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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第八十八話 幕間二:深淵の徴候と混色の旅団【前編】

 湿った岩肌を伝う水滴の音が、迫るその時を予感するように、規則正しく地下空洞に響いている。

 竜背丘陵の巨大な地下鍾乳洞を利用して作られたこの拠点は、冷気と古い魔力のおりに満ちていた。

 数万年の時を掛けて氷柱のように伸びた鍾乳石が、魔法で作られた光球に照らされ幻想的に輝いている。自然石の岩肌の所々に、古いが、明らかに人工物と思われる壁が覗く。この竜背丘陵(りゅうぜきゅうりょう)は、その土壌に豊富な魔力を有していることから、古から魔法の実験場として使われてきた場所だ。そのためこうした鍾乳洞の中にも、こうした往時の面影を見ることができる。かつて魔法帝国を築いたムルド王もまた、この地で様々な魔術の実験を行い、究極のゴーレムを造り出した。

 残念ながらゴーレムの暴走によりその実験場は徹底的に破壊され、いまはその痕跡を見つけることすらできないが、ガロン様は古の(ことわり)に従って、ここを新たなゴーレムの開発場所として選ばれた。もっともそれは、伝承的な意味合いはあったが、より実際的な意味で、この地に含まれる魔力の高さや、アウレリアからもタイドリアからも離れた地理的条件が重要だったのだ。


 私が重厚な石造りの会議室へ足を踏み入れると、既に卓には先客がいた。


「遅いぞ、ザックス」


 低い声で私を咎めたのは、王都での作戦から戻ったばかりのドルゴだった。その眉間には深い皺が刻まれ、以前の彼にはなかった焦燥が感じられた。


(何があった?)


 と思いながら、私は返事をする。


「魔力供給路の最終調整に手間取った。それに、私は時間より早く来ている」


 そう短く答え、彼の向かいに腰を下ろした。ほどなくして、音もなく扉が開き、メルルが姿を見せる。先に来ていた我々二人を一瞥したが、特に先日作戦を共にこなした、ドルゴに対しては冷ややかな視線を投げたことに気がついた。そんな彼女もまた、椅子に着いてもどこか落ち着かない様子で髪を弄っていた。

 そして、最後の一人が現れた。

 その場にいた全員の呼吸が、一瞬、息を飲む。

 黒き法衣を纏い、圧倒的な威圧感を放ちながら入室してきたのが、我らが指揮官、ガロン様だ。深く被ったローブの下から鋭い目が、会議室に集まっている面々の姿を見たのが分かった。


「……サイリスはどうした」


 ガロン様が石机の前に立ち、感情を排した声で問うた。


「はい。サイリスはルナリアを拉致後、予定通り現在、リューゲルと共に、北の国境防衛線にて蛮族たちの直接指揮に当たっております」


 私の報告に、ガロン様は短く頷いた。私は報告を続ける。


「現在のところまだ戦闘は始まっておりません」

「随分と時間がかかっているではないか」


 これはドルゴだった。私はその声の主を見ることなく、そのままガロン様に報告を続ける。


「蛮族軍の目的は、王都の騎士団を北に張り付けることにあります。我々は手薄になった王都を、現在、制作中の新造ゴーレムをもって攻略、これを壊滅させる。これが規定の作戦となっています」

 それが自分に向けられたものであることに気付いたドルゴが、軽く鼻を鳴らすと口を閉じた。それを見て、今度は私の方からドルゴに声をかける。


「ドルゴ。アレクシウス王太子の誘拐の主義を報告しろ」


 言外に、


(戦うことしか知らぬ馬鹿者が、人のことに口を挟む余裕があるのなら、お前にはまず報告することがあるだろう)


 という思いを込めている。その意図に気がついたドルゴの顔が強張る。

 ドルゴが一瞬メルルを見やるが、彼女が意図的に無視していることを悟ると、ガロン様に向かって口を開く。


「アレクシウス殿下の奪取には予定通り成功いたしました。一方で、リヴィア王女を狙ったヴァイスの方は失敗に終わり、奴は囚われ、現在は王都の牢獄に繋がれていると思われます」


