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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第七十八話:メルルの焦りと気づき【前編】

(なんだ、これは!?)


 私は上空から、眼下の光景を見つめた。

 アレクシウスが、ゴーレムの群れの中を舞うように駆け回っている。その手に持つ剣が閃くごとに、一体、また一体とゴーレムが崩れ落ちていく。


(核を……正確に破壊している……!?)

 ありえない。ゴーレムの核はヴァイスの泥人形マッド・ドールと同じように、一体一体埋まっている場所が違う。それは外見からの判別は不可能で、作った私でも一目では分からない。それなのにアレクシウスは、なんの迷いなく核を突いている。

 ゴーレムに向かって真っ直ぐ踏み込み、一点を狙って剣を突く。まるで核の位置が最初から見えているかのように。その剣捌きには無駄がない。ゴーレムの攻撃を躱し、隙間を縫い、核を突く。水が流れるように滑らかな動きだ。


(どうやって……?)


 魔道具を使っている気配はない。では何か特殊な能力か? いや、そんなものがあれば事前の調査で分かっているはずだ。

 冷たい血の温度が、苛立ちに熱くなるのを感じる。

 このままでは王太子を捕らえることはできない。ゴーレムはすでに二十体以上を生成している。まだ袋の中には幾らか種となる魔石が入っているが、この状況で追加してもあまり意味はないだろう。それにゴーレムは魔石と大地に備わった自然力を反応させることで生まれる。通常の戦場であれば気にすることはないが、この狭い範囲で過剰に生成を続けていると、大地の力が枯渇して、ゴーレムを生み出すことができなくなってしまう。こんな狭い範囲での作戦でここまで消耗するとは想定外だ。


(別の方法……何か別の手段が必要だ)


 私は懐から水晶を取り出した。

 両の手の平に収まる水晶が、私が放った照明魔法の強い光を受けて輝く。普通のものよりかなり小さめだが質が極めて高く、結界の破壊にも使った私の大事な魔道具だった。

 私は一点の曇りもない水晶に魔力を注ぎ込む。精神攻撃は、私の得意とする術だ。

 それは結界を破るのに似ている。相手の心のあり様を読み取り、弱点を見つける。それは恐怖の対象でもよければ、愛するものでも、そのどちらでもいい。相手の行動の要となるものを見つけて、それを利用して操るのだ。ただ、結界と違うのは心は不確定要素が多いということだ。

 結界は厳密な術式で成り立っている。だが心は違う。様々な感情が渦巻き、記憶が絡み合い、絶えず揺れ動いている。人間はそうした不安定に歪み続ける眼鏡越しに現実を認識している。私が行うのは、眼鏡を思うように歪めることだ。それによって目に映る現実の姿を変えて思うように操る。それ自体は術式のように捉えることができるのだが、問題は結界と違い、仕掛ける側の心が、相手の心に引かれてしまうことだ。

 特に相手の感情が強ければ強いほど、その影響は大きい。

 だから私は、ガロン様に古代魔術で魔力を高め、心を封じる術印を刻んでいただいた。血を冷たくすることで、頭と心を冷たくし、相手の感情に引き摺り込まれないための術印。そのお陰で、私は相手の心の不安定さに惑わされることなく入り込み、操ることができた。


(アレクシウス、お前の心を見せてもらおう)


 眼下でゴーレムを相手にしているその姿を見つつ水晶に念を送る。だが……。


(捉えられない!?)


 冷たい血に驚きという名の嫌な熱が加わり体を駆け巡る。

 心にはどんな人間でも本来的に備わった防御反応がある。特に優れた魔術師や戦士、王族は、他者の侵入を拒む堅牢な心の鍵を持っている。それ自体は予想の範囲内だ。魔法結界と同じで手間や時間はかかるが、いずれ開けることはできる。

 しかし、アレクシウスの心は捉えどころがないのだ。まるで風を掴もうとしているような感覚で、感情や記憶の断片に触れようとすると、その指先をすり抜けていく。ひと時も一箇所に止まることなく、動き続けていて捉えどころがない。


(無理に取りにいくことで、強い反応が引き出すか)


 そう思った私は、それまでの探るような動きから、乱暴にさらに踏み込む。

 だが同じだった。踏み込んだ分だけ柔らかく受け止められ、退がると元に戻る。まるで弾力性のある球のようだ。アレクシウスの心は、恐怖も不安も怒りも悲しみも――全てを包み込みながら、流れ続けている。感情が整然と整理されているのではない。全てが、ただ――流れている。


(勝負の入り口にすら立てない……!)


