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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第三部【深淵の盟約・北伐奪還編】

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第百話:私の中の、名を持つ者たち【後編】

 ***


 何が起きているのかは分からなかった。わずかな間だがゴーレムの器であるアレクシウスが目を覚ましたのは間違いない。水晶の離宮から連れてきた時から深い眠りに入っていた女が、あの黒髪のライルという名の小僧の呼びかけに応じたのだ。

 しかし、それは私にとっても好機だった。実際、私の命令は彼女の目覚めた自我を征服しつつあった。そもそも女の身でありながら、男として育てられ、行く末はアウレリアの王となるという、本人にすれば重すぎる宿命を生まれた時から背負わされていたアレクシウスの心を操るのは容易いはずだった。だからメメルの報告を聞いた時は驚いた。まさか精神干渉を受けてなお、自分の意思で仲間を助け自ら虜囚となることを望むとは思わなかったからだ。

 ところが転送魔法でこの地下施設に来た途端、彼女は深い眠りにつき、以後我々からの呼びかけに応じなくなっていた。眠っていても器として最低限の機能はするが、それでは本来の能力を出すことはできない。私が王家の血と、無数の魔力と怨嗟の声で練り上げられたこの器を完全に統べることで、古のゴーレムもまたその力を完璧に発揮できるからだ。


 それが叶うと思った矢先に、再び彼女は深い眠りについてしまった。それも前よりももっと深い眠りに。


 いま私の前にいるゴーレムは完全に沈黙している。


(これもあのライルという奴の仕業か!?)


 そう思って見るが、鍔鳴りを打った後は何をするということもなく、黙ってゴーレムの胸の繭に埋まっているアレクシウスを見ているだけだ。あの巨大な火球を作った少女も、いまは黙ってゴーレムを見ている。


「ガロン様!」


 その声に振り返ると必死の表情のザックスがいた。


「ガロン様、ゴーレムはどうなってしまったのですか!?」


「……眠っている」


「ね、眠っている? どうしてそんなことが!?」


(分からん!)


 と怒鳴り返してやりたいところだが、グッと堪える。私は【深淵の盟約】の導師である。どんな事態が起きようとも、全て計画の内であるかのように振る舞わねばならない。ここまでの地位に短期間で到達できたのは、圧倒的な魔力と、冷徹な計画、そして果断な決断で信者たちを導いてきたからだ。


 このザックスは、狂信的な馬鹿ばかりの者たちの中で、数少ない自分の頭で考える人間だ。危険でもあるが、真に使える忠誠心とは組織へではなく個人に拠るものだ。私の魔力による世界の再構築という大望には、こういう男が必要なのだ。


 だからこそ、いまこの場での判断は大事だった。


「……ザックス、転送魔法陣を起動せよ」


「て、転送魔法陣ですか?」


「ゴーレムを連れて転送するのだ」


 ザックスは無論、後ろに控えていたメルルも驚きの声を上げた。


「それでは、この施設を放棄されるおつもりですか!?」


「そうだ。我々はここで得るべきもの、古のゴーレムはすでに得た。このゴーレムがあれば、そこから幾らでもゴーレムが作れるのだ」


 そうだ、そうなのだ。この捻じ曲がった強力な魔力の塊であるゴーレムさえあれば、魔力を含んだ土さえあればこれを元に、幾らでもゴーレムを作ることができるのだ。かつてこの大陸を焼き尽くしたゴーレムも、元は一体のゴーレムから量産された軍団だった。


 繭の中で眠るその姿を見る。


(アレクシウスよ、お前は処女のうちにゴーレムの母となるのだ)


 私は自分の口角が自然に吊り上がるのを感じていた。


「た、確かにそうですわ!」


 私のその言葉に喜悦の表情ですぐに応じたメルルに比べて、ザックスは何かを懸念するような表情をしている。それがこの男の美点ではあるが、いまこの場ではさすがに忌々しく感じる。


「ザックス! 貴様は何か不満があるのか!?」


 雷に打たれたような様子で答える。


「た、確かにガロン様がおっしゃる通りです。ですが、いまの炉心はルナリアではありません。アレクシウスも再び眠りに入ったようですので、どの程度の能力を発揮できるかは……」


 私はジロリと目だけを動かしてザックスを見る。


「……ではお前は、このまま動かぬゴーレムを抱えたまま、なおあの者たちと戦うというのか?」


 一瞬黙ったザックスは命令の意図を理解した様子で答える。


「いえ、ガロン様のおっしゃる通りです。いまは退却するのが得策かと」


「ザックス!」


「はっ」


「間違えるな、退却ではなくこれは転進だ。すぐに実行せよ」


「ははっ!」


 ザックスはそう答えると、すぐに操作盤に向かい、両手で入り組んだ緊急用の術式を描き始めた。


(面倒な男ではあるが、有能ではある)


