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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第八十二話: 希望という名の怪物【後編】

 改めて見る男はボロボロだった。持っている武器や身につけている防具は無論、本人も傷だらけだ。左の肩の具合も良くないのだろう、剣を重そうに持ち上げている。無理もない。ガロン様の強化魔法の恩恵を受けている俺を相手にここまでやっているのだ。恐らく老人とは違い、この男はなんらかの強化魔法を使っているが俺ほどではない。

 なかには強化魔法を使うことを非難する者もいるが、弱い者の言い訳としか思っていない。強い者が、さらに強くなるために手段を選ばないのは当然ではないか。それを選ばない方がどうかしている。戦いの場では相手は選べない。「俺は強化魔法を使っていないから、同じように使っていない相手と戦いたい」とでも言うつもりなのか? 全く馬鹿げている。

 改めてこの力を授けてくれたガロン様に感謝する。


「さあ、続けようか」


 男は答えず、剣を構え直す。疲労が見えるが、その目には力がある。


(素晴らしい)


 俺がそう心の中で呟いた時、男が、こちらに向かって歩き始めた。俺もそれに応じて近づく。あと数歩で間合いに入るところで、男の体が不意に沈む。あっと思う間も無く一気に距離が縮む。縮地法だ。一気に距離を詰めた男が左手の長剣を真っ向から振り下ろしてくる。しかしわずかに間合いが遠い。


(疲れで焦ったか?)


 と訝しみながら俺は、両手の剣を合わせて受ける。


 ガキィィン!!


 と激しい衝撃が手に伝わってくる。だが間合いが少し遠いうえに、こちらは両手だ。問題はない。その瞬間、ジャラリという音と共に受け止めた剣の刀身がバラバラになった。


「む……!?」


 俺は、目を見開いた。バラバラになった刀身は細い糸のようなもので、繋がっていて、受け止めた俺の両剣に絡みつく。


(なんだこれは!?)


 と思う間もなく剣が引かれる。反射的に取られまいと引き返す。男が俺の引いた動きに合わせて懐に飛び込んでくる。


(むう!?)


 引く力に逆らって咄嗟に引き返したその瞬間、男が俺の懐に飛び込んできた。その右手にはいつの間にか再び逆手に握り直した短剣が光っている。刃先が防具の無い左の脇の下に滑り込むのを感じる。全てがゆっくりに感じる。パキンと心臓を守る肋骨が折れるのが分かる。すぐ横には心臓がある。


(なるほど、 よく考えたな。 だが――)


 短剣の刃先が俺の心臓に達したところでカチンと、なにか硬いものに触れる音がした。同時に咄嗟に出していた膝蹴りが男の胸に入る。ミシッと男の胸骨が悲鳴を上げる。思わず下がった男の胸にさらに前蹴りを入れる。今度はブーツの底越しに、バキバキバキっと、はっきり胸の骨が折れる感触があった。

 吹っ飛んでいった男が受け身も取れず、背中から地面に落ちる。その口から、ガハッと血の塊が吐き出された。

 そこで俺は改めて自分の左脇を見た。そこには、男が残した短剣が刺さったままあった。まるで俺の体から短剣が生えているようにも見える。俺は考えることもなく、右手に持っていた剣を地面に突き刺す。ジャラリと絡んでいた男の剣が抜け落ちる。

 右手の指先で刺さったままの短剣の柄をつつく。痛みはある。俺はその柄を持って引き抜く。途端に傷口から血が吹き出す。だが、それは心臓を突き破ったにしては少なすぎる量だった。

 抜き出した短剣の刃先が欠けていた。

 俺の心臓にガロン様が授けてくれた魔法結界が発動した証だ。

 俺は男の顔を見た。そこには最後の望みを打ち砕かれた者が浮かべる驚愕と絶望の色があった。


(本当に大した奴だ)


 同じ日に、二度も、それも親子からそんな思いをさせてもらえるとは思わなかった。王太子には苦い思いをさせられたが、それを差し引いても、今日は素晴らしい日だったと言えるだろう。だが楽しい時間ももう終わりだ。空中のメルルを見やる。あちらもそろそろ終わりのようだ。

 俺は欠けた短剣をぽとりと地面に落とし、代わりに地面に刺していた剣を引き抜いた。

 再び両手に剣を握る。


(先に老人の方からやるべきか?)


 と思ったが、この親子にそうした情は無用に感じた。

 そのまま剣をだらりと下げたまま、男に向かって歩き始めた。


(苦しませずに、一思いに殺してやろう)


 それが、素晴らしい戦いをしてくれた相手への礼儀だ。どんなに時が変わっても、相手には相手が必要だ。そして、良い戦いには、良い相手が必要だ。メルルなどは俺のそんな俺を「無意味な感傷だ」と笑う。全く魔術師というのは戦い味わい深さというものを分かっていない。


 その時――。

 音が聞こえた。地面を揺らす音、蹄の音だ。

 だが――異常に速い。


「この期に及んで、また援軍か?」


 俺は男に尋ねるが、苦しげな男にも驚いた表情を浮かんでいるところを見ると、連携したものではないようだ。

 俺は、ちらりと空中にいるメルルの方を見た。だが彼女は、ゴーレムに囲まれている王太子に集中しているようで、こちらの様子には気づいていないようだ。

 その間にも蹄の音は大きくなってくる。やがて俺の部下たちにも、ざわめきが広がる。


「何だ……?」 「誰か来る……!」 「馬だが……、それにしては速すぎる……」


 一気に大きくなってきた足音に混じって、何かが倒れる音がした。

 ザッ、という音と共に、街道ではなく森から何かが飛び出してくる。

 俺は、そちらを見た。

 馬に乗った人の影だ。


「ライル殿……」


 と男が掠れた声で言うのが聞こえた。


(……ライルというのか。確か作戦会議で聞いた名前だ。クーデターを防いだ謎の剣士だと)

 部下たちが、慌てて駆け出す。


「止まれ!」「殺せ!」「突き殺せ!!」


 三人の兵士が、槍と剣を構えて正面から馬上の男に殺到する。

 だが、馬上の男が抜いた刀を数度閃かせると同時に、部下たちが倒されるのが見えた。


(何だ……!?)


