第14話「天騎士団」
雨が、ポツ…ポツ…と降り始めた。
最初は疎らで重い滴だったが、やがてザーザーと音を立てる冷たいカーテンとなり、燃え盛る村へと降り注いだ。激しい雨は、破壊された家々の燃えさしに触れてジュウウウッと音を立て、黒い煙と混じり合う水蒸気の雲を立ち上らせた。空気は濃く、息もできないほどだった。
レグルスは冷たい水が顔を伝い、左の瞼にこびりついた乾いた血を洗い流すのを感じた。彼の肩に寄りかかるダイアンヤは、まるで抜け殻のようだった。彼女の体は彼の動きに合わせて揺れるが、その瞳は虚ろで、故郷と心の廃墟の先にさまよっている。一歩進むごとに拷問のようだ。全身の筋肉が悲鳴を上げている。彼を立たせ、地質学的な怒りの化身に変えたアドレナリンは今や消え去り、後には痛みと、押し潰されそうなほどの疲労だけが残っていた。
その時、閃光が彼の目を眩ませた。
彼は顔を上げ、残った片目を見開いた。嵐の空を引き裂き、純粋な黄色いエネルギーの巨大な槍が天へと昇っていく。それはまるで太陽そのものが貫かれ、その本質が世界に溢れ出たかのような、強烈な力の柱だった。その光景は恐ろしくも荘厳で、怒れる神の最後の一撃。戦いの、最後の残響だった。
しかし、彼の注意を引いたのは別の音だった。ギシギシ…と、深く、苦しげな金属の呻き声。
遥か上空で、アイアンの戦艦――彼の民に死をもたらした空飛ぶ要塞が、墜ちていく。それは瀕死の金属の獣だった。船体を貫く巨大な氷の華は、まだ青白く不吉な光を放ち、シリウスの亡霊のような青い炎が、静かで貪欲な火事となって船体を喰らっている。内部からの爆発がドカン、ドカンと構造を揺らし、すでに荒廃した村に瓦礫の雨を降らせた。船は墜ちてくる。それも、自分たちの真上へと。
凍りつき、燃え盛るマン・オ・ウォーの甲板では、状況は同じく混沌としていた。
「小型の船の一つでも取っておくんだったぞォォォ!」シリウスが叫んだ。いつもの傲慢さはパニックに変わり、その声は甲高く裏返っている。足元の床が傾き、自由落下が始まった。「どうすんだよォォォ!」
「申し訳ありません、シリウス。敵が逃げられぬよう、私が他の船は破壊しました」と、ブリザードが隣でコメントした。その声はあまりにも穏やかで、死へと引きずり込む重力への侮辱のようだった。
「せめて一隻くらい俺様たちのために残しておけ、ブリザード!!!」彼は、純粋な意志の力で飛ぼうとするかのように、腕をブンブンと振り回した。
「レイン…」スノウの声が、シリウスの絶望を切り裂くように、いつも通り冷静に響いた。「あの船は村に墜落します」。彼の落ち着きは、それを仕事上の厄介事の一つとして捉えているかのようだった。
「だから何だって言うんだい?」と、レインは「僕にどうしろって言うんだ」というニュアンスを込めて答えた。
「雨を使い、船を逸らしなさい」と、スノウはこともなげに言った。
その提案に、レインは爆発した。「あれが何百トンあると思ってるんだ!?僕の雨だけで軌道を変えられるわけないだろう!」
「できないのですか?」スノウは、銀色の眉をわずかに上げて尋ねた。
「できるわけないだろ!」
「情けない…」
「なんだと、この野郎!」
「二人とも、黙りなさい」ブリザードの声が、冷たく、苛立ちを帯びて二人を黙らせた。「シリウス!」
「わ、分かってるよ…」プラチナブロンドの騎士はぶつぶつ言った。次の瞬間、彼の態度は一変した。パニックは消え、強烈な集中力に取って代わられた。自由落下の真っ只中、彼はまるで固い地面に立つかのように姿勢を正し、手を胸の前に上げた。春の若葉のような、柔らかく緑色の光が彼の手のひらで輝いた。彼が目を開くと、同じ緑色の輝きがその瞳から放たれていた。彼の声は今や力強い詠唱となり、風の轟音を切り裂いた。
「鳥のさえずり。蝶の羽ばたき。穏やかなるそよ風。荒れ狂う竜巻の風。我、汝らに願う。その力を貸し与えたまえ、風の神々よ!」
シリウスは、墜ちていく船体に向かって手を突き出した。「《アネモイ・テュモス》!」
ビュオオオオオッ!
