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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第三部【深淵の盟約・北伐奪還編】

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第九十八話:泥濘(でいねい)の産声、狂気の錬成【前編】

 私が見つめる水晶板の向こうで、あり得ないことが起きていた。

 第三層のゴーレム生成室の前室。そこに侵入した侵入者たちを排除するために解き放ったはずの実験体ゴーレムたちが、次々と砂になって崩れ落ちていた。

 斬られたのではない。破壊されたのでもない。

 黒髪の青年――ライル・アッシュフィールドが刀を振るうたび、ゴーレムたちは自ら形を保つことをやめ、安らかな死を受け入れるように崩壊していく。


「……バカな」


 私は無意識に呻いていた。

 それは魔術ではない。物理的な破壊でもない。私の知る魔術理論のどこにも当てはまらない現象だ。我々が長い時間をかけ、犠牲を払って土塊に縛り付けた魂を、この男はただの「音」と「動作」だけで解き放っている。

 計算が合わない。魔術のことわりが通じない。

 背筋を冷たいものが走り抜ける。こいつは剣士などではない。「理」を積み上げて世界を構築しようとする我々にとっての、理解不能な天敵だ。


「ガロン様! この男は危険です。このままでは我々の計画が……」


 私は振り返り、祭壇の中央に立つ主に声を張り上げた。だが、ガロン様はモニターを一瞥もしなかった。


「狼狽えるな、ザックス」


 その声は、不気味なほど落ち着いていた。


「多少の計算違いなど、織り込み済みだ。計画に変更はない」

「しかし、炉心となる『ルナリア』を失いました! 魔力供給が不十分なままでは……」

「足りぬ分は、他で補えばよい」


 ガロン様は、冷酷な目で祭壇の周囲に設置された巨大な円筒群を見やった。

 祭壇を囲む巨大な円筒群。縦長のガラス越しに、アウレリアの魔法使い、タイドリアの魔術師たち――各地から攫ってきた「魔力を持つ者たち」の姿が見える。中には技術者の顔もあった。

 恐怖にすくんだ彼らが、必死にガラスを叩いている。


「導師、圧搾機の中にはタイドリアの技術者もおりますが」

「魔力は劣るが、ないわけではない。自分たちが作った物が本当に動くか、試してもらおう。その上でゴーレムの礎となれれば、本望だろうよ」


「……っ」


 確かに技術者と言えど多少の魔力はある。合理的と言えばそれまでだが……。その言い草には冷酷さだけではなく、ガロン様もまた追い詰められていることを感じた。


「ルナリアから回収した魔力と、ここにいる有象無象どもを全て『圧搾あっさく』して注ぎ込めば、起動に必要な臨界点は超える」


 その言葉にはさすがに私も口を挟まずにはいられなかった。


「しかし、それでは起動はできても、その後の活動臨界に不具合が生じます。ルナリアという炉心を持たなければ、ゴーレムの稼働時間は保って半刻程度。十分な能力を発揮できるとは思えません。無理に動かし続ければ、いかに強力な器が存在していても制御が不安定になり、暴走し自壊する恐れが……」

「ザックス!」


 ガロン様の怒声が、私の言葉を遮った。


「貴様はいつから、できない理由を探すようになった? いま重要なのは『古のゴーレムを起動させること』だ! 邪魔者がここへ辿り着く前に、起動できなければ意味がない! その後の調整など、どうとでもなる!」

「しかし……」と言いかけて、私は口をつぐんだ。


 確かにここまで来てゴーレムを起動できないとなれば、北部戦線での蛮族どもとの連携も無駄になる。そうなればここまで積み上げてきたものが全て水泡に帰す。


 私は唇を噛み締め、祭壇の下に広がる巨大な人型をした生成槽を見下ろした。


「それよりも……『器』の状態はどうなっている?」

「問題ありません。相変わらずアレクシウスは深い眠りの中におりますが、精神の抵抗値はゼロですので、統御中枢としての機能に支障はありません」


 メルルからの報告を思い出し、私は自分に言い聞かせるようにそう伝えた。

 そうだ、もはや、後戻りはできない。ここで計画の遂行を諦めてしまえばこの組織はそのまま潰える。なんとしてもやり遂げなければならないのだ。


「よし。では起動を進めよ」


 私はひとつ頷くと操作盤に手をかざし、所定の手順で起動を開始した。

 刹那、地下空洞に『ゴウン、ゴウン』と重苦しい、心臓を逆なでするような低周波音が反響し、シリンダー内へと養液が注ぎ込まれた。透明な壁の向こうでは、捕らえられた者たちが蒼白な顔で必死に内側を叩いている。だが、この円筒はいかなる内部抵抗をも想定して設計されており、その足掻きが実を結ぶことはない。

 やがて円筒が液体で満たされる。古の魔道技術が生んだこの養液は、肺を満たして擬似的な呼吸を可能にする――溺死させないための慈悲ではない。液体に浸された肉体から、構造を維持する力が奪われていく。

 死に物狂いで抵抗していた者たちが、やがて虚ろな表情で『死の揺り籠』の中を漂い始めた。

 工程の推移を確認し、私は隣の作業台にある魔石へ手を移す。


――ブーン、ブーン。


 腹に響く不気味な低音が空気を震わせた。その瞬間、正気を失っていた者たちが一斉に目を見開き、言語を絶する苦悶に顔を歪める。目、鼻、口、耳。ありとあらゆる粘膜から鮮血が噴き出し、糸を引くように液体の中へと拡散していく。


