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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第八十二話: 希望という名の怪物【前編】

 肺腑を焼くような鉄の味がする。

 俺は双剣を構え、眼前の獲物を舐めるように見据えた。

 目の前の男の名前は知らない。ただ、男が怒っているのは分かった。それも激怒している。

 男は先ほど俺と戦った老人の横で何事か話していた。その様子からかなり近しい人間、恐らく肉親であるように思えた。


「……その老人はお前の肉親か?」

「……お前に何の関係がある?」


 言って振り返った顔を見て確信した。この男は老人の息子だ。であるのなら、相当の実力者だろう。メルルに放った短剣の四連撃も大したものだった。正直、ひやりとしながら見ていたが、あれに反応できたメルルも大したものだ。もっとも、俺を番犬のように呼びつけたのは気に入らないが。いまはいい。知らず知らずに口元に太い笑みが浮かんでいるのが分かる。


「……そうか。だったら、少しは楽しめそうだ」


 俺は両手に持っている剣の剣身を合わせて、研ぐように滑らせる。この剣は、ガロン様より頂いた大剣が折れてしまったため出してきた両手遣い用の剣だ。もともとは使う予定はなかったのだが、念のために部下に持たせていたものを出すことになった。

 に特別な仕掛けが施されているため、振った時の風切音が普通のものの二倍はある。また、こうして合わせるといい音がする。どこかの流儀では音を立てずに刀を振ることが尊ばれているが、俺は違う。ヒュンヒュンと軽快な音が、気持ちを昂らせてくれる。特にこの二剣遣いでは節を取るのに重要なのだ。


 シャリン、シャリン


 俺は研ぐように両手の剣を合わせる。

 男は何か短いやり取りをすると俺の方に向き直った。老人よりは背が高いが、それでも俺とは頭一つ違う。やや短めの剣を右手で持っている。さっきの短剣の投擲術を見ると、まだ他にも武器を隠しているのだろう。革製の鎧は動きやすそうで、色々仕込めそうだ。


(何をしてくるのか楽しみだ)


 男が立ち上がり、こちらに向かって数歩進んだところで、ふと、足元に目をやった。何かが転がっていることに気がついたようだ。下生えの草が深く、俺からはそれが何なのか見えなかったが、再びこちらを見た男の目が怒りに燃えていた。憤怒といっていいだろう。真っ直ぐに俺に向かって走ってくる。

 俺はそれを見て改めて感じた。


 ――いい。たまらない。


 純粋な殺意を向けられるこの感覚。その純度が高ければ高いほど、喜びが強くなる。もとより誰に対しても手加減などしない。俺を恐れて打ち掛かってくる兵や剣士はもちろん、必要であれば無抵抗な女子供であっても殺してきた。そこに躊躇はない。だが、本気で俺を殺しにくる相手に対するものとは全く違う。それは単なる作業だからだ。

 俺が求めるのは、互いに己の体の底から沸騰するような殺意を、遠慮なくぶつけ合う戦いだ。

 そして目の前のこの男は、恐らく父親であろう老人と同じか、それ以上の殺意を持って向かってきている。


(さあ、やろう)


 両剣の切先を体の前で軽く合わせて待つ。

 ところがその瞬間、男の気配が変わった。全身の毛穴から溢れていたギラギラしていた殺意が変わった。消えたわけではない。質が変わったような感じだ。滑らかなビロードのような、どこへでも抵抗なく滑り込み、一瞬で相手の息の根を止めるような不思議な殺意。

 俺は初めて出会った種類の殺意に、思わず笑顔で声を出して応じていた。


「来い」


 男が低い姿勢から擦り上げの逆袈裟を放ってくる。これを俺は左の剣でそれを抑える。


 ガチン!


 火花が散る。俺は男の剣を抑えたまま、右の剣を横に振るが、男は巧みに俺の左側に潜り込みつつ、両手で握っていた剣から右手を外し、腰の後ろに手を入れる。次の瞬間、左の膝裏に猛烈な痛みが走る。

「グゥァッ!」

 腱を斬られたのが分かった。恐らく腰の裏に隠してあった短剣でやったのだろう。すでに男の姿は視界から消えている。俺は空を切った右の刀を頭上に差し上げ頭の後ろを守るようにグルリと一回転させる。


 バチン


 と刀身が何かを叩く音と手応えがあった。位置から考えると、男が俺の後ろ頭に短剣を突っ込もうとしていたのだろう。素早く俺から離れる気配がした。

 俺は左膝の具合をみながらゆっくり振り返る。少し離れたところに左手に長剣、右手に短剣を握った男が冷たい、殺意の籠った目で俺を見ていた。左膝を伸ばす。痛みはあるが戦いには支障はない。ガロン様の強化魔法に感謝する。それにしても一瞬で二剣遣いの弱点を突いてくるとは。


