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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第八十六話:竜背へ、七日の焦燥【前編】

 胸の上に置かれたライルの掌の温もりが、じんわりと伝わってくる。わずかに細められた瞳が俺を見ている。


「なぜ、イザベルさんが竜背丘陵に向かっているのですか?」

「もともとはタイドリアの密偵、エリオットからの情報によるものです。彼の国でも優秀な魔術師が何者かによって拐われるという事件が連続しているということで、私に接触してきたのです」

「……しかし、イザベルさんは騎士団を率いて、北伐へと向かっているのではないのですか?」


 彼にしては珍しく少し驚いた顔をした。

 無理もない。数日前、彼女が副団長として騎士団の第一部隊と第二部隊と共に、王都を出立したのを見ているのだ。


「……本来は、そうです。ですが、我が家に伝わる魔道具のブレスレットを通じてルナリア嬢の危機を知ったあいつは、団長のギデオン殿と、軍監レオポルド殿から特命を受け、極秘に軍を離脱して戻ってきたのです」

「そういうことですか」


 そう言うと、それ以上は何も言わず、ライルは目で続きを促した。


「エリオットの情報では、我々の敵――【深淵の盟約】がルナリア嬢を狙ったのは、彼女の強大な魔力を古代ゴーレムの『炉心(動力源)』にするためです、そして――」


 そこでライルが口を開いた。


「ここで彼らが殿下を狙ったのは、アウレリア王家の血を必要としているため、ですね」

 ようやく落ち着いてきた息が止まった。


「なぜそれを!?」

「ここへ来る前にリヴィア王女をお救いした時に、ヴァイスという者から聞きました」


 そうだった! ライルとセレスティア嬢の二人はリヴィア殿下の救出に出ていたのだ!


「リヴィア殿下は!?」

「ご無事です。いまはセレスさんがお守りして、援軍を待っているところです」


 彼はそう言うと簡単にことの顛末を話した。リヴィア殿下がアレクシウス王太子からの偽の手紙で森の離宮に誘い出されたこと。恐らくその手紙にはなんらかの誘惑の魔術がかけられていたこと。現場で、【深淵の盟約】の一員である、ヴァイスと名乗る男に出会ったこと、男の操る泥人形と戦闘になったこと、そして男を捕らえたことなどだ。


「……では、ライル殿はそのヴァイスという男から、奴らの狙いがアウレリア王家の血であることを聞き出したのですね」

「はい。彼は本命はより濃い王家の血を引くアレクシウス殿下だと言っていました。そしてその目的は、完全なゴーレムを作るための(器)だと。エリオット殿からの情報はどうでしたか?」


 俺は少し考えて答えた。


「エリオットからは(器)という言葉は出てきていません。彼は最悪の兵器、ゴーレムを確実に支配下に置くための(絶対的な安全装置)と言っていました。ただお話を聞く限り、いずれにしろアウレリア王家の血が奴らの作るゴーレムにとって必要不可欠であることは間違いないのでしょう」

「殿下が(安全装置)……」


 ライルはそう呟くと、改めて俺の顔を見た。


「フォルカー殿はエリオット殿から、彼らがルナさんを誘拐した理由を聞かされているのですね?」

「はい。彼の話によるとゴーレムを動かすには巨大な魔力が必要だということで、ルナリア嬢はゴーレムを動かす(炉心)のような存在だということです」


 俺がそう言うと、彼はゆっくり目を瞑った。そのまま静かに、ごく小さな虫の音を聞こうとするように、頭をゆっくり小さく左右に揺らす。そして開かれた黒い瞳には、なにかについて確信を得た光があった。


「ルナさんの行方を追えば、アレクシウス殿下に辿り着くと可能性が高いと思います」

「なぜそう考えるのですか?」

「いままでの話をまとめると、ルナさんも殿下も、ゴーレムを作るために連れ去られています。だとすれば、彼女たちが集めら得るのは、ゴーレムを作っている現場、つまりエリオット殿の言う竜背丘陵にある彼らのアジトだと考えるのが妥当ではありませんか?」


 確かにそうだ。彼女たちが材料であるのなら、少なくとも近い範囲で使われる時を待っている可能性は高い。それに宙に消えてしまった殿下の手がかりを探すよりも、すでに先行しているイザベルとエリオットを追った方が実効性が高い。仮にそこに殿下がいらっしゃらなくても、何らかの手がかりはあるはずだ。


「分かりました。イザベルたちを追うのが良いでしょう」


 その言葉に頷いたライルはすぐに立ち上がり、出発する気配を見せた。


(なんと行動の早い男だ!)


