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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第七十一話:偽りの約束と、森の捕食者【後編】

「……誰が、おまえの思い通りになんて!」


 私は拳を握りしめ、踵を返した。

 逃げなければ。馬のところまで戻って逃げるのだ! 必死で走っているつもりなのに、体がとても重かった。体だけではない、空気自体が重く、全身がぬかるみに嵌ってしまったように感じた。それでも足は動く。それを頼りに体を前に進める。


「逃がしませんよ」


 背後で、男の落ち着いた声がすると、彼の指がパチンと鳴らされる。

 前方の闇が揺らいだ。


「ヒヒィィィンッ!!」


 悲鳴のようないななきと共に、大きなものが倒れる音がした。


「いいですねぇ。貴い血をお持ちの方の恐怖の味は、平民風情とは違い滴るようです」


 男の声には、他人を弄ぶことを愉しむ、粘り着くような嫌な響きがあった。その声に導かれるように、馬を繋いだ方向から、なにかがズルズルと引きずるような音が聞こえた。

 慌てて足を止めて闇の中に目を凝らす。

 最初はそれがなんだか分からなかった。時折、人のような輪郭が見えるけれど、動き方が人のそれではない。


 ズルズル、べタン、ズルズル、べタン


 そんな音が重なりながらこちらに近づいてくる。やがて月明かりに照らされたその姿を見た時、私は輪郭がない理由が分かった。それは人のような形をした泥人形だった。目鼻はなく、歩くたびに不愉快な音をたて、生きながら体が溶けているような何かが、私を取り囲むように迫ってきていた。


「な、なに……?」


 悪夢の中にいるような光景に、足が竦んだ。


「どうしました殿下? もうお逃げにならないのですか? もっとも、ここには殿下を守る騎士も、兵士もいない。貴女は完全に孤独なのです」


 男が一歩、また一歩と近づいてくる。


「来ないで……!」


 私は震える体を叱咤すると、足元の小石を拾い、男に投げつけた。

 だが、石はヴァイスに届く前に、見えない壁に弾かれて落ちた。


「流石はアウレリアの王女、愉しませてくれますね。血の色を見るのが楽しみです」


 吐き気がするような笑みを浮かべた男が片手を持ち上げ、私に向けた。

 その掌に、不気味な紫色の紋様が浮かび上がる。


「――《縛鎖バクサ》」


 短い詠唱と共に、足元の地面から黒い霧のようなものが噴き出した。

 それは蛇のよう私の足首に絡みつくと、瞬く間に全身へと這い上がってきた。


「ひっ!?」


 体に絡みつき這い回るそれは、蛇の腹のように冷たく、全身が粟立つ。やがて乗馬服の生地の隙間から素肌へと侵入し、(なぶ)るように腿の柔らかな肉の上を這い、腰や胸を締め上げて私の自由を奪っていく。


(い、嫌っ)


 声に出そうとした瞬間、その一本がうなじから首筋に素早く巻きつき、苦痛と羞恥で伏せようとした顔を無理やり上げる。僅かに吐息を漏らすことしかできず、指一本動かせない。無理に動こうとすれば、より深く体を締め上げてくる。私は叫ぶことも、声をあげて泣くことすらできず、月明かりの下で立ったまま縛り上げられていた。


「これは素晴らしい。恐怖と羞恥に染まったその表情……ますます血の質が高まりそうだ」


 そう言いながら近づいてくる男の目は狂気に歪み、濡れた唇が異様に生々しい。その背後では、泥人形たちが喉を鳴らすような異音を立てて、じりじりと包囲を狭めていた。

 恐怖と嫌悪で身を捩った体に、さらに強く縄が食い込む。

 

(セレス……お父様……)


 視界が涙で滲む。


(ごめんなさい。私の愚かさのせいで、アウレリアの血が穢されてしまう……。……お願い、誰か、助けて)


 そう心の中で叫んでも、返ってくるのは僅かな森のざわめきと、ひどく大きい男の呼吸音と、躙り寄る泥人形たちがたてる音だけだった。


「さあ、参りましょうか。殿下のために用意した祭壇がお待ちかねです」


 男が私の体へと手を伸ばした、その時だった。


 ドッドッドッドッ――!


 突然、森の静寂を切り裂いて、地鳴りのような音が響き渡った。

 幻ではない。それは、こちらに向かって猛烈な勢いで迫りくる、力強い蹄の音だった。


「――リヴィア様ァァァッ!!」


 闇を切り裂くような、凛とした叫び声。

 私のよく知る、大切な友の声が、絶望の淵にいる私に届いた。


(第七十一話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。


リヴィアには悪いけど、ほんと、こういうシーン書くのは楽しいです(笑)。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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