第二十四話:セレスの眠れない夜と、父の報せ【前編】
「……それでギデオン殿は、いつ頃こちらへ?」
イザベルが尋ねると、ルナは首を振った。
「さあ? お父様は今頃、王都中の知り合い屋敷を駆け回っているはず。どこにいるかまでは分かりません。でも、わたくしの『羽』と『小鳥』は優秀です。必ず見つけ出してくれますわ」
その後はイザベルの提案で全員で仮眠をとることになった。部屋にあった二つのベッドは、イザベルがひとつを、セレスとルナが一緒にひとつのベッドを使うことになった。
「久しぶりだね」
ベッドに潜り込んだルナがセレスに嬉しそうに話しかける。一方のセレスは、「そうね」とつれなく答えた。疲れていたのは無論だが、一連の出来事の後で話す気がしなかったのだ。ルナの軽口はもちろんだったが、それ以上に次々に難題をこなし、作戦を成功させた彼女に驚き、認めたくないことだが羨望と嫉妬を感じていた。
「お姉様と一緒に寝られて嬉しい!」
無邪気にそう言うルナは子供の頃を思い出させたが、それが却ってセレスを混乱させた。
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、ルナは小さく笑う。
「ねぇ、お姉様とライル様、どうなっているのですか?」
「ど、どうって!? ライル様は私の剣の師です」
「それだけなのですかぁ?」
ルナの金色の瞳に好奇心と悪戯好きの光が輝く。
「もちろんです。あなたがどんな下世話なことを考えているのか知りませんが、そんなことを考えるのはライル様に失礼ですし、迷惑です」
「あら、わたくしが下世話ですか? じゃあお姉様はどうなんですか? ライル様のことをどう思っているんですか?」
セレスがぐっと言葉に詰まる。そこに隣のベッドで横になっているイザベルから声がかかる。
「お二人とも。休める時に休んでください」
「は〜い」
とルナが答えると、「おやすみなさい、お姉様」と言うとくるりとセレスに背中を向けた。程なく彼女の寝息が聞こえてきた。
一方のセレスは眠れなかった。頭がぐちゃぐちゃにかき回されたようで、ダリウス商会に侵入したことや、その際のルナの手際の良さ、イザベルの働き、遡ってライルにつけられた稽古など、色々な思い出が滅茶苦茶な順番で現れては消えていく。(結局、私はついて行っただけで、何も役に立てなかった)そう思うと自分が情けなかった。
何度目かのため息をついたところで、ぽすっと顔の前に何かが落ちる音がした。
「この間の眠れる薬です。飲んで寝てください」
イザベルが投げてよこしたのだ。
しばらく目の前の薬を見ていたセレスだったが、手に取ると口に入れた。(考えてもしょうがない。大事なのはいまできることをやること。いま私にできるのは寝ることだ)そう思いこくんと飲み込んだ。
ほどなくセレスが寝息を立て始めた。
ベッドの中でイザベルはセレスの寝息を聞くと微笑んだ。彼女にしては珍しく優しい笑みだった。
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次回は本日の23時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。




