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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第三部【深淵の盟約・北伐奪還編】

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第九十四話:逆転の転送座標【後編】

(さて……この泥人形以下の出来損ないを、どう利用してやろうか)


 私は改めて目の前のガキを見る。魔法学校の制服を着ていることや背格好から考えると二、三年生か。よくこんな弱々しい魔力で入学が許されたものだ。ガロン様はかつてこの魔法学校で教鞭を執っていたというが、なるほど、こんな学生を相手にするのは死より辛い拷問だっただろう。あるいはその絶望をガロン様は原動力とされたのかも知れない。

 私の視線にガキが目を瞬かせる。銀縁の眼鏡の下にあるのは恐怖と、隠しようのない強い魔力への憧れの光だった。


「……お前、カインといったか」


 自分の名前を呼ばれたガキがビクッと肩を震わせた。


「は、はい! ヴァ……ヴェルス様!」

「……ヴァイスだ。俺を様づけで呼ぶ程度の常識があるのだな」

「は、はい」


 魔術の世界では魔力の差は絶対だ。たとえ敵と味方の関係にあっても、そこには一定の敬意があるのだ。


「お前、そんな魔力では、学校では馬鹿にされているのだろう?」


 カインがサッと顔を伏せる。実に分かりやすい「弱者」の反応だ。私は獲物を追い詰める悦びに浸りながら、さらに言葉を重ねた。


「魔法と呼ぼうが魔術と呼ぼうが、魔力の寡多が全てを決めるのは変わらない。最も元々絶大な魔力を持っていた私には、お前のような羽虫程度の魔力しかない者の気持ちは分からんがな」


 ガキの両膝の上で握られた拳に力が入る。


「お前は何歳だ? 見たところ魔法学校の二、三年生だな。だとすれば残された時間は……六年程度か」


 肩が震えるのが分かった。


「魔力が伸びるのはせいぜい一八歳くらいまでだ。それを過ぎてしまえば根本的な魔力量を増やすことは難しくなる。もっともお前程度の者がどんなに努力しようとも、俺の足元にも及ばぬがな」


 私は、一言一言がこのガキの急所をえぐるように計算して放つ。いまは楽しみ過ぎてはいけない。このガキをうまく操る必要があるのだ。


「その程度の魔力で学校に入るとは、身の程知らずとしか言いようがないな。さぞ親は苦労しているだろう」


 震えが大きくなるのを確認する。


「己の無能が家族を苦しめるのはどんな気分だ。うん?」


 ぽたりぽたりと涙が滴ってきていた。俯いた顔からは表情は見えないが、膝の上で握られた拳を涙が濡らしている。小さな嗚咽が漏れ聞こえてきた。


「アウレリアのような魔力至上主義の国では、お前のような者は一生、他人の靴を磨いて終わる運命だ。その前に卒業できるかも怪しいがな。……しかし、な」


 私はそこで言葉を切り、自分の言葉がどのくらいガキを揺さぶっているのかを確認した。


(頃合いだ)


「不憫だな」


 その言葉にガキの震えが止まった。


「私にはお前の瞳にある真理を求める光が見える」


 恐る恐る、ガキが顔を上げる。そこには滂沱の跡があったが、眼鏡の奥の目には、何か不確かな期待を探す者特有のいじましい輝きがあった。


「お前は無力だ。だがお前の目は自分より魔力を持つ者よりも深いところが見えている。(もし、自分に十分な魔力があれば)そう考えない日はないはずだ。そうだろう?」


 ガキが頷く。私は舌なめずりしたいのを抑えるのに苦労する。


「私であれば、お前の魔力を強化できる。どうだ、知りたくないか?」


 その言葉に怯えたようにガキが顔を俯かせた。


(しくじったか?)


 一瞬、仕掛け損なったかと不安になった。が、おずおずと顔を上げてくる様子を見てほっとした。その目には明らかに期待があった。


(クソガキが、慌てさせおって)


 怒鳴りつけたくなるのを堪えて、できるだけ鷹揚な顔でその目を見返す。


「し、知りたいです」


(かかった!)


