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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第三部【深淵の盟約・北伐奪還編】

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第九十三話:深淵の静寂と影の咆哮【後編】

(……これは想像以上ね)


 机の上に広げられた書類には、私が王都で捕えた、ルナリア・アークライトの魔力についてまとめられていた。彼女が王立魔法学校の主席ということや、天才と呼ばれていることは知っていたが、捕えてみて分かったのは、とてもそんな言葉で間に合うものではないということだ。魔力の強さと量が桁外れなのだ。


 確かに彼女は倉庫で、私が厳重にかけた「空間固定結界」と「広域魔力阻害」を術式を使わず、素の魔力で破壊しかけた。正直に言えば、あの時の私の魔法は、ガロン様でも抑え込む自信があるほど入念で完璧なものだった。それを彼女は純粋に自分の魔力で、周囲の物理法則を捻じ曲げ、自らを宙に浮かせた上、仲間を逃がすために強烈な閃光まで作り上げたのだ!

 流石に体がそれに耐えかねて気を失ったことで捕えることができたが、用意していた「吸魔の腕輪」では全く足りず、もしあそこで彼女が気を失わなければ作戦は失敗していただろう。


 ガロン様はこの報告に、


「ゴーレムの炉としてこれ以上の素材はない!」


 とお喜びになっていたが、それほど話は簡単ではない。このままこの娘を炉とした場合、果たして器であるアレクシウスが耐えられるのか。もし、ルナリアの魔力をそのまま取り込んだゴーレムが暴走したら……? 自分たちは無論、敵も味方も、この大陸の生き物は全て焼き尽くされ、それはかつての「炎の百年」を超える災厄となるだろう。

 あの時、私とザックスがなんとかガロン様を説き伏せて、ルナリアの魔力を制御可能な状態にした上で、ゴーレムの炉とすることをお許しいただけて本当に良かった。

 最新の報告書を目の前にして、改めてそう思っていた。

 爆音が聞こえたのはその時だ。


 私はすぐに部屋を出ると、部下を従えて音の聞こえた実験室に向かった。

 まず目に入ったのは、厚い岩で作られた扉が内側に砕け倒れた様子だった。急いで部屋に足を踏み入れると、強烈な血の匂いと数人の侵入者らしい人影があった。ここにいるはずの私の部下や護衛の姿を探すが、見つけたのは部屋のあちこちに転がる残骸だけだった。


(役立たずどもが)


 そう思いながら慌てて奥の祭壇を見る。そこに宙吊りにされた彼女ルナリアの姿を見つけて私は安心した。彼女を失えば我々の計画は全て無駄になる。逆に彼女が我々の手の内にありさえすれば、いくらでも手の打ちようはある。

 調べた限り、アウレリアに彼女以外で私の魔力に対抗できる者は相手にいない。ここまでどうやって入ってきたのかは分からないが、死にに来たようなものだ。多少なりとも魔力がある素材なら、ゴーレムの材料にすればいい。

 そう思ったところで、祭壇に近づく女の姿が見えた。


「あら……随分と過激なのね。でも、その至高の素材ルナリアはもう私のものよ」


 女の足が止まりこちらを見た。

 亜麻色の髪に蒼い瞳。この女が情報にあった王国騎士団副団長、イザベル・アドラーなのだろう。


(……しかし、この女は騎士なのか?)


 これだけの惨状を作り出した当人のようだが、遮蔽布を纏っているせいか、その姿にはほとんど返り血が見えない。暗い蒼い目で私を見据え、ゆらりと血の海に立つその姿は、とても騎士、いや、人とは思えなかった。

 女は無言のまま、血溜まりを避けようともせず私に向かって歩いて来た。

 私の周りにいた護衛の兵が二人、剣を抜き斬りかかる。不思議なことに女の仲間と思われる者は誰一人動かず、この状況を見ているだけだ。

 あっという間に、二人はほとんど無抵抗のまま斬り倒された。剣を振り上げたところで、それをどうするのか忘れたように突っ立っていたところを、一人は首を突かれ、もう一人は斬られていた。ドサッという音が一つの塊になって部屋に響く。


(精神操作をしているのか!?)


 そう訝ったが、魔力感知に反応はなかった。

 女が近づくにつれて、自分の気持ちがぐらつく。まるで乾いた砂を盛って作った山に突き立てた棒のようだ。女が一歩足を進める度に土台の砂が削り取られていく。とてつもない憎悪が、自分の体の自由を物理的に拘束しているかのようだ。


(何を恐れる必要があるのか! 相手はただの人間に過ぎぬ)


 私は導師ガロン様に選ばれ、高位の精神干渉術を授かった【深淵の盟約】の幹部だ。いかに剣技が優れていようと、心を持つ人間である限り、私の魔術の檻から逃れることはできない。

 左腕に輝く新たな魔導具に意識を集中させた。かつてルナリアに破壊された「吸魔の腕輪」に代わり、導師より下賜された精神支配の触媒。


(さあ、見せてごらんなさい。あなたの心の中にある、その醜い感情を――)


 私は女の心へ魔力の糸を伸ばした。通常、激昂した相手の心は容易く透けて見える。恐怖、怒り、憎しみ。私はそれらを増幅させ、当人に返すことで自壊していく様を見るのが、私の至上の愉悦だった。

 だが……。


「……っ!?」


 ()()()()()()

 拒絶されるのではない。反発されるのでもない。わたくしが放った精神干渉の魔力が、女の存在に触れた途端、まるで底なしの穴に吸い込まれるように消失していくのだ。それは真っ黒な穴だった。


(何なの……この暗闇は。怒り……? いいえ、これはそんな生易しいものではない)


 女から溢れ出しているのは、光を一切反射しない、純化されすぎた漆黒の殺意だった。あまりにも巨大で、あまりにも一点に凝縮されたその黒い感情が、私の魔力が干渉すべき「心の隙間」さえも塗り潰していた。

 魔術という「共通認識」の盤面の上に、彼女はいないのだ!

