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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第三部【深淵の盟約・北伐奪還編】

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第九十一話:留守居の助手と、紫水晶の来訪者【後編】

 指定された店の場所は、王都の華やかな表通りからいくつも角を曲がった先、地図にも載っていないような薄暗い裏路地だった。看板すらない古ぼけた魔道具店の扉を前に、僕は一度、大きく深呼吸をした。


(不合格なら、記憶を消される。……でも、魔石はもらえる)


 正直、この面接に来られた時点で、僕の目標は達していた。後は面接で落とされても、お土産がもらえるくらいの振る舞いを目指すつもりだった。

 意を決して扉を押し開けると、カランと乾いた鈴の音が響いた。

 店内、と呼んでいいのか分からないそこには、埃を被った得体の知れない干物や、鈍く明滅するひび割れた水晶玉が所狭しと並んでいた。そんな混沌とした空間の奥、カウンターに一人の少女が座っていた。

 輝くような銀色の髪。そして、すべてを見透かすような鋭い黄金の瞳。

 僕は思わず息を呑み、その場に釘付けになった。


「あ……あなたは、ルナリア・アークライト様……?」


 魔法学校の生徒なら、その名を知らない者はいない。入学初年度から常に学年首席に君臨する、魔法学校開校以来の才女。その圧倒的な魔力は十代にしてすでに学校の教授陣に並ぶ者はなく、術式の理論においても新しい領域を拓いている。さらにその美貌と、そして近づく者を凍らせると噂されるほどの不遜な気配をまとった雲の上の天才。それがルナリア・アークライトだった。

 もちろんこれまで喋ったことはない。年度の始まりと終わりに、首席として登壇するのを会場の遠くの席から一方的に眺めているだけだ。


「あなたがこのおかしな笛を作ったカインね。(わたくし)のことは当然知っているわね?」


 彼女は僕が学生課に提出した『周囲の魔力の揺らぎを音階に変える笛』を指先でもてあそびながら、淡々とした口調で言った。僕はなんとか自分がおかしな声を出さないようにだけ神経を使って答えた。


「は、はい。学校で、その……お姿を拝見したことがあります。まさか、このお仕事の募集主がアークライト様だったなんて……」

「いろいろ事情があってね、後で面倒なことになるといけないから」


  そこで僕は不採用の時には記憶が消される理由が分かった。不採用の時には本人の記憶からも消してしまうことで、自分との繋がりを残さないようにしているのだ。


(でも、何のため?)


 恐らくこのお店の存在をあまり多くの人に知られたくないのだろう。採用条件には、自分の使っている研究室を使うことも含まれていた。ここがルナリア様の研究室だということは、事実上、この国の最高技術があるということになる。

 そう考えれば色々納得できた代わりに、もう一つ違う疑問が湧いてきた。


(その研究室はどこにあるのだろう?)


 そんな僕の内心とは関係なく、ルナリア様は華奢な指で僕の作った『周囲の魔力の揺らぎを音階に変える笛』をクルクル回していた。


「あなたが作ったこの笛、面白いわね。術式構成は極めて簡潔。何より魔力消費効率がここまで限界に近い魔法具は初めて見たわ」


 その言葉に驚いた。僕の作る魔法具は、どれも魔力が低くても使えるように限界まで無駄を削ぎ落とした術式により、魔石の持っている力を限界まで引き出すように工夫している。つまり目的が先にあるのではなく、素材である魔石の素質を優先して、それを最大限引き出すことを目的にしている。そのため出来上がったものは、「役に立たない物」という評価を下されることが多い。というかほとんどそうだ。

 基本的に魔法学校は魔力の強い者が発言権を有する縦社会だ。そこでは僕のようなギリギリの魔力で入学を許された者はほとんどゴミ扱いされている。そんな世界では僕の省魔力へのこだわりが評価されることはほとんどない。それどころか「貧乏くさい」という一言で切り捨てられてしまうのが常だった。それでも僕がなんとか三年生になれたのは、魔法具科の教授の一人が、「まあ、こういう毛色の変わったのが一人いても良いだろう」という温情推薦だった。