 ガロン様がメルルに視線を向ける。それまで髪を弄んでいたメルルが姿勢を正し、緊張した様子で答える。


「……概ね、いまドルゴからの報告の通りでございます」

「私が得た報告だと、少し違うようだがな」


 そう言った私に二人の視線が集まる。どちらの瞳にも怒りと恐れがあった。私は構わず続ける。


「確かにアレクシウス王太子の奪取は成功したが、その過程で、ライルという剣士が登場し、作戦が危機に陥ったとあるが?」

「危機になど陥ってない!」


 メルルの高い声が会議室に響いた。彼女は自分の声に驚いたように口を閉じると、一度立ち上がり、ガロン様に非礼を詫びる。ガロン様がこれに軽く手を振って許すと、彼女は再び椅子に座り説明を始めた。


「……確かに、ライルと名乗る男が登場し、一時的にですが、ガロンも私もその侵入を許しました。しかし……」

「報告書によると、ガロンはその男に一撃で倒され、メルルも倒される寸前だったとある」

「!」「!?」


 私の言葉に二人が絶句する。私の手元にある報告書は、彼らが書いたものではない。あらかじめ私の指示で現地に飛ばしていた魔道具が記録していた一連の作戦の模様を、情報部が解析し作った報告書だ。彼らの都合で書かれたものとは異なる。


「げ、現場にもいなかったお前に何が分かるのか!」


 激昂して立ち上がるドルゴに、私は冷ややかに言葉を継ぐ。


「現場に居る居ないは問題ではない。記録を見れば分かることだ。ドルゴ、お前は明らかにクラリスと名の老人と、もう一人の男に時間をかけすぎた。その結果、ライルという男の登場を許すことになった。その点について、何か意見があるのなら述べよ」


 ドルゴは立ったまま凄い形相で私を睨んでくる。この男に私の100分の1ほどでも魔力があれば、私の頭は爆発していただろう。


「その点については、私もザックスに同意します」

(なに!?)


 という顔でドルゴがメルルを見る。彼女は構わず続ける。


「ドルゴは明らかにその二人との戦いに執着し、楽しんでいました。私は何度もその点について注意をしたのですが、この男はそれに耳を貸すことはなく、結局、あの男が介入する機会を与えてしまったのです」

「何を言うか!」


 ドルゴの大音声が会議室に響き渡った。


「貴様こそ、己の魔力に酔い、王太子を嬲った挙句、思わぬ反撃をくらっておったではないか!」


 グッとメルルが詰まる。


「最終的にアレクシウス王太子は我が手に堕ちたが、それはお前の命と引き換えに、勝手な契約魔法によって得たもので、お前は勝者ではない!」


 メルルの赤い瞳に冷たい怒りの炎が燃え上がり、赤く塗られた唇がニィと嫌な形に歪む。


「……ほぉ、ガロン様より賜った大剣を折られ、打たれた犬のように転がっていた男がよく言う」

「貴様!!!」


 目を剥いたドルゴの顔に術印が赤黒く物騒に輝く。


「もうよい」


 そう言ったのはガロン様だった。メルルが再び立ち上がると、ドルゴと共にガロン様に一礼する。ガロン様はやや気だるそうにこれを許し、二人が席に着く。


「ザックス」


 その声で私は報告を再開する。


「はい。ライルという男は、水晶の離宮に現れる前に、ヴァイスの計で森の離宮に誘い出したリヴィア王女を救い出しています。この時はもう一人、女の騎士がいたのですが、最終的にヴァイスの作った泥人形を倒し、彼を昏倒させたのはライルです」

