第二十話:金庫番の告白と、窓から来た魔女【後編】
カールスの告白は、衝撃的なものだった。
彼は、ベルンシュタイン公爵家のゲルハルトの指示で、ダリウス商会を経由して「影の猟犬」に資金を提供し、ヴァロワ家の襲撃を依頼したことを認めた。ライルを陥れるための偽の急報も、全て彼らが仕組んだことだった。告白はそれだけでは留まらず、ゲルハルトは密かに私兵と武器を集めているというのだ。それらは商会の会長であるダリウスの許可のもと、彼自身が実務を担っており「あれ(会長)はお飾りに過ぎん。事実上、俺が仕切っているのさ」と小鼻を広げて自身の手腕を誇った。
「……証拠は?」
すっとレイピアの柄にイザベルが手を掛けた。その途端、カールスの顔が青くなる。
「ち……帳簿がある。ダリウス商会の、私の執務室の隠し金庫に……。『影の猟犬』への支払いやその他の記録も、全てある……」
「その金庫の鍵は?」
「鍵はない。……私とゲルハルト様しか開けられない魔法がかかっている」
イザベルがカールスを睨めつける。
「それは、お前の腕を斬って持っていけば開くものか?」
カールスが慌てて首を振る。
「違う!生きた俺じゃなきゃ開けられない! そうだ、お前たちは生きた俺が必要なんだ! だからお前らは俺を殺せない、殺せないぞ! それともゲルハルト様を俺のように攫うつもりか!? そんなことは出来っこない! つまりお前らは手も足もでないんだ、ざまぁみろ!」
勢いを取り戻したカールスの口に「本当に煩い男だ」とイザベルが猿轡を噛ませて静かにする。
証拠のありかは分かった。だが、セレスとイザベルの表情は、晴れない。
ダリウス商会は、ベルンシュタイン家の息がかかったいわば敵の本拠地だ。騎士団の令状もなしに、どうやってそこに忍び込み、金庫から帳簿を盗み出すというのか。おまけに鍵はこの面倒な男自身かゲルハルトだときている。
「……どう、しますか」
セレスが、絶望的な声で呟いた。
流石のイザベルも、答えを見つけられずに、固く唇を噛み締める。
その、膠着した空気を破ったのは、窓を、コン、コン、と軽く叩く、小さな音だった。
二人が、はっと息を呑んで窓に視線を向ける。
いつの間にか音もなく開け放たれた窓枠に銀髪の少女が腰掛けていた。いつからそこにいたのか、全く気配がなかった。
「……ルナ!」
セレスが、驚きの声を上げる。イザベルは素早くレイピアを引き抜いて構えつつ驚きの表情を浮かべた。
「セレスティア殿が二人! これは!?」
そんな様子を見てルナは、悪戯っぽく笑うと、猫のように軽やかに部屋の中へと降り立った。
「お姉様、随分と面白いお話をしているのね。……聞かせてもらったわ」
彼女は、椅子に縛り付けられて唸り声を上げているカールスを一瞥すると、驚いている姉とイザベルに向き直った。
「……お困りのようね。人の執務室の隠し金庫から、大切なものを取り返したい。でも、鍵は喧しい男か某王家の長男本人で、入り込む手段もない、と」
ルナは、楽しそうに、その金の瞳を輝かせた。
「ねえ、お姉様。そういうのって、剣士じゃなくて……」
彼女は、自分の胸を、とん、と指で叩いた。
「――わたくしたち『魔法使い』の出番ですわ」
(第二十話 了)




