第四十三話:館からの帰還と、魔女の憂鬱【後編】
「……実は私の学校で、最近、行方不明者が出てるの」
ルナのその一言に、ギデオン殿とセレスの顔色が変わった。
「行方不明者だと?どういうことだ?」
ギデオン殿が低い声で尋ねる。
「分からないわ」
ルナは、いつもの悪戯っぽい笑みを消し、真剣な表情で首を振った。
「それが奇妙なの。失踪したのは、この2週間で三人。全員に共通するのは、魔力は高いけれど、家柄は平凡な生徒ばかりで。……まるで、狙いを定めた誰かに攫われたみたい」
「攫われた……?」
「学校側は、『家の事情で退学した』と処理しているけれど、わたくしの『小鳥』が調べたら、その三人の実家は、どこももぬけの殻だったそうよ。これが貴族の家であれば大騒ぎになっているはずです」
「……その話、イザベル殿にはもう話したのか?」
ギデオン殿の問いにルナは小さく頷く。
「はい、私が伝える前にもう知っているご様子でした。ただ隊長様、いえ、いまは副団長様は忙しいみたいで、あまり手が回らないみたい」
「そうだろう。いまは騎士団の立て直しで大変な時期だからな……」
ギデオン自身、騎士団の特別教官に就任して、クーデター事件で痛感した多対多の戦いや、魔法使いと連携した戦術などを導入しようと苦労をしているところだった。俺もセレスから『プライドばかり高くて、実力が伴わない者が多すぎる』と零していることを聞いていた。
「それで私なりに小鳥を使って調べてみたところ、どうも三人とも港湾地区で姿を消しているのが分かったの。まず魔法学校の学生がうろうろするところじゃないわ」
「確かに……」
そう呟いたセレスは、俺が地下牢に囚われている時に、イザベルさんと一緒に港湾地区で情報収集したことを思い出しているようだった。
「おいルナ、お前は魔法学校の学生だぞ。余計なことに首を突っ込むな」
ギデオン殿が恐い声でルナに言う。その声の硬さの裏側には、父親が娘を心配する真心を感じた。それが分かっているのか、ルナもギデオン殿の顔を見て真面目な顔で小さく頷く。
「分かってます、お父様。ただ、これは私の学校で起きていることでもありますから。それに……」
「それにどうした?」
「なにか、嫌な予感がするの……」
部屋の中がしんとした。それに気がついたルナが少し明るい声で、
「あらやだ、折角ライル様が王太子殿下の師匠になったというお祝いの席が、なんだか変な空気になってしまったわね」
そう言うとパチンとひとつ手を叩いて、ルナは横にいる俺に向き直った。
「改めてライル様! すごいじゃないですか!」
そう言いながら自然に俺に腕を絡めてくる。
「これで、お父様は騎士団の特別教官、ライル様は王太子殿下の師匠、私は魔法学校の首席、そして、お姉様はただの弟子その一! ……アークライト家も、出世したものねぇ」
「ルナ! その手を離しなさい!」
セレスが、顔を真っ赤にして妹を叱りつける。するとルナは「はいはい」という感じでするっと腕を離すと席を立ち、二階へと向かった。いつもの調子でルナが反撃してくると思っていたセレスは、肩透かしをくらった格好となった。
「……ルナ、どこへ行くの?」
ルナは二階に登りながら手をヒラヒラさせて答える。
「今日は少し顔を見に寄っただけですので、少し寄り道をして寮に帰りますわ。お父様、安心してください、門限には間に合わせます。ではまた皆さま、ご機嫌よう」
そう言って階段を登りきる直前、何かを思い出したようにルナは俺を振り返った。
「ライル様、いま、この王都は、わたくしたちが思っている以上に、きな臭くて、面白そうなことになってます」
「面白い?」
俺が聞き返すと、ルナは、人差し指を自分の唇にそっと当てた。
「ええ。……わたくしやライル様、それに王太子様のような、『規格外のオモチャ』は、それを欲しがる悪い人たちからも、とっても人気があるんです。……お互い食べられないように、気をつけましょうね」
ルナの言葉は、冗談めかしてはいたが、その瞳は笑っていなかった。
(第43話 了)
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