「私のゴーレムも同じでした」


 落ち着きを取り戻したメルルが言葉を添える。


「私が使ったゴーレムは、ヴァイスの土人形と同じく、核の位置を変えることができるのですが、あの男はことごとく一撃で打ち抜いていました」

「ふむ」


 ドルゴ様が何か考えるように沈黙する。私はその思考を妨げないように、口を開く。


「ライル・アッシュフィールド。クーデターが起きる直前に現れた剣士。その生い立ちなどは不明ですが、卓越した武術を修めているのは間違いありません。現在はアウレリア王家の食客という立場で、騎士団やアレクシウス王太子の剣術指南をしているようです。その指導は独特で〈理〉というものを主眼に据えたもので、極めて難解……というより、抽象度の高い稽古体系であり、習う者によって評価はバラバラです」

「……〈理〉か」


 ドルゴがポツリと呟いた。私は押し殺したその表情の奥に潜むものを見つけ驚愕していた。


(この男は恐怖しているのだ!)


 ドルゴはガロン様が率いる【深淵の盟約】という組織の中にあって、魔術師ではなく生粋の武闘派である。それゆえ、私を含む魔術師からは軽く見られることも少なくないが、その実力は折り紙つきだ。もともと優秀な剣士であったところに、ガロン様から直々に強化魔法を体に施しているので、常人ではとても敵う者がいない。


(そのガロンが、ライルに対して恐怖している)


 改めてメルルを見る。やはり今日の彼女はどこかおかしい。ガロン様の強化魔法により彼女の血は冷たく、強力すぎて自らの身を焼くようや魔術を実行することができる。同時に、その冷たすぎる血は彼女の心も冷やした。怒りや喜びといった熱量を持った心の動きは失われ、稀にそうした激情に駆られてもすぐに冷静さを取り戻す。大凡人間らしい感情が欠落しているのだ。それが彼女の強力な精神操作魔術の元でもあった。しかし、いま目の前にいる彼女は、ライルの名が出る度にわずかに身じろぎし、髪をいじる回数が増える。


(名前だけで、この二人をこんなにも落ち着かなくさせる存在とは、ライルとはどんな男なのだ?)


 そう考えていると、ガロン様より声がかかった。


「ザックス、ルナリアとアレクシウスの様子はどうだ?」

「はい、ルナリアの方は相変わらず反抗的な態度です。一方のアレクシウスの方は、こちらにつくや否や意識を失い眠ったままです。色々手を施していますが、まだ目覚めておりません」

「理由は?」


 これはメルルからだった。私はメルルの方を見て口を開く。


「分からん。薬や魔術など色々やっているがいまのところ効果がない。逆に命脈同調をかけたお前の方が分かることがあるのではないか?」


 そう言うと、メルルが口籠った。


「……アレクシウスへの命脈同調は、いまは切れている」

「なに!?」


 それは初耳だった。


「報告にないぞ。なぜいまになってそんなことになっているのだ!?」


 メルルが取り繕うような口調で答える。


「私も気がついたのは先ほどだったのだ。……理由は分からない。今朝起きるとあの女との繋がりを感じなかった。ただこれが一時的なものなのか、それとも本当に解けてしまったのかは分からない……」


 あり得ない話だ。命脈同調はかけた術者が解くか、かけられた本人が自分自身の意思で、鍵となる秘密の経験や思い出を克服するかだ。偽りの人生を生き続けてきたアレクシウスが簡単にそれをできるとは思えなかった。


「目覚めれば分かると思うのだけれど……」


 珍しくメルルが自信なさげな口調で言葉を添える。


「メルル」


 ドルゴ様の声にメルルがびくりと反応する。


「お前とアレクシウスとの契約魔法はどうなっている」

「あ、あの契約はもう履行されておりますので、もはや関係ありません!」


 声が緊張で高くなっていた。

 アレクシウスは自らの命を交渉の材料にして、部下たちに危害を及ぼさない代わりに、進んで我々の虜囚となったのだ。この際、彼女の要求でメルルは契約魔法を彼女と結んだのだが、これはすでに履行されているので、彼女が目を覚さないことには関係ない。