「で、でも本当にそんなことが……?」

「できる。私自身、ガロン様よりその術で強かった魔力をさらに強くしていただいたのだ」

「本当ですか?」

「嘘はつかん」


 もちろん嘘だ。


「どうすれば……?」


 ガキがすがるような顔で私を見る。


「私はガロン様より、魔力を根源から強化するその術式を授かっている。この拘束を解けば、特別にお前にもその秘術を授けてやろう。お前が持っているのだろう?」


 私の言葉を聞いたガキが、慌てて自分のベルトに吊るしてある鍵に手をやる。そこにこの鎖を外す鍵があることは最初から分かっていた。


「そ、それは……」


 鍵を握る華奢な指に力がこもり、関節が白くなっている。カインの瞳の中で、理性と欲望が激しく火花を散らしているのが手に取るように分かった。


(そうだ、もっと迷え、もっと苦しめ。その葛藤が深いほど、お前は自分を正当化するための甘い嘘を欲するようになる)


 私は、獲物の喉元を撫でるような慈悲深い響きを声に乗せた。


「カイン、お前は賢い子だ。分かっているはずだ、学校の連中がお前を正当に評価したことが一度でもあったか? どんなにお前が努力をしても、正しいことを言っても、その魔力では誰も耳を貸すまい。彼らが注目するのは魔力の多寡だけだ。お前という人間を見る者など誰一人いない」

「……っ」

「だが私は違う。私はお前の価値を知っている。その鍵を使い、私のこの戒めを解くのは裏切りではない。代わりに私がお前に与える力により、お前は力と同時に、自分と同じように魔力の少なさに苦しむ者の福音となるのだ」


 ガキの目の色が変わった。


「僕が、同じように苦しむ人の助けになる……?」


 私は自分の声に熱気を込める。


「そうだ! そして頭の固い魔力の量にしか興味のない奴らを一掃し、お前がこの国に真なる魔法の夜明けをもたらすのだ」


 自分で言っていて吐き気がしてきた。この世界に魔力の弱い魔術師が生きる場所などない。そんな奴がいれば、私がまず殺してやる。しかし、カインの瞳に、陶酔にも似た決意が宿った。


「……真なる魔法の夜明け」

「そうだ、それこそお前が望むものだろう?」

「……そうです。僕はこの国の魔法を変えたい。そのためには、どんなことだって……。これは……僕のためじゃない。アウレリアのためになるんだ……」


 心底馬鹿なガキだ。精神干渉の魔術を使うことなく、こうも簡単に操れるとは。帰ったらネネトにも教えてやらねばな。いつも偉そうな顔で精神干渉魔術について語っているがそれほどのものではない。私にかかれば魔力を使わずとも、この舌さえあれば他人を意のままに操れるのだ!


「教えてください! どうすれば貴方のような強い魔力を手に入れられるのですか?」


 必死の表情でそう尋ねてきたガキに、私は両腕を繋ぐ鎖を上げて見せる。


「これを外すだけで、それは手に入る」


 ガキは生唾を飲み込むと、腰のベルトから鍵を外した。


「……これは、自分のためじゃない。アウレリアのため、魔法のためなんだ……」


 自分自身に言い聞かせるように、震える声でそう繰り返しながら、カインは私の腕に巻かれた、魔力抑制の鎖を留める、赤い魔石がついた堅牢な錠前に鍵を差し込んだ。


 カチャン――


 軽い金属音と共に錠前の魔石が青へと転じ、鎖が私の手首から滑り落ちる。その瞬間、私の体内に魔力の奔流が戻ってきた。抑えようのない歓喜が身を包む。


「はははははは!」


 狭い独房に私の笑い声が響く。もう我慢する必要はない。この独房の魔力結界だけで私を抑えるのは不可能だからだ。高らかに笑う私をガキがすがる様な目で見る。


「あ、あの……約束の術式を……」


 救いようのないゴミだ。


「魔術を解せぬゴミ虫が、約束通り私の魔力をその身で味わわせてやる」

「え……?」


 ガキの目が丸くなる。まるで何を言われているのか分からないようだ。こんな無能者が魔法使いを名乗るとは。私は冷たく目を細めて見る。


「死ね、無能が」


  私は容赦なく、解放された魔力を右手に集束させ、驚くガキの胸へと叩き込む。


「ぎゃあぁぁぁぁああ!」


 カインの体は木の葉のように吹き飛び、石壁に激突して動かなくなった。ゴミ虫らしい姿だ。

 私は急いで転移魔法を唱える。術式が進むにつれて足元に白く輝く魔法陣が現れ、周囲の空間が陽炎のように歪む。転移の座標は竜背丘陵の拠点だ。 術式が完成し眩い光が私を包み込み始めた時、独房の扉が開いた。現れたのは先ほどの女、セレスティアだ。その手には不細工な鈴が握られていた。女はボロ切れのように動かないガキの姿を見て一瞬息を呑むと、私を見て鈴を振った。


 カラン


 その見た目通り、収まりの悪い不協和音が響く。女が口を開く。


「待ちなさい、ヴァイス!」


 その瞬間、私の脳内にこれまでにない全能感が湧き上がった。


(ようやく……ようやく、俺の名前を正しく呼びおったか!)