 ところが目の前にいる、「学校に比肩する者がいない」と言われる巨大な魔力を持つ天才魔法使いは、その魔力効率の良さに着目してくれたのだ。


「あ、あの」

「なにかしら?」

「ルナリア様ほどの魔力をお持ちの方に、僕の研究がそんな風に評価されるなんて思っていませんでした」

「あら、そうなの?」

「はい。僕の研究は、省魔力にこだわりすぎで『貧乏臭くて、役に立たない物ばかりだ』と言われています」


 ルナリア様はちょっと驚いた顔をした後、笑い出した。それは屈託のない十代の少女の、銀の鈴を転がしたような声で僕は驚いた。少なくとも行事で見る首席の挨拶や、噂に聞く気難しい天才、という姿とは随分違っていた。笑い終えると、ルナリア様は驚く僕の顔を見た。


「確かに、あなたの省魔力は私には無用だわ」

(あ、やっぱり)


 と思わず顔を伏せそうになる僕を繋ぎ止めたのは、彼女の次の言葉だった。


「だけど、あのポンコツ教授たちには必要ね。彼らがあなたのこの技術に注目しないのは、魔力の強さを偏重する老いぼれた魔力主義の悪しき弊害よ」

「ふぅえ?」


 思わず変な声を出した僕に構わず彼女は続ける。


「学校が記録している生徒の魔力量を見れば一目瞭然よ。世代、性別を関係なく、この国はもちろん、恐らくこの大陸全体で魔力を持っている人の数も、魔力の総量自体も減っている。いずれこの大陸、いえ世界から魔力は消えるわ」

(なにを言っているんだこの人は!? ()()()()()()()()()()!? そんなことはあり得るのか?)


 思わずよろめいた僕の様子を見た彼女は軽く微笑んだ。


「そんなに慌てなくても大丈夫。明日、明後日の話ではなくてよ。100年後、200年後という話だから」


 そう聞いて僕は少し落ち着きを取り戻した。


「でも……、だけどいずれくる世界の話よ。ぱっとある日消えるのではなく、じわじわと時間をかけて魔法使いはこの世から消えるの」


 ルナリア様の顔から笑顔が消えていた。部屋の温度がぐっと下がった気がした。


「だからあなたのこの技術はとても大事な物になるわ」


 そう言って彼女は、しなやかな指さばきでもう一度笛を回し、最後に音もなくカウンターのテーブルに置いた。


「いずれにしろ、あなたの研究をとやかく言えるのは、私くらいの魔力を持ってないと駄目。あんなガラクタじゃあね。年をとればみんなが価値ある骨董品になるわけじゃないでしょ? ガラクタが年をとってもただのゴミよ。ゴミと骨董品の区別がつかない頓馬ばかりで……。まあ、同じ空でもハエの見る空と、大鷲の見る空は高さも広さも違いますわね」


(こんな綺麗な顔からよくもこんなにスラスラと罵り言葉が出るものだ)と感心していると、ルナリア様が改めて僕の顔を見た。


「それと、省魔力に関する評価はともかく、役立たずという評価は、まあ、妥当ね。この笛もそうだけど、記録を見ると……、『「過ぎ去った足音」を再生する絨毯』『「紅茶の溜息」を可視化する角砂糖』『「昨日の影」を映す水盆』『「誰にも届かなかった呟き」を拾う貝殻』……。『「眠っている猫の夢」に同期する鈴』って……なに?」


 天才の口から聞く自分の魔法具の名前は、心に刺さった。これまで教室や研究室での発表会で、何度もそんな目に遭ってきた僕だったが、その中でも極上にキツい体験で、嫌な汗が全身から吹き出るという新しい経験を味わっていた。


(この恥ずかしい記憶も消えるのならむしろ良かった……)


 そう思っている僕の耳に、


「いらっしゃい」


 というルナリア様の声が聞こえた。気がつくと彼女はカウンターの奥から僕を呼んでいた。慌てて近づくと、そこにはノブのない扉があった。彼女は軽く扉に触れると音もなく開き、地下へと続く石造りの急な階段があった。僕はルナリア様に続いてその階段を下りた。コツコツという足音がやけに大きく響く。その先に――魔法の研究室があった。

