ラムザは笑った。彼の魂を蝕んでいた冷たさをいくらか溶かすような、穏やかで温かい笑い声だった。「テセウキ君、君は何歳かね?」。


「…十八です…」


「おや?ならばもう立派な一人前の男ではないか!」。ラムザは立ち上がり、その姿は陽の光に縁取られていた。彼はテセウキに手を差し伸べた。「友を守るために全力を尽くした男のどこが情けないというのだ。むしろ、僕はそういう者たちを、最も好ましく思うぞ!」。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 数時間後、戦闘の熱気は冷め、陰鬱な秩序が訪れていた。天騎士団の艦隊は浜辺に停泊し、いくつかは凍りついた敵艦の残骸の上に浮かんでいた。兵士たちは村の大部分を片付け、負傷者は医療テントで手当を受け、重傷者はマン・オ・ウォーの医務室へと搬送された。ミッカ、レグルス、そしてミッコは入院し、全員がユウダイの治療を受けていた。テセウキは、まだ重い心を抱えながらも、「大騎士」たちを手伝い、生存者の整理をしていた。ラムザは冷静に作戦の指揮を執っていた。


 そして、ホムラ将軍は、任務のなかった最高位の騎士たち——シリウス、フユミ、カイン、そしてラムザと同じく鎧の装飾が金色である壮年の騎士カイト——と共に、大長老が身を寄せるために急遽建てられた質素なシェルターへと向かっていた。


 彼らが到着すると、四人の騎士は外で一列に並び、ホムラが中へ入るのを見守った。将軍は大長老に近づくと、躊躇なくその場に膝をついた。


「大長老殿、この度のこと、誠に申し訳ございませんでした」。


 外で、カイトも同時に膝をついた。フユミとカインはその行動に驚いたが、すぐさま同じように膝をついた。シリウスは将軍と仲間たちをキョロキョロと見比べ、もう一度将軍を見て、そして、不満げにため息をつきながら、ようやく膝をついた。


「ホムラ君、気にするでない…」大長老は、疲れた声で言った。


「我々はドラゴンの群れに襲われ、遅れを取りました…」ホムラの声には、深い悔恨が滲んでいた。「我々の無能…我々の失敗故に…もし半日でも早く到着していれば、我々は—」


「この喪失の重みは、そなたの罪ではない、ホムラ君」大長老は将軍の言葉を遮り、その賢明な眼差しが将軍を捉えた。「我々は、これが罠だと知っておった。それでも、敵がここへ来ることを受け入れたのじゃ…」


 その言葉に、ホムラは言葉を失った。ただ、頭を垂れて膝をついたままだった。


 数分後、会談は終わった。ホムラは他の長老たちと次の段階について話し合うため去った。フユミとカインは歩きながら、静かに荒廃した村を見つめていたが、シリウスは我慢できなかった。


「おい…なんで将軍はあんなジジイに頭を下げてやがんだ?」。


 フユミとカインは彼を一瞥した。彼らも同じ疑問を抱いていたが、それを口に出すほど無神経ではなかった。


「我々とカイウナの村との同盟は、数十年にも及ぶ…」カイトが、その重々しく毅然とした声で言った。「それだけではない…我々の多くは、ここの者たちと深い友情を育んできた…特に、ホムラ将軍はな」


「…なるほどな…」シリウスは、少しだけ小さくなったようにコメントした。


「つまり、敬意を払うべきだということだ、シリウス」カインは、平坦だが疑う余地のない口調で言った。


「はいはい、悪かったよ」シリウスはそう返したが、すぐに彼の注意は別のものに向けられた。フユミが立ち止まり、**ジッ…**と、難民用のテントの一つを凝視していた。「どうした、ブリザード?」


 シリウスは彼女の視線を追った。中には、長い白髪の少女が地面に座り込み、壁にもたれて膝を抱えていた。その魂は、深い悲しみの広大な海で迷子になったかのように、空っぽの抜け殻だった。


「シリウス、彼女は…」フユミが、低い声で言った。


「ああ、アルカナへの素質があるな」彼はそう答えた。


 フユミは、彼女に向かって歩き始めた。シリウスは一瞬、彼女を止めようかと考えた。今はその時ではない、と。だが、ブリザードの冷たい決意の中に何かを感じ、彼は口を閉ざした。これ以上、首を突っ込むのはやめておこう、と彼は決めた。


 フユミは仲間たちから離れ、その足取りは降る雪のように滑らかで静かだった。彼女はテントに近づいた。そこでは、ダイアンヤが縮こまった姿で座っており、その姿は組織的な避難の混沌の中にある、痛みの静寂に包まれた島のようだった。一言も発さず、彼女は少女の隣にスッと腰を下ろした。鎧の金属がコツンと微かに擦れる音が、二人を包む静寂の中ではやけに大きく響いた。


