第二十七話:決戦の朝、それぞれの戦場へ【後編】
***
俺は静かに目を覚ました。
いや、眠ってはいなかった。ただ、意識を深く、深く沈めていただけだ。
ギギギギ……と、重い石が擦れる音が響き、独房の鉄格子の扉が開けられた。
松明の光と共に、数人の屈強な衛兵が入ってくる。その先頭に立つのは、騎士の階級章をつけた、見知らぬ男だった。
「……時間だ。立て」
男の、感情のない声。
俺は、静かに立ち上がった。枷をはめられた両手が、じゃらり、と音を立てる。
衛兵たちに両脇を固められ、俺は、十日間過ごした死んだ闇の中から、再び冷たい石の階段を上へと導かれた。
奇妙な感覚だった。
衛兵たちの気配が、ひどく張り詰めている。だが、その殺意の『線』は、俺だけに向けられているわけではない。あちこちに、無数の見えない敵を警戒するかのように、乱雑に張り巡らされている。
城全体が、熱病に浮かされたように、不穏な『濃い』気配に満ちていた。
(……何か、起きるのか)
俺は、ただ、その事実だけを感じ取っていた。
長い、長い通路を抜け、巨大な観音開きの扉の前にたどり着く。
扉が開けられた瞬間、凄まじい歓声と、眩い光が、俺の全身を包んだ。
目の前に広がっていたのは、円形の、巨大な闘技場だった。
すり鉢状の観客席は貴族と、王都の民衆で埋め尽くされている。その熱気が、肌を焼くようだ。
そして、正面の中段の場所にある貴賓席には、きらびやかな衣装をまとった王侯貴族たちが居並び、その中には不安げな顔でこちらを見つめる、小さな少女――ロッテの姿もあった。
観客席のどこかからは、でギデオン殿とセレスの気配と、俺を憎悪の目で見つめる、ユリウスの気配も感じられた。
俺は衛兵に促されて、闘技場の中央へと、ゆっくりと歩みを進める。
そこには俺以外にも二人の人間がいた。一人は怯えきった様子で立ちすくみ、もう一人はつまらなそうに観客席を見やっていた。
万を超えるであろう観衆の熱気と喧騒が、観客席から振るように浴びせられ、重なり合ったそれは、まるで遠い世界の音のように聞こえる。
これから、俺をこの国の『礎』にするための何かが始まるらしかった。
(第二十七話 了)
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