 頭の中で僕が何度も描いた、理想の研究室。それが目の前にあった。雑然とした一階のお店とは全く違い、あらゆる実験器具や魔法具が揃い、そして素材となる魔石や薬草などが収められた箱が整然と棚に収められている。天井は高くそれ自体が白く発光していて研究室の隅々までを明るく照らしている。何より目を惹くのは中央に置かれている磨き込まれた巨大な黒曜石の作業台だ。実験に使っているのだろう、幾つかの魔法具が置かれている天板には、複雑な魔法陣が刻まれている。

 思わず近づきたくなる気持ちをグッと堪える。なにを研究しているのか分からない他人の研究室で迂闊な行動は危険だからだ。

 ルナリア様の白く長い指先が、黒い黒曜石の天板を軽く撫でる。スウッと刻まれた魔法陣が輝き、それまで天井から降ってきていた清潔な光に代わって、作業台の周辺に配置されたランプに火が灯る。明るかった研究室の雰囲気が、一転して妖しい魔法使いの部屋になった。そこで振り返った彼女の姿は、ゆらめくランプの光に銀色の髪が輝き、金色の瞳がいっそう妖しく光っていた。その顔は美しく、まさに魔女のそれだった。


「ここが私の研究室よ。どう?」


 言葉もなかった。これほど完璧な研究室を見たことがなかった。それでも何か言わなければと思った僕は焦って口を開いた。


「す、凄いです。学校の研究室よりずっと凄いです!」


 その返事に、彼女は優雅に鼻を鳴らし、


「当然よ、ここは私の研究室なんだから。あんなどこにお金が消えたか分からないような研究室と比べないで欲しいわ」


 と答えた。


「じゃあ、カイン。この研究室を掃除してくれる?」


 ここまで来たのだから否も応もない。


「分かりました」と答えると、ルナリア様はにっこり笑い、

「じゃあ、私は少し上に行ってますから、その間にお願いね」


 と言い残し、研究室を出て行った。


(貴重なものが山ほどある自分の研究室に、他人を残していけるなんて凄いなぁ)


 と一瞬思ったが、この部屋全体に天才がかけた防御魔法がかかっているのだ。僕など恐れる必要はないのだろう。

 研究室に一人残された僕は、まずは銀縁眼鏡を指で押し上げて改めて周りの様子を確認する。

 一階のお店と違い、ここは十分に整理されている。だけど僕の目には眼鏡を通して「汚れ」が見えていた。それは物理的な埃ではなく、ルナリア様の強力すぎる魔力の残滓ざんさが、おりとなって、至る所にこびり付いているのだ。特に濃いのは部屋の中央に鎮座する黒曜石の作業台だ。僕の掛けているこの眼鏡は、そうした魔力の残りカスが見える唯一自慢の魔法具なのだ。もちろん自作だ。

 普通なら、真っ先に作業台を掃除すべきだろうが――僕は、そこには触れないことに決めた。

 ルナリア様と僕とでは、魔法使いとしての格は比べるべくもない。だけど同じ研究者として分かることもある。それは使い込まれた作業台というのは、馴染みの毛布のようなものだということだ。作業台に自分の魔力が生み出す独特の波長が染み込むことで、術式を超えた、ある種の丸みを帯びた、自分の手に馴染む魔法や魔法具を生み出せるのだ。

 ここに置かれている黒曜石の作業台はとても硬質で、その他の石材や木に比べて、強力な溶剤にも耐えられ、格段に精密な術式を実行できる上、扱う素材への余計な影響を最低限に抑えることができる。その反面とても脆い。粗雑に扱えばたちまち傷やヒビが入り、悪くすれば砕ける。ルナリア様は、長い時間を掛けてこの作業台に自分の魔力を刷り込むことで、ある種のコーティングとしているのだ。それが黒曜石という極めて脆く硬質な材料を使いながらも、どこかしなやかで滑らかな輝きを放っている秘密なのだろう。


 そう決まったら後は簡単だ。僕がやるのは作業台そのものではなく、そこに置かれている魔法具の掃除だ。恐らく何らかの通信に使う魔法具を作っているのだろう、極微弱な魔力を感知するための測定用の魔法具や、小さな振動を高出力に転換するための魔石、極小の術式を魔石に書き込むための魔法具などが並んでいた。そこから推定するに、出来上がりはそれこそ耳の穴に入る程度のものだろう。


(そんな魔道具、見たことがない!)