 ふと魔法学校時代のことを思い出していた。あそこには、そんな生徒がたくさんいたものだ……。


 ***


「ライル殿、早く殿下を助けねば!」


 私は、じっと繭の中のアレクシウス殿下を見つめるライルを急かした。しかしライルは、私を一瞥(いちべつ)すると、「イザベルさん、いけません」と短く告げ、再び殿下へと視線を戻した。

 これでは(らち)があかない。私はルナに助けを求めた。


「ルナリア殿、魔法で殿下をお救いする方法はないのか!?」


 だが、ルナには私の声が届いていないようだった。その金色の瞳は大きく見開かれ、ゴーレムを――いや、その奥に渦巻く「何か」を凝視している。

 私の声も聞こえていない、その異常な様子に、耳元で「ルナ!!」と叫んだ。

 その声でようやく、彼女は自分の名前が呼ばれていることに気づいたようだった。およそ彼女らしくない、緩慢な動作で私を見る。


「……イ、イザベル様、……ここを離れましょう」

「なっ……!?」


 思わず絶句した。周囲の人間も彼女の異変を察したようで、ライルを除く全員の視線が彼女に集中する。セレス殿が心配そうに駆け寄ってくる。


「ルナリア殿、どうしたのだ!?」


 ルナの金色の瞳が一度私を捉えると、震える手でゴーレムを指し示した。


「あ、あれは……歪んだ人々の怨念に染まった、暗い魔力の塊。駄目なの、ここに居ては……」


 そこには、先ほどまでの自信に満ちた天才魔法使いの面影は微塵もなかった。


「ルナリア殿、何を言ってい――」

「駄目なの!!!!」


 彼女は絶叫すると同時に、ふつりと、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。私は慌てて彼女を抱き止めたが、その身体の羽のような軽さが、かえって私の不安にした。


「ここを離れましょう」


 そう言ったのは、ライルだった。そのいつもと変わらぬ冷静さが私を苛立たせた。思わず声を荒らげかけた瞬間、地面を揺るがす巨大な振動が私たちを襲った。

 ルナを抱きかかえ、激しい震動を堪える。壁や床を這っていた魔力伝導管が次々と寸断され、千切れた蛇のように暴れ狂うのが見えた。

 その時、一際強烈な閃光がゴーレムとガロンたちを包み込んだ。

 視界が白く染まり、光が収まった次の瞬間――そこにはもう、何もいなかった。


「なっ……消えた……!?」


 呆然とする私に、エリオットが声をかける。


「奴らは転送魔法で消えました。おまけに、ここを……」


 再び凄まじい地響きが襲う。


「……ここを破壊して、私たちを生き埋めにするつもりのようです!」

「脱出方法は!?」


 エリオットは、私の腕の中のルナをチラリと見た。


「お姫様が元気ならお願いするところですが、いまは難しそうですね」


 彼はそう言いながら背嚢を下ろすと、中を手早く探り始めた。崩落の音は刻一刻と近づき、地下空間そのものが断末魔を上げている。


「あ、あった!」


 引き出された手には、小さな布袋が握られていた。エリオットはその中から青色の魔石を取り出すと、全員に配り始める。


「皆さん、その魔石を左手で握ってできるだけ私の近くに来てください。間違いなく左手ですよ!」


 いつもは飄々とした男だが、その声には隠しきれない焦燥が滲んでいた。私はルナの分も受け取ると、彼女の小さな左手に魔石を握らせ、その上から自分の右手を重ねて固定する。

 重なった自分の手に対し、あまりに華奢な彼女の指先。そこから魔石がこぼれ落ちないよう強く握りしめる。


「行きますよ!!」


 エリオットが宙に複雑な術式を描き呪文を唱える。


「風の女神シルフィアよ、大地の呪縛を断ち切り、我らを蒼穹そうきゅうの下へ導きたまえ――!」


 次の瞬間、青い光が私たちを包み込んだ。


(第百話 了)

こんにちは、佐藤峰樹です。


今回は【深淵の盟約】の導師、ガロン視線です。酷い奴ですが設定的には彼もまた苦労人だったりします(笑)。それにしても記念すべき百話目にしては重めの展開で恐縮しています。それぞれのキャラクターが走り出していて、筆者もオロオロ見守っていたりします(苦笑)。お話はまだまだ続く予定ですので、いつか笑ってこの日を振り返ることもあると期待しています。


続きが読みたい! と思ってくださった方には、ぜひブックマーク&評価を頂ければ嬉しいです。なかなかライルの心境は遠く、毎日一喜一憂している筆者です(笑)。


次回は明日の12時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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