 水晶が僅かに熱を帯びる。魔力の消耗が激しい。それでも止めるわけにはいかなかった。

 私はさらに深く押し込む。

 そして――ようやく見つけた。

 アレクシウスの心の核。それは、強い意志。誰かを守りたいという想い。そして……。


(師への信頼……?)


 誰かへの、絶対的な信頼。それが、この流れの中心にある。その信頼から生まれる温かさが、全ての感情を受け入れ、流し続けているのだ。

 じわっと、私の心にその温かさが伝わってくる。それを拒絶しようと魔力を込める。冷たい血が体を巡るのが分かる。いまは抑えられているが、長く続けるのは危険だ。なにより魔力の消費が激しすぎる。作戦を成功させるにはここで使い切るわけにはいかない。


(しかし、このままでは……)


 その時、私は何かに気づいた。指先が何か固いものに触れたような感覚。


(……これは?)


 僅かな違和感。アレクシウスの心の奥底に、何か隠されているものがある。それは長い年月を経て巧妙に覆い隠されているが、確かに存在する。流れの中に、ごく僅かな澱みがある。


(何を隠しているの……?)


 私は、その違和感を探ろうとした。だが、それは深く、深く沈んでいて、指先を掠め、するりするりと躱す。徐々に体温が上がっていくのを感じる。目の前が段々暗くなる。


(くっ……このままでは……)


 水晶がさらに熱を帯びる。魔力の消耗が限界に近づいている。

 私はそこで一度、それ以上の侵入を断念した。スッと体温が再び低くなるのを感じる。


(別の方法……別の手段が必要だ)


 私は、水晶から視線を上げ、下方にいるドルゴを見た。

 あの馬鹿は、折れた大剣を見つめて呆然と立っている。使い物にならない。

 だが、いまは働いてもらわなければ困る。

 私は、ドルゴに念を送った。


『ドルゴ』


 ドルゴが、ビクリと体を震わせ、私の方を見上げる。


『これから王太子の心を攻めることに集中する。その間、邪魔が入ることを防げ』

『……分かった』


 ドルゴの不機嫌そうな念が返ってくる。

『お前は部下を使って戦場全体を監視しろ。逃げる者、近づく者がいれば、殺せ』

『……分かった』


 ドルゴが、短く応じた。

 私は、それ以上何も言わず、念を切った。

 あの男がどう思おうと、もうどうでもいい。作戦を成功させる。それだけだ。


 ✴︎✴︎✴︎


『ドルゴ』


 メルルの念が、頭の中に響いた。

 俺は反射的に体を強張らせ、上空を見上げる。


『これから王太子の心を攻めることに集中する。その間、邪魔が入ることを防げ』


(……心を、攻める……?)


 俺は、眉をひそめた。

 精神攻撃か。メルルの得意とする術だ。その有効性は認めているが、俺の戦場で使われるのは好まない。だが……。ゴーレムどもが動き回るここはもう、俺の戦場ではなかった。忸怩たる思いが湧き上がるのを抑えて答える。


『……分かった』

『お前は残った兵隊を指揮してゴーレムたちの外からアレクシウスを囲みつつ、戦場全体を監視しろ。この場から逃げる者、この場へ近づく者がいれば全て殺せ』

『……分かった』


 俺は、念を切った。


(この俺に命令するのか)


