第十六話:騎士団団長と二人の女【前編】
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ライルが冷たい石造りの独房で静かに坐っている頃、セレスとイザベルは、王都の中央にそびえ立つ、王立騎士団の本部へと到着していた。 城塞のごとき威圧感を放つ建物の内部は、磨き上げられた石の床に、騎士たちの規則正しい足音だけが響いている。誰もが皆、張り詰めた空気をまとっていた。
受付で、イザベルは自分が隊長であることを示す身分章を提示し、低い声で告げた。 「団長に、緊急の面会を要請する。イザベル隊長が、任務の報告に戻ったと伝えろ」 衛兵は一瞬ためらったが、隊長である彼女の気迫に押され、慌てて奥へと姿を消した。
通されたのは、騎士団団長の執務室だった。 部屋の主であるマルディーニ騎士団長は、書類の山が積まれた巨大な執務机の向こうで、顔も上げずに二人を迎えた。
「……イザベル隊長。報告書は読んだ。ご苦労だったな」
その声には、労いの響きは一切なかった。
イザベルは、動じることなく、背筋を伸ばして口を開いた。
「団長。ライル・アッシュフィールド殿の拘束について、現場の指揮官として証言と、正式に抗議いたします。彼は、ベルンシュタイン家の訴えにあるような犯罪者ではありません。むしろ、ヴァロワ公爵家のシャルロッテ様を救った、恩人です」
「恩人、か」
マルディーニは、初めて顔を上げた。そこで二人はその頭の巨大さに驚いた。普通の人に比べて1.5倍位はあるだろうか。その頭の巨大さに比べて、顔のパーツは鼻を中心に真ん中に集まり、酷くバランスを欠いているように見えた。なによりその目は、まるで死んだ魚のように光がなく、冷たかった。
「ベルンシュタイン公爵家からもたらされた『王都から12ヘクターズ(馬で1日程度の距離)の街道でヴァロワ家襲撃の計画があり。それにはライルという男が関与している』という情報は、恐ろしく正確だった。現に君たちが現場に到着した時、まさにその通りのことが起きていた。違うかね?」
「それは……!ライル殿は、我々と同じく、偶然その場に居合わせただけです!」
セレスが、我慢しきれずに叫んだ。
「彼は、たった一人で襲撃者たちを退け、ロッテ様を……シャルロッテ様をお救いになったのです!我々全員が、その証人です!」
マルディーニはちらっとセレスを見ると、彼女の熱のこもった訴えを鼻で笑った。
「アークライトのご令嬢。ここは其方の父親の訓練場ではない。感情で事実が覆る場ではないのだ。……それに、あまりにタイミングが良すぎるとは思わんかね? 襲撃した人間と、そのライルがそもそも一味で、ご令嬢とイザベラ隊長の目の前で都合よく人質を『救出』し、ヴァロア家になんらかの恩を売ろうとした、という可能性もあろう」
彼は、冷え切った声で、結論を告げた。
「ライル・アッシュフィールドは、素性不明のまま、国家に仇名す陰謀事件の重要容疑者となった。これは、騎士団だけの問題ではない。陛下の裁定を待つ。何かこれを覆す事実でもない限りこの謀反人が光を見ることはない。分かったかね?」
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