 そう思いながら恐る恐る手に取り、黒曜石の作業台の隣にある、木の作業台で掃除に取り掛かる。特に正確に魔力を測定する必要がある魔法具については、念入りにこびりついたルナリア様の魔力を落とす。学校では清浄の魔法で簡単に綺麗にしてしまうが、強力な彼女の魔力でついた澱はとてもそれでは落ちない。

 幸運なことに、僕はより強力な清浄の魔法を使えたので、多少時間が掛かったが、これで綺麗にすることができた。自分の眼鏡を通して、人差し指の先から出る細い光で魔力の澱が吹き飛び綺麗になっていくのを見るのは地味だが意外に楽しい。学校の研究室でもよく呆れられるが、僕の作る省魔法具を作るには、精密な作業が要求されるので仕方がないのだ。それに落とした魔力の澱にも使い道がある。

 どのくらい時間が経っただろうか、目に映る魔法具の掃除が終わり、棚の埃も払った頃、ルナリア様が帰ってきていた。


「終わりましたかしら?」


 長い間、ルナリア様の強力な魔法が籠った場所にいたので少しぼーっとしていた僕は慌てて答えた。


「は、はい!」


 彼女はチラリと黒曜石の作業台と掃除が済んだ魔法具を見ると、にっこり笑った。


「採用します」


 と言った。


「あ、っえ?」


 思ってもいなかった展開に頭が真っ白になっていた。


「どうしたの? ここで働けるのよ、嬉しくないの?」


 彼女は僕の顔を覗き込むと、金色の瞳を瞬かせた。


「あ、う、嬉しいです!」


 その返事に満足したのか、ルナリア様はもう一度にっこりと笑った。


「良い仕事です。特にこの作業台に触らなかったことが気に入ったわ」

「ありがとうございます!」

「教えてあげる」


 彼女はそう言うと、少し背の低い僕の耳元に口を寄せると、囁くようにこう言った。


「もし少しでも触っていたら、全部、()()()()()()()


 魔法学校きっての天才にして、僕の知る限り最も綺麗な女性。その甘い香りがふわりと鼻をくすぐるだけで、僕は身動き一つ取れなくなっていた。そこに追い打ちをかけるようなこの一言に、僕の思考は完全に凍りついた。辛うじて動かせたのは、彼女の表情を窺う視線だけだった。

  僕の反応を確認した彼女は、もう一度、にっこりと笑うと、ゆっくりと顔を離した。


 その後のルナリア様は、意外なほどテキパキと契約の条件の確認をすると、学生部が指定した契約書に記入を促された。僕は言われるままに名前を書いたり答えたりしていたが、要するに可能な限り店番として出勤し、自分がいない時には研究室も魔石も使って良いが、私に余計なことは聞かず、答えず、絶対に黒曜石の作業台では作業するな、ということだった。

 もちろん僕に否はなかった。それどころか僕用に別の作業台を用意してくれるということで、夢を見ているようだった。


 僕は指定の契約書を書き終えた時、ルナリア様は僕がペンを持つのと、反対側の手をじっと見つめていた。


「ねえカイン。貴方はどうしてそんなゴミ魔石を大事そうに持っているの? ここで雇われたのだから、もう魔石の心配をする必要はないはずなのに」


 そう言われて僕は初めて握った手の平に魔石があることに気がついた。それはくすんだ黄色の魔石で、廃棄物の中にあるのを見つけた物だった。


「それは……、勿体無いからでしょうか」


 ルナリア様は黙って続きを促した。


「恐らくルナリア様や他の方から見ればゴミにしか見えないのでしょう。ですが僕から見ると、まだこの魔石の持つ力を出しきれていないように思えるのです」

「……それはつまり、私がその魔石を使いこなせていないということかしら?」


 その口調は何気なかったが、金色の瞳の中には、これまでとは違う光があった。本能的に体が竦んだ。


「い、いえ! そういう意味ではありません」

「じゃあ、どういう意味なの?」


 わずかにルナリア様が僕の方に歩み出した。それは半歩にも満たないほどの小さなものだったけれど、僕は間違って入ってしまった檻で、巨大な熊ににじり寄られたような恐怖を感じていた。幻聴だろうか? 部屋の空気が、キリキリと音を立てて凍るような音が聴こえた。