 透明だった養液は瞬く間に深紅へと染まり、その混沌とした赤の中で、人としての輪郭は無残に崩れ、溶け、ただの蠢く影へと成り果てていった。


「素晴らしい光景だ」


 一連の光景を見ていたガロン様が満足そうに呟く。


「持ち主の怒りや絶望、悲しみといった負の感情が、抽出する魔力に通常よりも強い執着を生み出す」


 私はその声を聞きながら、次の作業へと移る。

 すでにドロドロの赤黒い液体と化した「素材」たちは、血管のようにのたうち回る管を通り、巨大な人型の鋳型へと流し込まれていく。

 鋳型の周囲には信者たちが群がり、一斉に手にした棒を突き立てた。彼らは、型の中に充填されていた高濃度の魔力を含む泥と、新たに注がれた生贄の成れの果てを、念入りに、そして執拗に掻き混ぜていく。

 人の血肉と魔力の泥が混ざり合い、凄惨な色をした「肉」が、巨神の器の中で着実に形を成していった。


「全く素晴らしい光景だ」


 ほとんど陶然とした口調でガロン様が呟く。私は努めて冷静に作業を進める。

 天井から吊り下げられていた黒い水晶のような繭が、鋳型の胸の部分に移動する。繭の中にはボロボロの稽古着を纏ったアレクシウス王太子が、胎児のように眠っている。


「投入」


 私の操作に合わせて、繭がゆっくりと降下し、赤黒い泥の海へと沈んでいく。


 ズブブ……。


 繭が泥に飲まれると同時に、生成槽の中身が沸騰したように波打ち始めた。

 泥の表面に、無数の人の顔が浮かんでは消える。


「助けて」「痛い」「死にたくない」


 圧搾された者たちの怨嗟の声が、泥の泡となって弾ける。


「なんという光景だ! 見ろ、この混沌を! これこそが生命のスープだ!」


 ガロン様が両手を広げ、歓喜の声を上げる。


「仕上げだ! 蓄積しておいたルナリアの魔力を、全て注ぎ込め!」


 ガロン様の指示に従い、私は最後のレバーを引く。タンクから、純度の高い銀色の魔力が奔流となって泥に降り注ぐ。バチバチと青白い火花が散り、泥が急速に盛り上がり始めた。

 無定形の泥が、怨嗟の声を上げながら絡み合い、凝縮し、巨大な人型を形成していく。岩のような筋肉、丸太のような四肢。そしてその胸の中央に、核として埋め込まれた「黒い繭」。

 眠るアレクシウスを体内に取り込み、泥の巨神がその形を成した。


 繭を中心に、全身に血管のような黒い筋が広がる。ドロドロだった体は次第に硬い岩の塊のようになってゆく。古のゴーレムの復活を目の当たりにした私は、その禍々しい光景に体が自然と震えた。


「立て、ゴーレムよ!」


 ガロン様の声が響き渡る。同時にゴーレムがゆっくりと上半身を起こす。両手を床に着け、右足を鋳型から出すとグッと踏ん張るように起き上がり、続いて左足を鋳型から出してゆっくりと立ち上がる。身の丈は人の三倍はある巨体が立ち上がった。


 ズーン


 という足音に地下空間が揺れる。


「お、おお、これが古のゴーレム」

「なんと神々しい」


 ガロン様の背後に控えている、ドルゴ、メルルがその姿に思わず声を上げたのが聞こえた。


「完成だ……。これぞ、我らが悲願! 古のゴーレムだ!」


 ガロン様が叫んだ、その時だった。


 ゴゴゴゴゴ……


 という重苦しい地響きの音が聞こえた。


(まさか扉を開けたのか!? こんな短時間でどうやって?)


 そう考えるとすぐに扉の方向から人影が現れた。


 私の目に映ったのは、先ほど不思議な舞で失敗作のゴーレムどもを砂へと変えた黒髪の男――ライルの姿だった。その背後には幾人かの男たちが従っている。


「ネズミどもが、現れたか。すでにゴーレムは完成しておるぞ」


 ガロン様がそう告げるのを、私は少し遠い世界の出来事のように聞いていた。

 気がついた時にはドルゴがライルに向かって歩き始めていた。二本の長剣を握りしめ、ライルたちに向かって歩くその背中には、暗いこの空間の中でも禍々しく光る肉体強化の術式が赤黒く浮かび上がっていた。


「前回で俺が味わった屈辱を……ここですすがせてもらう! 覚悟は良いか、ライル・アッシュフィールド!」


 ドルゴが吼える。

 だがライルの視線は、ゴーレムの胸に埋め込まれたアレクシウスから動かない。

 無視された。ドルゴが何事かを吐き捨て、突進する――

 動きが止まった。

 大きく踏み出そうとした一歩が、彫像のように固まっている。背中を埋め尽くして輝いていた術式は光を失い、小刻みに震えている。そこで私は悟った。


(ドルゴはこのライルという男を畏れているのだ!)


 先ほどゴーレムを輝く砂に化し、いま何者かを畏れるという感情に一番遠いドルゴを恐怖で金縛りにする男。


(この男は危険だ)


 私の本能がそう叫ぶのを感じていた。

こんにちは、佐藤峰樹です。


今回はガロンの腹心の部下、ザックス視線での展開です。出番は少ないのですが苦労人ぽくて割合好きなキャラです。これからもたくさん苦労をすることでしょう(笑)。


お陰様で再び98まできたブックマークですが、あまり一喜一憂せず見守りたいと思いながら、ちょこちょこ見ています(笑)。なかなか悟りの境地とはいかないようです。そのようなわけで、気が向きましたらブックマーク&評価をいただければ嬉しいです。


次回は明日の12時前後の更新を予定しております。お会いできることを楽しみにしています。

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