 呆然と見ていると、男が手綱を引き馬から降りる。すかさず近づいてきた男たちも簡単に打ち倒すと、それを気にする風でもなく降りたばかりの馬に何事か囁きかけている。やがて馬が男から離れていく。男はその様子を少し見てからこちらに向かって歩いてきた。

 その視線が俺を見た。しかしそれは一瞬で、倒れている男、その父親、空中の女、そしてゴーレムに囲まれた王太子を見る。部下たちも、一連の動きに度肝を抜かれたようで、不用意に近づこうとせず、反応を伺うように俺を見ているのが分かる。


 だが、俺は動けなかった。

 先ほどまでの戦いで味わった興奮や喜びは一瞬にして蒸発していた。

 この男は俺をほとんど見ていない。ちらりと現状を確認するために一瞥しただけで、ほとんど意識の中に入れていない。全く俺に脅威を感じていないどころか、意識にも止めてないのだ。まるでそのあたりに転がっている石ころを見るような目だった。


(何だ、この男は……!?)


 体から湧いてきたのは恥辱や怒りではないものだった。それは王太子と戦っていた時にも感じた見知らぬ何か……。それは俺があの時に、見ないようにしていたものだった。

 それでも俺は全身の力を奮って声を出した。


「……何者だ」


 声が震えないように、慎重に男に声をかけた。男は立ち止まりチラリと俺を一瞥したが、それには答えず、視線を俺の後ろで倒れている男に移した。


「フォルカー殿、いま喋れますか?」


 その声が酷く場違いであることは俺にも分かった。声をかけられた、フォルカーと呼ばれた男も当惑している。それを気にする風でもなく男が口をひらく。


「まず、何から始めればいいか教えていただけると助かるのですが」


(((何だ、この男は!?)))


 そう思ったのは俺だけでないのは間違いないはずだ。俺の部下だけではない、相手の部下も唖然としているのが分かった。


「ライル様、恐れ入りますが、まず、その大きな御仁を倒して、次に空にいる御婦人を倒して、アレクシウス殿下をお救いください。ゴーレムは核を斬らなければ増えますので、ご注意ください」


 その声は老人のものだった。俺と戦っている時とは口調がずいぶん違っていることに気がついたが、それどころではない。


「クラリス殿、ありがとうございます」


 男はそう答えると、俺に向かって歩いてきた。そこにはなんの敵意もない。まるで久しぶりにあった知り合いに近づくような、なんのてらいもなかった。

 俺は混乱していた。それは王太子時に感じたあの違和感に似ていたが、それよりもずっと気味が悪いものだった。目の前に自分に向かって近づいてくる男が見えているのに、何をどうすればいいのか(手がかり)がないのだ。底なし沼に足を取られたような感覚。何をしようという取っ掛かりがなく、取り付く島がないのだ。こんなことは初めてだった。どんな相手でも、始める前はそれが明確ではなくても、始めてしまえばそこに戦いの糸口やすべきことが分かってくる。それは頭で考えるまでもない、体に任せていればいいことだ。

 だがいまこの前にいる男には、そうした俺の経験が全く働かないのだ! だから体が金縛りにあったように動かない。

 そうしている間にも男は無造作にゴーレムを倒しながら、急ぐ風でもなく近づいてくる。

 間合いが迫る。


「ぐぅあああぁああああぁああ!!!!」


 知らずして俺は獣のような咆哮をあげながら男に突っ込んでいた。両手に持った剣を左右に大きく広げ、その間に相手の体を挟み斬る。この両剣遣いを学んだ時に、最初に覚えた技だった。

 左右から狭まる剣が男を捉えたと思った瞬間、

 っと、不意に男の姿が宙に舞った。


(なんだ!?)


 見上げると、空に浮かぶ光球を背にした男のシルエットが目に入る。強い光で男の表情は見えない。目標を失った左右の剣が空を切り、自分の太い腕が自分を縛るように体に巻き付くのを感じるが、目は男から離せない。

 真っ直ぐに男の刀が脳天に振り下ろされるのが、不思議にゆっくり見える。刀が鈍く光っている。その刃はなまくらとすら呼べない代物、ただの鉄の棒だった。


 ガグッ


 という音を聞いた時、俺は分かった。

 俺がずっと見ないようにしてきたものの正体。

 それは――恐怖だった。

 俺は、恐怖していた。


 その瞬間、俺の意識は断ち切られていた。

お読みいただき、ありがとうございました。


ライルの回は書くのは楽しいのですが、いつも相手が気の毒に思えます(笑)。


おかげさまで評価をいただけたようで嬉しいです。連載開始3ヶ月の節目まであと6日。「ブックマーク100件」「10万PV」は達成できるのでしょうか!? もし「続きが気になる!」「応援してやるよ」と思っていただけましたら、ぜひ、Xマスプレゼントにブックマーク登録や広告下の【☆☆☆☆☆】評価をポチッとしていただけると嬉しいです。


次回は明日の12時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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