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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第四十四話:魔女の秘密の部屋【前篇】

(……やれやれ。お姉様も、父様も、心配性なんだから)


 アークライト家の屋敷を後にしたわたし――ルナリア・アークライトは、小さくため息をついた。いまは王都の雑踏の中を歩いている。


(それにしても)と、わたしは思う。ライル様の一番弟子の座に危機感を感じているお姉様の焦り。王太子殿下という、この国で最も厄介な人物に、ライル様が近づいてしまったという父様の焦燥。


(二人ともわかり易すぎて、逆に見ていて飽きないわ。それに比べて、ライル様。あなたは本当に面白い。わたしでさえその謎を掴みきれていないアレクシウス殿下や、あの『水晶の離宮』の結界の異常さも、まるで気にしていないなんて)


 そう思って、わたしは彼の言葉を思い出していた。


(……ライル様は世間では『幽霊太子』と呼ばれている殿下に会った印象を『健康そうで、芯の強い方だと思った』と言っていた。あの朴念仁は敢えて言わないことはあっても、基本的に嘘はつかない。だとすれば殿下についての虚弱という噂は、なにか別の真実を隠すために流されたものと考えたほうがいいのかも……。ああ、面白くなってきた)


 歩きながら、わたしは自分の口の端がつり上がってきているのが分かった。クーデター事件の後の王都の盤上は、前よりもずっと複雑で、楽しそうな駒で溢れている。長く停滞した時代が、急激に動き始めようとしている感じていた。なかでもライルという駒は、わたしにとって計算ができない要素であり知的好奇心を刺激する存在だった。


(面白い時代に産んでくれたことを、お母様とお父様に感謝者しなければ)


 わたしの足は大通りから小道に入り、複雑に枝分かれした裏路地へと入る。幾つかの分かれ道を右へ左へ曲がって、古ぼけた魔道具店の前で止まった。閉じられた鎧戸からは、僅かに光が漏れている。ドアには(魔道具一般修理承ります ※急ぎの仕事はお断りします)と書かれた看板が下がるだけで、店の名前すらない。傍から見れば営業しているのかどうかも分からないが、わたしは迷いなく扉を開ける。


 狭く薄暗い店の中には、怪しげな魔道具が、所狭しと並んでいた。干からびた得体のしれない生き物の干物、用途の分からない金属の歯車、怪しく明滅するひび割れた水晶玉。 そんな店の奥のカウンターで、こんな場所には不釣り合いなほど身なりの良い、眼鏡をかけた生真面目そうな若い男が、分厚い魔導書を読んでいた。

 わたしが入ってくる音に、男は顔を上げると、慌てて椅子から転げ落ちるように立ち上がった。


「ル、ルナ様! お、お待ちしておりました!」

「ご苦労さま、カイン。何か変わったことは?」


 そう尋ねるわたしに、カインは、ずれた眼鏡をかけなおしながら器用に首を横に振った。


「はっ! 本日も、異常ありませんでした!お客も、一人も来ませんでした!」

「そう。それは結構」


 わたしはその返事に満足して頷くと、カウンターの奥にある、地下へと続く扉に向かった。


「じゃあ、わたくしは下で調べ物をしているから。引き続き、よろしくお願いね」

「は、はい! お任せください!」


 カインの、裏返った声に見送られながら、わたしは軋む階段をゆっくりと下りていく。 地下は、一階の店よりも遥かに広く、そして整然としていた。高い天井、ずらりと並んだ薬品棚、魔力を帯びた鉱石、そして部屋の中央には、複雑な魔法陣が刻まれた黒曜石の作業台。


 ここが、わたしの本当の城。秘密の魔術工房だ。


 わたしは机の上に置いてあった、『記憶の水晶』を手に取った。イザベル副団長から解析を依頼された、マルディーニの置き土産だ。黒と白の一対の水晶で、機能としては、黒い水晶が声を録音し、白い水晶はそれを聞くための鍵だということが分かっていた。

 アウレリアでも魔法の羽で空中に文字を書きつけて、相手にメッセージを送ることは行われているが、それほど長いメッセージを入れることはできない。それに比べてこの魔石はかなり長いメッセージを入れることが可能だ。


(……なるほど、確かにアウレリアの魔法とは違うわね)


 水晶の表面を自分の魔力でなぞる。 タイドリア王国の魔術は、魔石そのものの魔力に頼る分、術者の魔力は低くても機能する。けれどその術式は、アウレリアのものより遥かに複雑で、高度な数理的な知識を要求される。


(……面白いじゃない)


 わたしは、試しに二つの水晶を手のひらの上でカチリと合わせてみた。 ――その瞬間、雑音とともに、あのマルディーニの不愉快な声が、直接頭の中に響いてきた。


『……男爵家のパーシヴァルは、いまだにクレイ家の次男のボールドウィン公が伯爵へ昇格したことを妬んでいる。あの二人は、10年前の『白鹿しろじか狩り』の件で遺恨があるからな。……あそこを突けば、ヴァロワ侯爵家への牽制になるはずだ……』


「……うるさい」


 わたしはすぐに二つを引き離した。


(イザベル副団長は、これを全部聞いたのかしら。表のお仕事もお忙しいのにご苦労なことね)


 とはいえわたしはとてもそんな気にはならない。あくまでもこの魔石の研究が目的だ。

 作業台から解析用の魔道具アナライザー」を取り出した。いくつものレンズと、魔力伝導のための銀線が組み合わさった、顕微鏡のような精密機械だ。 黒い水晶を台座に固定してレンズを覗き込む。


(さて、どんな具合かしら、タイドリアの魔術師さん)

 お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


 次回は本日の23時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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