圧倒的な突風が、雨に濡れた空気の歪みとなって、彼の手から爆発した。空気の壁は、巨人の一撃のように瀕死の船の船体に激突し、金属が呻き、軋む音を立てた。ゆっくりと、落下の軌道が変わっていく。村の中心を向いていた船首が、今や広大な海の方へと傾いていた。
「あいつが、あんな単純な属性魔法でこれをやってのけるなんて、信じられないな…」レインは、感心しながらも悔しそうにコメントした。
「まあな…何しろ、この俺様だからな!」シリウスは自慢げに言った。傲慢さが勝ち誇って戻ってきた。「さて…どうやって着地するんだ?!」パニックが、再び全力で彼を襲った。
「まあ…僕は雨粒にでもなろうかな…」レインは、肩をすくめて言った。
「私の雪が、落下の衝撃を和らげてくれるでしょう…」スノウは、平然と話した。
「たとえ砕け散っても…雹が私を再構成します…」ブリザードは、冷たく告白した。
「お前らはそれでいいだろう!俺様はドラゴの子じゃないんだぞ、こんちくしょう!」
「レイン…」スノウの声には、焦れたような響きがあった。
「分かってる、分かってるよ…」雨の子はぶつぶつ言った。シリウスに降り注ぐ雨粒が奇妙な振る舞いを始めた。より密度を増し、ほとんど固体のようになり、彼を圧力の高い水の繭で包み込み、その落下速度を緩め、死のダイブをゆっくりとした降下へと変えた。
他の三人は、空中でその姿を消した。レインは、自ら呼び出した嵐と一つになった。スノウは、風と踊る吹雪となった。ブリザードは、百万のきらめく氷の結晶となって砕け散った。
彼らは衝撃ではなく、囁きと共に浜辺の砂に着地した。
シリウスは、レインが彼らを敵艦に運ぶために使ったのと同じ技術で、実質的に雨の上を「歩き」、ついに地面に足をついた。「あいたた…なんで最初からこれをやらなかったんだ、レイン?」彼は、苦痛で顔を青ざめさせながら呻いた。
彼の隣で、雨粒が空中で止まり、合体して人間のシルエットを形成し、やがてレインが、完全に乾いた姿で現れた。彼は満面の笑みで両腕を広げた。「燃え盛る船から飛び降りるなんて、最高にクールじゃないかい?!」
「お前が言うな…」シリウスはぶつぶつ言った。
砂の上の雪の山がもぞもぞと動き始め、雨に溶けていき、その中からスノウが立ち上がった。彼は、軽蔑した表情で自分のマントと鎧についた砂を払った。「濡れた砂か…レイン、もうその雨を止めてもいい頃合いではないですか?」
「まだだ。戦いの状況を完全に把握するまではね。」
近くで、氷の結晶が地面から舞い上がり、渦を巻いて融合し、ブリザードの姿を形作った。彼女は非の打ちどころがなく、穏やかで、清潔だった。その光景を見て、スノウは自分の砂まみれの服と、雪よりも白く見える彼女の服を見比べた。
「もう戦いなどないでしょう…」彼女はコメントした。その真剣な眼差しが、村の惨状を捉える。「大騎士様がここまでお越しになった以上、立っている敵などいるはずもありません。」
