第二十七話:決戦の朝、それぞれの戦場へ【前編】
イザベルが姿を消した後、部屋にはアークライト家の三人と、重い沈黙だけが残された。
夜明けが近い。窓の外の闇が、わずかに白み始めている。
その沈黙を破ったのは、ギデオンだった。
彼は、二人の娘の顔を順番に見つめた。その目には、父としての慈愛と、指揮官としての厳しさが同居していた。
「……我々も、行くぞ」
彼は、壁に立てかけてあった自分の愛刀を手に取る。
「ルナ」
「はい、お父様」
「お前は、この王都で最も高く、最も全体を見渡せる場所を探せ。そこがお前の戦場だ。魔法と、その『小鳥』たちを使い、全ての情報を集め、我々に伝えろ。お前が、我々の目となり、耳となるのだ」
「……任せて」
ルナは、いつもの悪戯っぽい笑みではなく、静かに、そして力強く頷いた。
次に、ギデオンはセレスに向き直った。
「セレス。お前は、ワシと共に行く。御前試合の会場へ。……何が起きても、決してワシのそばを離れるな。そして、生きろ。生きて、勝つぞ」
「はい、父上!」
セレスもまた、愛用の剣を手に、決意の表情で応えた。
三人は、宿の裏口から、まだ眠り続ける王都の通りへと足を踏み出した。
ルナは、姉と父に一度だけ振り返り、小さく手を振ると、路地の影へと溶けるように姿を消した。彼女は、これから始まる戦いの、盤上を見下ろす場所へと向かう。
残されたギデオンとセレスは、夜明け前の冷たい空気の中、王城へと向かって、ただ静かに歩き始めた。光の当たる、最も危険な戦場へ。
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