第七十七話:襲いかかるゴーレムとメルルの驚愕【後編】
私のゴーレムはヴァイスの泥人形とは違う。堅牢な巨躯と耐久力を持ち、術式にも工夫を凝らしているため、比較的質の低い魔石でも生成可能だ。
いまや二十体を超えるゴーレムがアレクシウスと護衛を囲おうと蠢いているのが見える。
アレクシウスが一番近いゴーレムの腕を斬ったのが見えた。
斬られて飛んだ腕が地面に落ちると、そこから新たなゴーレムが生まれる。冷え切った私の頭にも僅かに喜びが浮かぶ。
ここが私の苦心のしどころだった。このゴーレムは相手の攻撃で体の一部が地面に触れる度に、そこからまた新たなゴーレムが生まれるのだ。また斬られた元のゴーレムの傷も再生され、何度でもこのゴーレムの再生産は繰り返される。つまり、このゴーレムを相手にした者は、自分の手でゴーレムを増やし、やがて力尽きその質量に圧殺されるのだ。
ゴーレム自体の動きは遅く、火や氷といった特殊な能力はないが、いったん囲んでしまえば敵を逃すことはない。特に今回のような相手を生け捕りにする必要がある場合は有効だ。
このゴーレムを倒すこと自体は、従来のものと同じで核を破壊すればいい。元のゴーレムの核が破壊されれば、それに連なるゴーレムも消える。しかし、それは容易ではない。古式のゴーレムの核は胸の中央と決まっていたが、このゴーレムたちの核は一体一体、違った場所にある。そのため簡単には核を破壊することができず、傷つければ傷つけるほど数が増えていくのだ。
これはヴァイスの研究を応用したものだ。私はあの男を軽蔑しているが、良いものは認める。私の望みは、ガロン様に最強の兵器としてのゴーレムを捧げることだ。そのためには多少の屈辱はやむを得ない。
私は熱くなりかけた頭に冷たい血を送り、改めて眼下の様子を見る。
そこには信じられない光景があった。
✴︎✴︎✴︎
折れた大剣を持った男が大きく飛び退り、相手と私の間に広い空間が生まれた。
空中の女が何事か地上の男と言い争った後、その空間を埋めるように何かをばら撒いた。
それは庭に種を蒔くようにも見えたが、現れたのは花や麦ではなかった。
地面が蠢き、土が盛り上がっていく。
一つ、二つ、三つ――。
いや、もっとだ。あちこちで土が隆起し、ボコリ、ボコリと土の中から何かが次々現れる。
それはゴーレムだった。
「殿下!」
そう声を掛けてきたのは、生き残った護衛の一人、マクレだった。四十絡みの、普段は庭の草木の面倒をみている気の優しい男が、私の前に立った。剣を構えているが、その手は震えている。無理もない。仲間が次々と倒され、目の前には人ならざるものが迫って来ているのだ。
「館にお戻りください! ここは我々が食い止めます!」
もう一人、こちらはまだ二十になったばかりだという女性の護衛、イリーナも剣を構えた。寝所の立番の際、恥ずかしそうに、恋に関する詩を読むのが好きだと微笑んだ顔が、いまは恐怖で歪んでいる。
私は黙って二人の前に歩み出て剣を構えた。
何か言おうとする彼らを振り返らず手で制する。
「お前たちは下がれ」
そう言って、私は先頭のゴーレムに近づく。それに応じて、グウッと出してきた右腕を私の剣が斬り飛ばす。しかし、ゴーレムの動きは止まらない。それどころか斬り飛ばされた腕が落ちた地面が、さざ波のように震えると、そこからゆっくりと新しいゴーレムが湧き出てこようとしている。
「なに、これ!?」
後ろのイリーナが悲鳴をあげる。
私はその声を聞きながら、目の前のゴーレムが残った左腕を伸ばしてくるのを見ていた。これを不用意に斬るわけにはいかないようだ。
『全てには中心があります。それは形の中心でなく、動きの中心です』
不意にライル様のこの言葉が頭に浮かんだ。というより降りてきた。
(ならば、このゴーレムにも――)
そう思い目を凝らそうとした瞬間、
(違う)
と思う。
(部分を見てもしょうがない、全体を捉えるのだ)
そう思ってゴーレムを見る。
ゆっくり動くゴーレムの攻撃を躱すのは容易い。しかし、数が多い。またどうやらそれぞれが無軌道に動いているのではなく、ゆっくりとだが私たちを押し包もうとしているのが分かった。
私はもう一度、ゴーレム全体を見回す。すると同じように見えるゴーレムだが、一体一体微妙に動きが違うのが分かった。と、同時に自然に先頭のゴーレムに向かって体が動き出した。
背後でイリーナが何か言ったのが聞こえたが振り返らない。そのまま、体を伸びあがらせて、高い位置にあるゴーレムの喉のようなところへ剣を突き込む。
カチン
と硬い何かに、剣が当たった。
その途端、ゴーレムは動きを止めるとボロボロと崩れる。私は素早く離れる。
「あっちのゴーレムも崩れている!?」
マクレが驚いた声を上げる。見ると先ほど斬った腕から再生しようとしていたゴーレムが崩れていた。どうやら斬られたところから生まれるゴーレムは、元のゴーレムが倒されると消えるようだ。
私は次のゴーレムに向かい、今度は右の胸の辺りに剣を繰り出す。またカチンと手応えがあり、あっという間にゴーレムが崩れる。
考えることなく、まるで剣が答えを知っているように、迷いなく次のゴーレムに向かって突きを繰り出す。
ずっと動き続けているのに不思議と疲れはない。むしろ、動くことが次の力になっているようだ。
私は満開の花の中を飛び回る蜂のように、ゴーレムたちの間を飛び周り、考えるより早くその急所に突きを入れていた。
この時私は、生まれてから初めて、自分が生きていることを実感していた。
(第七十七話 了)
お読みいただき、ありがとうございました。
メルルの渾身のゴーレムを無慈悲に瞬殺するアレクシウス。ちょっと地味努力系のメルルに同情します(笑)。ま、アレクシウスも苦労人ですからね。このくらいは許してもらいましょう。
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次回は明日の12時前後の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。