「どのみち…僕は行ってくるよ」レインはそう言うと、彼の体は再び雨粒となって溶け、消えていった。
◇ ◇ ◇
丘の上から、レグルスは船がその死の軌道を外れ、遠くの海へと轟音と共に墜落するのを見た。最後の脅威は、去った。
「…そうか…俺たちは…勝ったのか…」
その言葉は、空虚に響いた。彼を意識不明の淵から引き留めていた唯一のもの、アドレナリンが、指の間からこぼれる砂のように消えていった。彼の瞼が、耐え難いほど重くなる。世界がグニャリと歪み、そして、ドラゴの子、ボルケーノは、ついに気を失い、崩れ落ちた。
ダイアンヤは、ぴくりとも動かなかった。虚ろな、カタトニックな眼差しが虚空を見つめ、従兄が自分の方へと倒れてくるのも気づかない。
ガキン、と金属音がした。
レグルスの体が石畳に叩きつけられる寸前、誰かが彼を支えた。金属の手甲に包まれた手、白いマント、そして薄茶色の髪。
レインがそこにいた。いつもの屈託のない笑顔は消え、真剣で、敬意のこもった表情をしていた。彼は腕の中の気を失った少年に、そして周りの村の惨状に目をやり、雨音の中、低く、しかしはっきりとした声で言った。
「よく戦ったな…ボルケーノ…」
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遠くから、魂を切り裂くような叫び声が聞こえた。
「ミッコォォォ!」「ミッカァァァ!」
その声に突き動かされ、テセウキはがむしゃらに走った。村へと続く坂道を駆け下り、浜辺へと突進する。ブーツに砂が絡みつくのも構わず、ただ必死に友の元へと。
「テセウキ兄貴!」
ミッコの安堵と恐怖が入り混じった声。彼の肩には、ミッカがぐったりと寄りかかっている。
「おい、二人とも無事か!?」テセウキはぜえぜえと息を切らしながら叫んだ。
「ええ…なんとか…」と、ミッカがか細い声で答える。その目は虚ろだ。
「姉ちゃん、あまり喋るなよ」ミッコが心配そうに言った。
「おい!」テセウキはミッコを手伝い、ミッカの体を自分の肩で支えた。彼女の体は、見た目以上に驚くほど軽かった。
「ありがとう…テセウキくん…」
それが、彼女の最後の言葉だった。フッ…とミッカの意識が途切れ、体から完全に力が抜ける。その瞬間、**ゴゴゴゴゴゴ…**という地響きと共に、耳をつんざくような金属の断末魔が空に響き渡った。見上げると、巨大な戦艦が海へと墜落していく。
ドッッッッッッ!!!
天を突くほどの水飛沫が上がり、すべてが終わったかのような静寂が浜辺を包んだ。
「…終わった…のか…?」テセウキが呆然と呟いた、その時だった。
「ほう?」
穏やかで、しかし空気を震わせるような威圧感のある男性の声がした。
彼らの目の前に、一人の男が立っていた。銀色の鎧に純白のマント、短い金髪に、空のように青い瞳。いつの間に現れたのか、その気配を全く感じさせなかった。
(なんだ、こいつは!?敵か?味方か!?)