「あの、その……、ただ僕は、あの……。ルナリア様のような魔力がない僕には、ただ、あぁ、もうちょっと、使えるかなっと。ただ、貧乏性で……ぐす」


 知らず知らずのうちに、僕の目からは涙が溢れていた。正直に言えば、それで済んで良かった。あの時、研究室で違う物を漏らしていたら、雇って貰えないどころでは済まなかったはずだ。とにかく、あんなに怖い目に遭ったのは、生まれて初めてだった。

 泣き出した僕を見て、ルナリア様は少しびっくりしていた。どうしていいのか分からない様子で、しばらくの間、黙って僕が泣き止むのを待っていた。

 ようやく僕が話せる状態に戻ると、彼女は元の口調に戻っていた。


「カイン。貴方にはその魔石が、私とは違って見えるのでしょう。それはさっき言った通りとても価値があることよ。だけど危険なことなの。ほとんど魔力を使わず、ゴミのような魔石を使って物や人に作用する方法があるとしたら? それはいまのアウレリアの魔法理論に対する、最も危険で、最も残酷な侮辱なの。もし学校の教授たちに見る目がある者がいれば、あなたの才能を恐れていますぐ火刑に処すでしょうね。魔力という対価を払わずに奇跡を起こすなんて、この世界の()簿()を狂わせる行為だもの」


 そう言うとルナリア様は僕の耳元に顔を寄せ、凍りつくようでいて、甘い声で囁いた。


「……表の世界では、今後はその省魔法具に関する技術は見せないこと。学校に提出する物はここにある魔石を使って普通のものを作りなさい。でないとあなたは本当に、誰にも思い出してもらえない場所へお掃除されることになるか、どこかの国の怖い人たちに攫われますわよ」


 僕は背筋を氷の指でなぞられたような戦慄を覚えた。

(僕の貧乏性が、アウレリアの魔法理論に敵対する!?)


 これまでそんな風に考えたことはなかった。でも、確かにルナリア様が言う通り、僕の魔法具は必ずしも大きな魔力や、質の良い魔石を必要としない。それこそ普通の人が持っている程度の魔力でも動く物もある。もし彼女の言う通り、これから先、この世界から魔力が消えていったとしたら? その時は僕のこの技術が世界を変える可能性がある。でもその前に、僕は魔力絶対主義のこの世界では、既存の魔法の価値を毀損する存在として処断される方が早いだろう。僕はこの時、自分の存在が危険なものだと初めて自覚した。同時にルナリア様が僕の命を救ってくれようとしていることにも気がついた。


「は、はい……。気をつけます」


 僕は震える手で眼鏡を押し上げ、ルナリア様の警告とその慧眼に、ただ畏敬の念を抱いて頭を下げることしかできなかった。


 ***


 僕は再び黒曜石の作業台を磨いた。


(ルナリア様に会いたい)


 そう思った時、一階の店に来客を知らせる壁のランプが点いた。

(こんな店に一体誰だろう?)そう思いながら一階へと急ぐ。まさかとは思うけれど、(ルナリア様に何かがあったのだろうか!?)と悪い想像をしてしまう。何しろ言付け以外の連絡はないまま、もう一週間近くお会いできずにいるのだ。

 普段なら必ず店の扉につけている魔法具からの映像を水晶で確認してから開けるのだけど、この日はなぜか胸騒ぎがして、階段を駆け上がるとそのままドアを開けていた。

 そこにはルナリア様がいらっしゃった。

 ただし、結い上げられた髪の毛は黒く、目は綺麗なアメジスト色だった。


(第九十一話 了)

こんにちは、佐藤峰樹です。


前回に引き続きカインです。今回はいよいよルナとご対面。やっぱり面白くて長くなってしまいました(笑)。


寒い日が続きます。皆さまも体調管理にお気をつけてお過ごしください。

冷え性の著者の心にも灯を、ブックマーク&評価をお待ちしています!


次回は明日の12時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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