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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第七十三話:王家の血と、深淵の狙い【後編】

 ライル様はリヴィア様の動揺など意に介さない様子で、冷ややかな視線を男に向けている。そこには怒りも悲しみもない。ただ質問があるだけだった。その態度に、それまで饒舌に語っていた男が驚いた表情を浮かべた。


「……なんだと?」

「アレクシウス殿下が本命だというのは分かりました。それは、どういうことですか?」


 男はライル様のあまりにも素朴な質問に一瞬毒気を抜かれたようだったが、すぐに気を取り直してニヤリと笑った。目の前の男に自分たちの絶対的な優位と、自分の力をひけらかしたいという欲求が、警戒心を上回ったようだ。


「フン、愚かなお前に教えてやろう。アレクシウスの血には、我々の悲願である古代魔術を復活させる器としての資質があるのだ」

「古代魔術とは、さっきあなたが出した泥人形のようなものですか?」


 男の顔にあからさまな侮蔑が浮かぶ。


「全く愚かな奴だな。あんなものはおもちゃに過ぎぬ。我々が復活させようとしているのは、かつてこの大陸を魔術によって支配した、ムドル王がお作りになったゴーレムだ」

「なるほど。しかし、ムドル王の作ったゴーレムは暴走して、王自身も滅ぼされたのではありませんか?」


 ライル様は男の話を邪魔せず、気持ちよく喋らせている。そこには、聞き出してやろう、という意図が感じれない。まるで彼の剣のようだ。

 男が馬鹿な弟子に教えを垂れるように話し続ける。


「だから、アウレリアの血が必要なのだ。この大陸を統べる王家の血をゴーレムの器とすることで、完全なゴーレムができるのだ! そして再び魔術が、この大陸を支配するのだ!」

「では、人から血を抜き取るのですね」

「違う、血も肉も骨も全てを使うのだ」

「血だけではないく、肉や骨も?」

「そうだ。魔力というのは確かに血によく含まれている。しかし、より効率的に無駄なく、人間が持つ魔力を使うには、血も肉も骨も全てを使ったほうが良いのだ。そもそも血は骨から生まれ、肉にはその持ち主の人生や記憶、感情が籠められているのだ。より強力なゴーレムを作るには、これを全部使うことが重要なのだ」

「そんなことができるのですか?」

「そこだ!そこがかつての古代魔術と違うところだ。それを可能にしたのが何を隠そうこの私だ! 私が作った特殊な魔道具を使うことで、人間を丸ごと圧縮することで、その全てゴーレムの材料とできるのだ。さらにアレクシウスを器にすることで、より完璧な究極のゴーレムが生まれる。その時、新生魔術帝国が誕生し、お前らはその前に跪くのだ!」


 ひとしきり語り終えた男が満足げに息を吐いた。少しの沈黙の後、男はふと思い出したように目の前にいるライル様を見直した。男の表情が固まる。いま自分が喋った相手が木偶でくではなく、自分が作った泥人形を苦もなく倒し、その上、彼自身を簡単に昏倒させた男であることに改めて気がついたようだ。そこには、先ほどまでの他者を嘲る表情が消え、ある種の怯えと好奇心が混ざっているように見えた。


「……おい、俺からも一つ聞かせろ」


 その声には、男自身も、自分の感情の扱いに困っているような声色があった。


「何でしょう」

「あの泥人形マッド・ドールだ。貴様、なぜあの一撃でコアを打てだのだ?」

「核?」

「そうだ、私の作る泥人形は魔力を込めた核によって動く。お前はその核を一撃で打っていた。しかし、そんなことはあり得ないのだ。弱点である核のある場所は、外部からは分からないようにそれぞれバラバラの位置に埋め込まれている。作った私ですらその位置は分からない。それを、なぜお前はその場所が分かったのだ? 何か魔術具を使ったのか? それともその刀は、やはり何かの聖具なのか?」


