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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第七十六話:アレクシウスの戦い、ライルの教え【前編】

 私は馬を駆りながら、離宮の前庭に広がる光景を見た。

 夜にも関わらず中天に輝く強い光が、ギラギラと異様に輝いている。その光が、地面に倒れたまま動かない、小さな老執事の姿を照らしていた。遠目には生死は判然としない。先ほどまでは目が合い小さく笑っていたように見えたが、いまは瞑られている。少し離れたところに、昨日までは温かいお茶を淹れてくれた左腕が、剣を握ったまま無惨に転がっている。


(クラリス……!)


 胸が締め付けられる。物心つく前から私を守り続けてくれた人が。誰よりも強く、誰よりも優しく、私のことを分かってくれていた人が、壊れた人形のように、無造作に地面に転がっている。

 その傍らには、巨大な体躯の男が立っていた。全身を黒い鎧に包み、顔には異様な模様が赤黒く光り、黄色く濁った瞳がこちらを見ている。その右手に持つ巨大な大剣には、血が滴っていた。それがクララの血だと分かった時、ぞわりと男への恐怖と、それを遥かに上回る怒りに全身の毛が逆立つのを感じた。


「よくも!」


 私は男に向かって真っ直ぐ馬を走らせながら剣を抜く。ぐんぐん近づくに連れて、男の顔に笑みが浮かんでいるのに気がついた。濁った黄色い目が喜色に輝いていた。


「殿下の方から出向いていただけるとは、これは僥倖」


 男が右手の大剣を軽く振り、その刃についている血が宙に払われる。

 それはクラリスの血だ。

 強い殺意が私の中で急速に膨れ上がっていた。

 私は馬を全速力で駆り、男に向かって剣を振り下ろした。男は動かない。ただ右手の大剣を軽く振り上げただけだった。


 キィン!


 火花が散り、剣と剣がぶつかる音が響く。次の瞬間、強い衝撃に大きく体勢を崩し、馬から落ちそうになった。私だけではない、馬もまたよろめいていた。なんとか体を立て直し馬首を男に向かって返す。


「殿下!」


 護衛たちが叫びながら男に向かっていく。だが男は私を見据えたまま、煩い蝿を追うように彼らを薙ぎ払う。傷つき倒された一人が私に向かい叫ぶ。


「殿下! お逃げを!」


 言い終わると同時に、男がその護衛の頭を足で踏み抜いた。グジャという、頭の骨が砕けるぞっとする音が聞こえた。竦みそうになる心と体を叱咤する。

 私は馬上で剣を構え直し、再び男に向かって馬を走らせた。斬りかかる。男はそれを軽く受け流す。再び斬りかかる。男はそれを受け流す。それが何度も、何度も繰り返される。だが私の剣は男に届かない。怒りで真っ白になっている頭でも、男と私とでは、実力差が違いすぎるのは分かった。


「勇敢だな」


 男が私の突きを簡単に払いながら言った。


「筋も悪くない。だが、何もかもが未熟だ」


 その言葉と同時に、男の大剣が私の剣を弾く。手が痺れ剣を落としそうになる。それでも私は斬り掛かる。次第に体が重くなってくるが、止めることはできない。次第に剣の振りから速さが失われ、ともすれば剣を握る力も抜けてきた。悔しさと焦り、そして疲れで体が強張ってくるのを感じる。


 ガツン


 と再び強い衝撃で、馬ごと押し返される。


(……どうすればいい?)


 私は馬を少し後退させ、男との距離を取り、荒い息を整えようとする。男がそんな私を見ながら、ゆっくりと歩いてくる。その顔に浮かぶ余裕の色に、私は焦りを深くする。

 その時――ライル様の声が、頭の中に響いた。

『自分の力を知るのです。抜きすぎず、そして入れすぎない力。自分の力が分かってくれば、相手の力も分かってきます』


(……自分の……力を知る……)


 私は呼吸を整えながら馬から降りた。

 男が僅かに目を見開いた。自ら騎乗の有利を捨てたのに驚いたのだろう。私はそれに構わず、軽く馬の首を叩き労をねぎらう。馬はそれに答えるように、軽く顔を私に寄せると離れてゆく。

 ゆっくり男の方に歩きながら、剣先を空に向け、自分の体と天が結ばれる感覚を思い出す。呼吸が整い、深さを増す。一歩一歩、足を進めるごとに、踵から自分の重さが地面に通り、同時に地面から自分の中に力が満ちていくのを感じる。まるで大地自体が、いま私がここに存在することを許し、受け入れているような揺るぎのない安定感。天と地の間に自分がいるという確信。


 男との距離が近づくにつれて緊張感が高まる。だけど、それは先ほどまでのような嫌な感じじゃない。相手の存在を感じることで、自分の輪郭が分かってくる。どこまでが私で、どこからが相手なのか。それは決して交わらない境界線であり、それがあるからこそ、相手を受け入れることができる。