 もちろんドルゴ様もそれは分かっているはずだ。その上で聞いているのは、緊急事態とはいえ、ドルゴ様に無断で契約魔法を結んだことについて釘を刺しているのだろう。本来であれば任を解かれ、投獄されてもおかしくないほどの罪だった。メルルもそれが分かっているから緊張しているのだ。

 ドルゴ様が沈黙する。それはごく短いものだったが、メルルにとっては異常に長く感じれれたようだ。彼女の額に汗が浮かぶのを初めて見た。


「メルル」

「は、はい!」

「失望させるなよ」


 メルルが椅子から飛び降りるようにして床に跪く。


「このメルルの身も心もすでにガロン様に捧げたもの。全身全霊をもってガロン様の覇道の礎となります。ご懸念とご不快の念を生じさせたことを深くお詫び致します。必ずや今後の働きで取り返す機会を与えていただければと切に願います」


 ガロン様はその姿に一つ頷くと、私に向かって(他にないか)と目で促す。


「畏れながら、囚われたヴァイスの件でいささか懸念があります」


 全員の視線が再び私に集まる。


「先ほどのメルルの報告にもありましたが、なぜ、ライルなるものが泥人形やゴーレムの核を一撃で打てたのか。また、ヴァイスの術式より早く彼を打てたのか、この点が解せませぬ」


 ガロン様は私の報告を聞いた後、冷たくわらった。


「魔術を解さぬ羽虫一匹に、何ができるというのだ」


 その言葉の底に、非魔術師に対する徹底的な軽蔑と、自身の知略への絶対的な自信が混じっていた。


「ヴァイスが敗れたのは、奴が物理的な速度に術式を追いつかせられなかったという、単なる計算間違いの結果だ。核のことも同じだ。彼奴が手もなく倒されたのであれば、その手が作ったものもその程度だということではないか」


 そう言うと、全員の顔を見回す。


「魔術ということわりを解さぬ者が、どれほど速く動こうと、それは所詮、獣の足掻き。羽虫の戯れに過ぎぬ。私の描く〈新たな世界〉の完成を止める要素にはなり得ん」


 ガロン様にとって、世界は魔術の術式と論理によって導き出された完璧に計算ができる世界だ。そこに魔術を持たぬ「無才」の者が紛れ込む余地など、最初から存在しない。


「いまゴーレムの器となるアレクシウスと、その動力源となるはルナリアが我が手に揃った。この二つが融合した時、アウレリアの歴史は終わり、新たな秩序が始まる」

「御意。……ではヴァイスの処分はどういたしましょうか?」

「放っておけ。お主らと同様、彼奴の体にも舌命の術式が彫られている。余計なことを喋ればその命はない。それが分からぬほどの馬鹿ではないだろう」


 そう言うと、もうヴァイスのことには興味を失ったようだった。会議はそのまま、北伐軍を迎え撃つための最終配置の確認へと移った。

 完璧な采配、完璧な布陣。


 だが私の中で、ガロン様が〈羽虫の戯れ〉と決めつけたライルの存在が微かだが大きくなりつつあった。

お読みいただき、ありがとうございました。※少し遅れての更新になりすみません。


今回の幕間二、前編は【深淵の盟約】の面々の登場です。


前話の後書きに書きましたように、今回からは第三部までの幕間を二話お届けします。第三部の開始は少しお正月休みをいただいてからと考えております。この間は、一度「完結」表示を出させていただき、再開は1月5日からの予定です。

また再開後は1日1回更新となる予定です。ご愛読いただいている皆様には、どうぞよろしくお願いいたします。


さて連載開始三ヶ月で100ブックマーク&10万ですが、ありがたいことにブックマークは81! PVは99,797PV(29日13時35分時点)を達成。PVの方はどうやら達成の目が見えてきました。PVもそうですがブックマークを押していただいた皆様に心から感謝します。


さて本日夜の更新で第二部は完結。暫しのお正月休みを挟んで第三部へと進みます。

この機会に、未読の方に『病俺、面白いよ!」とお薦めしていただけると嬉しいです。


引き続き「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。

よろしくお願いいたします。


次回は本日の21時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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