 苦虫を噛み潰した思いでメルルの念を思い返しながら、再び折れた剣を見る。

 俺は最強を求めてガロン様の軍にこの身を投じた。それを後悔したことは一度もない。いまこの瞬間も、それが間違っていたとは思っていない。

 ガロン様は自身が優れた魔導師であるにも関わらず、俺のような騎士の価値を認め、重用してくれている。確かに魔術は強力だ。しかし、実際に街や都を征服し、そこに住む人間を屈服させ、統治するには騎士の存在は欠かせない。魔術師の多くはそうした大局を見通す視野に乏しい。だが、ガロン様は違う。だから俺は望んで剣となったのだ。


(それがこのざまか……)


 そう自嘲した時に声がかかった。


「ドルゴ様!……こ、これは!?」


 周りに集まってきた部下たちが、俺の手に残った折れた大剣に気づき、驚いた様子を見せる。無理もない。彼らは幾多の戦場で、俺がこの大剣を持って敵を屠る姿を見て従いここまで来たのだ。


(これ以上の醜態を見せられぬな)


 俺は、部下たちを見渡した。


「お前たちの半分はゴーレムから少し離れた場所から王太子を囲め。あまり近づきすぎるとゴーレムに巻き込まれるので注意しろ。残りの半分は戦場全体を見張れ。この場から逃げようとする者も近づこうとする者も殺せ」

「は、はっ!」


 命令されたことで落ち着きを取り戻した部下たちが、一斉に動き出す。

 俺は、再び戦場を見る。そこにはゴーレムの群れの中を駆け回る王太子の姿が見えた。


(……たいしたものだな)


 と思う。普段であればこのまま許すわけもないが、いまはその気にはならなかった。その理由は自分でもよく分からない。ただ、あの戦いの中で感じた、あの得体の知れない感覚を、もう一度味わいたくはなかった。

 王太子と剣を交えた時、俺の中で何かが揺らいだ。それは敗北への恐れでも、死への恐怖でもない。もっと別の、もっと深いところにある――何かだ。

 俺の中にある、確固たる何かを、不安定にさせるもの。

 それが何なのか、俺には分からない。

 だが――それをいまは確かめたくはなかった。


 ✴︎✴︎✴︎


 ドルゴに念を送った後、私は改めて眼下で戦うアレクシウスを見た。不思議なことに、一心不乱にゴーレムを突き崩すその姿は、美しさを増していた。軽やかな足取りは、まるで舞を見ているようで、心を操ろうとしているこちらが惚けてしまいそうになる。

 私は慌てて思考を切り替えて、新しい目でその迷いのない動きを見る。まるで戦うこと、動くことに没入しているかのようだ。


(……没入?)


 私は、ハッとした。

 そうだ。アレクシウスは、いまゴーレムとの戦いに没入している。だからこそ、心が流れ続けている。全てを受け入れ、全てを流している。


(ならばその流れを、乱せばいい)


 心へ直接働きかけるのではなく、行動から考えるのだ。そもそもアレクシウスがわざわざ館を出てきた理由を思い出す。

 私の視線が、地面に倒れている小さな老人を見つけた。

 左腕を失い、血を流して倒れているが、まだ息はあるようだ。


(……あの老人だ)


 ドルゴがあの老人を倒すのを見て、アレクシウスは館から飛び出してきたのだ。

 ということは――。


(あの老人を使えばいい)


 私の唇が、僅かに笑みの形を作る。

 私はアレクシウスを囲もうとしているゴーレムの一体に念を送った。

 ゆっくりとゴーレムが方向を変える。

 そして倒れている老人に向かって歩き始めた。

お読みいただき、ありがとうございました。


アレクシウスの心に入り込もうと頑張るメルルの回です。クールな大人の女性のイメージだったのですが、外見はもう少し若い感じになってきました。


さて夜の更新は連載開始以来、これまで23時と深めの時間を設定していたのですが、正直、ブックマークの伸びが悪く、試しに暫くは20時前後にしてみようと思います。変わらぬお付き合いと、この機会に(よいしょ)とブックマークを頂ければ幸いです。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の12時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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