 間合いまであと一歩、というところで、それまで呆気に取られたように私を見ていた男が大剣を振り下ろしてきた。

 正確で鋭い軌跡。でも私には、その大剣が振り下ろされる前から、それが空間をどう進み、どこに向かっているのかが見えていた。

 私はわずかに半身になる。頬に剣風を感じる。

 ドスン、と私の隣で大剣が地面に突き刺さる。


「……!」


 男の目が、驚愕に見開かれた。


 ✴︎✴︎✴︎


(これがアレクシウス殿下か……)


 俺は館から出てきた人物を見ていた。夜とは思えない魔法の輝きの下で見るその姿に目を見張った。「類い稀なる容姿の持ち主である」とは聞いていたが、これほどとは思わなかった。整った顔立ち、透き通るような白い肌、金色に輝く髪の毛。そしてそこ知れぬ深さを湛える黒い瞳。(男にしては……)という言葉では間に合わない、神々しい美しさだ。


(なるほど、あの老人が命を賭して守るに値する)


 俺は自然にそう思った。しかし、自ら館を出てくるとは思ってもみなかった。それほどあの老人が大事な存在なのだろう。それは人としては立派だと、人の枠を超えたいまの俺でも思う。そうした者に仕えるのは嬉しいものだ。だが、殿下という立場の人間がすべきことではない。それが分からぬ馬鹿者なのか、それとも老人への想いが主従を超えた何かなのか。

 いずれにしろ自分から出てきたのはありがたい限りだ。少しばかり老人との戦いを楽しみすぎて、想定より時間がかかっていたのだ。知らず知らず、頬が持ち上がるのを感じる。


「殿下の方から出向いていただけるとは、これは僥倖」

 そう答えて、軽く剣を血振いする。それを見た青年が、美しい顔を怒りに染めて騎馬で走って来る。


 キィン!


 と剣を打ち合わせた金属音が響く。

 思ったよりも早く鋭い、だがそれだけだ。俺が軽く合わせただけで体勢を崩している。背後から護衛らしき兵士が襲ってくる。こちらには手加減は必要ない。

 ほとんど考えることなく体が動き、気がついた時には、倒れながら何ごとか叫んだ男の頭を踏み砕いていた。

 ガロン様より、


(傷ひとつつけず、生かして捕らえて参れ)


 と命じられたのはアレクシウス殿下だけだ。他に用はない。

 怒りで顔を白くした王太子が再び迫り、剣を振るってくる。見た目は華奢だがなかなかどうして、いい太刀筋だ。剣脈に天性のものを感じる。なにより俺に怯まず斬りかかってくる度胸がいい。


「勇敢だな」


 しかし力量差は無論、体力も足りていない。見る間に剣速が落ちてきた。


「筋も悪くない。だが、何もかもが未熟だ」


 そう言いながら、必死の突きを軽く弾き返す。手が痺れたのだろう、顔が苦痛に歪む。それでも攻撃を仕掛けてくる。俺は半ば呆れながらその攻撃を受け流す。体力的にはそろそろ限界のはずだ。いまこの青年を動かしているのは、老人への想いだけなのだろう。


(だが、それもそろそろ限界だ。これ以上時間をかけるとメルルが煩い)


 そう思いやや強く返す。

 馬ごと王太子が後ろへよろめく。流石に疲れたのだろう、そのまま少し退がって距離を取る。多少間を開けたところでどうなるものではない。それに、いまさら逃げることは不可能だ。館に飛び込もうと背を向ければ、俺が馬を斬り倒して捕まえる。万が一、森に逃げ込もうとしても上空のメルルには丸見えだ。

 いずれにしろ潮時だ。

 俺は王太子に近づく。

 すると思いがけず青年は馬を降りた。


(騎馬の有利を捨てるとは、どういうことだ?)


 そう訝しみながらも足は止めない。かえって捕らえやすくなったのだ。

 そのはずだった。


(なんだ、これは?)


 馬を降りてから、王太子が身に纏う雰囲気が変わっていた。さっきまで全身に張り詰めていた焦りや怒りが消え、まるで凪いだ湖面のように静かになっている。青年は剣を構えることもせず、剣先を空に向けたままこちらに向かってゆっくり歩いてくる。

 間合いが急速に近づいているのに、それがうまく捕らえられない。老人との戦いではきっちりと合っていた歯車が、突然噛み合わなくなったような感じだ。実際に目の前にいる青年と、自分が感じている青年との距離感が合わないのだ。

 その狂いに、俺は咄嗟に真っ向に斬っていた。


(まずい!)


 その一撃は、それまでとは全く違う本気の斬撃だった。(これでは殺してしまう!)と思ったがもう止められない。大剣が唸りを上げて振り下ろされる。俺の体が剣ごと青年の肉と骨を砕く予感に喜びに震える。

 しかし、大剣から伝わってきたのは、ドスンと地面を打つ鈍い衝撃だけだった。


(なんだ? なにが起こった!?)

お読みいただき、ありがとうございました。


アレクシウスの覚醒です。こんなふうに覚醒したいものです(笑)。

さて夜の更新はこれまで23時と深めの時間を設定していたのですが、試しに次回から20時にしてみようと思います。変わらぬお付き合いのほど、よろしくお願いします。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の20時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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