 気味の悪い男だが、その表情はこれまでとは違い、真剣な研究者の顔になっていた。


「まぐれか? いや、まぐれがあんなに続く訳がない。どうやって見破ったのだ!?」


 問い詰める男に対し、ライル様はこともなげに答えた。


「あなたの言う核というのは分かりませんが、確かに手応えがありましたね」

「だから、なぜそれが分かったのだ!?」


 ライルは少し首を傾げると、さも当然の事実を口にするように言った。


「動きを見て、(ああ、ここかな)と」

「――は?」


 男の表情が凍りついた。


「別に分かってやっていた訳ではないのです。ただ物事にはなんでも中心があるもので、それは形の上で必ず真ん中というわけではなく、力を発する場所……、というのでしょうか、まあ、そういう中心があるのです」


 ライル様の淡々とした説明に、驚愕で男は声も上げられないようだ。


「そうしたところに自然に刀が向いた、ということで、それ以上意味はありません」


 それは技量や勘といった次元の話ではない。生物としてのあり様、あるいは認識の領域そのものが異なっているとしか思えなかった。


「お、お前は、何をい、言って……か、貴様……」


 男の顔が急速に恐怖で染まった。未知の存在に対する根源的な恐れを感じたように、縛られたまま男が必死に後ずさりしようとする。次の瞬間、


 コン


 と軽い音と共に男が倒れた。


 ライル様がさっきと同じように剣の柄頭つかがしらで男のこめかみを打ったのだ。彼は男には見向きもせずに私たちの方を見た。


「セレスさんはあの男を口も開けないように縛り上げた上で、ここでリヴィア殿下をお守りして援軍をお待ちください」


 そう言うと、呆気に取られていた私をよそに、ライル様は自分の馬の方へ向かう。


「は、はい」


 私は反射的にそう答えた直後、我に返ってライル様に問い直す。


「ラ、ライル様はどちらへ?」

「水晶の離宮へ向かいます」

「わ、私は!?」


 ライル様は足を止めると振り返ると、私に向かい不思議そうな顔をした。


「いま言った通りです、ここでリヴィア殿下をお守りして、援軍を待ってください」


 その言葉に思わず顔を伏せる。それは分かっている。(私も一緒に!)という言葉が喉元まで出かかった。

 行きたい。ライル様と共に戦場へ赴き並んで戦いたい。それが弟子の、いや、剣士としての望みだった。でも私の腕の中には、傷つき、震えているリヴィア様がいる。そして地面には、恐らくこれからの戦いに必要な情報を持つ敵の男が転がっている。

 私は唇を噛み締め、己の個人的な感情をねじ伏せた。


「……承知しました。ここでリヴィア様をお守りして援軍を待ち、その男の引き渡しをいたします」


 私が顔を上げてそう告げると、ライル様は優しく頷いた。


「お願いします」


 ライル様が再び馬に向かい踵を返そうとしたところに、小さな声がそれを呼び止めた。


「御兄上を……」


 自らの体を支えることさえままならず、小刻みに震えるリヴィア様。それでも彼女は、魂を削るようにして喉の奥から声を絞り出し、ライル様へと訴えかけたのだ。その短い一言に、彼女がいま持っている全ての力と感情、そして願いが込められていた。

 ライル様は彼女に向かい、安心させるような小さな笑みを浮かべた。


「お守りします」


 そう言うと、彼は迷うことなく闇の中へと駆け出した。その姿は瞬く間に見えなくなり、ほどなく聞こえた蹄の音も、すぐに夜の静寂(しじま)へと消えていった。


「御兄様……御兄様……っ」


 不安に震えるリヴィア様を、私は強く抱きしめ直す。


「大丈夫よリヴィア」

「で、でも……!」

「大丈夫。ライル様が向かわれました。あの方ならきっと間に合います」


 私は震えるリヴィアの肩を抱きながら、遠い離宮まで続く空を見つめ続けた。


(第七十三話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。


ライルの聞き上手能力が発揮した回です(笑)。さて間に合うのでしょうか。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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