 俺は内心舌を巻きながら、慌てて彼を押し留めた。


「ライル殿、もうひとつ耳に入れたいことがあります」


 彼は上げかけた腰を再び降ろし、俺の顔を見た。


「イザベルのことです。先ほど申し上げたように北へと向かう騎士団から抜けてルナリア嬢を探しています。ただいつまでも軍を離れるというわけにはいきません」

「期限があるのですね?」


 相変わらず飲み込みの早い男だ。俺は頷いて話を続ける。


「そうです。期限は七日間です。別れたのが……」


 そう言って空を見上げる。ずっと魔法の光球が輝いていたので感覚がおかしくなっていた。改めて長い一日だと思った。


「今日の暮の五つ過ぎで、彼らの馬も魔術具で強化していますので、竜背丘陵まで二日もあれば到着するでしょう。何か見つかれば必ず連絡することになっています。ただ……」


 自分の有様を目で指し苦笑いを浮かべる。


「私がこんな有様なので、いますぐ動くことはできません。ですから……」


 そう言って、俺は腰のベルトから黄色い魔石が埋め込まれたコインのようなものを取り出した。


「これは私たちのような仕事の者が持ち歩く符牒のようなものです。何か新しい情報があればここへ伝言が届きます。ただこのままではあなたには使えませんので……」


 そう言うと俺はそれを口元に当て、


「我らを導きし星辰の神のアステリオンよ、我が息を引き取り、新たな息を主人とせよ」


 そうそう唱えるとライルに手渡し、


「石に向かって息を吹きかけてください」


 と言った。ライルが素直に息を吹きかけると、魔石は一度強く輝き元に戻った。


「これでエリオットと連絡が取れます。ただ向こうは私がこれをあなたに預けたのを知らないので最初は戸惑うでしょうが」


 そう言われても彼は特に不便には思っていない様子で、手の平に置かれたそれを、何も言わず眺めている。どうやらエリオットの方が苦労しそうな気配だ。


(今回の件は大きな借りになりそうだ……)


 そう思うと、胸ではなく俄かに頭が痛くなってきた。


「これを私に渡してしまってフォルカー殿は大丈夫なのですか?」


 そう尋ねるライルに、


「私とイザベルは他の方法で連絡が取り合えるので大丈夫です。ライル殿は取り敢えずそれを持って、彼らを追ってください。恐らくエリオットはそれを渡すように言うと思いますが、その時は素直に渡してください」


 と答えると、彼は素直に頷いた。


「いずれにしろイザベルには時間がありません。全行程を含めて『七日間』……ルナリア嬢を救出できるか否に関わらず、この期間内に軍に戻らなければ、陛下の無許可のこの離脱は、イザベルはもちろん、許可したギデオン殿と、レオパルド殿も軍法会議を免れません。それに指揮官不在で戦いが始まれば、北方の戦線自体も危うくなります」


 そう話しながら、恐らくイザベルの性格からいって、騎士としての自分の責任を投げ出すようなことはしないという確信があった。彼女は期限内にルナリア嬢を救出することができなかった時には、諦めて戦場に戻るだろう。そういう娘だ。だがその時、イザベルは人生で最も大事に思っているものを見捨てたという自責の念を一生背負うことになる。


(そんな思いはさせたくないな)


 俺はそう思っていた。この仕事は自分の心とどう折り合いをつけるかが大事だ。だから、誰もが、余計な負担を抱えないように生きる。誰かを深く思ったり、愛したりすることを避け、子供にすらどこかで線を引いて対する。それが(王の影)の生き方だ。


 イザベルは本当に模範的な娘だった。女の身でありながら、幼少の頃から厳しい訓練に耐え、さらには騎士団へ入団し副団長の地位まで駆け上った。その間の苦労を知らないわけではない。伝統を重んじる騎士団で女性が地位を得ると言うことは並大抵のことではない。しかも、(王の影)の長である俺の娘という立場を隠したまま成し遂げたのだ。


 自分の弱点となるあらゆるものを切り捨て生きてきた彼女が、初めて心を明かした人、それがルナリア嬢だったのだ。正直、彼女にあのブレスレットを渡したと聞いた時は驚いた。(王の影)の長として危険だと思った。しかし父親として嬉しくもあった。


 行軍中の騎士団から離れ、想い人の救出に向かう。


 ちらりとまだ膝立ちのまま地面に立っている親父の姿が目に入った。


(どうやらうちの家系は、誰かのことを想うのが不器用らしい)


 口の端がわずかに苦笑で歪む。それに気がついたライルが、俺の目を見つめる。まるで俺が考えていることが分かったようにも見えた。普段の俺なら、そうした目で見られることに居心地の悪さを感じていただろう。だがこの時は違った。


「……あの娘は、七日という限られた刻限の中で、大事に思うルナリア嬢を救い、アレクシウス殿下を奪還し、なおかつ北部へ戻らなければならいという、あまりにも無茶な任務を自分に課しています。ライル殿、どうか……お力をお貸しください」

「分かりました」


 そう、彼は答えた。それは気負いのない一言で、頼んだ人間の心を軽くする、不思議な響きがあった。


(ああ、この男なら頼める)


 肩の荷が下りるのを感じた。そんな場合ではないことは分かっていたが、この数年で初めて感じるような安堵感が胸に広がる。


「私もできるだけ早く合流します」


 ライルはボロボロの俺に向かって「無理をしないでください」とは言わなかった。それが彼なりの礼儀なのだろう。無理なんていうものは、誰かに勧められたり、止められたりするものではない。魂がそれを求めるからやるのだ。


 ライルは一つ頷くと、ゆっくりと立ち上がり俺の元から離れて行った。

 闇の向こうで小さく口笛が鳴る。すぐに馬の足音が近づくのが聞こえた。


「また力を貸してくれるかい」


 ライルは馬に向かってそう囁くと、馬が嘶く。その声に馬が喜んでいるのが分かる。

 ザッと馬に乗った気配がすると、鞭を入れる音もなく、軽やかな足音が遠ざかっていく。

 新しい戦いが始まろうとしていた。

お読みいただき、ありがとうございました。※少し遅れての更新になりすみません。


舞台は竜背丘陵へと移ります。次回で一旦、第二部の終了です。


さてさて、X'masの翌日の昨日は2,030PVとブックマークが一つ増え79になりました!嬉しいです!入れていただいた方に心から感謝いたします。累計で97,419PV(本日12時時点)と、本当に達成が見えてきました。まだ分かりませんが、29日の連載開始三ヶ月目の最後まで頑張りたいと思います。応援の程よろしくお願いいたします。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の21時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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