「お名前は、お嬢さん?」フユミの声は穏やかで、「ブリザード」という彼女のコードネームの由来となった普段の冷たさはなかった。


 白髪の少女は動かなかった。普段は炎と傲慢さで満ちているその赤い瞳は色を失い、目の前に広がる破壊の虚空を見つめていた。時が流れる。遠くで見ていたシリウスは、プラチナブロンドの眉を上げた。カインの不動の表情でさえ、一瞬だけ揺らいだ。ブリザードがこのように振る舞うのは、普通ではなかった。


 フユミが、彼女は答えないだろうと思った、その時。かろうじて聞き取れるほどの音が、ダイアンヤの唇から漏れた。


「…ダイ…アンヤ…」


「ダイアンヤちゃん。素敵な名前ですね」フユミはそう答え、その唇には純粋で優しい笑みが浮かんだ。「大丈夫ですか、ダイアンヤちゃん?」


「うん…」と、一言だけの返事があった。


「何があったのか、話したいですか?」


「ううん…」


「そうですか…」フユミは言い、笑みは消えたが、その眼差しの優しさは残っていた。彼女は諦めなかった。その視線は、仲間たちが銀色の亡霊のように動く村の廃墟へと向けられた。「私も小さい頃、故郷を襲われたことがあります…」


 その言葉は、重く、予期せぬものとして空気中に漂った。


「私の家は、蒼天の王国の貴族でした」彼女は、低く、落ち着いた声で続けた。「私の血筋は、代々『雹』のドラゴの子の力で、何世代にもわたって力を得てきました…しかし、その力を自分たちのものにしようと、ある対立していた一族が、私の家族が守っていた街で内戦を起こしたのです…彼らは…街の者たちを皆殺しにしました…私の家族も、全員…私だけが生き残りました…なぜだか分かりますか、ダイアンヤちゃん?」


 ダイアンヤの虚ろな眼差しに、ほんの少しだけ生命の光が宿ったようだった。痛みの闇の中に、理解の火花が散る。その瞳は、さらに悲しみを帯び、ゆっくりとフユミに焦点を合わせた。


「…竜の魔法を…盗むため…?」彼女は囁いた。


「…ええ…そして、竜の魔法がどのように受け継がれるか、知っていますか、ダイアンヤちゃん?」フユミは優しく尋ねた。


「…親から…子へ…?」


「まあ…間違ってはいません…でも…」フユミは思案するように、指を唇に当てた。「最も血の近い親族に、受け継がれるのです…」


 ついに、ダイアンヤは顔を上げた。その表情には、混乱と悲しみが刻まれていた。


「私は、家族の竜の魔法の継承者ではありませんでした…」フユミの眼差しは遠く、暗く、痛みを伴う記憶の中に彷徨った。「私が唯一の生存者となったのは、あたしがただの子供だったからです。彼らはただ、あたしが十分に成長するのを待っていたのです—」フユミはグッと息をのみ、喉の奥から込み上げるトラウマに言葉を詰まらせた。「こ、子供を…産むために…」


 ダイアンヤの目はカッと見開かれ、その瞳の赤は純粋な恐怖の色に変わった。


「私が望まない子供を産んだその瞬間に…彼らは私を殺すつもりだったのでしょう…」フユミは顔を上げ、その視線は山の壁の向こうに広がる灰色の空に彷徨った。


「…どうやって?」ダイアンヤは、途切れそうな声で尋ねた。


「私は六歳で雹を操る力を手に入れました。そして、私は…」フユミは顔を伏せた。たとえ復讐のためであったとしても、その記憶は彼女が蘇らせたいと思うものではないことは明らかだった。


 その沈黙を破ったのは、ダイアンヤのしゃくりあげる声だった。


「…あたしは、パパを救えなかった…」彼女は、詰まった声で告白した。「…彼の存在とミッカちゃんの存在を消す魔法を使ったのに…あたしたちがようやく勝てると思った時…あたしは…あたしが弱かったから…ミッカちゃんが助けてくれたけど…」ダイアンヤはついに感情に負け、涙が自由に流れ落ち、顔の煤を洗い流して痛みの軌跡を描いた。「パパ…パパ…」


 躊躇なく、フユミは動いた。彼女はダイアンヤを自分の胸へとギュッと引き寄せ、固く、守るような抱擁で包んだ。「ブリザード」の冷たさは溶け、その痛みを知る者だけが持つ温かさが、そこにはあった。ダイアンヤは彼女にしがみつき、その体は喉を引き裂くような嗚咽で震えた。


「パパ…ごめんなさい…」

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