 この天才の名が、何度も違う名前で呼ばれ、踏みにじられた自尊心が、最後の最後で満たされる。私は勝利の確信と共に叫び返した。


「――ようやく俺の名前を覚えたか、愚か者め!! そうだ、俺の名前は ヴァイス ! この世界を根底から変える天才魔術師だ!!」


 その宣言と同時に、俺の視界はぐにゃりと反転した。


「なっ……!?」


 気がついた時、俺はいつの間にか女が立っていた位置にいた。目を上げるとそこには俺が開いた転移魔法の魔法陣に女がいる。


(入れ替わった!?)


 そう気がついた時には背後から飛びかかってきた衛兵に押し倒され顔を床に叩き付けられていた。鼻が折れたのだろう、魔術の効果で痛みはないが、意識が朦朧とする中、血が口の中に流れ込んで来るのが分かる。 「 押さえ込め!」 「魔力抑制の鎖を二重にかけろ!」という声が聞こえた。


「……やめろ、 俺は、天才魔術師、……ヴァ 」


 冷たい鎖が首筋に巻きつけられ、名前を最後まで言うこともできない。体の中の魔力が急速に霧散し、わずかに残っていた抵抗力も失われる。

 その俺の目の前に立っている奴がいる。


(ば、馬鹿な!?)


 そこにいたのはさっき壁際に吹き飛ばされ、ボロ屑のように死んだはずのガキだった。カインは冷然と俺を見下すと、銀縁の眼鏡を押し上げた。


「なぜだ? お前は死んだはずだ」

「ええ、ルナリア様の防御魔法具を着けていなければ死んでいたでしょうね。でもお陰でこの程度の攻撃なら、この通り全く無事です。それに僕の「『うっかり』を誘う呼び鈴」もちゃんと効きました」


(この程度の)という台詞も気になったが、それ以上に気になったことがあった。


「……なんの鈴だと?」

「ほら、貴方とセレスティア様の場所を入れ替えた鈴ですよ」


 鈴だと……。あのおかしな音のことか? あれが魔術具だとでもいうのか? そんなはずはない。魔術具であるのなら、発動した時に必ず俺に分かるはずだ。あの音には何の魔力も感じなかった。


「何を言っているのだ、お前は!?」


 そう言う俺を見てガキが嬉しそうに笑った。


「やっぱり全然気が付かなかったんですね! セレスティア様のお考え通りだ。あの鈴は僕が  」

「カイン」


 得意そうに話しかけたガキに魔法陣の中の女が声をかける。


「はい、セレスティア様!」

「……あとのことは、貴方に任せるわ」

「分かりました。どうか、ルナリア様を……」


 女は小さく頷くと、遠くから自分を呼ぶ「声」に耳を澄ませるように目を閉じた。


「……ルナが……呼んでいる……」


 そう呟いた瞬間、青白い光が収束し、女の姿は独房から完全に消失した。同時に俺は自分の意識が遠のくのを感じていた。

こんにちは、佐藤峰樹です。


なぜかカインについて書くと長くなる現象が働いています。もしかするとヴァルス、もとい、ヴェルス(?)のせいかも知れません(笑)。ちなみに氏のAIイラストを作ったのですが、誰得感の強い不気味な絵に仕上がったので、敢えなくお蔵入りしました(笑)。


週末をお休みにしたので貯金を、と思いましたが、アイデアはあれどなかなか打つ時間がなく困っています。そんな筆者の窮状を知ってか、ブックマークが伸びでなんと91へ! 三桁へのカウントダウンが見えてきて小躍りしてます。どうぞ皆さまのお力で悲願の三桁達成にお力をお貸しください! なんか選挙演説みたいになっていますが、本気でお願いすると言葉はフォーマット化するのだと、思う今日この頃、本気でどうぞよろしくお願いします!!


次回は明日の12時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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