 私は生まれて初めて理解した。いま、目の前にいるのは人間ではない。人の形をした、純粋な殺意だということを。

 女がまた一歩、踏み出す。

 次の瞬間、私の視界から彼女の姿が消えた。


(あ……!?)


 術式はおろか思考が追いつかない。防御壁を張る暇も、逃げ出す隙もない。死が、私の喉元を撫でたのを感じた。


「ひ……あっ!」


 バチン!


 という音と同時に、自分の体が後ろに吹っ飛び、身につけていた防御術式が書き込まれた首輪や腕輪、指輪が弾け砕ける。

 倒れたまま鋭い痛みを喉に感じた。無意識にそこを触るとぬるりとした血の感触がある。女のレイピアが私の喉に突き刺さろうとした瞬間、魔道具が働き辛うじて死なずに済んだのだ。血はそれでも防ぎきれなかった衝撃の証だった。

 なんとか痛む体を起こした私が見たのは、レイピアを下げた昏い蒼い目をした女の姿だった。彼女は確実に仕留めたはずの私がまだ生きていることを認めると、表情一つ変えることなく近づいてくる。


(今度こそ殺される!!)


 死を覚悟した、その時だった。

 祭壇から、異質な不協和音が響き渡った。


 キィィィィィィィン――。

「……あ、あ、あああああッ!!」


 祭壇の上に吊るされていたルナリアが、のけぞるように身をよじり、絶叫を上げた。その背後の壁に埋め込まれた赤い魔石は、禍々しい紫色の光を放ちながら、脈動するように明滅を繰り返していた。


「ルナッ!?」


 苦しむルナリアの姿に無表情だった女の顔に驚きが浮かぶ。次の瞬間、私の仕業と決めつけて剥き出しの憎悪を向けてくる。再び祭壇から鋭い不協和音とルナの絶叫が上がった。


(……そういうことか!)


 私はいま目の前で起きていることを理解できた。この女の放つ強すぎる殺意が、魔石に書き込まれた術式を狂わせているのだ。魔術も魔石に刻まれた術式も、それをかける人間の意思が籠められたものである点では同じだ。また原則的に一度、魔石に刻まれた術式が外部からの干渉で書き換わることはない。

 しかし、イザベルの殺意はあまりにも純粋で強力だった。そのためルナリアから魔力を奪う魔石の術式に干渉し、同調しているのだ。


「やめなさい、イザベル!……彼女を苦しめているのは私じゃない。貴女よ! 貴女の『彼女を守ろうとする殺意』こそが、いま彼女を苦しめているのよ!」

「な……に……?」


 イザベルの蒼い瞳を染めていた昏さが薄まり、代わって驚愕と絶望が浮かぶ。それまで付け入る隙がなかった彼女の精神に、決定的な「空白」が生まれた。


(いまだ!)


 私はその空白に、冷たい魔力の糸を滑り込ませた。イザベルは、レイピアを持ったまま、呆然とした人形と化した。その様子に彼女の部下たちが助けに入ろうとするが、これを容易く「冷たい血」の術印で凍りつかせる。

 ついさっきまで私に死を覚悟させた獰猛な凶器は、いまや従順な下僕と化していた。


ひざまずきなさい、イザベル」


 私の命令が彼女の意識を支配する手応えがある。誇り高き騎士の膝が、震えながら、ゆっくりと床へ向かって折れ曲がり始める。彼女が感じている屈辱や怒り、悲しみ、あらゆる苦しみの感情を、私は深く愉しむ。


(これからどんな屈辱をこの女に味わわせてやろう?)


 そう考えると体の芯に痺れるような疼きを感じる。膝を屈し、女の頭が私の足元へと下がっていく。


(お前を私の犬にしてやる)


 そう思った、その時だった。


「……セレス、姉様……、ここへ来て……」


 吊るされているルナリアの唇が、かすかに言葉を紡いだ。その声に呼応するように、祭壇の直下の空間が、ガラスが砕けるような音を立てて歪んだ。青白い魔法陣が忽然と現れ、その中から人影が登場する。

 現れたのは、いま苦しげに呟いた少女と同じ顔をした娘だった。しかし、その髪は黒く高く結い上げられ、瞳は紫水晶アメジストに輝いている。


「ルナ!」


(第九十三話 了)

こんにちは、佐藤峰樹です。


ルナ救出編もいよいよ佳境に迫り役者が揃いました。それにしても犬と猫は違う生き物だと改めて思ったのは。「お前を私の犬にしてやる」という台詞を書いた時です。ふと犬を猫に置き換えて、「お前を私の猫にしてやる」した時の破壊力に気がつき一人で笑っていました。朝の5時近くに。早く寝るべきですね(笑)。


お陰様でPVは順調に伸びていて、特に昨日は22時に250PVという爆発もありびっくりしました! 読んでいただいている方に心からの感謝をいたします。まだまだ続く予定ですので、ぜひこの機会にブックマークと評価をお願いします。


次回は明日の12時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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