テセウキは反射的にミッカをミッコに預けると、**シャキン!**と、腰に差していた彼女の剣を引き抜き、その切っ先を男に向けた。オレンジ色の刃が、灰色の空の下で不吉に脈打つ。
「おいおいおい、テセウキ兄貴!味方だ!」ミッコが、姉を落としそうになりながら叫んだ。
「味方だと?」テセウキは訝しげに聞き返す。
「ああ!ミッカ姉ちゃんの兄なんだ!」
男――ラムザは、ミッコに眉をひそめた。「ミッカ…姉ちゃん?」彼はその言葉を面白そうに繰り返した。だが、すぐに少年を意に介さなくなり、その青い瞳はテセウキの手に、そしてその手に握られた剣に向けられた。
「その剣の持ち方、ずいぶんと様になっていないな…」彼の声は穏やかだったが、その言葉には、テセウキの背筋を凍らせるほどの重みがあった。ラムザは彼を通り過ぎ、ミッカのそばに屈み込む。「…だが、君はもう、それがどんな力を持つか知っているようだ…」
テセウキの目がカッと見開かれた。彼はゆっくりと剣を下ろす。数瞬前の記憶。この刃を握った感触。誰かの命を奪った、あの重み。
(俺は…人を…殺した…)
ラムザはミッカの顔を覗き込んだ。その顔は真剣で、まるで彼女の魂の奥底まで見通そうとしているかのようだった。
「ね、姉ちゃんは大丈夫なのか?」ミッコが、震える声で尋ねた。
「竜の魔法を使いすぎたようだ…体が不安定になっている」彼はそう答え、スッと立ち上がった。そして、ミッコに向き直る。「君が、『ミッカ』の『弟』、で間違いないかな?」
ミッコはゴクリと唾を飲んだ。「…ああ…」
「そうか…」ラムザは頷いた。次の瞬間、彼の真剣な表情は崩れ、子供っぽく、満面の笑みが浮かんだ。「なら、君も僕の弟だ!ハハハハハ!」
テセウキとミッコは、あっけにとられて彼を見つめていた。
(この人…本当にあの大騎士様か…?)
ラムザの豪快な笑い声は、海から響く轟音によって遮られた。船の墜落が引き起こした巨大な波が、壁となって浜辺に迫っていた。すべてを飲み込む、巨大な津波。
「騎士様、あれはまずいんじゃ—」テセウキが警告しようとした。
「さあ、ミッコ、呼んでみろ、『ラムザお兄ちゃん』と!ハハハハハ!」ラムザは危険を意にも介さず、なおも続けた。
「いや、だから—」
「お・に・い・ちゃ・ん!」彼は、子供のように胸を張って見せた。
「もうダメだァァァァ!」テセウキが絶叫した。巨大な波が、すぐ目の前に迫っていた。
ラムザは、まだ馬鹿げた笑みを浮かべたまま、無造作に右手を海へと向けた。すると、彼らを飲み込む寸前だった水の壁が、**シュワアアア…**と霧散した。彼らに降り注ぐ雨が、一瞬だけ、やけに塩辛く感じられた。
「オーケー…ラムザ…お兄ちゃん…」ミッコが、ようやくショックから立ち直り、呟いた。
「よろしい!」ラムザは誇らしげに言った。「だが、今は休むといい…」彼の手に、ポワァ…と柔らかな緑色の光が灯る。その手でミッコの顔にそっと触れると、少年は抗えない眠気に襲われ、その場に崩れ落ちた。ラムザは、倒れる寸前で二人の弟妹をその両腕に抱きかかえた。
テセウキは、疲れ切った体で彼を見つめた。「あなたも休むべきだ…だが、村でまだやることがあるんだろう…」
ラムザはテセウキを見た。その瞳から、先ほどのふざけた輝きは消え、真剣な、しかしどこか哀れみを帯びた光が宿っていた。「僕は…」
風が、テセウキの背後から新しい音を運んできた。彼が振り返ると、小型の船が空から何隻も降りてきて、浜辺に静かに着陸していた。すぐさま、多くの兵士と数名の天騎士が降りてくる。医療器具を運ぶ兵士たちは、ラムザを一瞥もせず、真っ直ぐ村の中心部へと走っていった。
一人の天騎士がラムザの前に立ち、敬礼した。「大騎士様」
「将軍は、僕の報告を待たずに部隊を動かしたか…」ラムザは、不満そうに呟いた。
「大騎士様…」騎士は繰り返した。ラムザは彼に向き直る。「この二人を医務室へ」彼は、腕の中のミッカとミッコを見下ろしながら言った。
「サンダー!?」騎士は驚愕の声を上げた。
「いや…」ラムザの声は低く、深い哀愁を帯びていた。「…もうサンダーではない…」
騎士は他の兵士と共に、ミッカとミッコを慎重に受け取ると、一隻の船へと運び込んだ。船はすぐに浮上し、水平線に浮かぶ本艦隊へと飛び去った。
ラムザは、一人残されたテセウキに向き直った。「さて…行こうか、テセウキ君」