「なるほど、あの老人の息子らしい」


 そう言い終わる前に男が動いた。

 真っ向に振り下ろされる左の剣を右剣で受ける。こうすれば反対側の右手での攻撃は遠くなる。同じ獲物であれば条件は同じだが、男の短剣と俺の長剣では全く違う。俺の攻撃を一方的に防ぐしかなくなる。

 俺は男の顔に向かって最も間合いの差が出る突きを入れる。すると男は素早く短剣を逆手に持ち替え、脇を締め顔の前で俺の突きを受けると、そのまま刀身を滑らせて近づいてくる。シャランという音と、火花を散らしながらあっという間に俺の懐に入ると、再び短剣を順手に持ち替え、腕を伸ばして俺の喉を狙う。その動きには、老人の動きを彷彿させるものがあった。

 そう思いながら俺は、突き出していた右手で男の体を横へ薙ぎ払う。文字通り皮一枚、男の短剣が触れた喉から血が薄く滴るのを感じる。


(老人、素晴らしい息子を育てたな)


 俺の打撃で肩が外れたのだろう、男が左腕がだらりと下がっている。男は俺を見たまま無言で体を振って肩を入れる。顔も(しか)めず、左腕は剣を握ったままだ。その近くに男の父が寝ていた。何ごとか老人が男に声をかける。アドバイスだろうか? そのぐらいは構わない。ただ動けない老人の側で戦うのは気が向かなかった。


「おい、その老人の側でやり合いたくはない。こっちへ来い」


 男は二言三言、老人と言葉を交わすとこちらに向かって歩いてきた。

 十分老人との距離ができたところで再び向き直る。


「今度は俺の番だ」


 一気に距離を詰めて両剣を揃えて真っ向から振り下ろす。男が左へ躱す。いい反応だ。だが終わりではない。俺は腰を右へ回転させる。腕と剣が腰の振りで軌道を変え男を追う。(斬った)と思った瞬間、男が思い切りよく地面に身を投げていた。全く楽しい奴だ。そのまま右に薙いだ剣を腰を左に切り返すことで頭上に差し上げ、今度は地面に寝ている男の背中に振り下ろす。軌道が長くなったことでわずかに生まれた間隙を見逃さず、男が左に跳ね起きる。


(いいぞ、いいぞ!)


 再び腰の振りで両剣の起動を変えつつ、ここで俺はそれまで体の中心で並べて使ってきた二本の剣をバラバラに使う。これは昔、南の海で海賊をやっていたという傭兵から学んだものを自分なりに工夫したものだった。右の袈裟斬りで注意を引きながら、ほとんど同時に左で脚を狙い、さらに右で逆袈裟、と上下左右を対角線で攻撃することを基本にしている。大陸ではあまり知られていない技法だが、驚いたことにこの男は対応してきた。それどころか時折反撃までしてくる。

 俺の中で喜びが膨れ上がる。


(いいぞ、お前は実にいい)


 俺が剣の回転速度をあげる。剣が打ち合わされる音がひと連なりとなってあたりに響き渡る。一瞬でも気を抜けば致命傷になる。ヒリヒリした感じがたまらない。この世界に俺とこの男しかいないような気になってくる。俺はこの男を殺したくて殺したくて仕方がないのだが、同時に殺したくないとも思っている。生きていることを実感できるこの瞬間が永遠に続くことを望んでいる自分がいる。


(だが、そういうわけにもいかん)


 徐々に速度を落としていく。男もそれに応じて速度を落とす。互いに何をすべきかが分かっているのだ。あの老人もそうだが、この男も戦いを分かっている。恐らくどちらも否定するだろう。だが、俺には分かっている。この二人は誰でも、どんな理由でもいい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺はそれを知っている。

 やがて互いの間合いが外れ剣が止まった。


「お前は良いな。父上同様かそれ以上だ」

「……それはそこで寝ている父に聞かせてくれ」


 男は面白くなさそうにそう答えた。

お読みいただき、ありがとうございました。

まず更新が遅れてしまったことをお詫びします。すみませんでした。


今回はドルゴ目線での戦いです。書いているうちに意外に長くなってしまいました。後半の「学んだ力を全力でぶつけたい」というのは、ずいぶん昔にお話をさせていただいた、ある拳法の先生からインスパイヤされたものです。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の20時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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