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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第八十七話 幕間一:失地回復の男と女【後編】

 ライル様が闇の中へと消えた後、一刻ほどすると城からの援軍がやってきた。その間私は、昏倒したヴァイスを縛り上げ、猿轡を噛ませた上で、震えるリヴィア様を抱きしめながら、城からの援軍を待っていた。

 到着した騎士たちにヴァイスを引き渡し、私はリヴィア様と共に用意された馬車に乗り込んだ。

 護衛の騎士たちが来るまでは、感情が抜け落ちたようだったリヴィア様だったが、騎士たちに囲まれると再び激しく泣き始めた。それは彼らを見て泥人形たちを思い出させたのか、それとも改めて自分が犯してしまった間違いの大きさに気づいたからかは分からない。ただ私は馬車の中で、彼女の背中を静かに撫でることしかできなかった。

 王都に帰った私たちはすぐに陛下の私室に向かわされた。そこには疲れた顔のヴァレリウス王がいらっしゃった。陛下は泣きじゃくり胸に飛び込んできたリヴィアを抱きしめると、小さな声で「お前が無事で良かった。……いまはゆっくり休め」と声をかけ、彼女を控えていた侍女長に引き渡し、自室へ下がらせた。


 それから陛下は私にソファに座ることを薦め、何があったのかを報告を求めた。

 私は実際にあったことを知る限り話した。その中には、私が手紙についてリヴィア様から相談を受け、断ったことや、そのことを直接陛下に報告せず、リヴィア様に任せたことも含まれていた。もちろん処分は覚悟の上だった。

 陛下はその全てを黙って聞いた後、リヴィアが持っている手紙を調べた上で、そこにどのような魔術が掛けれられていたのか、その効果の強さなどを確認した後、改めて私の行動を罪に問うかどうかが決められるだろうと説明された他は、何も言わなかった。

 そして森の離宮で、ヴァイスという男が操る泥人形に囚われていたこと、そこへ私がライル様と飛び込んだこと、そして、ライル様が鮮やかに泥人形を破壊し、ヴァイスをとらえたことを説明した。

 陛下は、


「また、あの男か」


 とわずかに苦笑する以外、やっぱり何も話さず静かに話をお聞きになっていた。

 ただひとつ大きく表情が歪んだのは、ヴァイスの証言についてお話ししたところだった。


「……ではそのヴァイスという男は、リヴィアに向かって『お前は囮だ』と言ったのか?」


 その声には苦い響きがあった。


「……はい」


「そして、アレクシウスこそが本命であり、究極のゴーレムを統べる「器」にする、と……?」


「……はい」


 答えながら私は息苦しさと、不思議な印象を抱いていた。お二人がご自分の代わりに狙われたということもあるのだろう、私の話を聞く陛下の表情は沈痛のそれだった。それとは別に、リヴィア王女のことを聞く時と、アレクシウス殿下のお話を聞く時とでは、微妙に陛下の表情が違うのだ。もちろん実子であるリヴィア様と、本来では甥であるアレクシウス様では違うことは分かるのだが、なにかそれ以上に苦しげなものを抱えている気がした。それは以前の私なら分からなかったわずかな機微だった。


 一通りの話が終わったところで、陛下は長い沈黙の後、


「ご苦労だった、セレスティア嬢」


 と言った。そして、私の顔を見て、


「お父上はいま北伐の途上にある。妹のルナリア嬢のことも心配であろうな」


 と労いの言葉をかけてくれた。

 私は思わず顔を伏せていた。本来であれば投獄されてもおかしくない私に対して、こうした言葉をかけていただきホッとした気持ちもあったが、それ以上に、羞恥の感情の方が強かった。陛下のために蛮族掃討を目指し北へと向かう父と、同じく、【深淵の盟約】の悪事を暴こうと戦い、自ら罠に嵌ったルナに比べて、(私は何をしているのか?)という思いだけがあった。


「疲れたであろう。今日はもう下がって良い。後日、改めて正式な査問があると思うが、それまでは体を休めていよ」


 この言葉で私の報告は終わった。


 城外のアークライトの屋敷に戻った時には、長い夜が明けようとしていた。

 下働きのマルコはまだ来ておらず、私を迎えたのは、刺すような冷気と、暗く静まり返った家だけだった。


(また、一人だ)


 それはルナが攫われ、父が北伐へと王都を発つことが決まった後に感じたものと同じだった。あの時私は、自室のベッドでルナの名前を呼んで泣き叫んだのだ。


(私は無力だ)


 そう思いながら二階の部屋へと戻った。ベッドを前にしても、泣く気も眠る気もしなかった。

 私は静かに身につけていた剣と防具を外すと、衣服を脱いた。夜明け近くの冬の冷たい空気が容赦なく肌に刺さる。それでも私は脱ぎ続けた。最後の下着に手をかけて、するりと床に落とし、髪を縛っていた紐を解く。サラッと黒い髪が背中に広がる。

 そうして鏡には裸の私が映っていた。私はその姿を見つめる。体のあちこちにアザがあることに気がつく。この強行軍の間に知らずについたものだろう。

 ほっと吐いた息が白い。足の裏から冷気が体に染みてくる。

 それでも私は、鏡の中の自分の姿から目を離さない。

 ルナがいまどんな目に遭っているのかを考えれば、こんな冷たさは罰にすらならない。髪と目の色が違う以外、ほとんど私と同じ妹のルナリア。そっと胸に触る。寒さで固く敏感になった肌が、自分の手の冷たさにビクッと震える。胸の下でトクトクと血が通っているのを確認する。

 以前はこうすると、どこにいてもルナの姿がなんとなく目に浮かんだものだった。それも十歳を過ぎる頃からなくなっていた。


(見た目は似ているけど、中身は違う)


 そう、ルナは「天才魔法使い」。一方の私はかつて「天才剣士」だ。

 私は自分の両腕で自分を抱きしめた。体のどこかに、あの馬を駆ってリヴィア様を助けた時に感じた片鱗がないかを探すように、冷たい肌に冷たい手を這わせる。

 だけど、もう、それはどこにもなかった。

 それを確認した後、私は両膝を抱えて床に座り込み、声を上げて激しく泣いた。


(また私は泣いている。ライル様に会うまでは泣くことなんてなかったのに)


 そう思った。


(私は本当に強くなっているのですか?)


 そうライル様に問い糺したかった。あの時、リヴィア様を救ったあの時も、私は褒められることを期待していた。だけど、ライル様は褒めてはくれなかった。ただ、「セレスさん。それでいいのです」と言っただけだ。


(どうして褒めてくれないのだろう?)


 そう考えた途端、泣きながらも冷え切った体が羞恥で熱くなった。お父様もルナも、みんなが大変な時に、私はまだそんなことを考えている。騎士としてはもちろん、人として最低だと思った。何もかも全部投げ出したいような気もした。アークライト家に生まれ、剣術が好きで、それを疑問に思うことなく生きてきた。その私に、初めて疑問を抱かせたのはライル様だった。


(もしかしたら私はライル様を憎むべきなのかもしれない)


 ちらっと、そんなことを考えて、ユリウスの顔が浮かんだ。慌ててそれを否定する。


(違う。私はライル様の教えを恨みたいのではない、学びたいのだ)


 そう心に思う。それから私は泣き疲れて寝てしまっていた。


 気がつくと窓からわずかに朝日が届き始めていた。曇天なのだろう、部屋を照らす光が鈍い。

 それでも朝日だった。

 素肌を刺す冷気はまだ厳しかったが、先ほどまでの責めるように感じていたものが、なにか心地よい緊張感を与えてくれるものへと変わった感じがする。

 鏡に映る私の顔には、涙の跡がある。だけど紫水晶アメジスト色の瞳には、見慣れた光が少し戻っていた。もう一度、肌を撫でる。今度は過去の片鱗を探そうとするためではない。いま自分がここにいること、自分の輪郭を確認するように自分の肌を触る。冷たい肌に少しずつ温かみが戻ってくる。なだらかな肩にも、張りのある内ももにも、そこには時間をかけて鍛えた筋肉が息づいているのを感じる。

 目を瞑り左右の手を体の両脇に置き、足首、膝、腰と滑らせながらゆっくり立ち上がる。くびれた腰から、左右に膨らむ胸を経て、両手を体の中心に合わせて首からあごを触り、そのまま左右の耳を軽く覆う。冷たい耳が手の平で温められる。そしてもう一度、顔の輪郭に沿って撫で下ろし、あごの下で合掌する。

 ゆっくり目をひらく。

 鏡には相変わらず、裸の私が映っている。でも部屋に入ってきた時の私とは違う。

 曇り空が晴れたのだろうか、冬の強い日差しらしい、パキンとした光が私の体に当たる。白い肌に黒い髪が輝いている。目の前に映る女の目には、紫水晶色の瞳が輝いている。


「……私はアークライト家のセレスティア。……そしてライル様の一番弟子」


 そう、はっきり口にすると、手早く脱ぎ捨てた衣服を片付けて、戸棚から新しい衣服を取り出し身につける。その上に、外していた防具と剣を帯び、もう一度鏡に自分の姿を確認する。

 そこにはいつもと変わらないセレスティア・アークライトがいる。

 でも私には分かっていた。

 そこにいる私は、昨日までの私とは違う。

 それに気がつく人はいないだろう。

 それで良いのだ。

 でも私は変わった。そのことに世界で唯一気がついたのは私だ。

 それを糧に、私は生きるのだ。


 部屋を出て一階に降りると、そこにはマルコが来ていた。


「セレスティア様! お帰りだったのですか!? 心配しておりました!」


 私は驚いた様子のマルコを見て笑顔で頷く。


「心配させてごめんなさい。でも大丈夫」


 そう言って階段を降りると、私は外へと続く扉に手をかける。


「お嬢様、もうお出かけになるのでしょうか? いま朝食をご用意いたします!」

「大丈夫、すぐ戻るから」


 そう言って外へ出てお城へと向かう。どこに行くかは分かっている。

 リヴィア様、陛下、そして私を嘲笑ったあのヴァイスという屑野郎を絞り上げて、ルナのいる場所を吐かせるのだ。


(第八十七話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。


今回の幕間一、後編はセレスです。一歩進んで二歩退がるのセレスですが、ちゃんと進歩しています。


前編の後書きに書きましたように、今回からは第三部までの幕間を2話お届けしています。第三部の開始は少しお正月休みをいただいてからと考えております。この間は、一度「完結」表示を出させていただき、再開は1月5日からの予定です。

また再開後は1日1回更新となる予定です。構造は一話を前編、後編に分けます。ご愛読いただいている皆様には、どうぞよろしくお願いいたします。


さて連載開始三ヶ月で100ブックマーク&10万ですが、ここまで(28日 時現在)でブックマークは81! 98,085PVを達成。本当に10万PV達成は見えてきました。年末のお忙しい時期にお読みいただいた皆様には、心から感謝致します。


引き続き「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。

よろしくお願いいたします。


次回は明日の13時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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